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米国通商代表部(USTR)外国貿易障壁報告

日本に関する部分
2002年4月2日

貿易概要
規制改革概観

日米規制改革および競争政策イニシアティブ

分野別規制改革

電気通信

情報技術 (IT)

相互接続と料金設定

エネルギー

線路敷設権 電力
アンバンドリング 天然ガス
専用回線

医療機器・医薬品

金融サービス

構造的規制改革 

独占禁止法と競争政策

透明性およびその他の政府慣行

公取委の独立性 パブリック・コメント手続き
カルテル対策の執行 行政指導
民事的救済制度 市民参加による法案策定
公取委による規制撤廃・緩和促進 司法による行政措置の審査
公取委の人員・予算 特殊法人
規制効果分析

商法

司法制度の改革

流通と通関

簡易申告制度の改革
貨物通関情報処理システム(NACCS)
課税最低価格の引き上げ  

  

輸入政策 

牛肉、柑橘類、乳製品、加工食品に対する高関税

水産物

コメ輸入制度

木材製品・住宅 

小麦輸入制度

海洋船舶

産業用トウモロコシ

蒸留酒

豚肉輸入制度

革・履物

 

基準、試験、表示、認証

米国産家きん肉の輸入禁止

くん蒸の過剰使用

BSEによる畜産レンダリング製品の輸入禁止

バイオテクノロジー

生鮮リンゴ-- 火傷病の検疫義務  

有機食品に関する新たな基準

生鮮ジャガイモの輸入禁止

制限的食品添加物リスト

生鮮ピーマンと生鮮ナスの輸入禁止

栄養補助食品

動物用医薬品

 

政府調達

コンピューター

人工衛星

建設、設計、エンジニアリング

電気通信

医療技術

NTT資材調達取決め
公共部門における電気通信機器およびサービスの調達に関する合意
知的財産権保護

特許

地理的表示

著作権

営業秘密

商標

水際規制

 

サービス障壁

保険

専門職業サービス

会計監査業務サービス

法律業務

 

投資障壁

 

反競争的慣行

排他的商慣行 

不当景品類及び不当表示防止法

 

電子商取引

 

その他の障壁

航空宇宙

自動二輪車

自動車・自動車部品

紙・紙製品

民間航空

海運・港湾

電力会社

半導体

板ガラス

鉄鋼


貿易概要

 硬直化した経済構造、過剰な規制、そして市場アクセス障壁が残る日本経済は、本来の成長を取り戻せない状況が続いている。2001年の世界経済の後退により日本の輸出が急減し、成長にさらに悪影響が出た。2001年の米国の対日貿易赤字額は、前年の816億ドルから126億ドル減少し、690億ドルとなった。2001年の米国の対日製品輸出額(主として電気機器、コンピューター、コンピューター部品)は、対前年比11.2%減少し、576億ドルとなった。これに対し、日本からの米国の輸入額(主として自動車、自動車部品、電気機器)は、13.6%減少し、1266億ドルであった。

 2000年の米国の軍・政府関係を除く民間部門の対日サービス輸出額は、342億ドルであった。また、米国の日本からサービス輸入額は、172億ドルであった。1999年、日本において出資比率が50%を超える米国系企業のサービス売上額は、279億ドルであった。これに対し、米国において出資比率が50%を超える日系企業のサービス売上額は、288億であった。

 米国の対日直接投資(FDI)額は、日本の2001年度の上半期に減少したが、近年は着実に増加している。具体的には、2000年の米国からの直接投資総額は、556億ドルであった。これは、前年に比べて12.5%の増加である。

規制改革概観

 日本では、過剰な規制のため、経済成長が抑制され、事業コストが上昇し、効率性の改善が抑えられ、競争も制限され、輸入や投資が妨げられている状況が続いている。過度に規制された経済によくみられるように、日本経済は、資源の配分が不適切で、起業家的な革新の精神も欠如している。「失われた10年」と呼ばれる1990年代における日本の国内総生産(GDP)の平均成長率は、1.6%にとどまった。これは、1980年代の平均成長率3.8%の半分にも満たない数字である。2000年8月に、経済産業省(以前の通産省)の審議会が発表した報告書によれば、構造改革によって、2006年から2010年にかけての年間成長率は3%台に上昇する。過剰な規制により、日本の事業者や消費者が、高コスト・高価格を強いられている。2001年7月に内閣府が行った調査の試算では、1989年から2000年にかけて行われた13分野での規制緩和により、消費者は、約1270億ドル相当の節約ができた。これは、2000年度における国民所得のほぼ4%に相当する。さらに、政府による過剰規制は、米国企業が日本で直面する多くの市場アクセス問題の中核をなしている。米国は、活力ある日本経済が健全な世界経済に不可欠であるとの認識に立って、日本経済の潜在的可能性を完全に実現させるため必要な規制改革を、引き続き求めていく。

日米規制改革および競争政策イニシアティブ

 ブッシュ大統領と小泉首相により、2001年6月30日に立ち上げられた「規制改革および競争政策イニシアティブ」(規制改革イニシアティブ)は、「成長のための日米経済パートナーシップ」(パートナーシップ)の6つの「柱」のひとつである。このイニシアティブは、電気通信、情報技術、エネルギー、医療機器・医薬品、および金融サービスなどの重要分野を対象にする。このイニシアティブはまた、競争政策、透明性等の政府慣行、法制度改革、商法改正、そして流通といった分野横断的な問題も取り上げる。米国は、規制改革イニシアティブに沿って、米国の製品・サービスの日本市場へのアクセスを妨げる法律、規制、行政指導などの措置を改革するよう求める。

 規制改革イニシアティブは、1997年から2001年にかけて行われた「規制緩和および競争政策に関する強化されたイニシアティブ」(強化されたイニシアティブ)による成果を基盤とする。強化されたイニシアティブの下で、2001年6月に発表された第4回共同現状報告は、電気通信、情報技術、エネルギー、医療機器・医薬品、金融サービス、そして住宅などの多くの分野において、日本での規制障壁の撤廃に関し重要な進展があったことに言及している。競争政策、透明性、法制度改革、商法改正、そして流通などの重要分野でも顕著な成果があった。

 米国は、2001年10月、規制改革イニシアティブの下で最初の規制改革要望書を日本に提出した。米国は、同年11月と12月に東京とワシントンで開かれた最初の事務レベル会合において、日本に対してこれらの措置を採用するよう求めた。高官レベル会合が、2002年3月に開かれ、これらの要望の現状検討や、懸案の課題に関する両国間の相違を埋める努力がなされた。米国は、規制改革イニシアティブの下で日本が実施する措置の詳細な報告書を日本と協力して、この夏に取りまとめる。報告書は、ブッシュ大統領と小泉首相に提出される。

分野別規制改革

電気通信

 日本は、2001年に電気通信分野を支配する法律と規制に重要な変更を行った。しかし、この分野には依然として、行政指導の時代の遺産である過剰で時代遅れの規制と、支配的電気通信事業者である日本電信電話株式会社(NTT)の圧倒的な市場支配力に対して、適切に対処する規制枠組みを実施できていない日本の無力さが足かせとなっている。NTT各社は、地域通信網の98%以上へのアクセスを支配しており、このことが自社製品と技術の促進を行う一方、新たな競合事業者やサービスの参入を阻む力をNTT各社に与えている。総務省が競争促進措置の妨げになる政界と産業界の利害に縛られていることが、こうした問題をより複雑にしている。

 規制改革イニシアティブの下で、米国は日本の電気通信分野における競争、そしてそれに伴う革新と選択肢を促進するための規制の変更を求めてきた。日本の電気通信・放送サービス市場の推定規模は年間1300億ドルにものぼり、さらに大きく拡大する可能性があるため、日本の電気通信市場が、より開放され市場アクセスが改善されれば、米国、その他の外国、または国内の事業者あるいはサービス供給者にとっても機会は大きく拡大することになる。電気通信事業者は、これまで以上に利用者の要望に応えるためにサービスの強化を行い、国際的な力量を示していく必要がこれまで以上にある。電気通信事業者に効率・コスト効果の高いネットワークを整備し、またアクセスすることを可能にする日本の規制枠組みが、競争力のあるサービスの提供に不可欠である。

 米国は、日本が、消費者の利益となる競争促進を電気通信規制の明確な主要目標として確立する法的枠組みを採用し、「支配的事業者規制」をこの制度の主要素とすることを強く求めてきた。このアプローチの下では、規制当局者が、サービスやインフラ基盤設備の支配を通じて消費者や競合事業者を「人質」に取れる立場にある「支配的事業者」を集中的に監視する一方、そうした市場支配力を持たない事業者には、新たなサービスや技術の導入を加速するため運営上の制約を最小限に抑えることを認めている。

 日本は2002年に、競争促進型の基盤に立つ規制枠組みの構築、およびネットワーク社会の構築を促進するための条件を整備することを目指した電気通信政策の見直しを完了する予定である。現在も行われている見直しの成果として、2001年に電気通信事業法の改正が行われた。この改正は、競争の重要性を認め、支配的事業者規制制度を強化し、卸売サービスの範囲を定め、競争的行為と反競争的行為を明確に定義し、紛争処理メカニズムを新設するものである。日本はまた、NTTなどの企業が保有する光ファイバー網を競合企業に対し開放する方向に動き出した。

 強化されたイニシアティブの下での2国間協議の結果、日本は2000年度の接続料金設定に競争促進型の方式である長期増分費用方式(LRIC)を導入した。この結果、2002年度までに、20%(加入者交換機接続)から50%(中継交換機接続)の料金の引き下げが行われた。接続料金の引き下げにより、競合事業者がNTTに接続料金を支払った後も、最終利用者に競争力のある料金を提示することが可能となり、市内サービスにおける競争が増え、2001年には市内通話料金が15%以上も引き下げられた。米国と日本は、接続料金のさらなる引き下げと、2002年にLRICモデルが改定される際、LRICを地域ネットワークのアンバンドル部分に適用することについて協議することで合意した。

 米国が引き続き注意深く監視しているこうした措置は、重要な市場アクセスや規制障壁への取り組みに役立つはずである。にもかかわらず、日本において、特に地域電気通信市場において効果的な競争を確保するには、新規参入者に対し公平な機会と、すべての事業者に対し公平な取り扱いを保証することを念頭においた独立規制機関が必要になる。2001年11月に、日本は総務省内に電気通信事業紛争処理委員会を設けた。日本がこの分野における紛争に対し、より効果的な処理の必要性を認識していることを米国は歓迎する。紛争の発生を最少限にとどめるというより紛争が発生した後に対処するこの委員会が、日本の電気通信市場における競争を確保するために必要な独立性と、専任の専門家、および執行力を持つかどうかは、現時点では不明である。NTT施設へのアクセスおよび不公平な商慣習に関し、日本の公正取引委員会(公取委)がこれまで実施してきた執行措置は、市場における競争確保に向けた大変重要な処置であり、この分野における競争保護のために監視権を行使すると同時に必要な措置を取ることができる、真に独立した規制当局機関を確立することの重要性を裏付けている。

 米国は、2001年10月の規制改革要望書および2国間協議を通じて、日本に対しこの分野における多岐にわたる具体的な市場アクセス障壁に対処することを求めてきた。

相互接続と料金設定

 支配的事業者が競争を妨げることに対するセーフガードの不十分さを最も顕著に表す一例が、NTTの地域会社が競合事業者に対し課すことを認められている高いコストと煩雑な条件である。合意された料金引き下げが実施されても、こうした地域会社が競合事業者のネットワーク使用に課す相互接続料金は、米国やドイツにおける同様の料金に比べてかなり高い。

 改定されたLRICモデルの完全導入により、この課題への対処が期待される。さらに総務省は、NTTが自社の小売顧客に対してISDNの料金を抑えて提供する一方、ISDNのような新しいサービスの開発や導入のコストを回収するため、こうしたコストを競合事業者に負担させることを認めてきた。日本の法律はこの典型的な「価格圧縮」のような反競争的行為(すなわち競合事業者が、NTTの小売料金と同水準あるいはそれ以下の料金で競争できるサービスを提供すると、そうした事業者は損失を負うことになる)を日本の法律は現在禁止しているが、総務省はこうした行為が行われたことを確認する効果的な手段を持たない。これはまた、総務省がISDNとファイバー・トゥ・ザ・ホーム(FTTH)の促進という産業政策に関与すると同時に、支配的事業者の規制を試みるという日本の規制制度に固有の矛盾を浮き彫りにしている。

