石原慎太郎氏が東京五輪を語る/本紙寄稿
今日、体育の日は1964年の10月10日に東京五輪が開会したことを記念した国民の祝日(66年~。00年からは10月の第2月曜日)だ。東京は、再び五輪招致に挑戦し、マドリード、イスタンブールとの招致戦を制した。2020年、聖火は東京に、56年ぶりに戻ってくる。都知事時代に五輪招致を提唱した発案者である作家・日本維新の会共同代表の石原慎太郎氏(81)が、東京五輪への思いを寄稿した。
オリンピックというのはナショナルイベントである。一種のお祭りだ。大きなお祭りは、神社とかお寺、宗派など関係なしに、地域の人が一緒になって騒いで楽しむものだ。2020年東京五輪が開催されるその時、日本人全体が、うきうきすればいい。日本代表が良い成績を得て、日章旗が揚がれば、こんなに楽しいことはないだろう。
そして、一種の一体感を感じ、日本の国家、日本人という民族に自分が属しているのだというアイデンティティを、みんながもう一度、強く感じ直してくれたらいい。
昭和39年の東京五輪。あのころ、日本の一種の青春期だった。高度経済成長の走りの時で、東京五輪が刺激になって、経済もどんどん伸びていった。いくつか試合を見た。すべて印象的だった。円谷(幸吉)が、メインスタジアムのポールに、最後の最後に日章旗を揚げてくれた。東洋の魔女が、宿敵のロシアに勝ち、みんなが抱き合い、喜んでいる時、大松(博文監督)さんがいない。離れたところで壁にもたれてニコニコ笑っている。男ってのは美しいものだなと思った。感動的なシーンがあった。
今は、情報過剰の時代だ。何があっても「当たり前だ」「そんなことは知ってるよ」。新しい認識や、新しい情報で、本当に体が震えるほど感動することが少なくなってきた。せいぜい恋愛くらいなのではないか。
聖火が戻ってくる。そんなことは、昭和39年の東京五輪の時には考えていなかった。招致は都知事になってから思いついた。その後、日本を襲った3・11の東日本大震災は、大きなショックだった。傷は未だ残る。そういうものを越えて、2020年の東京五輪が、もう一度、日本人が国家、同胞というものを意識するきっかけになればいい。
東京五輪の閉会式で、ルポルタージュを書いた。この祭典から日本国民が収穫を得るとすれば何か。「心身を賭けて努め、闘うということの尊さではないか。非人間的な便利さにまぎれて忘れてはいないか」。そう書いた。いいことを言っている。かつて、ある外国人が日本は「臆病な巨人」だと言った。21世紀の今はどうだろう。日本人は、やはり、優れた資質を持つ民族だ。ノーベル賞というのはいい加減な賞だが、一番信憑性のある自然科学の分野で、21世紀に入って日本がとったノーベル賞の数は、欧州全体のとった数と同じだ。この日本人の資質は、2020年東京五輪にも反映されてくるはずだ。
これから東京を訪れる外国人もそれを認識するだろう。成熟した日本の社会というものを外国人が認識することで、日本の存在感というものが出てくる。大きな機会になる。
パラリンピックも東京に帰ってくる。僕も軽い脳梗塞をやった。ほとんど治ったが、運動を控えるようになると、昔の自分が懐かしい。だから、障害者がスポーツの舞台で闘うというのはいいものだと実感できる。佐藤真海さんの走り幅跳びなんか、すばらしいじゃないか。
2020年、生きてればいろいろな競技を見たいと思っている。7年も先の話だ。招待されても、息子が写真を胸に抱いているかもしらないが。我々の代表には、できるだけたくさんメダルを取ってほしい。期待している競技は、全部だ。
[2013年10月14日9時24分 紙面から]
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