自転車記者がまじめに走ってみた、車道こそ安全な居場所だ/神奈川
2013年10月12日
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一方通行の自転車通行帯。この標識で気づく人、どれだけいるだろうか=相模原市中央区中央
JR相模原駅東側にある青く塗られた自転車通行帯が設けられた道路。違法駐車が多いのが難点だ=相模原市中央区相模原(画像を一部修整しています)
日本の自転車事故の発生率は先進国で最悪レベルにある。自転車の居場所とルールがないがしろにされ続けてきた結果だ。自治体や警察による対策の動きもあるが、まだまだ助走段階。安全走行のために何が必要か。本紙横浜版で2010年から「自転車記者が行く」というコラムを続ける記者が、「自転車の街」を掲げる相模原市の中心部を走り、考えてみた。
まずは相模原消防署近くにある、全国に先駆け整備を進めた「一方通行の自転車道」を目指した。
標識には一方通行は平日午前7時半から9時とある。朝方は自転車通勤・通学の人がすごいらしい。でも、その時間帯だけか…。
いざ実走。あっという間に終点だ。長さは460メートル。うーん微妙。何より残念なのは、ここが歩道ということだ。
ひとこぎして、JR相模原駅前の目抜き通りに向かう。ここも歩道が赤い線で区分けされているだけ。車道側が自転車通行帯なのだが、歩行者も含め守っている人はほとんどいなかった。
間違った“神話”
自転車は道路交通法で車両に定められ、車道の左側を走るのが原則。歩道はあくまで、条件によっては「通行することもできる」場所だ。
なぜ歩道が駄目なのか。
事故に遭う確率が、車道走行に比べはるかに高いからだ。米連邦交通省の調査によると、歩道走行の事故率は車道走行の6・7倍にも及ぶ。
日本の自転車事故は7割が交差点内で起きている。歩道を走っていた自転車が横断歩道に差し掛かったり、車道に出たりした際に車と出合い頭にぶつかるか、巻き込み事故がほとんどだ。国土交通省も「車から見て、歩道走行の自転車は車道走行より認知しにくく事故が増える」と結論付ける。
だから世界は「自転車は車道を走る」が、常識。なのに日本は「歩道が安全」という間違った“神話”を信じ続ける。
この妄信こそが、悪循環の根源だ。
車道走行が怖いから歩道を選ぶ。車のドライバーも自転車は歩道を走るものだと認識しているので、車道の自転車を邪険に扱う。速度を落としたり、追い越す際に間隔を空けたりしない。結果、自転車にとって車道は「怖い場所」のまま変わらない。
実際、車道走行を徹底する自転車乗りは、誰でも車の悪質な幅寄せなどで肝を冷やしたことがある。自転車のマナー向上も当然だが、交通道徳の鉄則である弱者保護の観点から言えば、まず危険な車の取り締まりを徹底し、車道の安全確保を意識付けてほしい。
現実的なあり方を
相模原には、ちゃんと車道に設けられた自転車専用帯もある。県内では横浜・みなとみらい21地区や茅ケ崎市にもある。
JR相模原駅の東側は車道の両端が青く塗られ、自転車専用になっている。違法駐車が多いのが難点だが、自転車に車道を走らせようという意図が明確だ。
「自転車ツーキニスト(通勤者)」として知られ、関連著書も多い疋田智さん(46)は「ブルーゾーン」というこの形態が最も簡易で有効だと語る。
「歩道走行は事故を増やす。だが、道路を改造して専用道を造るのは費用がかかる。単純に道路の端を色付けして、自転車の『居場所』を示すことが現実的かつ効果的だ」
ただし同じブルーゾーンでも、少し離れた「西門大通り」沿いは論外。車道側ではなく、桜並木に隠れる側道に敷かれ、完璧に車の死角になる。出合い頭事故の危険性がとても高そうだ。
自身も相模原を走ってみた、道路行政に詳しいライターの秋山岳志さん(50)は、「評価はともかく、どの自転車道も距離が短すぎる」と指摘する。「全体として大きくつなげないと意味がない。断続的にいろんなあり方を整備しても、利用側が混乱するだけ。正しい乗り方も根付かない」
