魔王少年リリカルカンピオーネ (ヤギ3)
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1を選んでくれた方が予想以上に多かったので、このまま続行することに決めました。
作者としては、嬉しい限りです。
これからも、よろしくお願いします。
作者としては、嬉しい限りです。
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第26話 日常への帰還
「アリサ、頼む。助けてくれ」
坂月結城という人間は、とてつもなく強い。
性格は、一般人に対してはそれなりに謙虚なものの、私のような裏――いわゆる魔術のこと――を知っている人間に対しては傲慢で自信過剰な面を見せる。
そんな人間が、私に対して頭を下げている。
彼の本性を知っているのならば、驚きを隠せないはずだ。
頭を深々と下げ、「助けてくれ」とはっきり言っているのだから。
比較的、良王として知られているジョン・プルートー・スミスや草薙護堂と呼ばれる魔王ですら、こんなことはしない。ましてや、プライドはヴォバン公爵といい勝負と言われている結城がこんなことをすると思う奴はいない。
しかし、やっている。
理由は簡単だ。彼の天敵が近くに迫ってきているからだ。
まつろわぬ神のような仇敵でもなく、他の魔王のような強敵でもなく、彼が高確率で敗北しかねない天敵だ。
「はあ、仕方ないわね。それじゃ、始めるわよ」
そう言って、私は教科書と参考書を教室の机の上に広げた。
彼の天敵、「定期テスト」の対策を始めるとしよう。
☆
最近、誘拐犯を倒したり、管理局と接触したり、異世界に行ったり、マッドサイエンティストと会合したりで忘れていたが、一週間後には定期テストがある。
僕の成績はいいとこ下の上といったところだろう。
アリサ曰く「本当は中の上ぐらいはあるんでしょうけど、うちは偏差値が高いから、下の上止まりなんじゃない?」と、ありがたい言葉をもらったが、そんなことも知らずに、悪い成績ばかり取り続けてきたものだから、苦手意識がついてしょうがない。
ホント、神や魔王ならばどうにかなるものの、テストだけはどうしようもないのだ。唯一、意気揚々と挑めるのは英語だけ。ほかは灰色に燃え尽きながらやるしかない。
想像しただけで気が滅入る。
「ほら、そこ違うわよ」
「え、嘘?」
「嘘じゃないから、早く直しなさい」
すずかはそれなりに成績がいいものの、こちらが色々仕事を押し付けているので邪魔は出来ない。ロッテは、理科と数学に関しては問題ないどころか、少し物足りないと言わせるほど強いが、国語と古典が絶望的であり、猛勉強中だ。テストの辛さを知っている身としては、邪魔するのは忍びない。
よって、成績優秀でそれなりに時間の有りそうなアリサに教師役を頼んだわけだ。
「ほら、ここは共通因数でくくりだすのよ」
「そうか。これが答えだな」
「このあと、因数分解するのよ」
「あ、あれ?」
これホントに中学の内容?
「少なくとも、テスト範囲の内容よ」
一刀両断されてしまった。
「全く、アンタにこんな弱点があるとは思わなかったわ」
「結城は勉強だけは出来ないっすからねー」
「くぅ……」
「そうみたいね。って、大輔! そこ違う!」
「え!? まじっすか!?」
アリサだけでなく、大輔にも言われてしまった。ホントの事だから、なにも言い返せないのが歯痒い。
こいつだってわからないから教えてほしいってアリサのところに来たくせに。
「アンタたち揃いも揃って、なんでそんなに出来ないのよ」
「仕事で忙しいから」
「勉強って苦手なんすよね」
僕達の反応に、ピクピクとこめかみを動かすアリサ。特に、大輔の言い分を聞いた時の跳ね上がり具合が凄かった。
だけど、本当に忙しいのだから仕方ない。
小学校の時から魔王として、様々なところ――それこそ、世界各地――で活動していたし、当時小学生だったからということで、僕を自分たちの操り人形にしようとした大馬鹿者や、プライドだけが高い魔術師の相手をしていたため、勉強する暇がなかった。
ちなみに言うと、後者の中にはアーニャがいたりする。
「はあ、それじゃもういい時間だし。そろそろお開きにしましょ」
「へっ?」
どういうことだろう。
まだ日も高いし、一時間程度しか付き合ってもらってない。
まさか、さっきの受け答えで怒らせてしまったのだろうか。
「あのー。なんで、もう行っちまうんすか?」
「行ってなかったかしら? 今日は、なのはたちも見てあげる事にしてるの」
なるほど。
今日は、もう予定が入っていたのか。
そうでありながら、受けてくれたことに感謝するべきであり、文句を言うのは筋違いだな。
「ありがと。今日は助かったよ」
「また今度お願いします」
僕が礼を述べると、大輔もつられたように礼を述べる。
「テスト、頑張りなさいよ。王様が赤点なんて締まらないから」
「全くっすね!」
