社説:バルサルタン疑惑 真相究明し再発防げ

毎日新聞 2013年10月13日 02時30分

 製薬会社ノバルティスファーマの降圧剤バルサルタン(商品名ディオバン)に血圧を下げる以外の効果もあるとした臨床試験疑惑で、厚生労働省の検討委員会は「実態としてノ社が関与していた」とする中間報告をまとめた。不正な論文を使った宣伝は誇大広告の疑いがあり、薬事法に基づく調査を国に求めている。再発防止に真相の究明は不可欠だ。厚労省は全力を挙げてほしい。

 バルサルタンを巡っては、東京慈恵会医大と京都府立医大で論文のデータに不正操作があり、ノ社の社員(既に退職)が肩書を伏せて解析に関与していたことが分かっている。

 検討委が関係者に事情聴取した内容からは、業績作りに励む研究者と論文を薬の宣伝に利用したい製薬会社のもたれあいの構図が浮かぶ。

 両大学の元教授らは「関係者が一つにまとまる企画がほしかった」と目的を説明し、学内に統計に詳しい者はいなかったと口をそろえた。研究が医学的課題の解明を目指したものではなく、体制もお粗末だったことに驚く。まさに患者不在である。

 一方、元社員は業務として研究を支援したと述べている。ノ社は奨学寄付金として慈恵医大と府立医大の講座に計約5億7000万円を提供し、臨床試験に使われることを期待していたという。「学術研究や教育の充実という寄付金本来の趣旨と異なる」(中間報告)のは明らかだ。

 論文は宣伝に使われ、バルサルタンは国内の年間売上高1000億円を超す人気薬になった。

 検討委の調査は任意で、関係者はいずれも不正への関与を否定したため、誰が何の目的でデータ操作したかは特定できていない。薬事法に基づく厚労省の調査なら、製薬会社が調査に協力しない場合、罰金も科せる。田村憲久厚労相は「刑事告発を否定するわけではない」としており、厳正な対処を求めたい。

 ノ社が不当に得た利益をどうやって返還させるかについても、厚労省は知恵を絞ってほしい。

 中間報告は国に臨床研究の規制強化の検討も求めた。新薬の承認申請を目的とした「治験」には薬事法に基づく規制や罰則があるが、バルサルタンの臨床試験は新薬としての承認後で、強制力のない倫理指針しかない。再発を防ぐには一定の法規制が必要だろう。コストが増え、臨床研究が減るとの懸念もあるが、研究の質は向上するはずだ。本当に必要な研究なら、国が支援すればいい。

 中間報告は、今回の疑惑を「国益の損失にもつながる重大な問題」だという。安倍政権は医療を成長戦略の柱に据える。日本の臨床研究にその資格や実力があるのかを、バルサルタン疑惑は問うている。

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