【藤井聡】新自由主義は「消費税増税+法人税減税」を望む

FROM 藤井聡@京都大学大学院教授

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皆さん、「新自由主義」というと、どんなイメージをお持ちでしょうか?

おそらく、

・徹底的に「規制緩和」。
・「小さな政府」を志向し、様々な「民営化」を図る。
・さらに、必要に応じてグローバリズムとも結託する。
・こうした「改革」を進め、「自由競争の世界」(言い換えれば弱肉強食の世界)をつくっていく
(なお、経済学上のイデオロギーとしては「新古典派経済学」を採用する)

というイメージではないかと思います。

事実、こうしたイメージは、新自由主義による経済政策の典型的パッケージとしてしばしば引用されている「ワシントンコンセンサス」の内実に文字通り符号するものです。

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ただし、「新自由主義」はこうした規制緩和、民営化、グローバリズムといったもののみならず、

「税制のあり方」

とも深く関連している、という「事実」については、必ずしも広く知られてはいないのではないかと。。。思います。

もちろん、新自由主義者は「小さな政府」を志向しますから、税そのものは少なければ少ないほど良い、と考える傾向を持っています。すなわち新自由主義者は、基本的には(あくまでも「基本的には!」「減税論者」であって「増税反対論者」であります。

しかし、そうはいっても、如何に新自由主義者と言えども、「税金をゼロにする」ということが、直ぐに実現することはない、ということを(一応)理解していますから、何かの方法で税金を集めないと行けない。。。と言うことを、彼等ですら考えるわけです。

じゃぁ彼等は、どうやって税金を詰めようとするかというと、概して、

「消費税」

でたくさん税金を集めようと考え、

「法人税」

は、できるだけ減らそう。。。。と考える、という非常に強烈な傾向を持っています。

しかし、世間の様々な議論を伺っておりますと、このあたりの「常識」が十分に世間には理解されていないように感じますが。。。。この件については、昨年6月、民主党政権下にて出版した拙著、

『コンプライアンスが日本を潰す ~新自由主義との攻防~』
http://amzn.to/YV8EeS

にて、まとめてお話いたしております。

消費税や法人税の問題が喧しく論じたてられている今日になって、急ごしらえでこの理屈を考えた。。。。という訳では「ない」ということを明らかにしつつこの問題を解説する、という趣旨にて、少々長くなりますが、(昨年6月に出版した)上記拙著にてこの問題を論じた箇所を、下記に引用いたしたいと思います。

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新自由主義の観点から是が非でも削減すべき税金────その代表的なものが、法人税です。

なぜなら、企業な自由な活動こそが、経済の活力の源泉であると考えるのが新自由主義です。ですから、法人税は、可能な限りゼロに近づけるべきであると考えるわけです。

しかし、財政は一定程度は必要なわけですから、法人税を削っても、結局は、またどこかの項目を「増税」することが求められることとなります。

ところで、新自由主義では、「自由な市場の実現」が極めて大きく重視されるのですが、それ以外の諸点(産業の育成や保護、需要の確保、失業率の上昇、国民所得の増加)などは、さして重視されません。なぜなら、理論的には、自由な市場が実現されれば、それらにまつわる諸問題は全て、魔法のように改善、解消するであろうことが想定されているからです。

新自由主義の理論では、理想的に自由な市場さえあれば、失業率は基本的に一定のはずで、需要は供給に対応するようになるはずで、必要な産業は成長する一方で必要でない産業は成長しなくてもよいはずで、仮にデフレになっても市場メカニズムで物価が下がれば実質所得は増えるはずだからです。(中略)

いずれにしても、新自由主義ではこうした想定をするものですから、法人税減税を行い、それを通してより自由な市場が実現すれば、それ以外の税項目を「増税」したとしても、さして大きな問題ではないと考える傾きが強いのです。

では、どの項目の「増税」を求めるかというと、できるだけ「市場の効率性」を阻害しない項目ということになります。「市場の効率性」を阻害しない項目とは、それは「生産者」ではなく「消費者」から徴税する方法、すなわち「消費税」が中心となります。

かくして、新自由主義的な発想からすると、「法人税減税と消費税増税」が主張されるようになるわけです。

さらに新自由主義の観点からは、所得税の「累進制の緩和」も必要であることがしばしば主張されます。なぜなら、高所得者は、資本主義の重要な原動力である「資産」を大量に保有するからです。累進制が強いと、その貴重な「資産」が(新自由主義では無駄の温床とされる)政府に吸い上げられてしまいますが、累進制が低いと、その資産が民間に活用されることになります。つまり、所得税の累進制は、新自由主義の観点からいって至って「不効率」なのであり、累進制の緩和は、経済の効率性を上げると考えられるわけです。

