【ニューヨーク=黒沢潤】ブラジル軍事政権下での人道犯罪を調べるルセフ政権の「真実委員会」が10日、第二次大戦中や戦後に起きた日系移民への迫害を公式に謝罪したことを受け、当事者や家族に補償するよう求める声が国内で広がっている。
「謝罪だけでは不十分だ。中央銀行には、押収された(日系移民の)資産記録が残っている。金銭補償もすべきだ」。戦時中の日系、ドイツ系、イタリア系移民への迫害の歴史について著書を持つフェルナンド・モライス氏は、ブラジル有力紙グロボにこう語った。
ただ、迫害が証明されても今となっては訴追は難しく、政府による補償は行われないとの見方も強いが、補償を求める声は日系移民や人権団体の間で大きい。
国粋主義的政策をとった軍事色の濃い第1次バルガス独裁政権(1930~45年)時代、数百の日系人学校が閉鎖を余儀なくされ、家庭外での日本語使用が禁じられたほか多くの資産が押収された。天皇の肖像画を踏むよう求められたり、スパイ容疑で不当逮捕されたりした日系人もいた。
日系の映画制作者、マリオ・オクハラ氏は「当時、愛国主義的政策により拷問や人種差別が相次いだ。軍政下で沈黙を強いられ、多くの人々が日本語を話すことを忘れたように、多くの人々が(悲惨な)事実を忘れていった」と指摘する。
真実委員会は、自らも戦後の軍政下で投獄された経験を持つ左派のルセフ大統領らによって設立され、昨年から調査が始まった。
英紙ガーディアンによれば、同委員会専属のロサ・カルドソ弁護士は「ブラジル国民を代表して謝罪するだけでなく、許しを請いたい。(迫害の)背景には人種差別があった」などと語った。政府側が公に謝罪するのは初めてとみられる。