魔王少年リリカルカンピオーネ (ヤギ3)
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遅くなってしまい、申し訳ありません。

言い訳だけさせてもらうと、現実世界ではバタバタとしていて、この小説のことをすっかり忘れていました。ほんっとすみません。



第25話 ジェイル・スカリエッティ

 僕は一人の男と出会った。
 その男は天才だった。そして、狂人だった。
 だが、子供のように無邪気な男でもあった。
 男は子供のような無邪気さで僕に尋ねる。君はなぜ戦っているのか――と。
 僕は答えた。楽しいからだ――と。
 君は子供のようなやつだな――と、彼は笑う。顔に狂気を浮かべ、瞳に好奇心を浮かべて笑う。
 そう、この出会いはありふれた話だ。
 類が友を呼んだ話。至極、退屈な話だ。
 だが、そういうものだろう? 後の親友との出会いというのは、すぐに別れる知り合いとの出会いより面白みに欠けるものだから。

  ◇ ◇ ◇

 ジェイル・スカリエッティ。
 科学者にして、生物学者。稀代の天才とも言われる男だ。才能だけで言えば、かの発明王、トーマス・エジソンと肩を並べるだろう。
 しかし、その活動は、とてもじゃないが一般に公開できるようなものじゃない。いわゆるマッドサイエンティストというやつだ。ジェイル・スカリエッティという男は。
 そのせいで、広域指名手配中の次元犯罪者となっている。
 僕は、その男に今から会いに行くことになっている。

「それにしても、なんですずかまでついてくるんだい?」
「心配だから……。それに、ロッテちゃんだけ連れて行くなんて不平等でしょ?」

 でしょ? と言われても困る。こっちとしては、彼女を案じての発言だったのだが。
 すずかは、ブラッドやアーニャとは違い、基本的には非戦闘員だ。悪魔の加護を与えているとはいえ、未だ扱うにはすずかは未熟過ぎる。
 過剰な炎は術者すら焼き殺す。彼女自身が悪魔の力を使いこなすには、あと数年必要だ。だから、こちらとしてはじっとしていて欲しかったのだが、あそこまで強く言われてしまったら、無下にする訳にはいかない。……そういえば、どこぞの魔女に「身内に甘すぎる」と、言われたことがあったな。その通りだったので、ぐうの音も出なかったことを覚えている。

「それにしても、よく自分から行く気になったね? 私は、地球に呼びつけるか、ミッドの支部に連れてこさせると思ったんだけどなァ」
「それは私も思ったかも」

 ロッテとすずかに、そんなことを言われる。
 彼女たちは、誰彼構わず横暴を働く、狼爺さんと同じような人間だと思われているらしい。だがこれでも一応は、横暴な振る舞いをするのは魔術関係者と僕にちょっかいをかけてきた馬鹿だけにしているつもりだ。現に、学校では相手に合わせるということをキチンとしているはずだ。それなのに、無差別に我を通していると思われているのは心外だ。
 それに、僕から足を運ぶ理由はポリシーだけじゃない。

「彼女たちは、みんな女だからね。しかも、全員がそこらではお目にかかれない美人揃いだ。なのはたちといい勝負ができるんじゃないかな? そんな女の子たちが、約十人も一人の男に会いに来るっていうのは、無駄に目立つだろ?」
「あー……確かに」
「ロッテちゃんが転校してきた時も、大騒ぎだったしね」

 いや、あれはロッテが勝手に火種をつけて、勝手に火を強くしたもののとばっちりを僕が食らっただけだろう。
 何にせよ、僕自身が彼女たちの元へ赴くことにはそれなりの理由がある。
 僕等が今いる、そしてジェイル・スカリエッティがいる世界の名は第88無人世界、ジーニアというらしい。
 この世界は、哺乳類が少なく、大体の生物が爬虫類の世界だ。恐竜時代の世界を想像してもらえると分かりやすい。地上には恐竜のような生物が、空には炎を吐く竜が君臨する世界だ。そのため、この世界に人間はまず来ない。魔導師でも、巨大な恐竜を相手にするには、Aランクは超えていなければいけない。竜ならS以上は欲しい。管理局も無法者も来ない世界がここ、ジーニアだ。ジェイル・スカリエッティは何を考えたか、こんな世界に拠点を構えている。もっとも、仮のものであり、正規の研究所と比べると説部が劣るらしいが。
 もちろん僕は、恐竜にも竜にも襲われることなく研究所に到着する。野生の生物は自分と相手の力量差というものを理解しているから助かる。

