ボスニア:紛争後初の国勢調査 「民族色分け」で揺れる
毎日新聞 2013年10月15日 17時47分(最終更新 10月15日 20時20分)
【ウィーン樋口直樹】第二次世界大戦後の欧州で最悪の民族紛争が起きたボスニア・ヘルツェゴビナで、1995年の紛争終結以来初めて国勢調査が15日まで行われた。ボスニア人、セルビア人、クロアチア人の3民族の構成比が焦点だが、民族的色分けに反対し「ボスニア・ヘルツェゴビナ市民」などと自称する草の根運動も拡大。3民族をボスニアの「構成民族」と定義する憲法を揺るがす可能性も出てきた。
ボスニアの国勢調査は紛争勃発直前の91年以来22年ぶり。旧ユーゴスラビア時代の前回調査によると、総人口約438万人の民族別構成比は▽ボスニア人(イスラム教徒)43.5%▽セルビア人(正教徒)31.2%▽クロアチア人(カトリック教徒)17.4%の順。このほか5.6%がいずれの民族にも属さない「ユーゴスラビア人」と答えていた。
3民族が覇権を争った紛争は95年12月の和平協定(デイトン合意)で終結。新憲法は3民族の権力分割を定めた。国勢調査で民族構成比が変われば、権力バランスも変化する。3民族の指導部が自陣営に有利にはたらくようけん制し合ったため、国勢調査は延期を余儀なくされてきた。
10月1日から始まった国勢調査でも、それぞれの民族・宗教指導者はモスク(イスラム礼拝所)や教会を通じ、自らの所属民族の明確化を訴え、国外在住者には一時帰国して回答するよう求めた。結果は来年1月に発表。
一方、ユダヤ人やロマなど少数民族は高級官僚や上院議員などへの道を閉ざされている。欧州人権裁判所は2009年12月、憲法が少数民族の人権に違反していると認定。主要3民族の中でも若年層を中心に、民族別統治による国家運営の非効率性や政治的差別への批判も高まっている。
国勢調査による民族的な色分けに反対するNGO(非政府組織)を主宰するダルコ・ブルカンさん(34)は「国民に所属民族の公表を迫るのは差別的行為。私たちは自分の民族を申告しないよう訴えている」と毎日新聞の電話取材に語った。