compound bow
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リハーサルに参加できたのは2日間で、そのうち1日は学校を休ませてもらった。両親はあまり良い顔をしなかったが、この際だからと拓が間に入って説得してくれた事でどうにか納得してくれたようなものだ。
東京都心のコンサートホールは音響効果を考えた、大きな洞窟のような形をしていた。鐘楼のようなオブジェクトが天井から尽きだしていて、階段を逆さまにしたような木枠が波打つように壁に並ぶ。
聴衆席も映画館にあるような窮屈なものではなく、1席に1つの肘掛けがあるもので、ホールとしては高級なものなのだろうと壱は思う。
ステージはまだブルーシートがかけられているが、午後にはこれも取り払われると聞いている。最後のリハーサルを終えて、壱は音響担当が何やらもめているのを耳にしながら、控え室として当てがわれた一室へ戻った。
いわゆるバックアーティスト達はこの部屋に複数人で控えている。みるからに外国人らしい人や同じ日本人も居るが、取り分け背が高く、取り分け若い壱に対しての奇異の目線はまだ消えていない。
要するに、居心地が悪いのである。
カフェテリアにでも行こう、と思い立って、壱は控え室を出た。折り悪く昨日は雪が降り、結構な積雪となったものが窓の外に見える。凍り付いてしまい足下も悪い中、どのくらいの客がここへ訪れるのか考えると、いくらか怖いような気もしてくる。
吹き抜けになっている正面ロビーの片隅にあるカフェの1つに腰掛けて、コーヒーを注文。美味いとも不味いとも思わないが、気持ちは多少落ち着いた。
携帯電話を取り出して時間を確認。正午まで数分。開幕は17時なので、まだまだ時間に余裕があって、それがかえって息苦しさにもなっていた。
パズルゲームでもやろうか、とアプリケーションを探していると、着信。
「はい」
「お疲れ様。今どこに?」
薫子だった。知っている人間が全く居なかった状況で、彼女の声は有り難かった。
「ロビーのカフェに居ますが」
「そう。じゃあ、そっちへ行くわ」
それだけで通話を切られてしまう。いつもいつも忙しそうな人だな、となんとなく思っていると、程なくして、ホール方面から数人の男女が歩いてくるのが目に入った。1人は薫子で、側には夏海秋乃という秘書だ。そして、1組の男女。
「コーヒーを。皆それでいいわよね」
「ええ」
あまり低くない声で短く答えた、少し神経質そうな表情の男。紛れもなく、楡原康臣である。思わず姿勢が良くなった壱の背を、薫子が椅子に腰掛けながら撫でた。
「紹介するわね。こちらが黒沢壱さん。今回サックスに入ってもらったわ」
「初めまして。楡原康臣です」
口元を緩めて、康臣が小さく頭を下げてくる。反射的に壱も頭を深く下げた。
「こちらこそ。黒沢壱です」
「今回はどうも。社長が無理を言ったみたいで」
「いや、こんなチャンスを貰えて、有り難いくらいです」
「さっきのリハ、聴いてましたよ。高校生とは思えない。安心しました」
「それは、有り難う御座います」
なんと言っていいか解らない。が、あの楡原康臣が自分を評価したのだと思うと、心音も跳ね上がるというものだ。
ふと、今になって彼の隣に座る小柄な女性に目が行った。どこかで、と思うまでもなく思い出す。壱と目が合うと、ちょっとおかしそうに微笑んで俯いた。
「あの、こちらは」
「改めまして、お久しぶりですね。妻の皐月です」
背筋をぴしりと延ばして頭を下げた、皐月と名乗った女性は、昨年末に咲と一緒に公園に居た時、マリーゴールドを耳にして声をかけてきた女性だった。楡原康臣の妻、と聴いて色々と合点が行く。