 この種の行為は地域の競合事業者に多大な影響を及ぼしており、競合事業者は地域サービスの多くで赤字を出し、また多くの場合、すべての通話から得る収入の7割前後を相互接続料金としてNTTに支払っている。この問題に加え総務省は、NTTの地域会社がトラヒックを自社のネットワーク内にとどめておくため、(地域の全加入者の98%以上という)実質的な独占を支える差別的な料金設定方式を採用することを許可してきた。こうした料金設定方式の下では、NTTの地域会社の加入者は、たとえ同じ地域内でも競合事業者の地域ネットワーク内の通話に対しては割引料金の適用を受けることができない。このような割引料金制度の大半はインターネットのアクセスに使われているため、インターネット・サービス・プロバイダー(ISP)は、NTTの膨大な顧客層にサービスを提供しようとすると、NTTのネットワークの使用を実質的に強要されることになる。その結果、競合事業者は自社のネットワークにISPを受け入れるという収益の高い事業ができなくなり、また、その加入者がNTTのネットワークでISPにアクセスした場合には多額の相互接続料金を負担させられることになる。こうした状況下では、競合事業者はISPを受け入れる能力を失うだけでなく、NTTに相互接続料金を支払わなければならないため、NTTが提供する(DSLを利用しないユーザーのための)ダイヤルアップ・サービスの定額料金と競争することもできなくなる。

 また、日本の電気通信市場への新規参入者は、支配的な移動体通信サービス事業者であるNTTドコモの相互接続料金およびアクセス料金が極めて高く不透明であることについても懸念を表明してきた。こうした法外な料金がどのように計算されているかは、まったく説明されていない。加えてドコモは、その市場支配力(加入者約3900万人)を利用し、自社ネットワークへの着信と発信の双方について料金設定を許可されるべきであると主張している。これによって新規参入者は、最も重要な戦略の1つである価格競争が不可能になるため、極めて不利な立場に置かれる。2001年に行われた電気通信事業法の改正は、NTTドコモの接続体系に関して、より強い監視を可能にする非対称規制を設けたが、これは十分ではない。しかし、この法改正により、競合事業者は、反競争的行為を確認し是正処置を求める責任を負うことになった。

線路敷設権

 日本では線路敷設権へのアクセスに関連するコストと障害のため、新規参入する競合事業者が競争するネットワークを整備するには、膨大な時間と費用がかかる。日本政府は2001年4月、NTTが保有する電柱、管路、とう道へのアクセスに関して指針を発表し、また公益事業者に対し、ある範囲内で責任を拡大することを検討している。しかしながら、電柱、管路、とう道その他の線路敷設権施設の使用料金が法外なものになることに対抗できる措置はほとんどない。さらに、新規参入者が自社ケーブルや設備を敷設するため道路工事をしようとすると、迷路のような各種の制約に直面する。業界によると、日本ではこうした制約のため他の主要国際都市に比べ工事費が約10倍以上かかり、工事に要する期間は6倍になる可能性がある。米国は、日本が電気通信事業者やケーブルテレビ事業者が非差別的で、透明性が高く、時宜にかなったコストに基づくアクセスを確保できるよう、競争志向の規則を確立するよう提案した。米国は、新規競合事業者のための線路敷設権へのアクセスを義務づけることを引き続き求める。

アンバンドリング

 新規参入者のネットワーク整備を支援するための政府による監視の強化は、支配的地域事業者に対し、他の事業者が必要とする「アンバンドル」化(あるいは細分化)されたネットワークへのアクセスを提供することを義務付けるためにも必要である。日本でこの分野において進展はあったが、注目すべき例外は、利用者の獲得と支援に欠かせない運営支援システム(OSS)へのアクセスである。この分野においてアンバンドル義務を拡大することは、新規事業者が自社ネットワークをより迅速に、より効果的に整備するに当たっての支援となる。

専用回線

 日本の規制枠組みは、事業者の回線が自己所有か賃借であるかという点を基盤にしている。新規事業者には他の事業者の施設を利用する手段がいくつか与えられているが、総務省の認可を申請する必要がある。そのため、新規事業者には余分な時間と費用がかかり、また総務省が適用する申請の評価基準の多くが不透明であるため、新規事業者の事業計画の不安定要因が増える。米国は、総務省が現行の制約を廃止し、事業者が政府の認可なしでネットワーク内で自社設備と専用設備の2つを自由に組み合わせることができるよう強く求める。

情報技術(IT)

 米国は、日本が情報技術(IT)の国際的リーダーになるために取ってきた措置を歓迎し支持する。日本が持続する経済成長を取り戻す上で重要なのは、活力あるIT分野を構築することである。米国と日本はこの分野の重要性を認識した上で、規制改革イニシアティブの下にIT作業部会を別に設置した。この作業部会の目的は、規制が最小限の環境を整備し、経済における他の重要分野の成長を刺激するため、IT関連事業と革新的な情報技術の発展を促進することである。

 米国は2001年10月に提出した規制改革要望書の中で、知的財産権の保護や電子商取引に対する消費者の信頼向上、そして民間部門における電子商取引とITの促進のため、いくつかの提言や提案を行った。米国は、IT分野における事業と投資のための日本の規制環境改善に向け、以下のような措置を提言した。(1)デジタル時代における競争を確保し、革新を促進し、知的財産権を適切に保護する法的枠組みを構築する。(2)消費者保護・プライバシー保護に当たっては、自主規制アプローチを重視する。(3)政府とのやりとりをオンライン上で行い、政府調達に電子商取引の利用を拡大する。(4)消費者金融などの分野でペーパーレス取引を可能にするため、電子商取引を妨げる既存の法律の見直しや改正を継続する。(5)技術規格には(政府が義務付ける規格に対し)市場ベース型のアプローチを採用し、オープンで国際的に相互運用性のある技術的に中立なアプローチを確保する。

 米国は、電子学習や民間部門でのITと電子商取引の推進、そしてネットワーク・セキュリティーなどの分野における協力を通じて、この重要な分野に日本と共同で取り組んでいる。しかし、知的財産権保護、オンライン上のプライバシー、ペーパーレス取引、そして電子商取引推進の障害となっている、あるいはこれからなることが予測される法律などの問題に進展がないため、米国は、日本において活力あるIT分野の構築が著しく阻害される可能性を懸念している。

 日本は、WIPO著作権条約(WCT)およびWIPO実演・レコード条約(WPPT)に調印しているが、この2つの条約は一体として、オンライン著作物・録音を保護することになっているにもかかわらず、日本はWCTのみを批准し、WPPTは批准していない。米国は、2001年を通じて多くの場で日本に対しWPPTを批准するよう求めた。米国は、日本がWPPTを批准し施行するための法案を国会に提出したことを歓迎する。米国は日本に対し、現在のデジタル時代に両国の音楽産業が適切に保護されるよう、WPPTの速やかな批准とその実施法案の成立を求める。

 現在、日本ではインターネット・サービス・プロバイダー(ISP)のような特定の事業者に適用される明確な法的責任ルールが存在しないため、権利保有者に対し適切な保護が与えられず、ユーザーによる(著作権侵害などの)違法行為に対する事業者の責任の有無が極めて不明瞭である。権利保有者に対して適切な保護がなされていないと、侵害行為に対する適切な救済措置が得られない。このことが音楽やゲームソフトあるいは映画産業などの創造的産業における財政基盤の安定性に悪影響を与えており、また、ネット上で著作権侵害の被害を受ける可能性がある創造的作品や新製品の開発に水を差すことにもなっている。損害賠償責任に対する適切な免責手段を持たない事業者は、ユーザーの行為について知識も支配力も持たないにもかかわらず、そうした行為に対し広範な法的責任追及を受ける可能性があり、これもまた事業者にとって受け入れがたいリスクとなる。米国は、「デジタル・ミレニアム著作権法」の作成に当たり、電気通信事業者、サービス・プロバイダー、著作権保有者、そしてウェブサイト開設者の間(の利害)には複雑で微妙なバランスがあることを学んだ。米国は日本が、事業者の責任に関して最近成立した法律を、これらの利害や課題が十分かつ適切に考慮・対処される形で施行することを求める。

 日本の著作権法下では、コンピューターのRAM上に作成されたデジタルコピーのような「一時的複製」が明白に保護されていないため、日本では著作物を保護する能力が阻害される可能性がある。米国は日本がこの点を明確にし、著作権法により一時的複製が確実に保護されるよう求める。この課題については、さらに「著作権」の項でも触れる。

 日本の国会は現在、プライバシーに関する法案を審議している。米国は日本に対し、この法案が成立した段階で、同法の施行令と施行規則が個人情報のプライバシーを適切に保護する一方、国境を越えるデータの動きに対し不要な制約を課さないよう自主規制アプローチを考慮・尊重するよう求める。さらに、米国は日本政府に対し、法制化を目指すプライバシーに関する法案の施行令などの措置の作成に当たっては、パブリック・コメント手続きを十分に活用することを求める。

 米国は、日本政府の電子政府計画を歓迎し支持する。米国は、民間部門における電子商取引促進に刺激を与える上で電子政府が果たす役割の重要性を認識しており、日本が電子政府をさらに拡大・加速化させ、調達や情報、そして申請や認可のようなオンラインサービスを、政府・消費者・企業間でオンライン上で情報をやりとりすることを可能にするよう提言する。

 現行の法律下では、消費者金融分野は、電子取引の安全性、迅速性、効率性などの便益を享受できない。このため消費者金融の利用者は書面による取引の代替として、オンラインでクレジットカードの取得を申請したり請求書や通知を受け取ることができない。米国は日本に対し、貸金業規制法も対象として含まれるよう書面一括法を改正し、貸金業者が利用者の承諾を得た上で電子的手段を持って通知を送付できるよう求める。

 日本は2001年、場合によっては手書きの署名あるいは押印に代えて利用できる電子署名の発行を認可機関に認める制度を設ける法律を施行した。米国は、同法が技術的中立性を維持し、すべての適切な技術の利用を可能にすることを確保するため、同法の施行を注意深く監視する。

 米国は、活力あるIT分野の創造を阻む課題に対応するため、日本がこれらの具体的な懸案事項に迅速に対処することを求める。

エネルギー

 日本がエネルギー分野の自由化を進めるに当たって、米国は、現在進行している2国間協議を、エネルギー効率の改善と世界で最も高いエネルギーコストを引き下げるという日本の目標に向けたプロセスと、その目標を支援する関する情報提供のための重要な場と見なしている。この目標を達成するには、日本は、世界第3位の規模を持つ電力市場に新規参入者を受け入れ、この分野に活発な競争をもたらす必要がある。

電力

 日本政府は2000年3月、日本の消費全体の約27%を占める大口需要家に対する電力の小売りを自由化した。日本はまた、同時期に電力とガスを含む自然独占に対する独禁法適用除外を撤廃した。米国はこの措置を歓迎するが、こうした部分的市場開放は、エネルギーコストの引き下げと効率の改善について、ほとんど成果をあげていない。この分野への参入は極めて少なく、自由化された小売電力市場における新規参入者のシェアはわずか0.39%にとどまる。これは、新規参入を検討している企業に、現行制度は十分に競争を促進するものではないとの懸念を与えている。

 日本は、2001年に電力分野のさらなる自由化に向けていくつかの追加措置を講じた。例えば、経済産業省に新設された電力市場整備課は、公取委と協力して、配電網への公正で開かれたアクセスを推進することになっている。日本は、より競争型の市場が発展するに当たって、新たな送電線建設の必要性を検討することにも合意した。さらに、経済産業省は、新規参入を促進するため、(1)必要に応じて新たな発電施設や送電線設置場所に関する既存の規制要件の検討を、必要に応じて実施すること、(2)新規参入に関心がある組織の相談に積極的に応じること、などの措置を講じる。透明性の向上に向け、日本は第3者による公益事業の会計監査を実施することおよび託送サービスの中立性を監視することにも合意した。

 最近、米国はさらに、日本のエネルギー市場の監視と機能に関する幅広い改革の必要性を強調した。健全で競争型のエネルギーの小売・卸売市場を推進するための改革には、(1)将来のエネルギー分野の自由化に向けた計画の作成、(2)規制当局の独立性の促進、(3)競争政策の保護策の強化、(4)託送・配電網の分割とアクセスの開放、(5)電力の託送・配電の料金設定にあたっての透明性の確保、(6)電力インフラの拡大を通じた新規市場参入の促進、などが含まれる。日米両国は、規制改革イニシアティブのエネルギー作業部会でこれらの提案を協議してきた。最近の会合は、2001年11月に行われた。

 歓迎すべき進展として、エネルギー分野の規制改革を協議するため、新しい諮問機関である電気事業分科会が2001年11月から審議会を開いている。分科会は、さらなる自由化のために取るべき今後の措置に関する提言をまとめることになっている。米国は、分科会が、自由化促進に向けた前向きの措置を提案することを期待している。このプロセスが進むに当たって、米国は日本に対し、電力市場の自由化のために積極的な措置をタイムリーに取り、競争を通じて市場効率の促進とエネルギーコストの削減に取り組むことを引き続き求める。

