子どもに罵声あびせる「毒親」 その胸の内は

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(更新 2013/10/10 16:00)

母によって、無残にも落書きされた娘の結婚写真。認知症で娘が自分のお金を盗ったという妄想に取りつかれた母は、あの手この手で娘を追い詰める(撮影/写真部・山本正樹)

母によって、無残にも落書きされた娘の結婚写真。認知症で娘が自分のお金を盗ったという妄想に取りつかれた母は、あの手この手で娘を追い詰める(撮影/写真部・山本正樹)

 自分の子どもに対して支配や虐待、そして依存する「毒親」の存在。子どもは成長して自立しても、親が要介護になったとき、再び苦しめられることになる。

 しんしんと雪の降る日の未明、けたたましいインターホンの音が鳴り、販売職の美智子さん(仮名、54)は跳び起きた。玄関ドアを開けてみると、風呂敷包みの中に、美智子さんの結婚写真が。写真は、「ドロボ女ブタ」「バカヤロ」などの罵りの言葉とともに、顔が黒く塗りつぶされていた。震える文字は、母(82)の手蹟だ。これを届けるためにわざわざタクシーに乗って来たのか。母の悪意を感じ、ぶるぶると手が震えた。

 レビー小体型認知症で「要介護1」の母は、美智子さんの自宅から車で10分ほど離れた場所にひとりで暮らしている。父と兄はすでに他界。母の介護は、美智子さんが仕事をしながら一手に引き受けている。現在は週2回ヘルパーに来てもらい、週1回はデイサービスを利用。通院や買い物などは、美智子さんが車を出して付き添っている。

 認知症になってから、母は「娘が自分のお金を盗(と)った」という妄想に取りつかれるようになった。変貌した母に戸惑い、症状について調べるうちに、自分の母は「毒親」だったのだと気づいた。思えば、これまでも母はすぐ他人に嫉妬し、美智子さんは子どもの頃から自尊心をたびたび傷つけられた。

「ドロボー。カネカエセ」

 昼夜を問わず美智子さんに電話して罵る母。電話攻撃のせいで美智子さんは眠れなくなり、精神的に追い詰められていった。 母が親戚に「娘が泥棒をする」と吹聴することも、美智子さんを苦しめる。一見しっかりと受け答えをする母の言い分を周囲は鵜呑みにした。

「私が何をされれば一番ダメージを受けるか、動物的なカンでよくわかっているんですよね」

 2年前に症状が悪化し、母が大暴れしたときに、美智子さんは警察を呼んで、母を精神科に強制入院させることにした。死ぬのは自分か母か。極限状態でのギリギリの判断だった。しかし、心身ともに疲弊している美智子さんを、親戚は「なぜ入院させたのか。年をとったのだから、仕方のないことだろう」と容赦なく追い詰めた。治療のおかげで母は落ち着き、退院後は穏やかな日々を送っている。しかし、わだかまりが消えたわけではない。今は母と手をつなぐのが、何よりも苦痛だ。

 子どもに対してトラウマとなるほど虐待や支配を行い、そして依存する親のことを「毒になる親(略して毒親)」と呼ぶ。毒親からひどい仕打ちを受けてきた人は、それを心の奥にしまい、生きづらさを抱えながら大人になるケースが多い。しかし、何とか親から離れて自分を取り戻しても、親の介護に直面し、再び親と向き合わざるを得なくなる局面が増えている。

 カウンセラーの信田さよ子さんは、介護を受ける親の気持ちについてこう分析する。

「介護によって、親子の力関係が逆転します。それまで子どもに対して圧倒的強者としてふるまっていた親は、その立場逆転が許せません。だから、いつまでも子ども、特に娘を支配下に置こうとして、一層ひどい言葉で傷つけるんです」

AERA 2013年10月14日号


    

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