本来ピアノソナタであるマリーゴールドを、サックスで、それもメインサブをアドリブで入れ替えて吹いたものと同じだと判断出来る人間などそう居ない。居るとすれば本来のマリーゴールドを耳にしていて、かつ全てのパートが頭にしっかりと残っているような、そういう者だけだ。
久しぶり、という言葉に、意外そうな声をあげたのは薫子だった。
「あら、どういうご縁?」
「わたしが散歩中に、黒沢さんがマリーゴールドを公園で演奏している所に行き当たったんですよ。サックスだったので、何だろう? と最初は思いましたけど」
「皐月の予想は当たってたわけだ」
「本当にいい演奏だったから」
「あら、皐月さんの予想って?」
「サックスの代打が若い子だ、って姉さんが言ってたでしょう。で、黒沢君の噂自体は前から耳にしてた。皐月は彼のサックスが印象に残ってたものだから、じゃあその彼が代打かもって」
「なるほどね」
「ごめんなさいね。別に嘘を吐くつもりじゃなかったんだけど」
皐月が苦笑いを浮かべたので、壱は慌てて首を横に振った。
確かに、楠白の卒業生ではあるのだ。そして、楡原康臣の同級生でもあるのだろう。それが夫人だとは驚いたが。
「ともあれ、その若さでその腕だ。楽しみですね姉さん」
「そうね。こと成長性という事に関して言えば綺麗にまとまってきてる貴方より上だし」
「言いますねえ。ま、あんまり堅苦しいのもあれだし。改めてよろしく頼むよ、黒沢君」
差し出された楡原康臣の手は大きく、指が長く、しかし細くて、握る手にどのくらいの力を込めたものかと一瞬迷ってしまった。握手をすると、康臣はまた笑って、椅子に座り直す。
「夏海さん、そういえば連絡まだかな」
「はい、先ほど確認しました。間もなく」
「まだ誰か来るんですか?」
「ああ、調律師を呼んでて。置いてあるピアノは随分きちんと手入れがされてたけど、まだちょっとね」
「耳障りよね」
「やっぱ姉さんも解ります? 露骨でもないんですけど」
「もう趣味のレベルだけど、直したいならそうした方がいいわ。珍しくリハーサル覗きに来た甲斐があったわね?」
「まあまあ。苦手なんですよリハーサル。前々から何度も気入れると、どっかで薄くなるような気がするんで」
「いいけどね。多少はポリシーを歌ってもいい頃だと思うし。家ではやってたんでしょ皐月さん?」
「それはもう毎日。ピアノか食事か睡眠ですよ」
笑い合う。そんな光景を、どこか遠くのものを見るような気持ちで眺めてしまった。住む世界が違う、というのはこういう事なのだろうかと心底思う。別段疎外感も劣等感も無いが、ただ何か圧倒されるような感覚だけが強い。
壱の表情に気付いたものか、皐月がさりげなく話を切り上げて、顔を向けてきた。
「そういえば、あの時一緒だった……彼女さんですか?」
「あ、はい」
「今夜も?」
「チケットは、夏海さんに取って貰ったので。俺の家族とも一緒に」
「それは、いいですね。晴れ舞台ですもんね」
「そういう事なら黒沢君にも前やってもらう?」
「あなたはまたそうやって思い付きで物を言う。気持ちは解るけど今日はダメだよ」
「だ、そうだ。残念だね」
「いや、俺も今日の今日でいきなり前に出ろはちょっと……」
慌てて手を突き出した壱の仕草に、全員が笑った。
ふと、気分が軽くなっている事に気づき、壱は薫子の横顔を覗き見る。意志の強そうな目つきと威圧的ですらある高い鼻梁を見ると、美人なだけでも苦労はあるのかも知れないなと無関係な事を思った。
調律師が到着し、共にピアノに向かった康臣と別れ、個人の控え室へ向かった。薫子の為に取られた部屋で、壱が居た所とは作りも何もかも違う。
「気が回らなくてごめんなさいね。気詰まりだったでしょう、知ってる人間が1人も居ないどころか、中年ばかりで」