天然ガス

 これまで日本のガス分野における自由化は極めて限定的であったが、2001年には自由化プロセスを進めるため一連の措置が講じられた。例えば、経済産業省に新設されたガス市場整備課は公取委と協力し、ガス輸送網への公正で開かれたアクセスを推進することになっている。経済産業省はまた、パイプラインと液化天然ガス(LNG)施設新設のための主要な規制要件のリストを作成したが、その結果として設置プロセスの透明性が向上することになる。経済産業省はさらに、大規模一般ガス会社に対し、パイプライン網への開かれたアクセスのために公正で透明な条件の設定を義務付ける規則を設けた。さらに、2001年1月に設置されたガス市場整備基本問題研究会は、定期的に会合を開き、ガス市場の透明性と効率を高めるための課題を幅広く検討している。こうした前向きな進展があったにもかかわらず、これまでに、日本のガス市場に参入した外国の企業や子会社はない。

 この重要な分野の一層の自由化を進めるため、米国は、開かれたアクセス、新規建設、透明性、そして新規参入に向けたより強力な措置を取ることを引き続き求める。その結果として、安定した競争型のガス市場を確保することになる。この点に関して米国が最近行った提案は、2001年10月に日本に提出した規制改革要望書に詳細に述べられている。米国は、電力分野に関する提言と並行して、米国は、日本がガス分野においても規制当局の独立性を高め、競争政策の保護策を強化することを提案した。米国はまた、以下の提言も行った。すなわち、日本が、(1)分割および利用料金と情報の透明性を通じてガス・LNG市場における競争を促進し、(2)電力サービス地域内におけるガスサービス地域とLNG施設間のガスパイプラインの新設を進め、(3)輸送インフラの拡大を通じ競争力がある発電会社およびガス供給会社の新規参入を奨励することである。米国は、この課題についてエネルギー作業部会において日本と協議を続ける。

医療機器・医薬品

 米国と日本は、1986年の「市場重視型個別協議」(MOSS)での医療機器・医薬品に関する報告以降、米国と日本は、医療機器・医薬品分野における規制および市場アクセスの問題に取り組んできた。現在、MOSS医療機器・医薬品作業部会は、規制改革イニシアティブの下に設けられた同分野の作業部会の議論の場となっている。

 米国は2001年10月の規制改革要望書の中で、この重要な分野における数々の改革を提案した。米国は特に、公正と透明性を促進し恣意的な価格設定を防ぐため、現行の償還制度に関連した市場アクセスの問題への取り組みを優先している。日本は、医療制度の改革を進めるに当たり、改良されたよりコスト効率の高い治療を患者に提供できる革新的な製品の導入を妨げることがないよう、革新の重要性を正式に認めることに合意した。

 しかしながら、医療機器・医薬品の償還に関する規則の変更は、革新的製品を評価するという日本の約束について重大な懸念をもたらした。具体的には、日本は2002年4月1日から医療機器について新たに「外国価格参照調整」制度を実施することになっている。この制度は、米国、英国、ドイツそしてフランスでの一般的な価格を日本の価格にリンクさせるものであるが、このアプローチは恣意的なものである。なぜなら、日本における高い営業コストを十分考慮せずに価格に上限を設けるものだからである。したがって、米国は、医療機器に関して、代替の価格設定メカニズムを導入するよう引き続き日本に求める。また、日本が医療保険制度のコストを押し上げる真の要因、すなわち世界一長い平均入院日数、過剰な医療施設、ITシステムや専門病院の不足などといった制度上の非効率性の問題に取り組むことが極めて重要である。

 2002年4月に実施予定の新たな薬価算定ルールもまた、懸念要因である。このルールは、医療保険制度の支給対象となっている薬価を最低に抑えるため、政府により広い裁量権を与えるよう策定されていると見られる。米国は日本に対し、革新を促進し、革新的医薬品をより入手しやすくするために、米国の業界を含む関係団体との薬価制度に関する協議を継続するよう求めてきた。こうした改革プロセスの一環として、日本は比較対照薬の選定方式を改正している。このプロセスが、認知された科学的原則に基づき透明な形で進められることが極めて重要である。

 より前向きな点として、日本は、外国の医薬品および医療機器メーカーに意見表明の機会を与えることで、医療保険政策を策定する際の透明性の向上を確保することに合意した。米国は、日本が米国の業界からの提案を慎重に検討するとともに、最終的に採用される政策にそうした提案を取り入れることを求める。

 薬事審査と新製品承認手続きの迅速化もまた、引き続き重要な目標である。日本は2000年4月、新薬承認申請の事務処理期間を18カ月から12カ月に短縮した。処理期間の短縮に加え、審査官と申請者との直接の協議を認めるなど日本がこれまで取ってきた措置により、新薬申請の審査期間が短縮されるはずである。さらに日本は、新薬申請の提出に先立つ審査官と申請者が拘束力をもつ協議を積極的に活用することを奨励している。関係者はこの機会を活用しており、その結果、承認期間の短縮がある程度実現している。

 日本の新薬承認制度改善のもうひとつのカギは、外国の臨床試験データを幅広く受け入れることである。米国は、日本が医薬品規制整合化国際会議(ICH)のプロセスの枠内で、ICH−E5ガイドラインの実施にかかわる問題を解決していくことを引き続き求める。このガイドラインは外国の臨床試験データの評価に関するものである。米国は、これらの措置の実施を注意深く監視しており、日本が全体の申請承認期間を12カ月にするよう求める。米国はまた、日本が現行の新薬承認制度の中に「レガシープロダクト」(地理的、民族的に多様な集団で幅広く使用され、日本ではこれまで承認されていないが、他の主要諸国で入手できる医薬品)の評価に関する特例を設けることを提案している。

 医療機器の承認が遅れると、メーカーにとって大きな収益の損失となり、患者にとっては新しい技術へのアクセスが遅れることになる。日本は2000年4月1日、医療機器の過剰な審査を軽減するための措置を講じた。しかしながら、個々の製品申請の分類と審査方法に関する混乱が著しく、引き続きこの新制度での問題となっている。米国は、医療機器承認区分を明確化し、新制度によって製品の承認が遅れないよう求めてきた。また日本は、申請者が申請提出に先立ち、機器の適切な分類について審査官と協議することを認めることに同意した。しかしながら、その際の助言が拘束力を持つものとして扱われることを保証するための措置が必要である。米国は、日本に対し、薬事法の承認審査プロセスに当たって安全で正確であることが認められた温度計・血圧計を計量法の規制の対象から除外するよう引き続き求める。また米国は、医療機器・医薬品分野における市場アクセス障壁および市場原理をゆがめる貿易慣行の是正に、引き続き積極的に取り組む。

 米国政府の規制改革イニシアティブに基づく日本政府に対する要望書が提出された2001年10月時点では問題ではなかったが、血漿および血液製剤の安定供給確保を目的とした日本の新法案に関して新たな懸念が生じた。米国は業務の停止を執行することにもなるこの市場管理型の法案は、好ましいものでも必要なものでもない、と考える。

金融サービス

 日本の金融市場は従来から、高度に細分化された上に厳しく規制されており、そのため、外国企業の事業機会が制限され、外国企業が競争力を持ち得る革新的な商品の導入が抑制されてきた。アクセスを妨げてきた制約には、行政指導の行使、透明性の欠如、不十分な情報開示、有価証券の定義に関するポジティブリストの採用、そして新商品申請の長い処理時間が挙げられる。こうした制約が、十分に競争力のある金融サービス市場の発展を妨げてきた。

 米国と日本は、1995年2月、こうした障壁を撤廃または削減するため、包括的な金融サービス合意を締結した。この合意には、資産運用、証券、およびクロスボーダー資本取引という主要分野における広範な市場開放措置が盛り込まれていた。日本は、この合意調印以降の7年間に、具体的な約束を定められた期限内に実行してきた。中には、予定より前倒しで実施されたものもある。いくつかの分野では、日本は金融市場の自由化を進めるための追加措置を取ったり、あるいは今後そのような措置を取ることを発表している。

 この数年間に、日本の金融部門には注目すべき変化が見られる。外国の金融機関が、証券、保険、銀行の各分野で重要な買収を行っている。日本の金融機関の間では、コスト削減と競争力強化を目指した経営統合が増えている一方、各種金融機関間の従来の垣根が着実になくなりつつある。こうした変化により、外国金融機関が、日本において開かれた公平な環境下で競争する機会が拡大した。監督・開示制度は改善されてはいるが、日本が国際基準と最良の慣行に準拠した形で、金融機関に対する明確で一貫性のある規制・監督制度の確立に向け、今後も前進を続けることが重要である。

 金融部門の規制撤廃・緩和は2001年に入っても続いた。2001年4月、会計基準が強化され、時価会計と減損会計の適用が拡大された。強化されたイニシアティブの一環として日本が取った措置、すなわち金融規制当局による「ノーアクション・レター」制度の実施によって、透明性が向上し、革新的な金融商品の導入が促される。日本は、コマーシャルペーパーの券面発行義務を廃止する法律を制定し、これは、2002年4月1日から施行される。2001年6月、株価指数連動型上場投資信託(ETF)が導入され、現物出資が可能になった。公的年金資産運用ルールが緩和され、運用委託先の変更に当たり有価証券の現物移管や、投資顧問会社による公的年金資産の直接運用が可能となった。2001年10月には、確定拠出型年金制度が導入された。

 2000年のインターネット専業銀行の認可に続いて、2001年には異業種による銀行業参入が認められた。日本政府は、また、非居住者や外国法人が資産を保管するグローバル・カストディアンなどの海外金融機関を通じて所有する日本国債の利子源泉課税の免除を認める制度、および金融コングロマリットによるグローバルなリスク管理その他の共有サービスの提供を許可する制度を導入した。業務の外部委託および企業間のファイアーウォール規制が緩和されて、2001年には資産運用系列会社が含まれることになった。

 米国は、外国企業が国内企業と同等の機会を与えられよう、日本による1995年合意の実施状況と日本版「ビッグバン」構想の進ちょく状況を引き続き監視する。

 

構造的規制改革

独占禁止法と競争政策

 規制改革イニシアティブの下、米国は競争政策の強化と、日本の独占禁止法(独禁法)の執行の強化につながる多くの漸進的な措置を提案してきた。これは、競争の促進と市場アクセスの改善に不可欠な重要な措置である。外国企業は日本の流通市場への参入に当たり、広範な分野で反競争的慣行や関連する障害に直面している。

 日本において反競争的商慣行が根強く残る主な理由として、これまで公正取引委員会(公取委)による独禁法執行の実績が乏しいことがある。公取委は、政治的影響力に欠け、執行権限を積極的に行使する力がないことを国内で常に批判されてきた。日米構造協議、日米枠組み合意、強化されたイニシアティブ、そして2国間の独占禁止に関する年次協議に基づく米国の継続的な取り組みが大きな要因となり、近年は改善が見られる。

公取委の独立性

 公取委の独立性は、日本の独禁法執行制度における長年の重要な原則であり、米国はこの原則を堅持すべきであると確信している。これに関連して米国は日本に対し、公取委が2001年1月総務省に移管された後も、その独立性が引き続き確保されることを求めた。総務省が郵政や電気通信政策も所管することから、これらの重要な分野において、公取委が独禁法の執行決定や競争の促進に当たって、独立した行動がとれないという現実的なリスクが存在する。小泉首相は2001年4月、公取委を総務省から内閣府に移管する可能性を検討するよう命じた。検討の結論は、まだ出ていない。

カルテル対策の執行

 日本では、入札談合や共謀的なカルテル行為が依然として深刻な問題である。近年、独禁法違反に対する措置や課徴金の徴収という面で、公取委の執行実績は改善しているが、公取委は依然として効果的な執行制度の確立に当たって深刻な制約に直面している。課徴金の総額は絶対額としては大きくなく、また最近では減少した。2001年に徴収された課徴金は32億9000万円で、過去10年で最高だった2000年の92億3000万円から減少した。世界的に見て、刑事罰より行政措置に大きく依存する競争政策当局は日本の公取委だけではないものの、公取委が独禁法の刑事罰条項をほとんど適用しないため、カルテル行為に対する抑止力は弱い。事実、企業役員が独禁法違反で懲役刑を受けた例は1件もない。公取委は1999年以降、独禁法違反に対する刑事訴追をまったく行っていない。

