「こんな日本」での五輪開催が決まり、頭をよぎった光景がある。
表彰台の1位と3位の選手が黒手袋をした拳を宙高く掲げている。メキシコ五輪(一九六八年)の陸上男子二百メートル。メダルを授与された米国の黒人二選手による人種差別に抗議するパフォーマンス。五輪憲章に反する政治的行為として追放処分が下ったが、後に米国の公民権運動上の画期的な事件として記憶される。
この出来事を知ったのは七、八年前、欧州で黒人サッカー選手への差別が問題となった時だ。ナチスという痛恨の歴史を忘れまいとする彼(か)の大陸では米国以上に人種差別に厳格だ(もっとも後を絶たないが)。
それに比して、この国の無頓着ぶりはどうだ。ヘイトスピーチに対する損害賠償命令がようやく出たとはいえ、あまりに野放しでなかったか。平和を理念とする祭典を開催する資格があるのか大いに疑問である。
そもそも五輪招致の最終スピーチで首相自ら「フクシマの汚染水はアンダーコントロール(制御されている)」などと誤った情報を全世界に発信した国である。このままでは隣国だけでなく世界中から信頼されない国になりかねない。
黙っていては危うい。秘密保護法やら解釈改憲がどんどん決まっていく。国民に情報は伏せられていく。そうして為政者は、うそぶくかもしれない。「日本の人心もアンダーコントロールにある」 (久原穏)
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