「いや、とんでもないです」
「慎み深いわね。大きな体で」
「正直もう緊張しっぱなしなんですよ」
「電話でも言ったけど、普段の貴方でいいからね。リハーサルを見てても、きちんと出来ていると見えたし。自己主張しない演奏が出来るのは、吹奏楽部のお陰かしら」
「ああ、やっぱり黒沢君は吹奏楽部に?」
「はい」
「彼を知ったのは新田先生の推薦もあったのだけど、聴きに行ったのもあるのよ。もう1人、欲しい子が居るのだけど、中々これが難しくてね」
「あれ、お鶴……可奈子さんは反応悪いんですか」
「悪くはないのよ。ただ、あまり私の言葉に反応してくれないのよね。壁があるわけでもないし、まあ、天才の類はああいう所もある、と思う事にしてはいるけど」
「その子は何をやるんです?」
「フルートよ。女の子なのだけど、彼女は黒沢君とはまた別の才能の持ち主ね。もしかしたら、この時代の音楽史に名前が残るかも」
「薫子さんがそこまで言う程に」
「皐月さんも聴いたら解ると思うわ。こんな世界があるんだって」
不意に可奈子の話題が出て、それを褒めちぎられているのを前に、どことなく誇らしいような気になる。
「黒沢君からも適度に物を言ってもらえると助かるわ。彼女は貴方には気を許していると新田先生も仰っていたし」
「どうなんでしょうね。気難しい子ではありますが」
「社長」
いつの間に外に出ていたのか、夏海が入室しながら薫子を呼んだ。
「空いた?」
「はい」
「じゃそっちへ。黒沢君の荷物もね」
「既に」
「有り難う。黒沢君、部屋を1つ用意したから、時間前には目立たないようにそっちに控えてて」
「え」
「ご家族もお見えになるのでしょう。招ける場所があった方がいいわ」
「それは……お気遣い頂いて有り難うございます。夏海さんも」
薫子は微笑み、夏海は静かに頭を下げる。以前から感じていた事だが、この2人が噛み合う理由がなんとなく解ったような気になった。陰と陽という程はっきりはしていないが、要するにお互いの不足を補い合うような関係と見える。丁度、ユキと若菜がそんな具合だ。
そのまま雑談をし、康臣が戻ってきた事でまた少し話の輪も広がる。前回のコンサートでの出来事などを康臣が語り、それに付随するように薫子が物を言って、皐月が言葉尻を丸くする。夏海は聞かれた事に答えるだけだが、それでも無表情なままに会話を楽しんではいるようだ。時折壱にも話は振られ、それを薫子がいじったりもする。受け入れられている、と感じ、素直にそれが嬉しかった。
携帯電話が鳴り出して、頭を下げて控え室を出た。咲からだ。
「よう、ブルってるかいマイバディ」
「うわあ大好き咲さん」
「な、なんだよ。どうした? ほんとに不安になってるのか?」
堅苦しかったとまでは言わないが、咲の軽い言葉と優しい声を聞いて、色々と体の力が抜ける思いである。
「や、緊張してましたよ。今楡原康臣さんと一緒ですし」
「すげえ、業界人だこれ」
「で、どうしました?」
「どうしたもこうしたも。もう着いてるんだ。壱の家族も一緒。お兄さんだけは、留守を預かるからって居ないけどね」
「そうですか」
こればかりは仕方なかった。元々、児童養護施設を運営している都合、誰かは残らないといけないという話にはなっていたのである。翠が残っても仕方ないために、両親か拓のいずれかとなって、拓は誰かが何かを言う前に、自分が残ると提案したのだった。
「時間まで、ホールにカフェがあるらしいからそこで」
「あ、そういう事なら、控え室を貰ってるので来て下さい」
「凄いなあ本当に。場所は?」
地図を確認しながら、急ぎで用意してもらった控え室までの道のりを説明すると、すぐに咲は理解したようで、通話はそれで終わった。部屋に戻り薫子達に頭を下げる。
