魔王少年リリカルカンピオーネ (ヤギ３)
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第２４話　ナンバーズ戦

「ＩＳランブルデトネイター！」

　小さい女の子がスローイングダガーを投げてくる。
　こんなもので何とかできると思われているのならば不愉快極まりないことだ。
　舐めているにも程がある。
　そう思い、大通連ですべてのダガーを叩き落とそうとする。

ピクッ！

　だが嫌な予感がし、女の子が投げたダガーから飛び退く。

ドォン！

　飛び退いた直後に爆発するダガー。
　危なかったな。
　巻き込まれていたら痛いじゃすまなかったかもしれない。もっとも、種が割れてしまったのだから二度と同じ手は使えないだろうが。というか使わせない。

「ＩＳライドインパルス」

　今度は、さっきまで僕と会話をしていた女性が飛び込んできた。
　それだけならば、大したことはない。
　ただ一点、常人ではありえないほどのスピードでなければ。
　だがそれでも、脅威とは言えなかった。
　ひょいっと半歩動くことで避ける。

「なにっ！？」
「遅い。遅すぎるよ。……大通連を持った僕をスピードで圧倒したかったら少なくとも音速に到達してからにして欲しいね」

　刀を振るう価値すらないと言わんばかりに刀を握っていない左手の拳を腹に叩き込む。

「かはっ！」
「トーレ姉！」
「よそ見をするとは余程暇なようだね。……舐めるなよ」

　水色髪の女の子の場所へと霧を使い転移し、斬りかかる。

「あ、ＩＳディープダイバー！」
「おっ？」

　水色の少女が地面に潜り、剣戟を交わす。
　これにはびっくりした。こんな方法で交わす奴は見たことがない。
　それに手を抜いていたとはいえ、鈴鹿御前の剣術を模倣してきた僕の剣術すら躱すことにもびっくりだ。

「すごいな。今どきのサイボーグは地面を水中のように泳ぐこともできるのか……」

　アーノルド・シュワルツェネッガーもびっくりの性能だ。
　ほかにはどんな能力があるんだろうと思っているうちに水色の子に紫髪の女性を回収された。
　思えば、金属の爆破、高速での移動、地面に潜るなどなかなかレパートリーに富んでいる。
　全部見てみたいな。
　そんな考えが頭によぎる。
　中身が分からない週刊誌の袋とじを開けるときのようなドキドキ感が僕を包む。

「次は何を見せてくれるんだい？　もっと見せてよ」
「舐めんな！」
「……ただ殴りかかってくるだけじゃあ僕を捕らえられないよ」

　赤毛の子が殴りかかってくるので飛翔術を使って空に飛び上がる。
　全部能力を見るまで倒すつもりはないしね。

「チッ！　ＩＳブレイクライナー！」
「…壮観だね。随分と綺麗じゃないか」

　光の道がこちらに向かって伸びてくる。その風景は結構綺麗だ。半透明の光の道は目を奪うには十分なほど綺麗だった。
　水色の子といい赤毛の子といい面白い奴ばかり集まっているな。
　権能なんかよりもとんでもなく面白いし、不思議だ。

「ハァァァァアアアアアアアアアアアアア！」
「君たちは本当に面白いな」

　軽口をたたきながら拳をひょいと避ける。
　瞬間、僕の視界をダガーが覆った。

「オーバーデトネイション！」

　その言葉が聞こえた瞬間、僕のいる空間は赤い爆炎と黒い煙で埋め尽くされた。

「さすがチンク姉！」
「…いや、まだだ」
「……驚いたね。ここまで大規模な爆発を起こせるのか。正直、侮っていたよ。…君、名前は？」
「……チンクだ」
「そう。僕の名前は知っているよね。よろしく」

　軽く、あいさつを交わす僕ら。
　険しい顔をするチンク。そして、呆気にとられるほかの面子。
　おそらく、彼女たちは束になってもどうにもならないという事態になったことがないのだろう。だから、今のこの状況に混乱している。
　実際、彼女たちの能力はレパートリーに富んでいるし、その能力はその分野の最高峰と言っていいレベルだ。……だけど、

