「これがガラパゴス!」
曲中でそう叫ぶと、おもむろにギターを置き、スタンドマイクから離れてステージの後方へ。肉声でシャウトし、ホールの最後列まで歌声を響かせる。ライブではおなじみの光景だ。
「生の声」を届けることへのこだわりから、売れっ子になってからも日本武道館やドームなど大規模会場でのライブを避け、2千人規模のホールを積極的にまわってきた。時流におもねらず、不器用でも自分のスタンスを守り続ける――。肉声を披露するパフォーマンスを「ガラパゴス」と呼ぶのは、時代遅れを揶揄(やゆ)する言葉を反転させた、達郎一流のしゃれっ気だ。
「徒党を組めない、人とつるめない性格。心情的アナーキスト」と自称する。それゆえ「都市生活者の疎外」をテーマに歌ってきたという。
1973年、バンド「シュガー・ベイブ」を結成。アンダーグラウンドなロックシーンに身を置きながら、ポップな楽曲を志向する音楽性はなかなか理解されず、評論家と怒鳴り合ったことも数知れない。今なお「僕は本流ではなく、傍流の人間」と話す。
76年のソロデビュー後も、代表曲「クリスマス・イブ」をはじめ、洋楽への深い知識に根ざした良質な楽曲を発表し続けてきた。90年代中頃には、業界の様々なしがらみから「引退も考えた」というほどの深刻な低迷期に苦しんだが、97年、作曲を手がけたKinKi Kidsの「硝子(ガラス)の少年」の大ヒットを機に復活を果たした。
テレビに出ないことで有名だが、一方で、ドラマやCMなどとのタイアップが多いことでも知られる。「曲を知ってもらうための露出です。僕にとってはこれが立派な『テレビ出演』」という。
そんなポップスの職人はいま、CD不況のただ中にあって、ライブに活路を見いだそうとしている。
2002年からの10年間で、CDやDVDなど音楽ソフトの総生産額は4800億円から2800億円に落ち込んだ。しかし、ライブ・エンターテインメントの市場規模は、同じ10年で800億円から1600億円へ倍増した。
この音楽産業の激変に呼応するように08年、6年ぶりにツアーを再開。以来、各地の音楽フェスに出演し、デビュー当時を知らない若い世代にもファン層を広げている。
「生活手段としての音楽を冷徹に考え、ライブに先祖返りしようと決めた。今まではCDが音楽文化の中心で、ライブはその販促活動みたいなところがあった。でも、これから先は、ライブのためのCDになる」と言い切る。
今夏には「なかなか生で見られないお客さんにも、ライブを体験してほしい」と、全国の映画館でライブ映像を上映した。そして9月末、ソロ活動35周年を記念したベスト盤「OPUS 〜ALL TIME BEST 1975-2012〜」を出した。
「音楽配信によってパッケージのCDが殲滅(せんめつ)されていくことは時代の趨勢(すうせい)で、止めようがない。今回のアルバムを出した最大の理由は、CDがまだ健全な流通に乗っている間にベスト盤を出しておきたかったから。CD時代の終わりに際しての、まとめです」
これから音楽はどうなるのか。若手ミュージシャンから相談された時には、こう答えている。
「音楽がなくなるわけじゃない。音楽を届け、利益を生むための方策が変わるだけ。音楽を人に伝えたいと思うパッションがあるなら、道は必ずある」
1953年、東京・池袋生まれ。
68年、都立竹早高校入学。
72年、明治大入学、数カ月で中退。
73年、大貫妙子さんらとバンド「シュガー・ベイブ」結成。
76年、シュガー・ベイブ解散。アルバム「サーカス・タウン」でソロデビュー。
80年、マクセルのCMへの出演が話題になり、アルバム「ライド・オン・タイム」でオリコン1位獲得。
82年、シンガー・ソングライターの竹内まりやさんと結婚。
88年、JR東海のキャンペーンに「クリスマス・イブ」(83年発売)が使われ、大ブレーク。
97年、作曲を手がけたKinKi Kidsの「硝子(ガラス)の少年」がヒット。
11年、6年ぶりのアルバム「レイ・オブ・ホープ」発売。
ラジオ番組「サンデー・ソングブック」(TOKYO FM系)のプロデューサー砂井博文さんは「達郎さんは常にリスナーを意識している。東日本大震災の直後には、避難所の小さいラジオでもよく聞こえるよう、自ら音質を調整していた」と話す。
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