「すいません、身内が来たみたいなので」
「そう、わかった。15分前には出てきてね」
「了解です」
「黒沢君」
康臣が、カフェテリアでは手をつけていなかった筈のコーヒーを口に運びながら言う。
「楽しくやろう。なあにミスも演奏のうちさ」
「……はい、楽しく、頑張ります」
「素直ないい子だ。姉さんに毒されないといいけど」
「黙りなさい」
そんな姉弟のやり取りに笑い返し、自分の部屋の前へ。待つ程のこともなく、咲を先頭に両親と翠が歩いてくるのが解った。
「あ、こっちです」
「やあ、お疲れさま。決まってるじゃない、スーツ」
「そりゃどうも。父さんも母さんも、忙しいのに。有り難う」
「何言ってるの、当然じゃない」
「倅の晴れ舞台だろ」
「翠もな。部活だったんだろ」
「部活よりもこっちのが楽しそうじゃん?」
そんな話をしながら、室内へ。4人がけのテーブルに、ソファが1組。それと、はめ殺しの鏡台にクローゼットがあるだけのシンプルな作りである。暖房は既に入れてくれていたようで、適度な室温に保たれていて、加湿器から薄く湯気が出ている。
テーブルに4人を座らせ、自分は鏡台から椅子を引っ張ってそこに腰掛けた。
「いきなり個人の控え室か?」
「や、違うんだ父さん。薫子さん……あ、社長さんだけどね。気を使って、皆を呼べる所があった方がいいだろって」
「有り難い話ね、本当に」
それから暫く、ここに来るまでの道程の話や、演目についてなどの話をした。めかしこんだ両親と妹が少しおかしかったり、逆に壱のスーツを笑われたりする中、咲も控えめながら楽しそうに会話に入ってくる。特に翠は咲に随分と懐いているようで、車での移動の最中もずっと舌足らずに喋りっぱなしであったという。
時計の針が16時を過ぎる頃になって、母が父に目配せをするのが解った。
「じゃ、壱。俺達はそろそろ席の方に行くからな」
「そっか。解った」
「桐田さんは、良かったらもう少し壱の側に居てやってくれませんか」
母の言葉に、咲は一瞬きょとんとしてから、微笑んで返事をして見せる。気を使われたのだ、と思うと、どうにも気恥ずかしいような気分になってくるが、両親のする事である。
翠だけがいくらか後ろ髪の引かれるような顔をしていたが、父に頭を小突かれながら出て行った。戸の閉まる音と共に、しんとなる控え室。
「あー恥ずかしい」
「恥ずかしいっすなあ」
「ま、でもお気遣いに甘えちゃおうかな。ソファ行こう」
「はい」
ソファに並んで腰掛けると、咲は壱の手を取っていじり始める。付き合いだしてこういう事をよくやるようになった今だから解るが、これは咲なりに言葉をまとめる為の癖らしい。
「カッコいいぞ、壱」
「マジすか」
「うん。背高いしね、スーツがビシっとしてるぜ」
「着られてるなーとか思ってたけど、それなら良かった。咲さんも可愛いじゃないですか」
「やっと言ってくれたか」
「いや、流石になんか家族の前で彼女褒めるのって」
「いいじゃん、壱のご両親ってそういうのも喜んで聞きそうだし」
「まあ、そうなんですけどね」
クリーム色のドレスシャツと濃紺のスーツパンツ。それに、同系色のジャケット。コンサートとは言ってもそこまで堅苦しくはないものなので、場の雰囲気にはきっちりと合っていると言っていいだろう
「それ上苦しそうなんですけど」
「解るか。去年のなんだけど、胸がな」
「すげえ……まだ育つんだ……」
「むしろまた成長期に入ったと言って良いかも知れん。揉む者が現れたし」
「成る程。あ、やめて、今集中してるのにむらむらしてきた」
「じゃ、口で良ければ」
「やーめーてー!」
「はっはっは」
「おい女、俺を拐かしにきたのか」
「愛してるーん」
「ムカつく……」
