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汚染大国・中国のすさまじい現実〈週刊朝日〉

dot. 10月10日(木)7時9分配信

 中国の環境や食の汚染は、日々日本でも報道されている。しかし実際は日本人が旅行に行ってホテルで食事をしても、有名な地溝抽(ちこうゆ・ドブからの再生油)料理が味わえるわけではない。北京在住の作家、谷崎光氏が汚染大国・中国のすさまじい現実を現地ルポした。

*  *  *
 中国の汚染はもっと弱者に極度に集中する。そして普通の人々は地雷をよけながら、何とか暮らしている。

 新聞は有名ブランドの水が水道水だった、飲料水供給源の川の汚染物質が基準超え、という記事でにぎわっている。が、庶民の昔からの注目は配管である。

「中国で朝一番の水は使っちゃダメよ。しばらく捨てて。あ、あのマンションは特に危ない」(北京の友人)

 北京は基盤の配管ごと古く、鉛含め有害物質が含まれているのがあり、細部の規制は2004年にやっと出た。飲用、料理用の水は全部、スーパーで鉱泉水を買っている。一人暮らしの水代は日本での3倍で、その17%は税金である。メーカーの調査では、安全な飲み水を買えるのは、人口の3割。しかもそれが本当に安全とは限らず、家庭用の本格的な浄水器も、今、よく売れている。

 身の安全を守るには、買い物の場所も重要である。一般的には大手のスーパーで買えば「比較的」、本物が「多い」とされている(本当に安全かは別の問題)。一応は農薬と検疫検査もあり、正規業者から仕入れる。その分、高額の税を国に納め、ワイロ含め諸経費が乗った商品は高い。スーパーも業者から高い場所代を取る。

 一方でワーカー用の小店をのぞくと地下製造の偽調味料がずらりと並んでいる。偽シャンプー、偽石鹸、なんでも安い。店に入ると不法再生プラスチック食器の匂いで吐きそうになる。

 油は、私はここ数年、スーパーで輸入のオリーブ油の「原装」しか買ってない。原装というのは原産国で瓶詰めしたものであり、樽で運び中国国内で小分け瓶詰めすると、大手メーカーでも100%混ぜ物をする。

 地溝油は原料をドブからさらうのもあるが、高級、中級料理店からの残飯油も多い。見ていると、農民の2人組が毎日やってきて、重い専用桶をダッシュで運び出す。ルートは確立しており、丹念に調査していた中国のTV局記者は、11年9月に路上で複数に刺殺された。持っていたパソコンも奪われたまま。

「屋台のものは絶対食べるな」と、吐き捨てるように言った中国人は、理由は説明しなかったが、こういう油は主に屋台、小店舗に販売される。鉄板の上でそれをたっぷりかけながら、発泡剤で作ったハンペン、病死の動物の肉、高農薬で納品できないニラなどを香ばしく焼き上げる……。

 しかしそういう食品が主食な人もまた多い。安い。肉も同じであり、農村から牛、豚が運ばれてくる。親戚が精肉業の中国人は、夜の市場裏に横づけのトラックを示しながら、言った。

「北京は郊外に検疫所があり、ここで病死の動物ははねる。でもヤミ業者がいて、捌(さば)いて周辺の、出稼ぎ農民向けの食堂や屋台に安く売る。一部はニセの検疫印を押して、市内の市場に売る」

「レバーは買うな。豚は特にダメ。鶏もホルモン漬けだ。中国人は何でもする!」と、中国人に言われ、食べるものがない。

 日本人経営の肉屋の配達も頼むし、意外なところでは、肉は回族(イスラム教徒)の店から買ったりもする。宗教的理由で漢族より安全という。何にしろ、加工品はあまり買わない。

 野菜も、安い路上で買えば、土地を持たぬ、正規の入札資格も資金もない農民が、廃棄物の川の横で育てたものだったりする。

※週刊朝日 2013年10月18日号

    

最終更新:10月11日(金)12時50分

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