 独禁法の重大な違反に対する刑事罰の執行を制約する要素は多数ある。第1に、公取委は強制捜索や押収を行う権限など、日本の他の刑事捜査当局に与えられている権限を持っていない。さらに、公取委は、自主的に違法行為を報告した企業に対し刑罰や課徴金を軽減する権限を持っていない。そうした理由から、公取委は法務省への刑事告発に結びつく証拠を十分に集めることが難しい。第2に、法務省は公取委から付託された刑事事件を追求しない場合、その理由を総理大臣に報告しなければならないとの、独禁法の極めて特殊な規定があるため、法務省は非常に高度な証拠がなければそうした付託を公取委から受理しない。このような制度的な弱点のため、日本では、独禁法の重大な違反行為に対し企業役員や企業を刑事訴追することは一般的ではなく、例外である。

 2001年10月の日本に対する規制改革要望書の中で、米国は以下のことを求めた。(1)協力者に対する制裁減免制度を採用し、刑事告発に当たって公取委の権限と手続きを改善し、公取委の審査妨害に対する厳しい処罰を確保することで公取委の審査能力を強化する。(2)課徴金支払命令による抑止効果を改善し、排除措置命令の範囲を拡大することで独禁法の効果を高める。(3)官製談合防止に有効な法案の策定や国土交通省による談合に対する行政管理の強化など、談合排除措置を講じる。

民事的救済制度

 米国は、私人の訴訟当事者が差止め請求による救済と金銭的損害賠償を制限なく受けられることが、独禁法制度が包括的で効果的になるための重要な要素であると確信している。私人による独禁法の執行は、日本企業に対し独禁法に沿った事業慣行の重要性を強調する手段となり、その結果、自由で、開放された、競争が機能する市場を維持することができる。独禁法違反を指摘されている者に対する差止め請求の民事措置を定めた法律が、2001年4月1日に施行された。2001年には、この新法の下で5件の申請が出された。しかし、カルテル行為や独占行為のような最も悪質な独禁法違反にはこの新法が適用されないこと、また日本の裁判制度にはこの新法を効果的に運用するための能力および専門知識が欠けていることが懸念される。金銭的損害に対する民事措置に関しては、法的救済制度が存在する。しかし、独禁法に基づく損害賠償金を求める民事訴訟は1947年以降、わずか14件にとどまる。民事訴訟制度が独禁法違反の抑止や救済のための信頼に足る手段となるには、民事訴訟制度のさらなる改善が必要である。2001年10月の規制改革要望書の中で、米国は日本に対し、独禁法の民事差止め救済制度の適用範囲を、すべての悪質な違反および事業者団体による違反にまで拡大するよう求めた。

公取委による規制撤廃・緩和の促進

 日本の規制改革が成功するには、効果的な競争政策という強固な基盤に基づいた改革が必要である。経済分野での競争促進を使命とする日本で唯一の行政機関である公取委は、競争政策と規制改革を支援する立場に沿った取り組みを大幅に強化すべきである。米国は、公取委が日本の公益事業の規制撤廃・緩和プロセスに積極的に参加することを提案してきた。これは、電力、天然ガス、電気通信および運送事業分野で、健全な競争政策に沿った最大限の規制撤廃・緩和が行われること、そして先発企業による反競争的行為には独禁法に基づく厳しい措置が取られることを確保するために必要であり、すでにいくつかの措置が取られた。公取委は2001年4月、IT・公益事業タスクフォースを設置し、規制撤廃・緩和が行われている業界における独禁法違反の審査と執行措置を講じている。公取委は2001年11月、総務省の電気通信規制当局と協力し、電気通信分野における競争促進のための指針を発表した。公取委は2000年12月、反競争的行為の疑いでNTT東日本およびNTT西日本に警告した。公取委が、電気通信分野における市場支配力の乱用をめぐって独占を問題視したのは2度目である。米国は、日本がこれらの市場における独禁法違反に対し同法を注意深く執行することを求めている。流通分野に関して米国は、公取委が競争促進のため、この極めて寡占的な分野におけるメーカーと流通業者間の資本や人事上の関係を調査するなど、さらなる措置を取ることを提案した。

公取委の人員・予算

 公取委の独禁法執行能力は、人員不足によって制約されている。米国は10年以上にわたり、公取委が職務を十分に全うするため、予算と人員の大幅な増加を求めてきた。2002年度における公取委の予算は2%増加し、人員は7%増加した。増加した40人の内、28人が審査局に配属されることになる。特に、政府支出削減の圧力が高まる中でのこうした増員は歓迎できる。にもかかわらず、独禁法を適切に執行し、必要な競争を推進するには、公取委の人員は不足したままである。特に、合併の増加、持ち株会社の解禁、多くの独禁法適用除外の廃止、そして規制撤廃・緩和の強化を受けて公取委が多くの事業行為を監視する必要性が増えたことなどにより、日本の競争環境に大きな変化が起こり得ることを考慮すると、公取委の人員不足は明白である。

透明性およびその他の政府慣行

 日本経済が活力を持つには、規制制度の透明性、公正性、予測可能性、そしてアカウンタビリティー(説明責任)が確保されることが必要不可欠である。国内外の企業に対し、規制プロセスに参加するための情報と機会への完全なアクセスを確保することが重要である。日本政府は、「規制改革推進3か年計画」(2001年3月30日閣議決定)の中で、透明性向上の必要性を分野横断的な課題として取り上げた。3か年計画に盛り込まれた制度改革措置は、日本の規制制度の透明性と説明責任の改善に寄与するが、それらの措置には、行政手続法の厳格な施行と同法の適用促進、行政指導に当たっての透明性改善、「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」の完全かつ効果的な施行、「規制の設定又は改廃に係る意見提出手続」(パブリック・コメント手続き)の広範かつ効果的な適用、「ノーアクション・レター」制度の導入、規制プロセスの包括的で客観的な評価、そして新規の規制案の必要性や効果そして費用の検討が含まれる。

 米国は、こうした措置を土台に2001年10月の規制改革要望書の中で、すべての関係者が政府の情報と意思決定プロセスに均等にアクセスできるよう、規制制度のさらなる改革を行うよう提言した。

パブリック・コメント手続き

 1999年に日本が採用したパブリック・コメント手続きによって、すべての利害関係者が、規制案が最終決定され施行される前に、その案を検討し意見を提出することが可能となり、日本の規制制度の重大な欠陥を是正する機会となるはずであった。しかしながら、パブリック・コメント制度の施行から2年が過ぎ、この制度の有効性に対して深刻な懸念が生じている。パブリック・コメント手続きの施行以降、総務省とその前身である総務庁が行った実施状況調査は、この手続きの欠陥を指摘している。実施されたパブリック・コメントの大半が、意見募集期間を30日未満に設定していた。また、提出された意見は、最終の規制案にほとんど影響を与えていない。2000年度の調査によれば、提出された意見を反映して最終の規制案に修正が加えられたのは、パブリック・コメントの実施対象案件の20%未満にすぎなかった。また、これらの案件も、加えられた修正は意味のあるものではなかった。この調査結果は、パブリック・コメント手続きが、本来の目的を果たしておらず、(この手続きが導入される以前の慣行同様)行政機関は規制案を公表する以前に、特定利益団体とそうした案を策定しているという認識を裏付けるものである。これらの懸念に対処し、パブリック・コメント手続きを有益かつ効果的な規制メカニズムにするため、米国は、日本に対し、すべての意見募集案件を掲載するセントラル・レジストリ(中央総合登録システム)を導入し、意見募集期間を最低30日間とすることを義務付け、同手続きの適用に関して第3者による検証を認め、同手続検討のための研究会を設置することを求めた。

行政指導

 1994年施行の行政手続法が透明性の確保を規定しているにもかかわらず、行政指導が書面で交付される事例は極めて少ない。米国は、日本に対し、規制制度の透明性と予見可能性を改善するために日米構造協議報告書に沿って、行政指導の行使を削減し、(特殊な例外を除き)すべての行政指導を書面で交付することを義務付ける措置を取るよう提言した。

市民参加による法案策定

 一般に日本の行政機関は利害関係者に対して、彼らが審議会の委員であるか、あるいは特別なアクセスを持つ場合を除き、法案の作成に関する意見を提出する機会を設けていない。米国は、2001年10月の規制改革要望書の中で、日本に対し、行政機関が法案を国会に提出する前に、国内外のすべての利害関係者がその法案を検討し、コメントすることを可能にするメカニズムを設置することを提言した。

司法による行政措置の審査

 日本の裁判所が審査することのできる行政措置は狭義に定義されている。米国は、日本が、裁判所の審査対象となる行政措置の範囲、および行政措置に対して司法審査を請求できる対象者の範囲を拡大することで、司法の行政監視機能を強化することを求めた。2001年6月12日に、司法制度改革審議会は、行政事件訴訟法の見直しを含む、司法による行政機関に対する監視機能について包括的な検討を加えることを提言した。

特殊法人

 米国は、日本の特殊法人を再編・民営化するという小泉首相の取り組みに注目している。米国は、この改革が積極的に推し進められれば、競争と効率の向上が促され、資源がより生産的に活用されるような重要な影響を日本経済に与えることになると考える。米国は、規制改革要望書の中で、特殊法人の再編・民営化を透明な形で行い、民間機関に対しこのプロセスに意見を提出する機会が確保されるよう求めた。

規制効果分析

 規制改革推進3か年計画と2001年に導入した政策評価制度を土台として、米国は、重要な規制変更案について、政府全体を対象とする規制効果分析制度を導入することを提案した。

商法

 米国は、日本が商法および関連する法律の改正に向けて重要な取り組みに着手したことを高く評価する。半世紀ぶりの包括的な見直しとなる日本の商法改正は、企業が現代のグローバルな資本市場に参入し効率的な経営を行えるよう自らの構造改革を進めるに当たり、極めて大きな影響を与えるものである。現行の商法は、投資(国内・海外)を抑制し、日本が国際経済により統合していくための取り組みを妨げている。商法改正が正しい形で実施されれば、企業の組織形態、経営および資本構造がより柔軟になり、その効率と説明責任が向上するはずである。さらにこの改正は、日本経済を活性化し外国企業の日本市場への参入と事業展開を促すものと期待される。

 米国は日本に対し、商法改正が、十分に包括的かつ大胆なもので、現行法の下での投資や金融取引に対する重大な障害を排除し、企業経営における説明責任と効率を向上させるものとなるよう求めてきた。強化されたイニシアティブの第4回共同現状報告に基づき、米国は日本に対し以下の点を検討するよう提言した。(1)企業の役員会の独立性と株主に対する説明責任を強化する。(2)企業の資本構成に関する現行の多くの制限を撤廃する。それには、社外監査役の代わりとして、社外取締役が少なくとも過半数を占める会計監査委員会を採用するという選択肢を企業に与えることが含まれる。(3)合併・買収の円滑化のため、クロスボーダーの株式交換などのメカニズムを認可し促進する。さらに米国は日本に対し、企業のすべての債務弁済に連帯および個別の責任を負う法定代理人の任命を外国企業に義務付けるいかなる提案にも反対するよう求めた。

 商法の近代化は、極めて専門的かつ複雑なプロセスとなる。これを効率的に行うには、改正によって最も影響を受ける関係者や専門家との緊密な協力が必要となる。したがって米国は、日本がその改正プロセスを、当該課題に幅広い経験を有する国際的企業や学界の専門家に公開するよう提言してきた。このプロセスは、米国の民間部門が2001年11月の商法に関する規制改革イニシアティブの公式協議に参加することによって始められた。

司法制度の改革

 日本の司法制度改革は、国際的なビジネスと投資を促進し規制撤廃・緩和と構造改革を支持するために日本の司法環境を整備する上で欠かすことのできないものである。日本政府は、司法制度の近代化に必要とされる重要な措置を講じてきたが、その中で最も注目されるのは司法制度改革審議会の設置である。同審議会は2001年6月、司法改革に関して重要な提言を行った。提言を実行に移すため日本政府は、同年11月に司法制度改革推進法を制定し、翌12月に司法制度改革推進本部(座長=小泉首相)を発足させた。

 2001年10月の規制改革要望書の中で米国は、日本政府が司法制度改革審議会の提言を迅速に実施するため断固とした措置を取ることを求めた。米国が強調したのは以下の点である。(1)法曹人口の拡大を図る。法曹人口は、原則として市場により決められるべきであり、規制当局や職能団体により決められるべきではない。(2)国際ビジネスのニーズに応えるため、日本の難解な仲裁法を改正する。(3)裁判の完了までに要する時間を半減することによって、民事訴訟の効率化と迅速化を図る。そのために、裁判官を増員し、提訴から判決までの時間を短縮し、訴訟の初期段階での訴訟当事者による証拠収集を容易にする。また、東京地裁と大阪地裁に、「特許裁判所」として機能する知的財産権に関する事件を専門に扱う部門を設立する。(4)行政機関に対する司法審査を包括的に検討する。米国は、日本の司法制度のさらなる改善を提言したが、それには、裁判所が違法行為に対し救済命令を迅速かつ効果的に発令・執行できるようにし、司法手続における透明性を高め、日本の民事訴訟制度に外国の裁判手続きやニーズとの整合性を可能な限り持たせることなどが上げられる。(法律サービスに関しては専門職業サービスの項を参照。)

