【備蓄済み全国自治体アンケート】83%不安 内部被ばく対策 苦慮
原子力災害時に甲状腺がんを避けるための安定ヨウ素剤をめぐり、共同通信の全国アンケートに備蓄済みと答えた自治体の83%は、住民への配布に不安を持っていることが4日、分かった。理由は「配布方法が定まっていない」「国から適切に指示があるか分からない」など多岐にわたり、内部被ばく対策に自治体の多くが苦慮している実態が浮かび上がった。
東京電力福島第一原発の事故発生当時、県内の周辺自治体は備蓄していたが、政府から指針に基づく配布や服用の指示がなく、住民のほとんどに行き届かなかった。
住民への事前配布について、原子力安全委員会の分科会は2月、事故時にすぐ避難する必要がある半径5キロまでの「予防防護措置区域(PAZ)」では有効、事故の進展に応じて避難する30キロまでの「緊急防護措置区域(UPZ)」でも「有効だろう」と提言した。
調査は2月、都道府県と市区町村の計1789自治体を対象に実施。このうち1517自治体(84%)が回答し、さらにUPZに該当するのは117市町村だった。
一部のUPZを含め16道府県と75市町村がヨウ素剤を既に備蓄していたが、事前配布に「大いに不安」(18%)、「多少不安」(65%)を合わせると、「不安はない」(15%)を大きく上回った。
■県と41市町村が回答
アンケートには県と県内41市町村が回答した。このうち、県は住民への配布を「大いに不安がある」と回答し、理由は「事故後の緊急時かつ服用効果が限られている時間の中で、対象全住民に配布するための体制整備は困難と考える」とした。郡山市と富岡町は「不安はない」と回答した。
一方、各家庭への事前配布について県は「どちらとも言えない」とした。「迅速に住民に服用させるためには、事前配布が必要と考えるが、医師などの立ち会いや幼児用シロップ調合など、体制整備をどのように行うべきか現実的な対応について国外の例も参考としながら、国レベルの検討が必要と考える」と理由を挙げた。「賛成」と回答したのは県内では14市町村だった。
「賛成」と回答した市町村は次の通り。
須賀川、二本松、田村、桑折、川俣、天栄、南会津、猪苗代、西郷、泉崎、塙、石川、大熊、葛尾
■※安定ヨウ素剤
放射性ヨウ素による内部被ばくを防ぐ医薬品。原発事故で放出される放射性ヨウ素は体内に入ると甲状腺に集まりやすく、がんを引き起こすことがある。放射性ヨウ素が体内に取り込まれる前に服用し、甲状腺内をヨウ素で満たしておくことで放射性ヨウ素が甲状腺にたまらないようにする。取り込む前の24時間以内か、体内に入った直後に服用すると90%以上の抑制効果があるとされる。原子力安全委員会の現行指針では対象者は40歳未満だが、見直しを進める安全委の分科会が2月まとめた提言では「40歳以上も服用を否定しない」としている。
■【解説】指示待ち捨て主体的判断を
安定ヨウ素剤をめぐるアンケートで、住民への配布に不安を持つ備蓄自治体が83%に上ったのは、東京電力福島第一原発事故で対応が後手に回った政府への不信感の表れともいえる。原子力災害が起きれば、行政の果断が重要だ。自治体は住民の生命と財産を守ることを最優先に、政府からの指示待ちの姿勢を捨て、主体的に判断しなければならない。
福島第一原発事故では、政府、県、市町村へと上意下達で指示が届くとする指針やマニュアルは機能しなかった。個々に異なる現場の状況を政府や県は把握できず、指示を待った市町村は身動きが取れなかった。
第一原発近くにあった政府の原子力災害現地対策本部は、市町村に必要な情報伝達をすることなく撤退。緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)も"宝の持ち腐れ"となり、住民の「無用の被ばく」を増大させた。
決定的に市町村側に不足していたのは情報だ。地理的条件も幸いしたが、三春町が取った行動はヒントの1つになろう。町当局で風向きを読み、独自にヨウ素剤の配布、服用を決めた。
■調査方法
共同通信社が1月26日、インターネット上に質問項目を掲載したページを開設。全国の都道府県と市区町村にメールアドレスを送付し、回答を2月17日時点で集計した。
(カテゴリー:3.11大震災・検証)