「解れたろ」
「偶然な!」
「へへへ」
妙な笑いを浮かべながら、咲は壱の手をぎゅっと握り込んだ。暖かい、と当たり前の事を当たり前に感じる。
「見てるよ」
「見てて下さい」
「キスは?」
「したい」
「していいぞ」
「して下さい」
「良かろう」
キスをして、見つめ合って、またキスをして、離れた。これ以上は色々と歯止めに問題がある。
「壱の、夢だよね、これ」
「……どうなんでしょうね。まあ色々と補助輪はついてますが、実現しちゃうと夢と呼ぶ程でもないような」
「大きく出たね」
「いや、自分でもよく解らないっす。音楽やるの好きだし、それで飯が食えたら最強だと思いますけど、こうやって差し迫ると当たり前の事にしか思えなくて」
そこまで言うと、咲は何か打たれたように言葉を詰まらせ、俯いた。どうしたのか、と思ってると俯いたまま目元を拭う仕草に驚く。
「ちょ、え、あれ? 俺変なこと言いました?」
「違うんだ。違う。ごめん」
言いながら咲はハンドバックからハンカチを取り出して、それで涙を拭くのかと思いきや広げて壱の胸元に押しつける。それから、顔をそこに埋めた。遠回りな事を、と思わなくもないが、嫌な気は全くしない。
「どうしてまた。なんかこう、咲さんて結構感極まりやすいんですかね?」
「わかんね。ごめんね、ぎゅーっと来ちゃって」
「そういう時の為に俺が居るんですから」
「うん」
「さ、ぼちぼち時間っす。俺は3曲目から、舞台の右袖付近に居ますからね」
「うん」
ようやく体を離し、改めて目元を拭い、咲は笑った。ほっとして、壱は道具を確認する。
「じゃ、向こうでな」
「はい」
そう言った咲の表情はいつも通りのものだった。舞台裏へ向かって、壱も歩き出す。
場内は不思議な静寂と、合間を縫うようなざわめきが支配していて、コンクールに出場した時の事を思い出した。
「来たね、えっと」
「ああ、黒沢です」
「ごめんね。じゃあ黒沢さんは向こう側待機で。リハと何も変わらないから」
「有り難うございます」
アシスタントの1人の指さした方へ向かい、サックスを抱いてうずくまる。
自分が代打であるということは周りも十分承知しているので、こういった気を回してくれたのだろう。
時間と同時に、ライトが灯された。拍手が沸き起こり、それが一頻り続いて落ち着いた頃、ピアノの音が聞こえてくる。最初は、康臣ではなく別の誰かがやった筈だと思い出しながら、暫し音色に耳を傾けた。
それほど印象に残らない演奏ではあったが、前座のような位置とはいえソロでの奏者である。素直に尊敬出来た。額を拭いながら袖へ抜けていくピアニストを追うように、壱の前をトランペットとウッドベース、ギターが通って行った。ドラムスは背後からで、3人でのバンドである。
流石に音響効果も手伝ってか、音の広がり方が思わず身震いするほどに太く長く、そして気分が良い。
この曲は壱も記憶にある。ジャンゴ・ラインハルトの「Belleville」というやつだ。なんとなく、映画のゴッドファーザーの時代を思い起こさせるような、レトロな旋律が気に入って、一時期ヘビーローテーションであった事を思い出す。
上下の激しいトランペットはスウィングならではというもので、思わず足が地面を叩いてしまうと、神経質そうな顔をした初老の男性に睨まれてしまった。なんとなく反感を感じて首を竦めて見せると、そっぽを向かれる。これから楽しい演奏会だというのに気難しい事だ、と内心笑えた。
そして自分の出番だ、と思い至るも、気持ちは落ち着いていた。リハーサル通りにやればいい。それだけだ、と思い、ステージへ足を踏み入れた。
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