魔王少年リリカルカンピオーネ (ヤギ3)
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遅くなってすみません。

今回、スカさん登場です。

口調がよくわからないんだよなぁ。



第23話 マッドサイエンティスト

 管理局との対談から数日たった。
 管理局はこちらの要求をすべて飲んでくれた。
 そうでなければ、クロノに渡した資料、『トリシューラ』に関する資料を渡した意味がないというものだ。
 トリシューラは『破壊』の力を持つ三叉戟だ。人間やただの建物なら穂先で少し触れただけで木端微塵にできるどころか、火に対して振るえばすべての火を鎮火することができるし、水に対して振るえばすべての水が干上がることもできる代物だ。これ一つで文明の一つや二つを消し去ることも可能なほど、強力な武器だ。
 そのことを知ってもらったうえで、資料の最後に『この要求を呑んでもらえないようなら、本局に対してこの武器を振るうことも躊躇いません』と締めくくった。
 効果は抜群だったようだ。
 それによって、僕たち『赤い鴉』(ロートクレーエ)はミッドチルダという世界でも活動ができるようになった。
 ただ、郷に入っては郷に従えという言葉があるように、ロッテたちは極力『魔法』を使っているらしい。僕は、魔力を少しでも流すとデバイスが壊れるから魔法は使えない。…なんでも、少しの感覚が常人とは離れているかららしい。…ちょっとロッテたちが羨ましいと思っている。不思議な世界に首を突っ込んでいても、新たな不思議にはわくわくするものだ。それを彼らだけが堪能できるというのは少しずるいと思う。神は僕のことが嫌いなんだろうか。……嫌いなんだろうな。僕、神殺しだし。
 
 閑話休題

 今、僕がいるのはどこぞの管理外世界らしい。
 ロッテが仕事を受けて、それが一つの違法研究所を潰すことが仕事であり、しかも協力者がいないというもはや虐めに近い仕事だったので、彼女が僕に一緒に仕事をやってくれないか、と頼み込んできたのである。

「で、あの研究所が今回のターゲット?」
「そうだよ? あれが今回のターゲット」

 大きさはそれほどない。
 2階建ての平べったい建物と印象を受けるだけだ。

「それで、今回はどうするんだい? ルドラの権能で建物ごと潰す? それとも、キマリスで制圧する?」
「キマリスでお願いするよ、王様? ここじゃあ、人は殺しちゃあいけないみたいだしね」

 めんどくさいなぁ、と思いながら、権能を使う。
 そのあとは、あまり印象に残っていない。
 刃を潰した剣を持った騎士たちが数分ですべての人間を捕縛して任務完了だったからだ。
 正直、働いたって感じがしない。僕自身はボーと突っ立っていたからだろう。さっさと帰り支度をして、霧の権能で日本へ帰る。
 それにしても、()()()()()()()()()はなんだったんだろう? どうでもいいことだが。




「素晴らしい! これほどとは思わなかったよ」

 とある研究所にそんな声が響き渡る。

「Sランク魔導師の数百倍の魔力を持ち、魔法の効かない体質であり、そして何より、複数の強力なレアスキルを保有している。とんでもないな。だが、同時に興味深い。そうは思わないか、ウーノ?」
「そうですね。…ですが、私は純粋に恐ろしく感じます。こちらのサーチャーにも気付いていたようですし」

 研究所にいるのは、二人の人間だった。
 一人は、白衣を着た紫色の髪に金の目をした白衣の男だ。
 もう一人は、男性によく似たウーノと呼ばれた白衣の女性だ。
 男性の名はジェイル・スカリエッティ。
 あらゆる違法研究で管理局から指名手配中の犯罪者だ。
 その眼には、溢れんばかりの好奇心が浮かんでいた。まるで幼い子供が欲しいおもちゃを見るような目で、一人の少年が映った映像を眺めている。

「今回確認できたレアスキルは彼らがキマリスの権能と呼んでいた力と、霧の力だ」
「それに、ルドラの権能と呼ばれるものもあるらしいですね。それも、建物一つ壊滅できるような力が。」

 はぁ、と呆れたようなため息を漏らすウーノ。
 それに引き替え、スカリエッティはさらに笑みを浮かべる。
 深く、深く、無邪気とも不気味ともいえる笑みを浮かべる。
 狂ったように狂気の笑みを浮かべる。




 今回は異世界での神獣狩りだ。
 どうやら、神獣ぐらいであれば異世界でも現れるらしい。
 そのことを聞いたとき、とてもびっくりした。それと同時に、喜んだ。
 最近、ロッテやアーニャたちが魔法に興奮して片っ端から依頼を受けてその度に手伝わされている。しかも、敵に手ごたえがない。雑魚ばかりだ。そんな中で出てきた久しぶりの大物。喜ばない方がどうかしている。
 嬉々として、その依頼を受ける。
 場所は無人世界のようだ。霧を使って、現場に向かう。