流通と通関

 流通と通関の問題、特にそのコストと時間の問題は、日米貿易における長年の懸案となっている。日本はこの分野の改善をしてきたが、世界経済の発展に重要なモノと情報の迅速な配送と伝達を促進するためには、なすべきことがいまだ残されている。

 米国は、強化されたイニシアティブおよび規制改革イニシアティブの下、さらなる改善を主張してきた。モノや情報の迅速な配送と伝達へのニーズが、世界経済の発展に極めて重要な多くの新規産業を創出してきた。そのような産業のひとつが宅配業である。宅配業は近年急速に成長しており、今や国際ビジネスの展開に、また商品のタイムリーな配送に不可欠な手段となっている。商品を生産者から消費者に迅速かつ安価な料金で配送することは、経済の効率性を測る重要な尺度になるばかりか、日本のように情報技術(IT)革命の恩恵を求める経済にとり極めて重要である。

 米国は、2001年10月の規制改革要望書の中で、日本が宅配業のような新規産業が生み出す経済的恩恵を十分に享受するには、通関手続のさらなる近代化が重要であるとし、以下のような措置の実施を求めた。

簡易申告制度の改革

 この新しい制度は、同一の指定された商品の輸入取引を年間24回以上定期的に行う輸入業者およびその代行者にのみ適用される。米国は、宅配業など航空貨物の輸入を扱う企業の多くが簡易申告制度を利用できるよう、規制を改革するよう提言してきた。この提言は、加盟国の規制緩和を奨励する「税関手続の簡易化及び調和に関する国際規約」の改正議定書(「改正京都規約」として知られる)の第6章「税関規制」に記述されているリスク管理の原則に合致するものである。米国は、新たな規制が提言の通り緩和されたとしても、簡易申告制度が適用される輸入品のリスクは低く抑えられると考えている。

貨物通関情報処理システム(NACCS)

 米国は、日本の財務省に対し、現行の3年間の取り決めが終了した後、公正な料金体系を構築するため、Air-NACCSの利用者との協議を継続するよう求めてきた。

課税最低価格の引き上げ

 米国は日本に対し、関税定率法で定められた課税最低価格を1万円から3万円に引き上げるよう求めてきた。米国は、課税最低価格の引き上げが、通関を容易にし、税関の作業、特に郵便事業における作業を軽減すると主張してきた。この提言は、改定京都規約第4章の関税と税の指針に沿ったものである。この指針は、「税関事務や輸出入業者に対し費用のかかる事務処理を課すようなごく少額の取引に対しては、関税および税の徴収と支払いをを免除すべきである」と述べている。

輸入政策


牛肉、柑橘類、乳製品、加工食品に対する高関税

 日本は、米国にとって重要な貿易品目である赤身食肉、柑橘類、各種加工食品など多くの食品に高関税を課している。2桁にのぼる輸入関税の例として、牛肉の38%、オレンジの32%、プロセスチーズの40%、ナチュラルチーズの30%があげられる。これらの高関税品目は、一般的に日本が保護している国内産業の食品である。

 高い関税率は、日本の生産者からの購入を増加させ、あるいはその品目の総消費量の減少をもたらし、結果として米国の農産物の販売を制限している。関税率の引き下げが貿易に及ぼす重大な影響を考慮し、米国は、関税率の引き下げを、WTOにおける対日交渉の優先課題として取り上げる。

コメ輸入制度

 日本は今や、米国産コメにとり最大の海外市場であり、年間売上額は1億2000万ドルにのぼる。日本は、ウルグアイ・ラウンドとその後の交渉で結んだ輸入量に関する確約を概ね履行してきたが、輸入米を厳しく規制する日本の流通制度は、日本の消費者が、安定して供給される安価で高品質な米国産のコメを入手するのを阻んでいる。

 日本は、年間68万2000トンにのぼる輸入米の日本市場へのアクセスを保証する関税割当制度を設けた。日本がコメの輸入に関税制度を設けた1999年以降、輸入割当を超えるコメの輸入はない。これは、割り当てを超えるコメの輸入に対し、キロ当り341円の関税、つまり約400%の従価税が課されるからである。関税割当内でのコメの総輸入量のうち、58万2000トンが食糧庁が管理するミニマム・アクセス制度により輸入されている。米国のコメ業界は、食糧庁がこれまで産業用、食糧援助用、そしてブレンド用に中級品質のコメのみを購入し、家庭用の最高品質のコメを購入していないことに失望している。米国の輸出業者はさらに、食糧庁が昨年、高価値の全粒米ではなく砕米をより多く購入し始めたことについても落胆している。

 日本が毎年輸入することに合意したコメのうちの残りの10万トンは複雑な売買同時契約(SBS)制度を通じて日本に入ってくる。この制度もまた、食糧庁によって管理されている。SBS制度は、米国の業者が、少量の米国産の高品質の家庭用コメを日本の流通業者に直接渡すことを可能にしてはいるが、制度が不透明のため、米国の輸出業者がこの制度を通じてコメを販売することはますます困難になっている。日本のコメ輸入制度は、輸入米のコストを著しく上昇させている。その結果、日本における米国産のコメの販売価格は、輸入価格のおよそ3倍にもなり、消費者は、安価で高品質な米国産のコメの恩恵を十分に得ることができない。

 米国は日本に対し、輸入手続を改善し、高品質の家庭用コメの流通を促進するよう求めてきた。米国はまた日本に対し、砕米の買入れ比率の引き下げを引き続き求めていく。日本のコメ市場へのアクセスを拡大し、より意味のあるものにすることは、WTOにおける農業交渉の重要な優先課題である。

小麦輸入制度

 日本は、小麦を食糧庁を通して輸入することを義務付けている。食糧庁は、輸入した小麦を日本の製粉業者に輸入価格よりもかなり高い価格で放出している。高い小麦価格は、小麦を材料にした食品のコストを押し上げ、小麦の消費を阻む要因になっている。米国は、貿易をゆがめる国家貿易問題を、WTO農業交渉の場で取り上げていく。

産業用トウモロコシ

 国産ジャガイモの価格を維持するため、日本政府は、日本のコーンスターチ製造業者に対し、コーン甘味料の製造ではポテトスターチをコーンスターチにブレンドすることを義務付けている。コーンスターチの製造量は、国産のジャガイモやサツマイモスターチの購入量に見合ったものでなければならず、ポテトスターチ1に対しコーンスターチ13の割合である。もしも、コーン甘味料製造業者が1対13以下の割合でポテトスターチを使用すると、共同割当に基づくゼロ関税でのトウモロコシの輸入ができなくなる。コーン甘味料製造業者は、トン当り1万2000円あるいは船積価格の50%のいずれか高いほうの関税を支払わなければならない。

 ブレンドの義務付けは、コーン甘味料のコストを引き上げることによって輸入トウモロコシの消費を阻害し、また、米国産トウモロコシの売上を年間20万トン以上も減少させている。米国は、WTOの農業交渉でこの問題を取り上げていく。

豚肉輸入制度

 米国産豚肉の対日輸出は、年間8億ドルにのぼる。これは、米国の豚肉輸出の約60%に相当する。ウルグアイ・ラウンドで交渉された日本の豚肉輸入制度は、柔軟性に欠け、日本と米国のいずれのニーズにも応えていない。この制度には、基準輸入価格(ゲート価格)、および、輸入量が3年平均を19%上回ると自動的に関税率を引き上げるというセーフガードが含まれている。

 ゲート価格制度は、日本の輸入業者が豚肉の切り身を各種混合して購入することを奨励することによって豚肉の貿易をゆがめている。輸入業者は、積荷の平均運賃保険料込条件(CIF)価格をゲート価格以下に押さえることによって関税率を最低にするため、混合積荷で購入している。

 4半期の豚肉輸入が3年平均を上回ったため2001年に日本が発動したセーフガードも、結果的に不安定な購入パターンを招いたことから、重要な問題となっている。このセーフガード制度では、セーフガードのない時には輸入を増加させ、その結果増加した輸入がセーフガードを発動させる。いったんセーフガードが発動されると、輸入業者は豚肉の輸入を控え、輸入コストを新たなゲート価格まで引き上げるために、より高価な切り身を購入するようになる。

 米国は、豚肉の輸入関税率の大幅な引き下げ、ゲート価格制度とセーフガードの廃止、および日本の輸入制度の透明性の向上を求めている。日本の消費者は最終的には、豊富に流通する安価で高品質な輸入豚肉を購入することができるようになる。米国は、WTOの農業交渉でこの問題を取り上げていく。

水産物

 日本は、米国の水産物輸出の最も重要な市場であり、2001年には米国の水産物輸出の約40%を占めた。日本は、いくつかの特定魚種に対し輸入割当を継続している。米国の輸出水産物で日本の輸入割当の対象となっているのは、スケトウダラ、すり身、スケコ(スケトウダラの魚卵)、ニシン、太平洋マダラ、サバ、ホワイティング(タラの一種)、イカ、およびイワシである。ウルグアイ・ラウンドで日本は、多くの水産品目について関税をおよそ3分の1引き下げることに合意したが、輸入割当の変更あるいは撤廃については確約を避けた。

 日米両国は、海洋科学や環境問題などの2国間および国際的な漁業関連問題について話し合うため、年次漁業協議を行っている。米国の輸出業者は、割当適用プロセスなどの行政手続に懸念を抱いている。日本は、過去数年間、漁業輸入割当制度を大幅に改善したが、これは主として、米国とEUの提案によるものである。その変更には、割り当てを受ける者についての情報を公開することにより透明性を向上すること、割当時期を変更すること、数種の魚(サバ、イワシ、太平洋マダラなど)を「魚介類」から切り離し別個の分類とし、価格ではなく重量により割り当てを決めること、が含まれる。

木材製品・住宅

 日本は、米国の木材製品にとって第2の輸出市場である。2001年の米国製材木製品の対日輸出総額は10億ドルにのぼる。日本は、段階的に上昇する関税率(加工木材製品に対する累進課税)によって、米国製木材製品の輸入と利用を引き続き制限している。木材製品に対する関税の撤廃は、長期にわたる米国の目標であり、米国は現行のWTO交渉において、引き続き日本に対し木材製品の関税撤廃を求めていく。

 過度に制限的な建築基準法と規格は、建築木材の利用に不必要な制約を加えることにより、引き続き米国製木材製品の輸入を阻んでいる。関係者には基準法と規格の変更についてコメントを提出するための十分な時間が与えられないことが多い。新たに改正された日本農林規格(JAS)は、企業が木材製品を日本の規格に整合させることを制限してきた。特に日本は、米国の木材製品の規格制度が同等であることを証明するために長期にわたる政府間交渉を必要とする煩雑な認定制度を実施し、これが輸出を阻害した。

 日本は、強化されたイニシアティブの下での第4回共同現状報告で、米国が、その木材製品の格付けと認証の規格が同等であるとの認定を得るに当たり、協力することを確約した。米国と日本はまた、木材製品小委員会、建築専門家会合、およびJAS技術委員会において、性能規定型基準、耐火性評価のための試験方法・手続の実施、およびその他の住宅・木材製品に関する問題について、技術的な討議を継続することに合意した。次回の木材製品小委員会は、2002年前半に開かれる。そこでは、両国政府が、性能規定型建築基準や同等性などの重要課題に関する進展状況を検討する。

海洋船舶

 ボート、船舶用エンジン、船舶用機器に関する日本の小型船舶安全規制制度は、不透明であり、この分野の市場アクセスを大きく阻害している。国土交通省と小型船舶検査機構が実施する規制は、多くの場合あいまいで、その解釈は恣意的で一貫性に欠ける。義務付けられた検査には費用のかかるものもあり、必要書類は不透明かつ煩雑で、企業は製品の設計、材料仕様、製造技術に関する自社の機密情報の開示を余儀なくさせられる。検査料は高額であるか、または検査実費に基づくものではない。

 この規制制度のため、米国メーカーのコストが不必要に引き上げられ、日本の消費者は高価格を強いられる上、輸入ボート、モーター、機器へのアクセスも妨げられている。また、米国やヨーロッパの規制に比べ安全性を高めるものでもない。日本は小型船舶および船舶用エンジンに国際安全基準を採用するとの意向を表明し、国際規格の草案委員会に積極的に参加している。しかしながら、日本は小型船舶規制に国際慣行との整合性をほとんど持たせていない。

