想像をはるかに超える大災害から、いかに身を守るか。多くの犠牲者が出た台風26号による伊豆大島の土石流被害は、災害の国に暮らす私たちに重い課題を改めて突きつけた。[記事全文]
安倍首相の所信表明演説に対する代表質問が始まった。首相が掲げるテーマは「成長戦略実行国会」だが、それだけではない。戦後日本の歩みを大きく変えようと政権が繰り出す数々の政[記事全文]
想像をはるかに超える大災害から、いかに身を守るか。
多くの犠牲者が出た台風26号による伊豆大島の土石流被害は、災害の国に暮らす私たちに重い課題を改めて突きつけた。
竜巻やゲリラ豪雨など、短時間のうちに激しい被害をもたらす災害が近年めだつ。一瞬の判断が命にかかわる事態は、この国のどこに住んでいても、ひとごとではない。
この台風が「10年に一度」の勢力であるのはわかっていた。実際、島の24時間雨量は観測史上最大を記録した。
しかし気象庁は、県単位の広がりという基準を満たしていないとして、特別警報を出さなかった。ただし、東京都と大島町に対し、「特別警報級」の警戒を呼びかけてはいた。
町は、避難指示や勧告を出さなかった。島のほとんどの世帯には防災放送の受信機があったというが、結果としてその備えは生きなかった。
雨脚は未明になって急速に強まった。土石流はそれから短時間のうちに起きている。
真っ暗闇のなか、すでに風雨が強まっている段階で避難を呼びかければ、かえって住民を危険にさらす。そんな判断が働いたのかもしれない。
この段階に至ってからでは、行政にとっても住民にとっても避難すべきかどうかの判断は非常に難しかっただろう。
気象庁は前日の午後5時半すぎから6時ごろにかけ、大雨警報と土砂災害の警戒情報を相次いで島に出していた。
この時点から深夜になるまでの間のどこかで、避難に踏み切るタイミングはなかったか。
土砂崩れや水害の危険について、防災放送などを通じた住民への周知は十分だったか。
特別警報の制度ができたことで、かえって通常の警報への対応がゆるんではいないか。
よく検証し、全国で教訓を共有できるようにすべきだ。
伊豆大島は、27年前の三原山噴火で全島民避難を経験している。火山灰の降り積もった傾斜地だけに、土石流に備えて砂防ダムの整備も進められていた。
災害を多く経験し、防災意識が高いとされる島でも、これだけの被害に遭ってしまう。防災の難しさを思い知らされる。
自分の住む場所にはどんな災害のリスクがあるかを知り、どこに避難するか日ごろから具体的に考えておく。「迷ったら避難」を胸に刻む。
そんな当たり前の備えを、行政だけでなく住民一人一人が怠らないようにする。まずはそこから始めたい。
安倍首相の所信表明演説に対する代表質問が始まった。
首相が掲げるテーマは「成長戦略実行国会」だが、それだけではない。戦後日本の歩みを大きく変えようと政権が繰り出す数々の政策をめぐり、与野党が腰を据えて議論を尽くすべき重要な国会である。
与野党の数の差は圧倒的だ。与党内の調整がつけば、どんな法案でも成立の見通しが立ってしまう。数で劣る野党は論戦の力を示すしかない。
だが、きのうの衆院本会議では、首相が踏み込んだ答弁を避け、野党が得点をあげる場面はみられなかった。
質問に立った民主党の海江田代表がまず取り上げたのは、福島第一原発の汚染水漏れの問題だった。
首相の「状況はコントロールされている」との発言は、東電フェローの「コントロールされていない」発言と食い違う。
これに対し、首相は「全体として状況はコントロールされている」と答えるだけで、議論は深まらなかった。
首相発言をめぐる応酬を続けても水掛け論になるばかりだろう。むしろ問題は、汚染水漏れを止める道筋を与野党ともに示し切れていないことにある。
民主党政権時代の対応の甘さをみずから検証し、その反省を踏まえて具体的な対案を示す。そういう切実な作業を経てこそ、論戦も迫力を増す。民主党にはそこまで踏み込む責任があるはずだ。
今国会は外交・安全保障も大きなテーマになるが、ここでも議論の進展はなかった。
首相が唱え始めた「積極的平和主義」とは、いったい何なのか。そうただした海江田氏に対し、首相の答えは「世界の平和と安定にこれまで以上に積極的に貢献する国になるべきだ、との考えを積極的平和主義として掲げた」というものだった。
この論議は、安倍政権がめざす集団的自衛権の行使容認に密接にかかわる。首相は「平和国家の根幹は不変」とも述べたが、集団的自衛権の憲法解釈変更に向けた地ならしではないのか。課題は残る。
「知る権利」にかかわる特定秘密保護法案についても表面的なやりとりに終わったが、今後の審議で論点を洗い出すべきだ。与党が数で押し切ってすむ話ではない。
野党間の隔たりは大きい。だが民主党のみならず、主張に説得力があれば、連携できる一致点も浮かぶだろう。いまの野党が存在意義を示すためには、その道しかあるまい。