「いるいる♪」

 久しぶりに楽しめそうな戦闘を前に、少しテンションがおかしくなっているが、まあどうでもいいだろう。
 今回の縛りは刀と霧以外は使わないことだ。
 そうしないと、神獣程度であればすぐに倒してしまって興ざめしてしまうからだ。
 久々の獲物だ。ゆっくり楽しまないと損だろう?
 自分に言い聞かせ、言葉に酔いしれながら頭を切り替える。
 目の前の神獣。牡牛に視線を向ける。
 左手に大通連を持ち、右手で柄に手を乗せた状態で霧を使い一気に巨大な牡牛と距離を縮める。

「フッ!」
「モォォオオオオオオオオオオオ!」

 居合切りで横っ腹を斬りつけ、悲鳴のような鳴き声を上げる牡牛。
 どんどんと地団駄を踏むように暴れ始める。おそらく、攻撃のつもりだろう。だが、攻撃になっていない。
 なぜなら地面に立ちはしないから、踏みつぶされる心配がないのだ。

「魔女の翼よ。我が飛翔を助け給え」

 飛翔の魔術で空中に静止する。
 顕明連を呼び出し、首元へ投げつける。

「ブモォォォォオオオオオオオオオオオ!!!」

 結構効いているらしい。見た目からすると、ちっちゃい何かが首元に引っ付いているようにしか見えない。本当は、根元までぐっさり刃が刺さっているのだが。
 小通連を呼び出し、左手に構える。
 霧で瞬間移動を繰り返しながら、二刀流で切り刻む。

「モォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 怒りと恥辱と苦しみに塗れた咆哮を上げながら傷を増やしていく牡牛。

「これで終わり!」

 大通連を脳天に突き刺し、小通連で首をバッサリと斬った。
 当然、耐えきれるはずもなく体を横たえながら消えていった。

「ふぅ。楽しかった」

 最近、雑魚とばかりしかやっていなかったから感動も一塩である。そう思っていると突然拍手が聞こえてきた。
 それも、一人じゃない。複数だ。

「素晴らしい腕前ですね。まさか、あんな化け物をあんな短時間で、それも無傷で勝つとは思ってもみませんでした」

 そこにいたのは複数の女性たちだ。
 背も、顔も、髪や眼の色だって違う。唯一、全員一緒なことは変なぴっちりスーツを着ていることだろう。

「君たちは何? 随分と変わっているね」
「ほう。一目見ただけで見抜きますか。……恐ろしい方だ」

 こいつらはまともな人間じゃない。そういう気がする。
 というか、機械音が聞こえないか?まさか、サイボーグって訳じゃないだろうし。
 ためしに、聴力を強化してみた。そしたら案の定、機械音がはっきり聞こえた。それも全員からだ。

「サイボーグかな…? 見るのは初めてだけど」
「そこまで見抜きますか」

 彼女たち全員びっくりしている。
 この程度だったら、聴力強化すれば大体気付くだろうに。
 そう思いながら口を開く。

「何の用? 今日はもう帰りたいんだけど」
「あなたには、私たちのドクターのもとに来て欲しいのです」
「ドクター?」
「そう……ドクター、ジェイル・スカリエッティのもとに」




「嫌だ」

 私たちの要求はきっぱりと断られた。

「何故ですか?」

 最年長としてトーレが彼、逆月結城に対して問いを投げかける。

「言った筈だよ。今日はもう帰りたいんだ。だから、君たちのドクターとやらに会うつもりは全くない」
「それは困ります。こちらは、スポンサーからもあなたに来てもらうように命令されているのですから」
「知ったことじゃないね。どうしてもと言うなら」

 彼は、手に持った大刀をこちらに向け、

「力ずくでやってみろ」

 大胆不敵にそう言い放った。
 ならば、仕方がない。こちらとしてもこの展開は想定内だ。
 だから、すべての姉妹を動員させたのだ。
 彼は、Sランク魔導師の数百倍の魔力を持っている。だが彼は魔導師ではなく、魔力を十全に使えない。彼は、魔法の一切効かない体質をしている。だがISなら話は別だ。彼は強力なレアスキルを複数持っている。だが私たちもドクターからもらった強力なISと呼ばれる力がある。条件は対等なはずだ。
 そう思っていた。だがそれが間違いだと気付くのは、ほんの少し後の話。



ご指摘いただいたので、跳躍を飛翔に変えました。

アニメではトランポリンみたいな感じだったからいけると思ったのになぁ。


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