 2001年、米国はこれらの問題に取り組むため、日本との一連の協議を行った。米国の多くの懸念が未解決のまま残っているものの、日本が、2001年末に一部のレジャー用ボートの操縦免許に関する要件を緩和する意向を表明したことから、米国企業の同種のボートの日本での販売が容易になるはずである。この新たな規則により、もっとも一般的に所有される免許(ボート操縦免許の約70%)で、20トンまでの船舶の操縦が可能になる。これまでこの免許では、5トンまでの船舶の操縦しか認められず、より大型のボートの操縦ができる免許の取得は困難で多額の費用がかかった。この変更により、もっとも取得が容易な免許の所有者が、より大型のボートを購入し操縦できるようになり、米国製ボートの市場規模に関する不必要な制約が取り除かれる。米国政府は、この新たな免許制度の実施を監視していく。

蒸留酒

 1996年と97年のWTOにおける紛争処理の裁定と、それに続く日米両国政府の交渉の結果、日本は、1997年12月、酒税制度をWTOの基準に整合させることに合意した。日本は、酒税制度を段階的に改正し、1998年5月までに焼酎乙類を除くすべての蒸留酒の税率をWTOの基準に整合させた。2000年10月には、焼酎乙類にも同様の基準を適用した。同時に、輸入ウィスキーとブランデーに対する酒税も58%引き下げられた。

 日本は、すべての褐色蒸留酒(ウイスキーとブランデーを含む)およびウォッカ、ラム、リキュール、ジンの関税を2002年4月1日までに撤廃することになっている。これにより、1996年と97年のWTO紛争処理合意に従うために必要な関税と税に関する措置が完了する。米国は、関税が撤廃され、合意の恩恵を損なうような新たな措置が取られないよう、日本が紛争処理合意を実施するよう引き続き監視していく。

革・履物

 日本政府の輸入割当設定プロセスは、透明性を欠いている。米国の業界の報告によると、輸入予測量を決定するための革靴輸入業者との協議は持たれていない。事実、日本の当局は、輸入割当を、割当枠を利用しようとする企業に限定する努力をまったくしていない。米国政府は、輸入割当の撤廃を引き続き求めていく。1991年、日本は履物の輸入を自由化し、その輸入割当を年間240万足に設定した。また、1998年度までに、その割り当てを年間約1200万足に拡大した。ウルグアイ・ラウンドで日本は、割当枠を満たしていない革製履物、クラスト革、その他の革製品の関税を8年かけて引き下げることに同意した。

 日本が、従価税率上限を50%引き下げ、また従価税に代わる「1足当り」税率つまり従量税率の上限を10%引き下げたことで、ウルグアイ・ラウンド合意を満たしたにもかかわらず、割当枠を超えて輸入される履物は、依然として市場アクセス障壁に直面している。日本政府の最新の関税率表によると、割り当てを超えて輸入される履物に課せられる関税は、30%の従価税または1足当り4300円の従量税のいずれか高い方にまで引き下げられた。しかしながら、日本はこの2種類の関税のうち、より高額な税を適用することができるため、通常は1足当り4300円の従量税が課され、従価税の大幅引き下げの効果は打ち消されている。

基準、試験、表示、認証

 日本の農家の有権者は、輸入制限を明らかな目的として、人体や動植物に関わる衛生・安全義務を支持してきた。日本は、食品安全基準に関する問題に常に慎重な態度を取ってきた。しかし、最近日本がこうした基準やその他の行政義務を導入して、農産物輸入を制限するケースが増加したり、新たな輸入政策の策定において科学的原則から逸脱する傾向が強くなってきたように思われる。

米国産家きん肉の輸入禁止

 米国産家きん肉の対日輸出は、年間約1億7000万ドルにのぼる。日本は、米国の限られた地域で病原性の低い鳥インフルエンザが検出された2002年1月に、米国からの家きん肉の輸入を一時的に禁止した。国際的動物衛生組織である国際獣疫事務局(OIE)が設けた基準によると、検疫手続きは、鳥インフルエンザの病原性が高い場合のみ必要であって、病原性が低い場合は必要としない。米国産家きん肉に対する前回の輸入禁止では、何らの科学的根拠もなく、2001年11月に2週間にわたり貿易が停止された。

 米国は、日本に対して、OIE基準を採用すること、また衛生措置を取る際には科学に基づくことを加盟国に義務付けている衛生・植物検疫措置適用に関するWTO協定に準拠することを引き続き求める。

BSEによる畜産レンダリング製品の輸入禁止

 日本は牛海綿状脳症(BSE)が2001年秋に国内で確認された時に、各種の畜産レンダリング製品の輸入を全面的に禁止した。この禁止措置は、BSEに汚染されていない米国の肉骨粉、獣脂などの製品にも適用された。この輸入禁止措置により影響を受けた米国産動物性食品の日本の輸入は、2001年で総額約1400万ドルであった。

 米国は、OIEが定めた「BSE非汚染」国の基準を満たしていることから、米国からの畜産レンダリング製品の輸入を禁止する科学的な根拠は存在しない。さらに、この禁止措置は、BSE感染の可能性はない牛脂などのウシの一部加工品や、ウシ属ではない動物から作られる製品、例えばブタの血粉も対象にしている。

 輸入禁止をする科学的理由がないにもかかわらず、日本は、米国に対するリスク評価が完了するまで輸入禁止を継続することを表明している。このリスク評価の質問書に、米国が時宜を得た回答を行ったにもかかわらず、日本の評価はいまだに完了していない。

生鮮リンゴ -- 火傷病の検疫義務

 日本は、輸入リンゴに負担の大きい検疫規則を課しており、米国の生産者による日本市場へのアクセスを制限している。特に懸念されるのは、火傷病の伝染予防を目的とした日本の要件である。症状が見られない熟したリンゴが火傷病のバクテリアを伝染させる可能性があるという日本の主張を裏付ける科学的な根拠はない。火傷病に関する日本の検疫義務には、火傷病の発生が見られるすべての果樹園からの米国産リンゴの輸入禁止、栽培期間中の3度にわたる果樹園検査、輸出果樹園を取り巻く500メートルの火傷病隔離のための「緩衝」地帯の維持、そして収穫後のリンゴの塩素処理、が含まれる。こうした要件は科学的な根拠に基づくものではなく、コストを大幅に上昇させ、日本における米国産リンゴの競争力を弱めている。

 日米両国政府の科学者が行った共同調査により、症状が見られない熟したリンゴは火傷病の媒体ではないという以前の研究結果が確認され、また日本の規制は正当ではないという米国の主張にさらなる科学的裏付けが与えられた。科学的根拠に基づき規制の変更を要求したことに対し、日本がかたくなに拒否しているため、米国はWTOの紛争処理手続の下での協議を申請した。

生鮮ジャガイモの輸入禁止

 日本は、ジャガイモシストセンチュウとジャガイモがんしゅ病菌の国内侵入を防ぐために輸入禁止が必要という主張のもとに、米国からの生鮮ジャガイモの輸入を禁止している。米国は、日本が、ジャガイモシストセンチュウ病菌の発生していない太平洋岸北西部、カリフォルニアやその他の米国のジャガイモ輸出地域などの主要生産地域で栽培された加工用生鮮ジャガイモに対する輸入禁止を直ちに解除することを求めている。ジャガイモがんしゅ病は米国では発見されていない。これとは別に、農水省は、数多くの病原体について新たな懸念を表明しており、これが規制につながれば、たとえ生鮮ジャガイモの輸入禁止が解除されても、入国後の検疫が必要となる。米国は引き続き日本に対して、ジャガイモシストセンチュウ病の発生していない米国の地域を承認することを求める。米国はまた、外食産業用皮むきジャガイモの輸入許可を日本に対して求めている。

生鮮ピーマンと生鮮ナスの輸入禁止

 日本は引き続き、タバコべと病に対する懸念に基づき、生鮮ピーマンと生鮮ナスの輸入を禁止している。1999年8月に行われた第1回の2国間協議で、米国は、ピーマンとナスの生果実はタバコべと病の伝染経路とはまったく無関係であることを強調した。2000年9月に開催された2国間技術協議で、日本は、これらの生果実がこの病気の宿主ではないことが証明されれば、輸入解禁を検討することに同意した。米国は、ピーマンとナスがタバコべと病の宿主ではないことを証明するためのテストデータを現在準備している。米国は、2国間および多国間での協議を通して、米国産のピーマンとナスの輸入許可を日本に対して引き続き求める。

くん蒸の過剰使用

 日本は、多くの輸入生鮮園芸産品に対して、不必要なくん蒸を義務付けている。これは、生鮮果物、レタスやアボカドなどの野菜、切り花など、一般にくん蒸に耐えられず、廃棄を余儀なくされる産品に、特に大きな打撃を与えている。米国のレタス業界の推定によると、この問題が解決すれば、輸出が少なくとも1億ドル増加する。

 日本は、現在国内で発生している害虫や輸入産品に対してもくん蒸を義務付けている。これは、国際慣行においても、また国際植物保護条約(IPPC)にも矛盾している。日本は、こうした害虫は、国内でのまん延を防ぐために、農水省の「正式な管理」下にあると主張する。しかし、実際には、農水省は日本で栽培される産品に対してくん蒸を義務付ける正式な管理計画を持っていない。

 外国政府からの度重なる改正要請を受けて、農水省は、植物検疫法を一部改正し、害虫53種、植物病10種をくん蒸の対象外とする非検疫害虫リストを採用した。これは一見重要な進展のように思われるが、このリストには、米国の生鮮果実および野菜につきやすい10種の害虫が含まれていない。こうした害虫は、日本で存在することも知られている。米国は日本に対して、国際基準を採用し、包括的な非検疫害虫リストを作成し、過剰で不必要かつ貿易をゆがめるくん蒸義務の軽減を引き続き求める。

バイオテクノロジー

 日本は、遺伝子組み換え(GM)食品の承認プロセスにおいて、おおむね科学的なアプローチを取ってきた。これまでに、バイオテクノロジー製品の規制官庁である農水省と厚生労働省は、トウモロコシ、ジャガイモ、綿、大豆など39種の食用GM植物品種の輸入を認めている。米国と日本のバイオテクノロジー製品の安全性を評価するアプローチは、きわめて近いものである。

 しかし、米国は、日本のバイオテクノロジー食品に関する承認の検討がタイムリーに行われないことに懸念を抱いている。2001年の、米国で承認され消費されているが、日本では承認されていないバイオテクノロジーで作られたジャガイモ品種を含むジャガイモ完成食品の回収は、日米の食品会社に数千万ドルの損害をもたらした。米国は、日本の輸入規制要件を満たすことを約束しているが、日本に対し、科学的な食品安全評価を迅速に完了させること、そしてデータの必要性と安全見直しの迅速な完了の必要性をバランスさせることを求める。

 米国はまた、バイオテクノロジー製品で作られた食品に対する表示の義務付けを日本が拡大しようとしていることに深刻な懸念を抱いている。なぜならば、このような表示は、健康上のリスクがないのに、それを示唆することにより、バイオテクノロジーを使用した食品の購入を消費者に控えさせることになるからである。2001年に、農水省は、バイオテクノロジーたん白質が含まれていない高オレイン酸大豆油をGM表示義務リストの中に含めた。米国は、バイオテクノロジーで作られた食品に関する情報を消費者は得るべきだと考えるが、教育的な資料、公開討論、あるいは任意表示制度などの表示義務に代わる方法が、消費者に対して、より意味のある情報を与えることになると考える。米国はまた、表示義務を飼料や種に広げようとする農水省内部で現在検討されている計画に懸念を抱いている。

 米国は日本に対して、WTO、コーデックス委員会、OECD、そしてAPECなどの国際フォーラムにおけるバイオテクノロジー促進と規制に関する討論への参加の継続を求めている。新たなバイオテクノロジーによる食品の開発が続く中で、米国と日本は協力して、効果的な食品安全政策の促進に取り組むべきである。

有機食品に関する新たな基準

 農水省は、新たな日本農林規格の有機食品表示義務の一部として、外国企業に対する実行不可能な認定義務を施行したが、これにより、米国は伸びつつある日本の有機食品市場における主導的な地位を失った。特に懸念されるのは、輸入は政府が認定する輸入業者を通して行うという新たな要件で、これは、長い間続いてきたビジネス関係を損なうものである。農水省は、広範囲の政府間交渉により同省が米国農務省の有機食品原料の有機性認定を認めるまで、米国の認定機関が日本の有機市場に参加することを禁止してきた。米国は現在、農水省が米国農務省によるすべての有機食品に関する認定を認めるように交渉を進めている。