ただ歩道走行を続けてきた人にいきなり車道を走れと言うのも、なかなか難しい。どうすればいいだろうか。
疋田さんは「その一歩目を踏み出させるのは、警察官以外にいない」と断言する。
「日本では自転車の正しい乗り方を教えるときの『お手本』がいない。警察が率先して車道を走れば、子どもも車のドライバーも『そういうものか』と気付く。そうして徐々に変えていくしか方法はない」
道路整備というハード面と、車道走行への誘導というソフト面。両輪のどちらかが欠けてもうまくいかない。ひとまずは警察の方々、お願いします。
◆自転車の歩道走行問題の歴史
道路交通法は自転車は車両であり車道走行が原則と定めるが、1970年代の法改正後、自転車通行可の歩道が増え続け、歩道走行が定着した。
2007年の改正でも事実上、歩道走行を緩和。「自転車通行可」の道路標識がある▽運転者が13歳未満、70歳以上、または障害者▽安全のためやむを得ない場合に認められる。あくまでも「例外」で、しかも徐行が原則だ。
違反者は、3カ月以下の懲役または5万円以下の罰金が科せられるが、国内では歩道走行が常態化。背景には道路行政に自転車の車道走行への意識が低いことや、小学生世代の歩道走行が法的に認められるため車道走行の教育ができず、間違った意識がすり込まれているなどの問題がある。例えばドイツでは8歳までは歩道走行だが、移行期間に教育し、11歳以上は車道走行が義務付けられている。
◆日本の自転車事故の状況
世界保健機構(WHO)の統計によると、交通事故死全体のうち自転車乗車中の割合は日本が16.2%と世界ワースト2位。自転車保有率に差があるとはいえ、ドイツと中国が10.4%、韓国5.3%、フランス3.7%、アメリカ2%と、先進国の中では突出して自転車の事故死者が多い。
警察庁によると2012年の自転車事故は13万2048件(死者は563人で64.7%が65歳以上の高齢者)。交通事故全体の約2割を占める。8割が自動車との事故で、そのうち出合い頭が53.1%に上る。警視庁の調査では、出合い頭事故の大半が歩道走行であることが裏付けられており、事故減少には車道走行の推奨が欠かせない。
まずは相模原消防署近くにある、全国に先駆け整備を進めた「一方通行の自転車道」を目指した。
標識には一方通行は平日午前7時半から9時とある。朝方は自転車通勤・通学の人がすごいらしい。でも、その時間帯だけか…。
いざ実走。あっという間に終点だ。長さは460メートル。うーん微妙。何より残念なのは、ここが歩道ということだ。
ひとこぎして、JR相模原駅前の目抜き通りに向かう。ここも歩道が赤い線で区分けされているだけ。車道側が自転車通行帯なのだが、歩行者も含め守っている人はほとんどいなかった。
間違った“神話”
自転車は道路交通法で車両に定められ、車道の左側を走るのが原則。歩道はあくまで、条件によっては「通行することもできる」場所だ。
なぜ歩道が駄目なのか。
事故に遭う確率が、車道走行に比べはるかに高いからだ。米連邦交通省の調査によると、歩道走行の事故率は車道走行の6・7倍にも及ぶ。
日本の自転車事故は7割が交差点内で起きている。歩道を走っていた自転車が横断歩道に差し掛かったり、車道に出たりした際に車と出合い頭にぶつかるか、巻き込み事故がほとんどだ。国土交通省も「車から見て、歩道走行の自転車は車道走行より認知しにくく事故が増える」と結論付ける。
だから世界は「自転車は車道を走る」が、常識。なのに日本は「歩道が安全」という間違った“神話”を信じ続ける。
この妄信こそが、悪循環の根源だ。
車道走行が怖いから歩道を選ぶ。車のドライバーも自転車は歩道を走るものだと認識しているので、車道の自転車を邪険に扱う。速度を落としたり、追い越す際に間隔を空けたりしない。結果、自転車にとって車道は「怖い場所」のまま変わらない。
実際、車道走行を徹底する自転車乗りは、誰でも車の悪質な幅寄せなどで肝を冷やしたことがある。自転車のマナー向上も当然だが、交通道徳の鉄則である弱者保護の観点から言えば、まず危険な車の取り締まりを徹底し、車道の安全確保を意識付けてほしい。
