京都で開かれた恒例の大骨董市。
今年は全国から150万点以上の古美術品が集められ、およそ3万人が訪れました。
<日本人女性>
「お茶碗や着物が欲しいです」
<日本人男性>
「昔の工芸品は、現代に通ずるところがありますので。年3回開かれていて、必ず来ています」
しかし、ここ数年、ある変化が起きているといいます。
<出店者>
「いる?買う?」
<中国人女性>
「イクラデスカ?」
<中国人女性>
「中国の印鑑を集めています」
<中国人男性>
「日本は面白いものがある。より珍しいものを買うチャンスがある」
実は、日本の骨董市場に、中国人が熱い視線を送っているのです。
中でも・・・
<記者リポート>
「日本に来た中国人の注目を集めているのは日本のものではなく、中国のものなんです」
<出店者>
「中国人が多いですね、中国のものは中国人が買います。中国のものだから買い戻してるわけですね」
中国人の買い戻しブーム、それは骨董市だけに留まりません。
この日、名古屋市内のホテルに到着した大型バス。
降りてきたのは、全て中国人です。
「ニーハオ、ニーハオ」
彼らの目的は、中国美術品のオークションへの参加。
出品されるのは、日本国内の収集家らから集められた1,000点です。
中には皇帝だけが使うことのできた紙や、1000年以上前の唐時代、金で作られた煌びやかなお経など、100万円以上の貴重な品が並びます。
さらに・・・
<主催者の富士国際オークション 白木健二社長>
「鼻煙香といって、嗅ぎ煙草の容器です。高いものは数百万円するものもあります」
そして数千年をかけてできた、貴重な鉱石を彫って作った印鑑は・・・
<富士国際オークション 白木健二社長>
「2,000万円〜3,000万円くらいの間かな」
高額な品々。
その価値を見極めようと、コレクターから商売人まで真剣な眼差しで品定めしていきます。
<吉林省からきた女性>
「これはすごいと思う。皇帝専用の紙は初めて見ますよ。こんな古いものは見たことがない。なんで日本にあるのかな、すごい」
<浙江省からきた男性>
「篆(てん)刻が好きなので、印鑑の材料に興味があります。今回のオークションは出品の質が高いので、コレクションする価値がありますよ」
その中に、書物の匂いを熱心にかぐ男性。
安徽省から来た常連の、方信仰さんです。
すずりの美術商を営むかたわら、一般向けの展覧会も催しています。
今回のお目当ては、やはり専門のすずりです。
<方信仰さん>
「素材と形が大事なんですよ」
およそ6時間悩んだ末、目当ての品を決めました。
ところで、はるばる海を渡って中国の美術品を買いにくるのにはわけがあるといいます。
<方信仰さん>
「中国では、民間では(歴史的価値のある)すずりを入手できないんです。民間の市場には残っていないので、手に入れられないんです」
なぜ、中国の市場では手に入りにくい歴史ある美術品が、日本にあるのでしょうか。
その謎を解くカギが滋賀県東近江市にありました。
中国品を中心に集めた美術館。
清朝末期から中華民国初期のものを中心に、なんと2万点もの作品が収蔵されていますが、歴史的出来事がきっかけで収集が始まったといいます。
<観峰館 古橋慶三さん>
「1966年に中国で文化大革命が起こったころ。古い時代の文化、風習、風俗、習慣を打破しようということで」
当時、中国では毛沢東が資本主義阻止を掲げ、改革運動を進めていました。
そして思想統制のため、古い文化の象徴である美術品が次々と破壊されたのです。
その頃、中国を訪れた、この美術館の創立者、原田観峰氏(1911〜1995)ら始め、日本人が美術品を安値で買い集めたのです。
中には、文化財クラスのものも収集されています。
<観峰館 古橋慶三さん>
「光緒年間(1875年〜1908年)で、楊ケン(山偏に見)というと知らない人はいないというぐらいの人です」
「中国のオークションに持っていくと、10倍くらいになる。100万円の評価額なら1,000万にぐらいになっちゃう」
そして、時は流れ・・・
今は大金を手にした中国人が、投資や趣味を目的に美術品を買戻しに来ているというわけです。
いよいよ、オークションが始まります。
中国古美術品のオークションの日。
参加するのは、中国からやって来た古美術商ら、およそ100人です。
1人100万円の保証金を預け、続々と会場へ入っていきます。
あの、すずりを狙っていた方さんも、緊張した面持ちでやってきました。
<方信仰さん>
「一番気に入っているものが手に入ればいいと思います」
いよいよ、オークションが始まりました。
出品されるのは、およそ1,000点。
モニターに次々と映し出される商品に対し、主催者が最低入札価格を提示。
参加者は札を上げ、落札を競います。
序盤から会場は、ヒートアップ。
次々と札が上がり、値段はつり上っていきます。
「95万円」
清の時代の赤い墨は、95万円で落札。
さらに・・・
「1,600万円、2,000万円」
75グラムの印鑑1本に、2,000万円の値がつきました。
その熱い戦いを尻目に、方さんは狙いを定めた品をじっと待ちます。
オークション中盤、すずりが出品されました。
方さんの手が上がりました。
「60万」
なんとか落札しようと、激しい応酬が続きます。
「85万」
方さんが出した85万円で、入札が止まりました。
「90万、95万」
ところがその後も値段は再び上がり続け・・・
結局、落札できませんでした。
気を落としたのもつかの間。
狙いをつけていた、あのすずりのオークションが始まりました。
「8万円スタート」
すかさず札を上げる方さん。
「15万円、16万円、17万円…」
ここでは、一歩も引けないと強気に出ます。
「…30万円」
激しい競り合いの末、30万円で念願のすずりを手に入れることができました。
<方信仰さん>
「自分の好きなものを落札できました。これほど嬉しいことはありません」
この日は、出品された1,000点のほとんどが落札されました。
<富士国際オークション 白木健二社長>
「美術品というのは川の流れと一緒で、お金のあるほうに流れていきますので、日本経済がよくなれば、日本に買い戻せる時がくるかもしれませんが、しばらくは中国から戻すことは難しいかな」
時代とともに、世界をめぐる古美術品。
中国人による買戻しブームは果たして、いつまで続くのでしょうか。
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