「アンタも笑い事じゃないわよ、大輔」
「……うっす」
そう言い残し、アリサは教室を出て行った。
「それじゃ、僕達も帰ろうか」
「そうだな。今回こそは、平均点以上に行かないと手伝ってくれたアリサさんに申し訳ないもんな」
どうやら、大輔は帰っても勉強をするつもりらしい。
相変わらず、アリサやすずかに対しては律儀なやつだ。
「そういえば、なのはさんたちとまだ仲直りしてないのか?」
「そう簡単にいかないよ。……彼女たちの目の前で人を殺しているんだから」
彼女たちは、正義感が強い。
だから、自分の正義に反する存在を許しはしない。その正義が本当に正しいから彼女たちは、自身の正義を信じている。それは間違いじゃない。
だけど彼女たちは、正義ではどうしようもないこと、この世のダーティーな部分を知らない。その存在を知らないから、正義に対して妥協ができない。
要するに、彼女たちは悪いことが許せない。そして、悪いことの筆頭である殺人を犯していながら悪びれていない僕に対して嫌悪感を抱いている。だから仲直りができない。
僕としては、彼女たちとは早く仲直りをしたいんだけどなァ。一緒にいて退屈しないし。
「そうかァ。……というか、今回のことは元はといえば、アイツにボコボコにされた俺たち……いや、俺が悪いんだよな」
「僕はそう思ってないから、大丈夫」
「いーや、大丈夫じゃねえ! 安心しろ、結城! この俺が、お前となのはさんたちの仲を取り持ってやる。これで、お前はあの三人とくっつくこと間違いなしだ」
「なんだか僕が彼女たちに気があるような言い方だね。その言い方だと、僕が親友に対して堂々と三股発言をしたように聞こえるんだけど」
くっつくという表現をもう少しどうにかして欲しい。まるで僕があの三人全員と、男女の仲になることを望んでいるかのようだ。
というか、最近の僕の扱いはどうかと思う。
危険物扱いだったり、スケベ扱いだったり。
危険物扱いはヴォバンの爺さん、スケベ扱いは草薙くんの専売特許だろうに。断じて僕のような人間に使うべきじゃないと思う。
「ま、そのときは頼りにさせてもらうよ」
「ん? 三股か?」
「違う!」
「……ああ! 仲を取り持つってやつだな! どんと来い!」
そう言って、誇らしげに胸を叩く大輔。
自分から言っておいて、とんでもないこと言いやがって。大通連をアイツの胸にどんと突き刺してやりたいと一瞬思ってしまった。
「それじゃ、俺こっちだから」
「うん、じゃあね」
そう言って、分かれ道で大輔と別れる。
神が襲いかかってきたり、魔王と遭遇したり、魔術師に頭を下げられたり、魔導師が敵対してくることもなく、何事もないまま家に到着する。
ここ最近、いろんな騒動に巻き込まれていたものだから、何事もなく家に到着するだけで感動すら覚えてしまう。なんだか、人として至ってはいけない境地にまで手を伸ばしかかっている気がしてならない。今後、気を付けよう。
家のドアノブを回し、ドアを開くと――
「お兄ちゃんおかえりー。私のど乾いたから、冷蔵庫にあるジュース入れてくれない?」
という、言葉を妹からもらった。
「僕、帰って来たばかりなんだけど……」
「えー、いいじゃん」
拗ねたように頬を膨らませる妹。
……こいつは本当に人使いが荒いな。学校で嫌われているんじゃないかな? そう心配になるが、「こんなことさせてるのはお兄ちゃんだけだから大丈夫」という言葉を思い出して、少しの安心と怒りを覚える。
何が大丈夫なのか小一時間ほど問い詰めたいが、そんなことをしてしまうと、母親に苛められたー、と泣きながら言い、甚大な被害を被るので諦める。
ため息をつきながら、僕は言われた通りにジュースを入れてやる。せっかくだから、僕が飲む分のコーヒーも入れることにしよう。
「はい、ジュース」
「ん、ありがとー」
テレビに視線を固定したまま、ジュースの入ったコップのみを取られる。
他人にされれば不快感の一つや二つ覚えるが、妹がやるといつものことだと思い、なんとも思わない分、僕もだんだんおかしくなってきているなァ。
コーヒーの入ったマグカップを片手に、二階の自室に入り、パソコンを立ち上げる。
やることは、もちろん
ここ最近、異世界での仕事ばかりで地球の仕事をしてなかったものだから、いろんな依頼がこちらに舞い込んできている。
いくつもある依頼を見ると、この世界を放っておくような真似をしてなんだか悪いと思ってしまう。
「ん?」
見たことのないメールアドレスからのメールが来ている。
コーヒーを口に含みながら、カーソルをメールのマークに運び、クリックする。メールが開かれ、そこに書かれていた文字は――
『やあ、ジェイル・スカリエッティだ』
「ブフッ!」
ギリギリセーフ。
何とか、パソコンにコーヒーのシャワーを浴びせる前に手で口元を抑えることに成功した。完全に不意打ちだった。
というか、なんであいつが僕のメールアドレスを知っているんだ?
