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【第134回】 2013年10月16日 週刊ダイヤモンド編集部

ついに橋下・維新の会が敗北
暗雲漂う大阪都構想の行方

9月29日に投開票された堺市長選で、日本維新の会の橋下徹共同代表が率いる地域政党・大阪維新の会の公認候補が敗れた。これにより、維新が掲げる「大阪都構想」に暗雲が漂い始めている。

「結党後最大の痛手だと思うが、維新の命運は2015年春の統一地方選で決まるのではないか。住民投票も統一地方選後まで遅れると思う。それまでにどう転ぶか……」

 9月29日に投開票された堺市長選挙の翌日、大阪市のある関係者は、選挙結果をこう分析した。

 大阪都構想が最大の争点となった堺市長選は、現職の竹山修身氏が大阪維新の会公認の新人候補を破り、再選を果たした。

 竹山氏は「この選挙は堺市民と大阪維新の会との戦いだった。自由自治都市堺を守れたことが無二の幸せ」と、満面の笑みで語った。

堺市長選で敗れ、記者会見する日本維新の会の橋下徹共同代表(左)と松井一郎大阪府知事
Photo:JIJI

 一方、日本維新の会の橋下徹共同代表は「堺がなくなってしまうという間違ったメッセージが広がってしまった。僕への批判もあった」と肩を落とした。地元・大阪の選挙で常勝だった橋下氏の「不敗神話」が崩れた瞬間である。

 大阪都構想は、大阪府と大阪市、堺市を合体させ、新たな広域自治体(都)と新たな基礎自治体(特別区)に再編するもの。二重行政の弊害をなくし、大阪の再生を図るのが狙いである。

 大阪維新の会の看板政策で、すでに大阪府と大阪市は、法定協議会を設置して協議を重ねている。残る堺市の協議参加を目指していた橋下氏は、今回の市長選を「負けられない大戦」と位置づけたが、結果は完敗だった。

 そもそも堺市長選は、とても奇妙な戦いだった。再選を果たした竹山氏は、もともと大阪府知事時代の橋下氏の部下。4年前の市長選で現職を破り、初当選した。その際の後ろ盾が橋下氏だった。

 その後、竹山氏は都構想に異を唱え、自民・民主・共産・社民各党が相乗りで支援に回った。

「堺をなくすな」「堺は一つ」と声を張り上げ、「反維新、反都構想」キャンぺーンを張ったのである。

 ではなぜ、橋下維新は敗退したのか。一つ目は、大阪市と堺市の相違点が挙げられる。堺市は7年前に政令指定都市になったばかりで、「二重行政の弊害」を市民はそれほど感じていなかった。

「都構想でなくなるのは堺市役所と市議会だけ」との訴えも、竹山陣営の「大阪都に入ったら、堺のカネが吸い上げられるだけ」といったわかりやすい主張にかき消されたのである。

 二つ目は、政権交代により閉塞感が期待感に変わって維新の輝きが低下していること、そして三つ目が、維新側の失策。橋下氏の慰安婦発言をはじめ、大阪市の公募区長や公募校長によるセクハラ、パワハラの相次ぐ発覚だ。

国政では安倍政権と市議会では
公明との協力なしでは不可能

 こうした選挙結果を受け、都構想は今後、どうなるのか。

 維新の政調会長を務める浅田均・府議会議長は、「法定協に加わるには市議会の議決が必要なので、今回の市長選でわれわれが勝ったら堺市も即参加というものではなかった。府市の協議に影響はないと思います」と語る。

 また、橋下氏について浅田氏は、「これまでも『大阪に専念したい』と言っていたから、今後はそうなるでしょう。野党再編などは国会議員団に任せ、自分は表に出ないようになるのでは」と内情を明かす。

 維新側が描く都構想のスケジュールは、来年夏ぐらいまでに再編案を絞り込んで協定書を取りまとめ、議会の議決を経て、秋にも住民投票で大阪市民の意思を問う。そこで半数以上の賛同を得た上で、翌15年4月から大阪都に移行し、特別区を設置する。橋下氏、松井一郎知事の任期内での実現を目指すというものだ。

 しかし、都構想の議論には大きな難題や矛盾が横たわる。

 そもそも都構想は、衰退する大阪の現状を打破するために提唱された。行政と民間の役割や広域と基礎自治体の役割分担をゼロから見直し、行政の枠組みそのものを変えようという壮大な構想だ。

 しかし、枠組みや仕組みの改編に痛みや出費はつきもので、デメリットは見えやすく、すぐに表れる。一方で、効果は目に見えるまで時間がかかり、その量も不確か。制度設計の議論に住民は加われず、中身は見えにくい。今のままでよいのではと思うのが人情だ。

 大阪市は、都構想と並行して地域団体への補助金の見直しや、市立幼稚園の民営化などを柱とする市政改革プランも実行している。

 これに対し、住民の反発が広がっている。行財政改革への「総論賛成・各論反対」の動きである。

 維新の大阪市議団長の坂井良和市議は、「既得権益を持っていない方も、大きく変えることには強い抵抗感を持つのだなと実感しました。見直しは実態に応じてきめ細かくしないと……」と語る。

 ところで、都構想の行方に大きな影響力を持つのが公明党だ。維新が過半数を占めていない大阪市議会で、自民と民主、共産各党は都構想に反対、是々非々の姿勢だった公明党の賛成で法定協設置が可決された。

 その公明党市議団の論客、辻義隆市議は、「皆で設計し、新たな大都市の姿を描くはずだったが、実態は東京のカーボンコピー。東京のようになりたいと思う大阪人はいない」と語る。

 さらに辻市議は、「市長は今、市民にやいばを向けている。そうではなく、以前のように国に対して物申すべきだ」と苦言を呈す。

 都構想の実現には125もの法令改正が不可欠。国の協力が必要で、維新が国政に進出したのもそのためだった。ところが、国政の状況が一変。自民党の一強時代に変わり、改憲志向の強い安倍政権の登場となった。

 そこで距離が生まれたのが、維新と公明党との関係だ。つまり、法令の成立には安倍政権の協力が、大阪市議会での可決には公明党の協力が不可欠という、ねじれた状態に立たされているのである。

 こうした状況を切り抜けるには、スケジュールにこだわるのではなく、丁寧に時間をかけて議論を重ねるしか手はないといえる。

 (「週刊ダイヤモンド」委嘱記者 相川俊英)

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