事件【産経抄】7月25日2013.7.25 03:44

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【産経抄】
7月25日

2013.7.25 03:44 産経抄

 娘時代のあだ名は「色黒」だった。本人は悲観のあまり、日に一度も鏡を見ないで暮らしていた。ところが17歳の夏のある日、入浴していて窓ガラスに映った自分の顔が、意外にかわいいことに気づく。

 ▼「色が白くさえなれば」。作家、宇野千代の「お化粧人生」は、こうして始まったという(『私のお化粧人生史』中公文庫)。白粉(おしろい)をぺったりと塗るだけでは、満足できない。地肌を白くするために、独自の洗顔法を編み出した。

 ▼バケツに熱湯を入れ、その上にもろ肌脱いだ上半身をさらして、15分以上かけて湯気で蒸らす。こうすると毛穴が開いて、「色黒の原因になるものが、外へ出てしまう」と信じ込んでいた。

 ▼確かに、透明感のある白い肌は、時代を超えた女性のあこがれだろう。江戸時代には、鉛を主成分とする白粉が出回り、中毒事故も珍しくなかった。現在ではそんな危険な化粧品は禁止され、宇野のような手間をかける必要もなくなった。最新の技術によって、「美白」を可能にする化粧品が広く出回っているからだ。

 ▼ところが、その安全なはずの美白化粧品の一部が、「肌がまだらに白くなる」トラブルを引き起こすことがわかり、大騒ぎになっている。製造販売元のカネボウ化粧品には、2千人を超える利用者が、重い症状を訴えている。「白いまだら」の原因は、まだわかっていない。

 ▼それにしても、カネボウの対応には首をかしげてしまう。2年前にすでに被害の声が届いていながら、調査を始めたのは、今年5月に入ってからだ。「お肌は女性の命」ともいわれる。毎日、念入りに状態をチェックする化粧姿から、真剣勝負の気合が伝わってくる。それを手助けする立場の会社にしては、緊張感がなさすぎる。

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