2012年4月10日
■ 適温調理のはかせ鍋
円筒形のスカートをはかせた「はかせ鍋」は、理のあるお鍋です。
このお鍋を開発したのが、早稲田大学理工学部の教授であった小林寛(ひろし)さんです。
今回は、小林さんの調理理論とともに、はかせ鍋をご紹介します。
まず、こちらは保温調理鍋ではなく、小林さん曰く適温調理鍋なのだと。
お料理とは、その食材の適温(最適な温度)で調理すること。
加熱講座を連載しているフライパン倶楽部にとって、この適温調理は、大いに共感できます。
そこで、小林さんは、実験に実験を繰り返して、食材ごとの適温と調理時間をつきとめます。
それが、はかせ鍋に付属されているレシピに反映されているのです。
はかせ鍋の説明書では「多くの料理は、85〜90度で20分以上おけば完全に火が通ります。
ただし、豆や米などの穀類は98度以上でかなりの時間煮る必要があります。」
すなわち、穀類を除くほとんどの料理は、100度未満。
その意味では、100度を越えて調理する圧力鍋の扱いには注意が必要です。
100度を越える温度とは、食材を崩壊させ、栄養素まで破壊してしまう要素があるのです。
本来の美味しさと栄養が失われます。
さて、食材ごとに適温と調理時間は違いますので、食材が混在している場合は、
最終的に同じ時間に仕上がるように工夫します。
また、同じ食材でも、切る大きさによって、火にかける時間は違って来ます。
その点で、切ることは非常に重要であり、基本的には、同じサイズに切ることなのです。
その結果、同じ時間に仕上がります。
大きいものは、火が通りにくく、小さいものは、すぐに火が通ります。
サイズが違うと、仕上がりの時間が違ってしまうのです。
また、葉菜類では、根と葉のところにも違いはあります。
葉はすぐに熱が入りますが、根はやや時間がかかりますので、その点を調整します。
魚一匹丸ごとに熱を加わえる場合にも、中央部は肉厚があり時間がかかりますが、
頭や尾は肉厚がないので、比較的すぐに火が通ります。
小林さんによると、寸法が2倍になれば、熱の通りに要する時間は、その2乗で4倍かかる。
角切りで3cm角のものなら、数分で火が通ります。
それが6cm角になると、芯まで火が通るには30分近くかかってしまう。
また、火力も考慮する必要があると指摘しています。
大きかったり、硬かったりと火の通りにくいものは、強火で調理してしまうと、
煮汁はすぐに沸騰しますが、沸騰した時点では食材の方は、芯まで火が通っていない。
かといって、沸騰し続けてしまうと、適温を外れて表面が崩れてしまう。
これらは、基本的には、弱火でじっくりと熱を入れていく。
火力を落としてゆっくり加熱した方が、沸騰した時点で芯まで
火が通った状態となり、綺麗に仕上げることもできる。
ただ、すぐに火の通るものは、時間さえ間違えなければ、強火でも問題はない。
画像をクリックいただくと、拡大画像をご覧いただけます。
お料理とは、ぐつぐつ長時間火にかけて煮込むというよりも、
いかに適温で調理し続けるかが要諦である。
このような考え方のもとに、小林さんは、はかせ鍋を開発しました。
はかせ鍋は、一旦沸騰させたら、スカートをはかせることにより、
90度前後の温度を維持できるように設計されています。
通常のステンレス鍋では、沸騰して100度弱になって、火からおろすと、1時間後には約50度となります。
そこで、はかせ鍋の場合は、1時間後でも80度弱を維持できるので、
沸騰させて保温しておくだけで、適温調理が実現できるようになっています。
しかも、お鍋の仕組みは大変シンプルで、ステンレス製の筒を上の写真のようにお鍋にはかせるだけなのです。
取っ手のところにバネがあり、そのバネがストッパーの役割を果たします。比較的簡単に着脱ができます。
なお、蓋は2重構造にはなっています。中にガラス蓋、そして、その上にステンレス蓋。
(以下の写真を参照下さい。)こちらも保温効果を高めるための設計です。
本体の鍋は、アルミを挟んだ全面ステンレス三層鋼で、板厚は2mmとなります。
扱いは、通常のステンレス鍋と同じです。
なお、
保温調理をうたうシャトルシェフと比べると、保温力は落ちます。
シャトルシェフの場合は、1時間後には90度を維持する抜群の保温力があります。
しかし、小林さんから言わせると、これでは、火にかけていると同じ状態であり、
煮過ぎになってしまう。
また、冷めて味が染み込んでいく点でも、はかせ鍋の冷め方の方が相応しいとしています。
(
こちらの加熱講座を参照下さい。)
そのあたりもきちんと設計されているのです。
ただ、シャトルシャフでも、量を減らしたり、蓋を開けたりして温度調整はできるので、
使い方次第とも言えるかもしれません。
画像をクリックいただくと、拡大画像をご覧いただけます。
はかせ鍋は、このように適温がいかに重要であるかを教えてくれます。
小林さんが、実験に実験を繰り返して、適温と調理時間を調べ上げて、はかせ鍋のレシピに反映させています。
ただ、食材の状態によって、作る量によって、使うコンロによって違いは出て来るでしょう。
こちらのレシピは、大まかな目安になるでしょが、私たち自身が、
おのおの状況にあわせて、適温を経験的につかんでいくことが肝要です。
この適温をつかむことこそ、本来の調理なのでしょう。
また、このはかせ鍋で、適温の基礎を習得できると言えるかもしれません。
そこで、しっかりと科学を見据えたお鍋は、実質本位であり、お料理を美味しく楽しくしてくれることでしょう。
この理のある「はかせ鍋」は、日本人が考案した日本製のお鍋です。