「いらっしゃいませ。逆月結城様」

 考えながら歩いていると、目的地についたようだ。
 目の前には、紫色の髪をした美女がいる。あの戦闘には参加していなかったのか、その顔に見覚えはなかった。

「やあ。名前を聞いてもいいかい?」
「ウーノと申します」

 ウーノ、か。
 確かあの小さい子は、チンクだったな。
 おそらくは、イタリア語の数字が名前なのだろう。ウーノは一番目で、チンクは五番目の存在なのだろう。

「それにしても、ネーミングセンスに問題有りと言わざるを得ないな……」

 ただの数字じゃないか。何の番号かは知らないが、単純過ぎる。もう少し捻ればいいのに。
 僕の言葉を聞いて、ウーノも苦笑いを浮かべる。少なからず、思っていたみたいだ。

「こちらに。ドクターがお待ちです」
「行くよ、二人共」
「……うん」
「わ、分かったよ」

 二人は何故か絶句している。おそらく、ちらりと見える研究所の中がとんでもないことになっているからだろう。外から見れば、ただの岩壁なのに、だ。しかも、二人は科学技術に齧っている。だから、これがどれだけ非常識なことかが、わかるのだろう。

「……王様、気を付けたほうがいいよ。中にいるのは、とんでも無い奴だ」
「そんなに?」
「うん。私やすずかじゃ、科学者として敵わない」

 驚いた。ロッテがあんなにあっさりと認めたということもそうだが、ロッテもすずかもそれなりの技術を持っている。ロッテに至っては、下手な専門家よりも詳しい。その二人をしても勝てないと言わせたことだ。……なるほど、一筋縄じゃいかない。

「なるべく気をつけておくよ」

 心配するほどのことではないと思うが、わざわざ彼女が教えてくれたのだ。心の片隅に留めておく程度のことはやっていて損はないだろう。
 歩いて行くウーノの背中を追い、一つの扉に辿り着く。

「こちらに、ドクターはいらっしゃいます。……それと、お連れの方はこちらに来ていただけますでしょうか」
「……」

 やはり、こう言われたか。
 僕は、彼らの兵士を楽しみながら斬り伏せていった男だ。自分で言うのも何だが、彼女たちと僕の実力差というものは明白だ。
 そんな男が連れてきた連れに警戒するのも無理は無い。
 まあ、いいか。

「ロッテ、すずか」

 僕の一言で、ウーノの後ろに付いて行く。
 ロッテは、封印を悪魔の加護を使えば、一時的とはいえ神獣と同等の力を得ることができる。僕がドクターとやらを殺して、霧の権能で駆けつけるには十分過ぎる戦力だ。
 僕の方は、扉を開いて現れた男の品定めをするように睨めつける。

「やあ、また会ったね。逆月結城君」
「そうだね、ジェイル・スカリエッティ」
「おお! 覚えていてくれたか!」

 何が嬉しかったのか、大喜びするスカリエッティ。

「それで、何のようで呼び出したのかな。できるなら、手短に済ませてほしい。これでも、多忙でね」
「何、そう手間取らせるようなことじゃない。少し質問をしたいだけさ」
「……なに?」
「疑わしい、という表情だね。だが本当だ。私は、興味を持ったものは調べないと気が済まない質でね。君を調べることはできなさそうだから、質問だけでもしようと思っただけだよ」

 マッドサイエンティストというやつだろうか。
 こういった手合いは初めてで、どう対処していいのかわからない。慎重に事を進めるべきだろう。……だが、質問に答えないと帰れそうもない。

「分かった。なんでも聞いてくれ」
「それでは早速、君のレアスキル――権能というらしいね――の、能力を教えてほしい」

 いきなりとんでもないことを聞いてきやがった。
 容易く了承するんじゃなかったな。普通、権能は極力隠しておくものだ。他のカンピオーネや神と戦うときに手の内がバレているというのは、かなりまずい。カンピオーネや神は、ほんの少しの情報だけで勝ち方を見つけるような連中だから。
 だから、権能は隠しておくべきだ。
 しかし、後悔した時には後の祭りで、答えないといけないような雰囲気になってしまっている。答えざるをえないだろう。

