自民党が環太平洋連携協定(TPP)交渉の対策として、聖域の農産品五項目の中で関税撤廃が可能な品目の検討に入った。聖域は守る−の公約とは相いれない。国民への誠実な説明責任を求める。
「コメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源。これらの関税は撤廃しないと公約して政権を構成している。これにたがう交渉はしない」。今月二日、与党・自民党の石破茂幹事長がこう言い切った。
コメなどの農産品は、昨年の衆院選で自民党が「聖域なき関税撤廃を前提とする限り、TPP交渉に反対する」と約束した重要五項目を指す。
それから五日たたないうちに、同党の西川公也TPP対策委員長が、重要五項目に含まれる五百八十六品目の一部関税撤廃の検討を表明した。こうも発言が食い違っては国民の信頼を著しく損ねる。
TPPは関税を貿易障壁だとして全面撤廃の理念を掲げる。輸入品に占める関税撤廃品目の割合、いわゆる自由化率の日本提案は90%未満だ。米国は95%前後を求めてくるとみられるが、聖域の全五百八十六品目の関税を守ろうとすれば93・5%にとどまる。
十二の交渉参加国が確認した年内妥結には自由化率引き上げが欠かせない。それには砂糖と小麦を使ったホットケーキの材料など、影響が軽微な一部農産加工品などの関税撤廃で95%に近づける。西川氏はそう判断したようだ。
しかし、関税交渉はこれからが本番だ。安倍晋三首相はオバマ米大統領との会談で「最終結果は交渉で決まる」との認識で一致している。それなのに、なぜ手の内を明かすのか。聖域は守るという幹事長発言が一部農産品の関税撤廃へと転じ、西川氏はそれを公約違反ではないとまで言っている。
既に日本は全国二万郵便局による米生命保険の販売などをのまされており、「米国追従」の批判すら招きかねない。聖域への切り込みも含め、理由を国民に納得してもらうことが筋ではないか。
TPPはアジア太平洋地域を、さながら一つの国のような単一自由市場とする米国主導の通商交渉だが、オバマ大統領が財政問題を理由にTPP首脳会合を欠席し、多くのアジアの国々を落胆させた。
首相はその米国を側面支援するかのように「日本が主導的役割を果たす」と語った。それなら、まずは説明責任を果たし、戸惑いを払拭(ふっしょく)して多くの国民の信頼を得ることを何より優先させるべきだ。
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