九回二死から右前打を放ち、桧山に打席をつないだマートンが桧山(手前)に抱きつく【拡大】
奇跡ではない。虎一筋22年。心血注いだ日々に対する野球の神様のご褒美だった。5点を追う九回二死一塁。「代打の神様」の渾身の一振りがきれいな弧を描いた。現役最終打席で惜別2ラン-。桧山が地鳴りのような歓声を一身に浴び、ダイヤモンドを一周した。
「もう一回、ああいう打ち方をしろと言われてもできない。今までで一番いいスイングができたかもしれない。自分でもびっくりしている。野球の神様はいたね」
自画自賛の2年ぶりの一発はポストシーズン最年長弾。マートンが右前打でつなぎ、出番が回ってきた。自身最後の代打コール。守護神ミコライオの2球目に無心で反応した。内角低めの154キロ直球を巧みにさばくと、打球は右翼ポール際へ。揺れに揺れたマンモス。CS敗退が決まったゲームで唯一、虎党が溜飲を下げた瞬間だった。
四六時中、野球と向き合った22年間。「プロはみんな、体はボロボロ。だから、体のことにお金は惜しみたくない」が持論だ。1年目から専属トレーナーと契約し、西宮市内の自宅に総額数百万円の器具を設置したトレーニングルームを持つ。オフ日も黙々と汗を流す。「27歳から体重は変わらないよ」。痩せやすい体質を地道な筋トレで80キロ前後にキープ。そんな、陰の努力を愛息たちは間近で見てきた。
「最後、子どもの前で打ててよかった。2人の子どもの前で打てたのは初めてだと思う」