「一つ目は、情報を手に入れられる刀の召喚。二つ目は、空間操作。三つ目は、騎士団の召喚。四つ目は、多すぎて口頭じゃ理解できないかもしれない。今後、見る機会があるかもしれないね」
「それは楽しみだね」

 あいも変わらず、気持ちの悪い笑みを浮かべながら相槌を打つスカリエッティ。
 それなりに細部をぼかして説明したつもりなのだが、上手くいっただろうか。

「それで、破壊のトリシューラというのも四つ目の権能の一つなのかな?」

 そのセリフを聞いた瞬間、体から体温が消えたような感じがした。
 なぜ、こいつがトリシューラの存在を知っている? 管理局の人間しか知らないはずだ。トリシューラの存在を報道されたわけでもないのに、何故知っている。腐っても、あらゆる世界を股にかける巨大司法組織だ。こいつが、管理局のサーバにハッキングをして存在を知ったというのは考えにくい。

――こいつと管理局は繋がっている?――

 そんな予想が、僕の頭のなかを駆け抜ける。
 そう考えたほうが自然だろう。管理局が一枚岩だとは考えにくい。
 世界が変わってもいるものだな。腐った人間というのは。

「そうだよ。それは最終手段としか使えないけどね」
「それを聞いて安心したよ」

 スカリエッティは不敵な笑みを決して消すことなく、そう答える。
 その後も、質問が続けられた。聞かれた質問は、「好きな食べ物は何?」とか「嫌いな人間のタイプは?」とかという、質問してどうするんだ? というものばかりだった。……ただ、「女の子と肉体関係を持ったことは?」というセクハラまがいの質問まであったのはいただけなかった。

  ◇ ◇ ◇

 ようやく、スカリエッティの質問攻めから開放され、ロッテ達がいるという大広間の方に向かう。

「ありえないわ! 策を力でねじ伏せるなんて!」
「ホントありえないっス! 弾を真っ二つっスよ!?」
「まあ、王様だしね」
「うん。結城君だしね」

 どうやら、この前戦った奴ら――戦闘機人というらしい――と大騒ぎしている。
 話している内容は、「坂月結城がどれだけ非常識か」……僕は、そろそろ名誉毀損で訴えてもいいだろうか。

「トーレ姉とチンク姉の攻撃もあっさり防がれちゃったしね」
「私の砲撃に至っては、跳ね返された……」
「くそ! 次はぶっ飛ばす!」
「そう。期待してるよ」
『うわぁ!』

 いきなり会話に入ったからか、ナンバーズ(スカリエッティに呼び名を教えてもらった。ついでに、ナンバーズの個体名もだ)が飛び上がる。数秒したら、状況を飲み込んだのか顔を真っ青にしている。気分を害したと思っているのだろうか。
 だが、この手の罵倒は慣れた。みんな非常識だと言ってくるものだから。

「帰るよ。ロッテ、すずか」
「分かったよ。じゃあね? また会おう」
「またね。次来るときは翠屋のケーキを持ってくるよ」

 どうやら、彼女たちとは仲良くできたようだ。
 僕は彼女たちに嫌われているようだから、今後、彼女たちに頼みたいことがあったら、ロッテたちに仲介してもらうとしよう。
 今日は、色々収穫があった。
 特に、管理局がきな臭いということが分かったのはデカイだろう。
 いざという時は、躊躇なくトリシューラを管理局に打ち込まなくてはならないという覚悟ができただけで、意味があった。
 そうなってくると、心配になってくるのは、なのは達のことだ。彼女たちは大丈夫だろうか。

  ◇ ◇ ◇

「なぜ、管理局との関係を感づかれるような質問をされたのですか?」
「管理局との関係を知ってもらえるようにだよ。
 ウーノ、私は無限の欲望だ。管理局の首輪に繋がれた状態では私の欲望を満たすことはできない。だから、彼に私を繋いでいる鎖を断ち切ってもらおうと思っているのさ。それに、彼の元なら《合法的》に研究が続けられるかもしれないからね」
「なるほど……」
「彼には期待しているのだよ。なぜなら、彼とは同じ匂いがするからだ。狂気に塗れた匂いがね!」

 舞台はそして動き出す。



ロッテと主人公の口調、大丈夫かな?


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