この「累進制の緩和」というのは、要するに、「高所得者層の減税と、低所得者層の増税」を意味します。

この様に、新自由主義では、市場の効率を上げるため、「市場の効率化」に大きく貢献する企業やお金持ちからの税金を安くしてあげるかわりに、「市場の効率化」にあまり貢献しない消費者やお金持ちでない人々(つまり、貧乏な人々)からより多くの税金をとるべきだ、と考えるわけです。

一般の読者の感覚からすると、驚くべき帰結だと耳を疑うような話かもしれませんが、新自由主義を一定程度信用している人々においては、(以上は紙面の都合から相当簡略化した記述ではあるものの)至極当然の結論だと納得されていることだと思います。
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政府ではこれから、暮れに向けて、増税による景気腰折れをふせぐための対策が様々に議論される予定となっております。

そんな議論の中で、上記論点もまた、一論点として、是非ご認識いただいておければ。。。。思い、ご紹介さしあげました。

以上、ご紹介まで!

PS
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【藤井聡】新自由主義は「消費税増税+法人税減税」を望む” への10件のコメント

  1.    フリードマンのK%ルールあるいは、
       ティーパティーのような政策。

    これだけを新自由主義だと考えている方たちもいらっしゃいます。

     実体経済の上に金融が乗っているのではなく、量的緩和によってお金をじゃぶじゃぶにして、資本移動の自由を加速させ、世界中でバブルを誘発させる、それに実体経済が振り回される。 
    貨幣市場を通じた実体経済への働きかけに偏重したやり方。

     内需が増えてきていない、給料もあがっていないにもかかわらず、
    外需獲得のために国内での資源価格高騰を顧みない通貨安政策。
    給料も上がらないで、インフレになるわけはないと言う人たちは、
    法人税を下げたら、給料が上がると言うのと同じ。

     将来の不確実性をより高める政策は新自由主義だと思います。

  2. 消費税増税願望はとどまることを知らないようですね。
    これは、先日の発表で思ったほど反発がなかったから、選挙が遠いうちにやってしまえ、というのが丸分かりです。

    文春で「今秋のバカ」を連載なさっている適菜収氏がついにあの方を取り上げるようです。

    本日産経記事
    —-
    消費税増税法で平成27年10月に予定される消費税率8%から10%への引き上げに関し、政府が実施の判断時期を当初想定していた同年4月から、27年度税制改正を取りまとめる26年末に4カ月程度前倒しすることで調整を進めていることが7日、分かった。

  3. これを理解している人が少ないので、西田議員が何を言っても袋叩きにされている感じですね。

    理解しようとする気がないんでしょうね、叩いている人たちは全員とは言わないけど、ちょっと思考停止している。

    まぁ、安倍さんは叩きにくいので、一番弱いところを着いているのでしょうが、もっとも抵抗していた議員が袋叩きにされて、消費税増税推進した人が叩かれないというのはなんとも皮肉ですね。

  4. 「消費税増税」と「法人税減税」の抱きあわせ。

    普通の人は、そこに、「一貫性の欠如」を見いだしがちである。「アクセルとブレーキを同時に踏むなんて。。。」というわけだ。

    どころか、あにはからんや、実は、そこには強固な一貫性が存する。

    ただし、根底にある、世界観、コスモロジーが「われわれ」のものとは全く異質である、というだけの事である。曰く、「新自由主義」、曰く「サプライサイド経済学」。。。

    おぞましくもいかにもありそうな話。

    現況、すくなくとも「買い手がつかなければ経済は止まる」という認識だけは浸透していて、論争があるとしても方法論をめぐるものだとばかり思っていたのに。。。

    まだ「サプライサイド経済学」(「新自由主義」の事実上の別称)なるものを奉じている人達が現実にいて、そういう人達によって政治が牛耳られている。。。

    彼等政治決定の当事者を詰ることは、もちろん、必要。

    が、それよりも。。。

    こういうものを信じ続けることができる悪しき堅忍不抜さ、その根底をなす「経験」がどんなものだったのかを、私は知りたい。

    「本に書いてあったから」「○×先生の有難ーいお話だから」というだけでは説明できない「何か」なしには、この頑迷さを支える「根性」は長続きしないと思う。

  5. 経済低成長下のヨーロッパでは新自由主義もグローバル化もうまくいっていないどころか、完全に行き詰まっています。移民が増えて国民が喜んでいる国などなく、財政負担と文化摩擦、暴動が増えて社会が不安定化し、移民が多いイギリスでさえ既にボーダー強化に転換していますよ。もうこんな思想を有難がる時代はとっくに終わっているのでは?