制限的食品添加物リスト

 日本の過度に制限的な食品添加物リストにより、米国の食品、特に加工食品の輸入が制限されている。国際慣行からかけ離れている日本の規制は、食品添加物の認可を食品ごとに義務付けている。例えば、日本は、ソルビン酸カリウムを含んだライトマヨネーズ、クリーミーマスタード、またはイチジクの輸入の認可を拒否している。ソルビン酸カリウムは、FAO・WHO合同食品添加物専門家委員会などの多くの国家・国際規格設定組織が評価し、認可している食品添加物である。しかしながら、日本は、他の36種類の食品にはソルビン酸カリウムの使用を認めている。これらの食品の大半は、通常国外では作られない伝統的な日本食品である。

栄養補助食品

 従来、日本では、栄養補助食品(ビタミン、ミネラル、ハーブ、および非有効成分)は薬品として分類されてきた。その結果、日本市場ではそうした補助食品の形状、服用量、および小売方法に厳しい制約が課されてきた。こうした規制は、日本市場に参入する多くの外国の補助食品企業に、過剰なコストと困難をもたらしている。

 強化されたイニシアティブの下で達成された進展に基づき、日本は、栄養補助食品に栄養上および健康上の効能があることを裏付ける科学的データ・情報が存在する場合には、栄養補助食品のメーカーが製品の販売に際してそうした利点の宣伝を認める方向にある。しかし、そうした宣伝をするために必要とされるデータの種類に関して、懸念が生じている。規制制度が求めるデータ要件は、妥当かつ適切なものであるとともに、安全と効能の確保に必要な基準に限定されるべきである。また、規制の決定にあたっては、すべての入手可能なデータと情報を十分に考慮した上で、明白な科学的根拠に基づくべきである。日本は、製品の評価および承認に必要な日本人以外のデータおよび情報の利用範囲について協議を続けることに同意した。この問題および他の栄養補助食品の問題は、MOSS/規制改革イニシアティブの下で取り上げられている。

動物用医薬品

 日本は通常、科学的証拠を評価する前に、FAO・WHOコーデックス委員会による国際基準の採用を待つ。しかし、この方針は、日本における動物用医薬品の許容水準設定を、大幅に遅らせている。米国は日本に対して、この手続きを迅速に行い、またコーデックスの審議結果を待つことでプロセスが遅れることがないようにすることで、日本で販売される動物用医薬品の安全審査プロセスの改善をするよう求めている。

政府調達


コンピューター

 米国のコンピューター製品・サービス供給業者は、製品・サービスの技術と性能における世界のリーダーであり、日本の民間部門における最大かつ最も成功している外国企業の1つであり続ける。しかし、一方で日本の公共部門のコンピューター市場への参入問題は、依然続いている。2001年3月にワシントンで行われた1992年2国間コンピューター合意に基づく2国間見直し会合において、日本は、公共分野市場における外国のシェアがごくわずかながら増加(前年比1.2%増加し17.7%に)したことを示すデータを提示した。日本政府のデータによると、公共部門コンピューター市場の外国シェアは、コンピューター合意が締結された当時のシェアとほとんど変わっていない。さらに、そのシェアは、長年日本の民間部門で外国企業が保ってきた約30%のシェアに遠く及ばない状況が続いている。

 日本の民間部門と公共部門における米国のシェアの格差が縮小せず、またこの分野の技術が急速に進歩している状況にかんがみ、米国は日本に対して、公共部門の調達におけるインターネットの完全活用をさらに進め、入札評価における「総合評価方式」(OGVM)活用を拡大し、そして今後のさらに数多くの調達に関する事前情報を入札希望業者に提供することを提案する。積極的な姿勢を見せた日本は、2005年度に政府調達をインターネットに移行させる意向を表明している。米国政府は、この分野における展開を引き続き見守っていく。

建設、設計、エンジニアリング

 公共事業に関して有効な合意は2つある。1991年の大型プロジェクト特例措置(大型公共事業への参入機会等に関する日本政府の措置 ― MPA)と、「公共事業の入札・契約手続の改善に関する行動計画」(行動計画)を含む1994年の日米公共事業合意である。MPAには、海外からの参加を促進するための42件のプロジェクトリストが含まれる。1994年の合意に基づいて、日本は、WTOの政府調達に関する協定(GPA)に規定される金額以上の額の調達については、オープンで競争的な手続きを採用しなければならない。1994年合意は引き続き有効である。しかし、その中の協議条項は2000年3月に失効した。米国は引き続き、「成長のための日米経済パートナーシップ」の下に設けられた貿易フォーラムなどの場を利用して建設に関する問題を日本と検討していく。

 2500億ドルにのぼる日本の公共事業市場における米国のシェアは、2001年には1%を大きく下回っていた。米国の設計・コンサルティング企業および建設企業の世界における競争力を考慮すれば、この状況は問題である。米国は、日本の公共事業分野における設計・コンサルティングおよび建設プロジェクトに米国企業が効果的に参加することを妨げる重大な問題を含む慣行が存在すると、考えている。これらの慣行には、横行する談合、ジョイントベンチャー編成に関する不合理な制限、あいまいで差別的な資格審査・評価基準の使用、そして国際合意により設けられた枠以下に抑えるための個々の調達の仕組み、が含まれる。

 入札企業が相談して、事前に落札企業を決めるという根強い談合が、日本の公共事業市場で広く行われている状況は続いている。最近では、東京都の多摩地区とそのほか地域で、いくつかの事例が見られた。さらに、米国は、日本の建設会社が、実際に工事が遂行できるのかどうか疑問に思われるような低価格で入札する不適切な入札慣行にも懸念を抱いている。談合により発生する問題は、政治家、官僚、建設企業間の「癒着」によりさらに増幅する。つまり、政治家が自分の影響力を行使して、特定の日本企業に対し有利な公共事業プロジェクトの入札・契約条件を取りつけるのである。最近では、茨城県、和歌山県および徳島県の事例が報告されている。調達機関の担当者が意識的に談合をほう助している実態が、この問題をより複雑なものにしている。米国は、公取委と調達機関を含む日本政府に対し、こうした慣行の排除と、加担する公務員への制裁に強い措置を取ることを求める。

 ジョイントベンチャー編成に対する不合理な制限は、外国企業の日本の公共工事事業への参加を妨げている。建設におけるこうした制限には、大半の建設プロジェクトに参加するジョイントベンチャーの企業数を3社に限定するジョイントベンチャー3社規則がある。設計においては、建築設計企業が、2社あるいはそれ以上の企業が各社の専門技術を持ち寄りプロジェクトの質を高めることができる場合でさえ、意匠設計分野での協力作業をすることは禁じられている。米国は日本に対して、ジョイントベンチャーが適切であるかどうかを決めること、また適切であれば、仕事の規模と各企業の能力を基にメンバーの数を決めることを調達側ではなく企業に行わせることを引き続き求める。

 あいまいで差別的な資格・評価基準を日本が引き続き適用していることに関して、米国は日本に対し、調達に参加できる企業の数を制限するのではなく拡大するために、特定の調達に適用する基準を明確にすることを求めた。長年の間、米国は日本に対して、公共事業市場へのPM/CMでの導入を求めてきた。PM/CMは、時間と経費の節減によりプロジェクト効果を最大限に高めるための先進的技術である。2001年に、日本の国土交通省は、CM方式を利用する調達を発注し始めた。米国は日本に対し、CM方式により可能になる効率改善を完全に実現し、適切な専門技術のある外国企業が競争への参加資格を認められるように、これらの調達を構成することを求める。

 2001年9月に、日本は、第3回日米建設協力フォーラム(CCF)を主催した。 同フォーラムの目的は、日米企業のジョイントベンチャー編成を促進し、日本の公共事業市場への米国企業のより十分な参入を可能にすることである。(CCFは、民間部門の会合であり、政府間協議の場に代わるものではない。)米国は、CCFによる具体的な結果を期待している。

 米国は、米国企業が特に関心を抱いている公共事業合意の対象になっているいくつかの重要プロジェクトに特に注目している。これらには、中部国際空港、千歳空港、羽田空港、JRによる調達、関西国際空港、神戸空港、九州大学移転プロジェクト、新北九州空港および文部科学省管轄の研究所プロジェクト、がある。これ以外に関心のあるプロジェクトには、高齢者のための医療施設を含む主要病院プロジェクトや都市再開発プロジェクトがある。さらに、米国は、民間資金を活用した社会資本整備(PFI)プロジェクトに注目している。

医療技術

 米国企業は引き続き世界有数の先端医療技術メーカーであり、そして、1994年の医療技術合意は、米国などの外国企業が日本の公共部門で、医療技術機器・サービスの販売をより効果的に行うことを可能にするための重要な一歩である。

 この合意の年次点検会合は、最近では2001年3月に行われた。この会合で日本が提出した1999年度のデータによると、外国企業の市場占有率は46.1%で、1998年度の46.9%よりわずかに減少していた。合意の下で調達された外国製品・サービスの比率は、1999年度も基本的に変わってはいないが、外国医療技術の調達総額は、1998年度の384億円から1999年度には305億円に減少した。随意入札による契約が1998年度の47億円から20億円に減少したことから、1999年度の医療技術の入札で競争が激化したものと思われる。

人工衛星

 1990年の日米人工衛星調達合意に基づき、日本は研究開発用以外の衛星調達について、外国の衛星メーカーに門戸を開くことに合意した。現在まで、この合意は、日本政府の調達市場を外国からの競争に開放させることに成功している。この合意に盛り込まれている競争的手続に基づき、1990年から2001年までに8度、公開入札(総額で約20 億ドル)が行われ、うち7回は、この分野で世界をリードする米国の衛星メーカーが落札した。米国企業が完全に落札しなかった唯一の契約にも、米国のシステムが使われている。この分野での米国企業の競争力を考えると、米国はこの傾向が今後も続くことを期待している。米国政府は、日本による合意の順守状況と、「研究開発用(R&D)衛星」の定義の適用状況を引き続き見守る。

電気通信

NTT資材調達取り決め

 NTT各社は、引き続き日本の単一で最大の電気通信機器購入者であり、最近の統計によると、360億ドルの規模を持つ日本の電気通信機器市場のほぼ3分の1を占める。このような「NTT市場」は、これまでも、また今後も、米国その他の外国の電気通信企業にとって大きな関心の対象である。

 20年にわたり7回継続した外国製品・サービスの日米NTT調達合意の最終合意は、2001年7月に失効した。2001年6月に行われた最後の見直し会合にNTTが提出した統計によると、外国供給業者からの製品調達の比率は増加し続けており、10億ドルを優に上回る水準に達した。この水準での外国製品・サービス調達は、最初の合意がまとまった1980年当時には当たり前だったごくわずかな1%をはるかにしのぐものである。

 米国は、NTT合意が、市場に左右される要因に基づいて調達決定をする方向にNTTを動かし、したがって競争型の公正で透明な電気通信機器市場の構築に貢献したと考える。しかしながら、NTTによる機器調達の外国製品の比率は、(従来から外国製品に対する開放度がはるかに高い)日本の民間電気通信業者および世界の電気通信市場における比率と比べると低い水準にとどまっている。年間100億ドルを超える調達を行っているNTT各社は、米国の企業の得意分野であるデータ関連とインターネット関連の技術分野の調達を増やす計画である。したがって、米国は、NTT各社の外国製機器調達の増加が続くこと、そしてNTT市場へのアクセスの改善が米国企業に新たな機会をもたらすこと、を期待している。米国は、米国の業界と定期的に協議しながら、NTTの外国製品調達の状況、そしてすべての供給業者に調達機会を提供するNTTの努力の成果を見守っていく。調達環境における発注から納入までの期間の短縮と利幅の縮小が続く傾向にかんがみ、調達ガイドラインの情報開示その他の基準をNTT各社が順守することが重要になる。米国は、今後起こる問題について日本政府と協議していく。

公共部門における電気通信機器およびサービスの調達に関する合意

 1994年の日米電気通信調達合意に基づき、日本は、大規模な電気通信調達に関して、入札前の資料提供招請や仕様原案作成への参加が平等でないこと、発注決定基準があいまいであること、そして単一企業への過度の発注がある、などの障壁を撤廃するための手続きを導入した。

 米国と日本は、2001年3月に、日米合意の下での協議を行い、1998年度と99年度のデータの見直しを行った。米国は、日本政府の電気通信製品・サービス調達における外国製品の占有率が、日本政府のデータによると6%未満と引き続き低いことについて、長年の懸念を改めて表明した。これとは対照的に、外国企業は日本市場全体で13%の占有率を獲得し、また外国供給業者は日本の民間部門に対して、またNTTに対してさえも売り上げを増加させている。

