★自分がレズビアンだと気付いた時★
レズビアンとして、彼女と生きていく決心をした。そこに至るまでの自伝。
連載型。
★彼女の話、自分の話★
主に彼女自慢。それと自分のこと。
一話完結型。
★創作★
基本的にはノン・フィクション。全くのフィクションもあり。
一話完結型。
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→再編版:自分がレズビアンだと気付いた時(1)ー初恋ー
→再編版:自分がレズビアンだと気付いた時(2)ー1年生ー
→再編版:自分がレズビアンだと気付いた時(3)ー1年生~2年生ー
→再編版:自分がレズビアンだと気付いた時(4)ー2年生前期ー
この、珍奇とも言える症状を自覚してからは、私はなるたけ、坂田先生のことを考えぬよう努めた。
脳裏に潜む邪念を追い払おうと、時に私は、激しい感情を物理的に噴出させた。
大人しく、物静かだった私が、鉛筆や電球を破壊するのを見て、母は直ぐに、私をカウンセリングに連れて行った。
カウンセラーは私を診て、
「この子よりも、お母さんの方が心配ですよ」と言った。
激しい感情の起伏は、自分自身を変質させた。
私は、それまで演じていた自分を捨て、学校で頻繁に喋るようになった。
口数の多くなった私のことを、同級生たちは、更に気味悪がった。
しかし、生来的に「変わっていた」私のことを、本心から気に留める者はおらず、
一ヶ月が経つ頃には、皆、まるで出来事を忘れたかのように、私に「ごく普通の」対応をするようになった。
坂田先生は、私の変化を、会心そのものだと捉えていたようで、
私に友達が出来たことを、心の底から祝福してくれた。
ところが、私はこのことを、どうしても快く思えなかった。
どうしても、坂田先生と喋りたかった。
友達など要らなかった。私は、坂田先生と二人きりで喋りたかった。
時は進み、2年生最後の日がやってきた。
その日、坂田先生は、同級生一同に学校を辞めることを告げた。
「ごめんな。みんなに黙ってたけど、先生、結婚するねん」
それは、突然の宣告だった。
坂田先生の口から発せられた言葉に、私はただ、呆けるしかなかった。
担任の先生が籍を入れると聞き、生徒たちは、矢継ぎ早に質問をした。
「先生の相手って誰?」
「どんな男の人なん?」
「かっこええのん?」
それらに対し、坂田先生は、私が愛した透き通った声で、丁寧に答えていった。
「誰って、あんたらの知らん人やで。先生と同い年ぐらいやから、もうおっさんやねんけどな。まあおっさんやから、恰好良くはないんちゃうかな。
でもな、その人の赤ちゃんが、今、先生のお腹におるねん。三ヶ月に生まれるわ」
生徒たちは歓声を上げた。
中には、感涙する者まで居た。
興奮する生徒たちをよそに、私は一人、先生の喉元を見つめていた。
その喉元が、苛立たしいほど不規則に動いているのを見つめていた。
虚脱状態は、そう長くは続かなかった。
彼女は、本来人間が歩むべき道を歩んだに過ぎないのだと。そう、自分に暗示をかけた。
それは、この世の誕生と共に定められた、理のようなものだった。
女は男を愛し、男は女を愛す。互いに愛し合い、交わり、子供を作る。
それは、恐らくは私も、将来歩まねばならない道だった。
子供ながらに、世の中の条理を理解した私は、全てを忘れる決心をした。
下校時刻になり、生徒たちが坂田先生と戯れ始めた時、
私は一人、物音を立てぬように、静かに教室を後にした。
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