『君は今、なぜ私が君のアドレスを知っているか、と疑問に思っているね?』
なんで分かるのさ。
『答えは簡単だ。君に、私の技量を見せつけるためだ。君は、使える人間でなくては身の回りに置こうとは思わないタイプだろうからね』
当たっているような、外れているようなという微妙な評価しか下せない分析だった。
だが、会った時間の少なさから考えるとよく分かっていると言ってやってもいいかもしれない。
それでも、技量を見せつけるにはもう少し別の方法があったんじゃないのか?
『前述の文を見て、他の方法があったのでは? と疑問に思っていることだろうと思う』
だから、なんで分かるのさ。
『だが君は、身の回りに問題が起こらないと動かない。現に、君の存在が確認された殺害事件――もちろん、加害者は君だ――でも、君の友人がボロボロになってから動き出したからね』
なるほど。
要するに、技量をもっとも分かりやすく分からせるには、身近な物に干渉することが一番だと言いたいのだろう。
これについては納得できる。
だがなぜ、彼は僕に対して技量を見せつけたかったのだろうか? 牽制目的か?
『君に技量を見せたのは牽制が目的だからではない』
……僕って、そんなに分かりやすいだろうか。
『簡単に言うと、スポンサーに手を切られてね。どうやら、君を捕まえてこいという任務を達成できず、我が物顔でミッドチルダを練り歩く君の姿を見て、私たちの方に怒りの矛先が向いたのだろう。所謂、八つ当たりというやつだ』
なんだか、申し訳ないな……。
いくら、人でなしの犯罪者が相手とはいえ、僕が原因で被害を被ったというのは、聞いていてあまり気分がいいものじゃない。罪悪感が出てくる。
『だから君に、スポンサーになってもらいたいと思っているのさ。君の元なら、私たちに金銭では買えない利益がついてくるからね』
……なるほど、よく分かった。
こいつが言いたいことは、この世界の魔術結社と変わらない。
こいつは、僕の庇護が欲しいと言っているんだ。
スカリエッティが僕たちのもとにつけば、異世界の情報――それも、かなりレベルの高いもの――を、簡単に手に入れることができるだろう。
しかし、犯罪者を味方に引き入れるというのは、内側から組織を解体させられるかもしれないし、他の組織――特に管理局――と、面倒くさいことが起こるだろう。
ハイリスクハイリターン。
スカリエッティをこちらに引き込むのはリスクもリターンも大きい。
僕としては臨むところだと言いたいのだが、組織の問題は僕一人じゃ決められない。特に、ブラッドやダニエルは家族を養う立場にいる。僕の迂闊な判断は、ブラッドの妹やダニエルの奥さん、ソフィアさんの人生すら左右してしまうかもしれない。
組織の主としてそれぐらいは弁えている。
この件は後回し。ロッテやすずか、できることなら、メンバー全員で決めようと思う。
『P.S. 君の周りに不審な動きがある。それも、君が今まで相手にしてきたような不思議な生物ではなく、科学と理論で動く機械が相手になるだろう。慣れない相手だ。君の実力なら大丈夫だろうが、少しは用心すると良い。君の周りの人間に対しても、ね』
機械が相手。
そんなことは一度もなかった。
それもそのはず。神はもちろん、魔術師すらも、科学などとは縁のない生物だ。
そんな相手ばかり相手にしてきたものだから、科学的な相手というのは初めてだ。気を少し張っておくことにしよう。そして、メンバー全員に気を付けるように言っておこう。
先の見えない交渉、未知の相手、そして管理局とのやり取り。
問題が山積みだ。考えただけで、頭痛がしてくるほどだ。
一つ一つ、解決していくことにしよう。
まず初めに手を付けるべき問題は――
「ズボンどうしよう?」
コーヒーの染みがついてしまった、ズボンの処理だ。
今回、全く話が進んでねえな……。