「僕たち魔王に挑むにはまだまだってところかな」
「……冗談だろ」

　赤毛の子が半ば懇願に近い呟きを漏らす。

「冗談じゃないよ。僕がこうして立っていることが何よりの証拠だ。……次はどんな力を見せてくれるんだい？」
「クッ！　ライドインパルス！」

　リーダー格であろう紫髪の女性が高速でこちらに飛び掛かってくる。だが、

「遅いって言っているのが分からないかぁ……？」

　呆れと少しの同情を含んだ呟きを漏らす。
　だが、彼女の方を向いた瞬間彼女が不敵に笑った。
　なんだ？　負け惜しみ？
　そうも思ったが、視界の端に光が映る。
　何かと思い、そちらに顔を向けると、

「いぃ！？」

　巨大な砲撃がこちらに向かってきた。
　どうやら彼女はこの砲撃を撃った子の時間稼ぎのためにわざと派手な行動をしていたという訳か。そしてそれに僕はまんまと嵌ったと…。
　だが、この砲撃も大したことがない。……いや、普通に見れば大したものではあるんだが僕が基準だからな。たびたび、化け物だとか非常識だとか言われる僕と比べているから見劣りするのは仕方がないのかもしれない。
　馬鹿なことを考えながら、砲撃を霧で包み込む。
　いつか神威にしたことがあるように、砲撃を分割し、いくつもの砲撃を空から落とす。

「クッ！」
「なんだこりゃあ！」

　見れば、チンクと赤毛の子が必死に避けている。
　何人かはひょいひょい避けている。
　例えば紫の女性とか、濃いピンクの髪をした少女とか。

「エリアルショット！」

　ピンクの子がこちらに魔力弾を放ってくる。
　それを大通連でバッサリと真っ二つにする。

「あり得ないっス……」

　ぼそりと呟くピンク。……よく言われるよ。不本意だけど。

「ＩＳへヴィバレル」

　茶髪のロングヘアーの子が砲撃を放ってくる。さっきの砲撃はこの子のものだったのか。
　霧で包み込み、そっくりそのまま返す。

「クッ…！また…！」

　跳ね返されたことが気に入らないらしい。……彼女、一点特化型なのかな？
　そう思っていると、ピーナッツみたいな機械が大量に現れる。
　さっきまでの戦闘はこいつらを呼ぶ準備をするためだったのかな？　それとも単純に苦戦している彼女たちに対する援軍だろうか。
　ただ、数が多い。
　百はいる。しかも、翼の生えた物までいる。
　めんどくさいなぁと思いながら大通連に魔力を流し込む。
　魔法というものには様々な種類があるらしい。
　基本的な射撃魔法、大威力の砲撃魔法、その名の通り広域殲滅を目的とした広域攻撃魔法、そして斬撃を飛ばす魔力斬撃。
　僕がしようとしていることも魔力斬撃だ。
　魔力が練りづらいが無問題だ。もっと大量の魔力を込めればいいのだから。
　魔法としては初歩の初歩、素人が行う拙い魔法だ。ただそれが、オーバーＳという言葉ですら生温い魔力を込められていること以外は。
それを考慮すれば、一撃必殺の魔法だと思っていいだろう。
　体から、黒い魔力が漏れ出す。
　魔力が何故か練りづらいせいか、どんどん漏れ出していっているのだ。

「嘘でしょ！？　ＡＭＦの環境下であんなに魔力を込められるなんて！」
「というか！　漏れている魔力も常識はずれっスよ！」

　茶髪の眼鏡とピンクの子が騒いでいる。
　それにも構わず、魔力を込め続ける。

「はぁぁぁぁぁぁ」

　割と本気で魔力を込め、霧の権能であたり一帯を覆い尽くす。
　脇に抱えるように構えていた刀を振りぬき、魔力を開放する。
　魔力は巨大な斬撃となり、霧の権能に乗ってあたりに縦横無尽に飛び交う。
　千はあるであろう黒い魔力の斬撃はすべての機械を切り裂き、建物を両断していき、ついでと言わんばかりにここから離脱しようとしていた彼女たちを全員、斬っていった。……まるで辻斬りのような魔法だな、と思ったのは内緒だ。