    デフレ下の日本が今からこんな制度を導入したら、恩恵どころかよそのツケだけがどっと回って来るはず。

    不思議なのは、国民の生活水準に関する各種統計(幸福度、教育水準など)の国際比較ランキングを見るといつもいつも上位に来るのは北欧諸国。つまり生活大国は大きな政府の重税国家で、移民にはある程度制限のある国です。つまり新自由主義・グローバル主義の真逆。教育費、医療費がタダで老後の心配もなく社会が安定しているから、重税でも国民は逃げ出したりしていませんし、そして生産性も高い。

    北欧の制度をそのまま日本に適用しろというわけではありません。でも、このままだとまっとうな議論もないうちに日本国民は夢遊病者のように眠ったまま新自由主義経済に突入しそうで怖いです。

    早く覚醒しないと。

  6. 新自由主義者はホント害悪ですよね。
    前にBS朝日でアメリカの財政問題を中心に取り上げた特集番組があったんですけど、20年以上日本に住んでるタレントのパックンがアメリカに戻りたくないというのを聞いて納得しましたね。それくらいアメリカ社会も堕落してきてるって事なんでしょうね。

  7. (学力不足の一般人ですけど失礼します)
    人の弱み?に漬け込む商法を叩いてきたメディアも過渡競争で淘汰されれば本望かもしれない。
    みんなの党の江田氏、民主党の孫氏?、維新の怪の竹中氏、自民の党?の竹中氏(同一人物?ノー、ワタミー、ミキタニー)。
    システム自体が反られていってしまう世界。
    日銀の法律って何か換わったんだっけ。
    阪神震災後って法律が規制“緩和”されていたのには驚いた。こりゃあ緩和っ。
    民間供給あるのみの世界って、余分は棄てればいい、再生無きゴミ生成の世界な気がしてくる。
    あー、反・乱文詞の判子押されて拘束監禁されるのですねワシ、知識無いのにこんな支離滅裂コメントだもん。

  8. >経済低成長下のヨーロッパでは新自由主義もグローバル化もうまくいっていないどころか、完全に行き詰まっています。移民が増えて国民が喜んでいる国などなく、財政負担と文化摩擦、暴動が増えて社会が不安定化し、移民が多いイギリスでさえ既にボーダー強化に転換していますよ。

    欧州では、現在移民の高齢化によって社会保障費の増大が深刻化しています。移民は、工場で製品を作る機械ではなく生身の人間であることを考慮していなかったのです。
    グローバル化は破綻し、多文化主義の実験は失敗に終わり、移民が経済的負担になっている現実が存在するのにも関わらず、「移民は、社会保障費の財源になる」だの、「多文化共生社会の実現」だの、無知とお花畑頭全開の無責任なユートピアン(頭の能天気な空想家)の言説が跋扈しています。
    浜松市の市長は、多文化共生社会の実現とやらを目指して、外国人労働者の受け入れを活発化するように、国に提言しました。
    しわ寄せは、行政の末端であり、地域住民に負わせるなど、政治家というより人間として、問題があります。

    • この浜松市の市長さん、ヨーロッパが今どうなっているか、ご存知ないのでしょうか?移民受け入れは一度始めたら雪崩のように押し寄せ、元には戻せません。そして、伝統文化のある国民国家で大量の異文化・異人種移民を受け入れて万事うまくいっている国は今のところありません。残念ながら。

      経済のプラス面だけでなく、様々なマイナス面とコストもシビアに議論して国民に示して欲しいものです。

  9. 竹中平蔵をはじめ、移民導入を主張する企業経営者、財界人の共通点は、何だかわかりますか?
    人間を人間だと思っていないことですよ。移民は、生身の人間です。歳も取るし、病気にもなるし、老いた親がいます。つまり、移民にも年金や医療費が必要なってくるわけですよ。
    ところが、移民を人間だと思っていませんから、こんな単純なことに気づかず、移民を入れろ、移民を入れれば高齢化問題が解決すると、平気でのたまうわけです。
    実際に移民を入れ、尻を拭くのは国民であり、実際に移民を入れた当事者は、責任を取らずに棺おけに入るわけですから、無責任きわまりありません。
    移民の高齢化問題、移民の犯罪、本来の国民との衝突は、20年以上前から問題化しており、状況は更に悪化しているので、極右政党が急速に支持を集めているわけですよ。
    私は、ドイツといわず、欧州の人々が、チョビのおっさんの棺おけの蓋をあけても驚きません。

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