―今回、いくえみ作品初の映画化ですが、いかがですか。
映画化のお話はちょこちょこはあって、なくなって…という感じでした。でも実際に映画になってみると、ものすごくたくさんの人が関わってこんなにすごいことになるんだなあと。撮影現場にも伺って実感しました。初めてのことですから、やっぱり期待と不安はありました。でも、あれ?と思ったところがなかったというか、すごく楽しませてもらいました。映画のエピソードの切り取り方については納得しています。すべて映画にするにはあまりにも長いし、やっぱり主軸はカンナと禄のエピソードなので、そういう形がいいのかなと思いました。禄はカンナを幸せにするために登場させたキャラクターですから(笑)

―映画化にあたり、制作陣にお願いしたことはありましたか。原作ではさまざまなキャラクターのエピソードが登場しますが、映画化されるにあたり描いてほしいと思ったシーンはありましたか。
長い話をまとめるのはとても大変だったと思いますが、軸となるカンナの過去だけでなく禄の過去も出来るだけ盛り込んで欲しかったので、そのあたりをお願いして入れてもらいました。

―映画をご覧になっての感想を教えてください。
脚本を読んだだけではまだどういう風になるのかわからなかったんですが、出来上がりを見てみると「映画ってすごいなあ!」と思いました。原作に忠実に、プラス役者さんの個性や監督さんのセンスやいろんな方たちの技術の結集でこんな風に出来上がるのかー、と。映像もとても綺麗で感動しました。

―映画の中のカンナ役・長澤まさみさん、禄役・岡田将生さん、ハルタ役・高良健吾さん、愛実役・池脇千鶴さんは、いかがでしたか。
長澤さんの綺麗でさみしそうな笑顔がとてもカンナで、切なかったです。そしてちゃんと高校生だった!すごい!
岡田さんの禄は嫌みのない、いい禄でした。まっすぐにカンナを見つめてくれる禄が岡田さんの個性と相まって、とても新鮮でした。
高良さんは出演シーンは少ないけどとても強く印象に残りました。死にっぷりに泣けました…。
池脇さんの愛実はすごくハマっていて、最初からこの人が愛実だったんじゃあ?と思うほどでした。

―映画の中で、お気に入りのシーンがあれば教えてください。
あの、すごくどうでもいいシーンなんですけど、バーでマスターがカンナに「メールしていい?!」って元気に聞いてカンナが戸惑うあたりが面白くて好きです。
あと、最後の方でカンナと禄が夕暮れの中で泣いたあとのちょっとした余韻のところ。とても綺麗でした。

―カンナと禄が出会うバーのシーンの撮影をご覧になったんですよね。
長澤さんも岡田さんも、本番前は普通だったのに本番が始まるとふっと演技に入るので、やっぱりプロだなと。あんなに大勢の方に見られながら、何回も何回も演じているのには驚きました。バーのセットが、私がモチーフにしたお店にすごく似ていたんです。もうなくなってしまったお店なんですが、少し狭い感じとか。細かいディティールにもこだわっていて、置いてある小物もすごく凝っていましたね。

―主題歌「かげろう」を聴いた感想を教えてください。
切なくて儚くて優しくて、とても素敵な曲でした。斉藤さんの声がまた素敵でしたね…映画のラストに流れるのを聴くと本当にぴったりで、より感動しました。

―『潔く柔く』は膨大なエピソードからなるオムニバス作品ですが、常にリアルというか、みずみずしい世界観を描き続けられるのはどうしてですか?
私は普段、あまり全体的にものを考えたりできないタイプで、なんとなく「ほにゃ〜」と作っているんです(笑)物語をつなげていく作業も、ガッチリ決めながら描いたのではなく、感覚に任せて描いたところもあって。予定が立てられないというか、プロットを立てられないので、描きながら「このエピソードに行くには何かが足りないな…」と思ったら何かを探して引っ張って来てつなげていく。そういう感じで描いていたらあんなことになりました(笑)映画も漫画にあったいろいろなエピソードをつなげて形にしてくれていたので、映画を見ながら「こういう風になってたんだ」と改めて思ったくらいです(笑)

―原作の登場人物たちの〝言葉〟を生み出す中で、注意したこと、苦労したことは?
キャラにないことは言わせないようにしています。でもキャラにないことを言った時にドキッとしたりもするので言わせたりもします。なのであまり注意もしていなく、そんなに苦労と言えるほどの苦労もしていません。すみません。

―1度完結した作品が映画化という形で甦り、新しいファンが増えますね。
それはもちろん嬉しいことですよね。割と完結したら忘れてしまうタイプなので、映画を見て過去の記憶を思い出しました。あんまり自分の作品を読み返さないんですが、読み返したとしても、「どうやって描いたのかな…?」と思うことがあるというか(笑)映画を見ていても「これ私が描いたのかな?」と不思議になる感じもあったりして。この『潔く柔く』という作品は、いろいろな方向から描いていったので、飽きずにというか、いろいろな人が描けるので、テンションが下がらずに描けた作品です。大変な作業ではありましたが、面白かったですね。

―ファンの間では「いくえみ男子」とも呼ばれている、さまざまなタイプの素敵な男性も登場しますよね。
でも、あまりカッコイイ男の人はあまり出てこないとは思うんですけど(笑)普通で、ちょっとダメな人ばっかりというか。そういう人を描くのが好きなんです。カッコイイ人のことはよくわからない(笑)いわゆるイケメンみたいな男性も、描いてみたら描いてみたでおもしろいのかもしれないですけど。

―『潔く柔く』は少女漫画ですが、大人もはまれる作品ですよね。
物語は15歳から始まりますが、大人になってからも描いていますしね。でも、私は描きながら、この世代を狙おうとかは特には思わないんです。結果的にそういう風になったというか。幅広い世代の方に読んでもらえたら嬉しいです。映画もたくさんの方に見てもらえたら嬉しいですね。