「やっちゃったな。全員、生きているかな？　というか、全員の能力を見たかな？」

　確か、眼鏡の子の能力を見ていなかった気がする。（後日、あのピーナッツたちの中に彼女の作った幻影があったことを知る）
　さて、彼女たちをどうしようか。
　敵ならば、情けをかける様な甘い性格はしていないが彼女たちが気に入ったのだ。……特に水色の子。とても面白い能力をしていた。
　それに、存分に楽しませてもらった。（動物園に行った時のような楽しさだが）
　それなのに、ここに放置しておくだけというのは流儀に反する。

「どうしたものかな」
『ならば、君がこちらに送ってくれないかい？』

　いきなり、空中に一人の男の顔が浮かび上がる。
　初めこそ戸惑ったが、もう慣れた光景である。

「誰？」
『初めまして、私はジェイル・スカリエッティというものだ』
「……確か、彼女たちがドクターとか言っていたな」
『おおっ。覚えていてくれたのかい？　嬉しいねぇ』

　どうにも胡散臭い喋り方をする奴だった。

『それにしても、どうして騎士たちを召喚するレアスキル、君たちで言うところの権能を使わなかったんだい？』
「単純な話だよ。」

　僕は一拍おいてから神獣と戦う前から決めていたことを言う。

「今日の戦いは霧と刀以外使わないって決めていたんだ」
『それはそれは……末恐ろしいねぇ……』

　呆れたような、感心するようなよく分からない感情を含んだ言葉を漏らす。
　こっちとしては神獣と戦う前から決めていたことなのだ。だから守るのは当然。連戦でも厳守だ。……神が出てくるような場合は別だが。

『彼女たちが言ったように君にはこちらに来てほしいのだよ。ついでに、私の娘たちも連れてきてもらえると助かる。何せ、全員君が気絶させてしまったしね』
「了解……と言いたいところだけど、初めに言ったように今日は気分じゃない。後日という事で。君の娘たちはちゃんと返すよ。僕が責任を持ってね」
『ほう。どうするのかな？』
「こちらが君の近くに転送する。だけど、その場所は僕が勝手に決めさせてもらう。それが条件だ。」
『……まあ、いいだろう。一応住所を教えておこう』
「こんなものを見ても分かるのはどの世界かぐらいだよ」

　画面に住所と思わしき、数字と文字が並ぶ。
　見てみると、一度行ったことのある世界だった。……観光目的だったが。

「それじゃあ、この世界に大きい火山があるよね？　そこに転移させるよ」
『いやぁ、近い場所で助かるよ。ぜひそうしてくれ』

　どうやら彼らからすると近場らしい。

「じゃあね、ドクター。また後日」
『ああ、会える時を楽しみにしているよ』

　そう言い合い僕は地球へ、彼女たちは指定した世界へ転移する。




「すごいものだね……」
「ええ、トーレたちをここまで圧倒するとは思いませんでした……。しかもこんなことまでできるなんて……」

　目の前の光景、気絶したトーレたちが山のように積み上げられている様を見て苦笑する。

「お、もてぇぇぇぇぇえええええええええ！！」

　一番下のノーヴェが怒号と共に目を覚ます。
　その声に釣られるように、ほかの面々も目を覚ます。

「ってドクター！？」

　ノーヴェがそう言ってくる。
　今の今さっきまでほかの世界で戦っていたのだから、この反応は仕方がないのかもしれない。

「おはようノーヴェ。…随分とやられたようだね」
「うっ。すみません」
「別に気にしていないさ。彼がここまでとは完全に予想外だった。それに彼は後日、自分の脚でこちらに来てくれるらしい」

　えぇぇーー！？という声が深い森の中に広がる。

「な、なんでっスか！？」
「戦闘になっても来てくれなかったのに…」

　ウェンディとセインがそう言ってくる。

「さあ、なぜだろうね。……ただ、今日来なかったのは気分じゃないからだそうだ」
「き、気分………」

　チンクの呆れたような声が静かなあたりに響く。

「今日のところは一先ず帰ろう。彼の事はそのあとだ」

　一同、アジトへの帰路に着く。
　嗚呼、明日が待ちきれない。
　一人そんなことを思いながら、不気味に笑う。
　その笑みを見た少女たちは自分たちの生みの親から少し距離を取った。

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