十六日の未明、台風の激しい暴風雨は、伊豆大島に甚大な被害を与えて北東海域に進み、後に熱帯低気圧になった。 それから本日十七日朝に至っても、未だ多くの行方不明者がおり、警察消防自衛隊が大島に集結して、流れ出た泥に埋まった家々から人々を徹夜で救助し続けている。 被災者が一刻もはやく救助されることを切に祈る。
東京は、台風が過ぎ去り、今日、秋らしい晴れた朝を迎えた。 早朝、宿舎近くの青山墓地を歩き、 明治四十五年七月二十九日崩御された明治天皇の御跡を追って、御大葬の日である大正元年九月十三日に殉死した乃木希典大将と静子夫人、そして、 明治三十七年の日露戦争において遼東半島の金州城外と旅順二〇三高地で相次いで名誉の戦死を遂げた勝典中尉と保典少尉の墓に手を合わせた。 親子四人の墓には、ともに白い百合が供えられていた。 それから、九段の靖国神社に参った。
さて、十五日、安倍総理が衆議院本会議で、いくらか高揚気味に所信表明演説を行った。 彼は「欧米列強が迫る焦燥感のなかで、あらゆる課題に同時平行で取りくまなければならなかった明治日本」と現在の日本を対峙させ、現在の日本も「経済再生と財政再建、そして社会保障改革、これらを同時に達成しなければなりません」と続け、 「明治の日本人にできて今の私たちにできないはずはありません」と結んだ。 そして、十六日、石原慎太郎氏の、 「この憲法に歴史的な、レジテマシー、正当性がないならば、あなたは、日本という国家の最高指導者としての責任で、 この憲法の破棄を明言されたらよろしいと思います。 そして、憲法についての議論は、まさにそこから始まるべきだと私は思いますが、如何でしょうか。」との代表質問に対して、 安倍総理は、 「私は、憲法は有効だと思っています」とあっさりと答えた。 そして、本日十七日の朝、安倍総理が靖国神社の秋期例大祭に参拝しないと、どこかで決めたとの報道がなされている。
そこで言っておく。 明治の日本人がしたことは、 「命に代えて祖国を守り抜いた」ことだ。 安倍総理は、現在の同時並行で解決しなければならない課題として「経済再生と財政再建そして社会保障」を掲げたが、何故、国防と具体的な拉致被害者の救出そして尖閣防衛を掲げなかったのか。 国家の存続という切実で最重要の課題を克服した明治の日本人に対して、現在の日本人も実は直面している国家の存続という深刻な課題を掲げずして(見て見ぬふりをして)、 「明治の日本人にできて今の私たちにできないはずはない」と言うのは明治の日本人に失礼だろう。
では、明治の日本人はどう生きたのか。 それは、明治の日本人は如何に死んだのかということだ。 乃木希典閣下は、明治天皇に「我が将卒の常に強敵と健闘し死を観ること帰するが如く・・・陛下の万歳を叫んで欣然として瞑目したる」と報告した。 また丁度今の季節。屯田兵を基盤として朔北の原野に創設された北海道旭川の陸軍第七師団一万五千の兵は、予備から陸軍大将乃木希典軍司令官率いる第三軍に配属され旅順に赴いた。 そして、直ちに、第七師団から多くの兵が白襷隊に参加して、十一月二十六日深夜、全員抜刀して旅順要塞に突入した。 さらに、第七師団本隊は、最難戦の二百三高地攻撃に投入されて敵要塞に肉弾突撃を繰り返し、連日連夜の突撃によって、十二月に入ったときには、兵の人数は千名に激減していた。 十二月に大山軍司令部から旅順に来た児玉源太郎大将が、大迫第七師団師団長に会って、 「大迫さん、北海道の兵は、強いそうじゃのー」と言ったとき、大迫師団長は、 「はい、強うございました。一万五千の兵が千名になっております」と悲痛な答えを返したのだ。 また、翌明治三十八年三月一日から十日の日露の大決戦・奉天大会戦において、日本軍は一万七千の戦死者を出した。 黄塵の舞う満州の荒野に横たわる兵の戦死状況を視察した総司令部付き将校の報告は、次の通りである。 「このような戦闘は、命令や督戦でできるものではありません。兵士一人一人が、この戦いに負ければ日本は滅びると、明確に知っていて、命令がなくとも自ら進んで死地に赴いています」
しこうして、近代化を開始して三十数年しか経っていない極東の日本が、世界最大の陸軍国露西亜に勝利したのである。 「明治の日本人がしたこと」とは斯くの如きことである。 安倍さんの言う「経済再生と財政再建そして社会保障改革の同時並行」どころではない。 その彼ら英雄は、全て靖国神社に祀られている。
そこで、安倍総理が言ったように、今の日本人は、この明治の日本人が果たした世界が驚嘆した英雄的敢闘をなせるのか。 少なくとも、六十六年前に占領軍が我が国を弱体化させる為に作成した、我が国から陸海空軍その他の戦力と交戦権を奪っている憲法を有効としていて、 しかも靖国神社に参拝しえない総理が、 今の私たちにできないはずはないと、言う資格がないことは明らかだろう。
とはいえ、安倍総理が、明治の日本人がなしたことを今の我々もなさねばならないと提起したことは正しい。 そうであるならば、その最大の障害である憲法を石原慎太郎氏が促すように廃棄しなければならない。 そして、まさにそれをなした明治の日本人に靖国神社で感謝の誠を捧げることが必要である。
かくして、本年に入り、一月の平沼赳夫先生の代表質問と十月の石原慎太郎先生の代表質問は、 ともに「憲法問題の本質」を冒頭に掲げたものであった。 この平沼、石原の二つの代表質問によって、 我が国最大の政治課題は、「憲法」であることが明確にされた。 ここに先の通常国会とこの度の臨時国会の、 戦後政治最大の意義があると言うべきである。
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