現実的なあり方を
相模原には、ちゃんと車道に設けられた自転車専用帯もある。県内では横浜・みなとみらい21地区や茅ケ崎市にもある。
JR相模原駅の東側は車道の両端が青く塗られ、自転車専用になっている。違法駐車が多いのが難点だが、自転車に車道を走らせようという意図が明確だ。
「自転車ツーキニスト(通勤者)」として知られ、関連著書も多い疋田智さん(46)は「ブルーゾーン」というこの形態が最も簡易で有効だと語る。
「歩道走行は事故を増やす。だが、道路を改造して専用道を造るのは費用がかかる。単純に道路の端を色付けして、自転車の『居場所』を示すことが現実的かつ効果的だ」
ただし同じブルーゾーンでも、少し離れた「西門大通り」沿いは論外。車道側ではなく、桜並木に隠れる側道に敷かれ、完璧に車の死角になる。出合い頭事故の危険性がとても高そうだ。
自身も相模原を走ってみた、道路行政に詳しいライターの秋山岳志さん(50)は、「評価はともかく、どの自転車道も距離が短すぎる」と指摘する。「全体として大きくつなげないと意味がない。断続的にいろんなあり方を整備しても、利用側が混乱するだけ。正しい乗り方も根付かない」
ただ歩道走行を続けてきた人にいきなり車道を走れと言うのも、なかなか難しい。どうすればいいだろうか。
疋田さんは「その一歩目を踏み出させるのは、警察官以外にいない」と断言する。
「日本では自転車の正しい乗り方を教えるときの『お手本』がいない。警察が率先して車道を走れば、子どもも車のドライバーも『そういうものか』と気付く。そうして徐々に変えていくしか方法はない」
道路整備というハード面と、車道走行への誘導というソフト面。両輪のどちらかが欠けてもうまくいかない。ひとまずは警察の方々、お願いします。
◆自転車の歩道走行問題の歴史
道路交通法は自転車は車両であり車道走行が原則と定めるが、1970年代の法改正後、自転車通行可の歩道が増え続け、歩道走行が定着した。
2007年の改正でも事実上、歩道走行を緩和。「自転車通行可」の道路標識がある▽運転者が13歳未満、70歳以上、または障害者▽安全のためやむを得ない場合に認められる。あくまでも「例外」で、しかも徐行が原則だ。
違反者は、3カ月以下の懲役または5万円以下の罰金が科せられるが、国内では歩道走行が常態化。背景には道路行政に自転車の車道走行への意識が低いことや、小学生世代の歩道走行が法的に認められるため車道走行の教育ができず、間違った意識がすり込まれているなどの問題がある。例えばドイツでは8歳までは歩道走行だが、移行期間に教育し、11歳以上は車道走行が義務付けられている。
◆日本の自転車事故の状況
世界保健機構(WHO)の統計によると、交通事故死全体のうち自転車乗車中の割合は日本が16.2%と世界ワースト2位。自転車保有率に差があるとはいえ、ドイツと中国が10.4%、韓国5.3%、フランス3.7%、アメリカ2%と、先進国の中では突出して自転車の事故死者が多い。
警察庁によると2012年の自転車事故は13万2048件(死者は563人で64.7%が65歳以上の高齢者)。交通事故全体の約2割を占める。8割が自動車との事故で、そのうち出合い頭が53.1%に上る。警視庁の調査では、出合い頭事故の大半が歩道走行であることが裏付けられており、事故減少には車道走行の推奨が欠かせない。
最近のコメント
- こうした洞察力のある記事が書ける記者さんは頼もしい限りです。...
- (雲葉)
- 素早い対応を評価する。 条例の適否はともかく、そこまで検討す...
- (コージータハラ)
- 中嶌論説主幹は特集で新聞の役割を「考えるよすが」としている。...
- (コージータハラ)
- 紙面の関係もあろうが、こうした行動が広がってきた理由を知りた...
- (コージータハラ)
- 新大久保で騒いでも「無視されるだけ」だから、川崎へ流れたので...
- (taquiner9)
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