 米国はまた、この合意が単一企業入札の削減を求めているにもかかわらず、単一企業入札が1994年度から99年度にかけて6倍に増えていること、また政府の電気通信調達合計の中で占める単一企業入札の比率が1999年度には27.4%に達していることに、特に言及した。

 IT分野で世界のリーダーになることを目標に、日本が「e-Japan」戦略を実施する中で、戦略のインフラ構築の要求を満たすために、地方自治体や中央省庁による電気通信関連の調達が増加するだろう。米国は、電子政府が、調達においてより一層の透明性を可能にすることで外国供給業者にとっても利益になることを期待している。米国はまた、「成長のための日米経済パートナーシップ」の下での貿易協議を含むさまざまな場で、今後の日本の公共分野における外国電気通信製品・サービスに対する市場アクセス関連の問題を提起し、対処する。

知的財産権保護

 米国は、緊密な2国間協議や多国間・地域フォーラムにおける効果的な協調を通じて、日本における知的財産権保護の課題に取り組んできた。

 日本は、「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約パリ改正条約」、「万国著作権パリ改正条約」、「パリ工業所有権保護同盟条約」(パリ条約)、「特許協力条約」および「世界貿易機関知的所有権の貿易側面に関する協定」(TRIPS)の加盟国である。日本は、「著作権に関する世界知的所有権機関(WIPO)条約」を批准している。この条約は、インターネット上における著作者に対し新たな保護措置を講じている。日本は、WIPO「実演・レコード条約」に調印しているが、いまだ批准はしていない。2000年5月1日、米国通商法スペシャル301条の「監視リスト」から、日本は除外された。しかし、米国は2001年5月のスペシャル301条に関する発表に当たり、日本における知的財産権保護の一部の側面について懸念を表明し、そうした側面を今後も注意深く監視することを明らかにした。

 日本は、知的財産権の保護を改善しつつあり、また他国に比べて、著作権侵害は大きな問題になっていない。しかし、日本には、デジタル時代における著作権保護に向けた法的・行政上の知的財産権の枠組みを改善する必要性など、いくつかの重要な課題が残されている。米国は、日本がさらなる措置を講じることが必要と思われるいくつかの分野を指摘してきた。それには、(1)依然として残る特許関連問題に対処すること、(2)特にインターネット上の著作物の保護を改善し拡大すること、(3)周知・著名商標の保護を効果的に行うこと、(4)地理的表示を保護すること、(5)営業秘密情報の保護を強化すること、そして(6)水際規制のメカニズムを改善すること、が含まれる。

特許

 米国は、特に、特許の設定登録へのアクセスと承認の改善および、特許請求の範囲を厳格に解釈する日本の慣行の改革に注目している。米国は、日本の特許行政に関し、裁判所での特許訴訟に比較的時間がかかること、証拠開示手続の順守を強制する効果的な手段がないこと、そして証拠開示により明らかにされた秘密情報に対する保護が十分でないことなど、いくつかの側面を懸念している。米国はまた、日本におけるビジネスモデル特許、特にインターネットに関するビジネスモデル特許の保護が十分でないことを懸念している。WTOのTRIPS協定では、加盟国が、ビジネスモデルを含むあらゆる技術分野において発明に特許権を設定することを義務付けている。

 日本は近年、これらの課題に対処する多くの措置を講じてきた。特許法が改正され、2000年1月1日に施行された。この改正は、原告が法廷で特許侵害を立証しやすくすることを意図したものである。主な条項として、侵害者による自己の行為を正当化する要件を強化する、侵害者が(損害額の)計算鑑定人と協力することを義務付ける、損害賠償額を裁判官の裁量とする、詐欺行為によって特許を取得したケースでは刑罰を重くする、そして裁判所が特許庁から技術上の助言を得ることを許可することなどがある。日本の裁判所が要求する立証責任は、これまで外国の特許権保有者にとって特に負担となっていたが、今回の法改正によりこれが軽減されるかどうか、米国は注意深く監視を続ける。

 法改正の結果、特許を申請後、申請者が出願審査の請求をできる期間が、7年間から3年間に短縮された。特許庁によると、2000年12月現在、「ファーストアクション期間」(特許申請日から特許庁による最初の回答までの期間)は21カ月であった。2001年1月6日に施行された新たな法律により、弁理士の数が増え、また弁理士に許可される業務範囲が拡大された。米国は、日本における特許保護の水準を改善するこうした措置を評価しており、特許法のさらなる強化のため、さまざまな協議の場を通して今後も日本と協力する。

著作権

 インターネットの利用が拡大し、インターネットへの高速アクセスも飛躍的に増大しているため、日本での知的財産権保護、特に著作物に対する保護に関して新しい課題が生じている。電子商取引が広く普及し、ゲーム、音楽、映画、ソフトウエアのようなコンテンツ関連産業が引き続き発展するには、こうした著作物の保護が極めて重要である。米国は、インターネット・サービス・プロバイダー(ISP)の法的責任に関して最近成立した法律を特に懸念している。現行の法律では、インターネット上における著作権保有者の著作物保護は十分でなく、また電気通信事業者、サービス・プロバイダー、権利保有者およびサイト開設者の間の適切で必要な利害関係の均衡を供与していない。米国は日本に対し、この新法を施行していく過程で、明確でバランスのとれたISPの法的責任ルールを確立することを求める。

 米国はまた、一時的複製が著作権保有者の複製権に含まれることを明確化することに躊躇している日本の姿勢を懸念している。2000年に、作品複製が容易なプログラム形式で、音楽番組をデジタル放送した放送事業者は、著作権侵害していないとの判決を、日本の裁判所が下したが、これにより、日本における一時的複製の取り扱いに対する米国の懸念は、ますます強くなった。判決によると、放送事業者には著作物を複製する権利があり、それを複製するかどうかは視聴者自身が決定できる。裁判所は、放送事業者が、視聴者にそうした機会を提供しても、作品の複製まで奨励したわけではない、と結論づけている。今後も同様の解釈が続けば、著作物を保護する手立ては失われてしまう恐れがあるだろう。米国は、そうした見解が著作物に与える影響を特に懸念している。

 日本は2001年、著作権侵害に対する懲罰的損害賠償金の上限を300万円から1億円に引き上げた。また近年、日本では、コンピューターソフトの著作権侵害に対する取り締まりに進展があった。しかし、最新の統計によると、ソフトウエアの著作権侵害は1999年から2000年にかけて増加している。オンライン上の著作権侵害行為の脅威が増大している状況に特にかんがみ、米国は日本に対し、著作権侵害発生率を削減する措置を講じるよう引き続き求める。著作権侵害を抑止する有効な手段確立への重要な一歩として、実際の損害額賠償ではなく法定損害賠償を可能にし、証拠収集のより効果的な手続きを規定するため、日本の民事訴訟法の改正することがある。さらに、民間部門に模範を示すため、政府の事務遂行に当たっては、合法的に製造・許可されたソフトウエアだけを使用することを明確にした声明を出すことを求める。

 日本は2000年1月、WIPO著作権条約加盟に向けて著作権法の一部改正を行った。改正法の主な規定には、著作権回避を目的とした装置の製造・流通、および営利目的で著作権管理情報を不法に改ざんすることに対する刑事処罰が含まれる。一般に入手可能な著作権法の翻訳版によると、回避対策の項で、著作権回避装置に対する罰則は、回避を行うことを「専らその機能」とする装置のみを対象とするとされているが、米国はこの点を懸念している。この法律はまた、上映権の対象を映画から静止画にも拡大するとともに、消尽の準則が映画、書籍、CDにも適用されるよう譲渡権を設定している。

 さらに米国は、著作権保護、特にインターネット上のコンテンツの著作権保護の慣例として、ある種の形式的手続を設けようとする、最近の民間部門と政府の動向を懸念している。米国は、そうした動きは国際的に受け入れられている著作権制度の基準から逸脱するものであり、国内外の著作権保有者に対し重大な問題を提起する可能性があることを強調しておきたい。

 米国はまた、共同で作曲を行う音楽家に関する日本の慣行を明確にし、彼らがその著作物に対して、完全な保護期間が保証されるよう引き続き求める。

商標

 日本では、商標の保護を受けるには商標を登録する必要がある。このため、登録処理が遅れると、外国の商標権者は保護を受けることが困難となる。2000年3月のマドリッド・プロトコルの批准に備えて日本が可決した法案には、いくつかの有用な条項が含まれている。日本は、2000年1月1日付けで、受理された商標出願の出願公開制度を導入した。また、商標権者は、2000年3月14日以降、当該商標の出願から登録までの間に発生した損害の賠償を受けることができる。

 日本は、1997年に商標法を改正したが、これは商標権の取得を迅速化し、周知・著名商標の保護を強化し、未使用の商標に関連する問題に対処し、さらに商標登録手続を簡素化して、日本が商標法条約を順守することを目的としたものである。また、これらの措置は商標権侵害に対する罰則も強化している。残念ながら、日本の不正競争防止法に周知・著名商標の保護を強化する規定があるにもかかわらず、周知・著名商標の保護は依然として弱いままである。特に懸念されるのは、周知・著名商標の登録に当たって、当該商標が著名であるか否かを特許庁の審査官が職権により決定することである。

地理的表示

 TRIPS協定の第22条から24条は、地理的表示と商標との関係に関してWTO加盟国の義務を定めている。TRIPS協定に義務付けられているように、日本において現在、地理的表示の不正使用を防ぐ法的手段が関係者に与えられているかどうか、また、商標と地理的表示との間の紛争を解決する法的手段が商標権者に与えられているかどうかという点が明確ではない。米国は、TRIPS協定第22条から24条に定められている義務を、どのような法的手段によって日本が履行するのかということに関する情報を受け取ることを期待している。

営業秘密

 日本は、裁判における営業秘密の保護を強化する目的で民事訴訟法を改正し、営業秘密を含む訴訟記録を公共の閲覧の対象から除外したが、この改正は、不十分である。日本国憲法は非公開審理を禁止しているため、日本の裁判所で営業秘密の悪用に対する補償を求める場合、営業秘密の保持者は、秘密の保護を求めるに当たって、その秘密の要素を明らかにすることを強いられる。さらに、営業秘密に関する裁判所での審理がいまだに一般公開されており、訴訟当事者も代理人の弁護士も守秘義務を負わないため、日本の裁判所における営業秘密の保護は米国や他の先進諸国の裁判所に比べ、はるかに弱い状況が今後も続く。米国は、日本がこの分野においてさらなる改革を推進することを引き続き求めていく。

水際規制

 米国は、特許製品の並行輸入を認めた1997年の日本の最高裁判決を現在も憂慮しており、財務省関税局によるこの政策の実施を引き続き監視していく。さらに日本は、関税局・税関を通じて商標権・著作権の職権による水際規制を行う際に、(知的財産権)侵害物品を積極的に阻止することによって取り締りの強化を進めるべきである。米国は、日本による水際規制措置の強化に向けて、外国の知的財産権保有者が、知的財産権侵害に対する水際での保護を受けやすくできるよう、日本がそうした措置の運用、検査手続きや収容手続きを改善することを求めている。これに応えて、日本は2001年に水際規制を強化した。米国は日本が講じてきた措置を評価し、今後も水際規制の改善と強化を続けることを求める。

サービス障壁

 本項では、保険および専門職業サービスの2項目について触れる。エネルギーサービスについては、分野別規制改革の項で述べられている。

保険

 日本の民間保険市場の規模は、米国に次いで世界第2位で、2000年の正味収入保険料は、推定で4500億ドルである。国内および外資系の民間保険会社の他に、国の大規模な郵政事業や医療保険制度である簡保(簡易保険制度)そして数多くの相互扶助組織(共済)が、日本の消費者に対して巨額の保険を提供している。簡保と共済を除く日本の保険業界は、金融庁(その前身は1998年6月に設立された金融監督庁)によって規制されている。金融庁は、日本の金融に関わる規制のあらゆる分野を管轄し、保険業務に加え、銀行・証券業に関する金融活動の検査、監督、監視などを行っている。

 1994年と96年に締結された2つの2国間保険合意が、施行されている。この2つの合意は、日本の保険市場の規制改革に大きく貢献してきた。これらの合意条項の下で、日本は、抜本的な措置を導入することを約束し、その結果、商品認可プロセスが大幅に改善され、保険商品の直接販売が増加し、リスク別自動車保険が導入された。2つの合意による前向きな変化が主な要因となって、日本の生・損保両分野で、外国保険会社の影響力が、目に見える形で大きく拡大した。米国その他の外国保険会社は、第3分野での好調な販売を維持する一方、近年は主要分野でも、商品開発と革新的なマーケティングにより急速にシェアを拡大している。現在日本における外国保険会社のシェアは、損害保険市場全体の5.4%、生命保険市場全体の5%と推定される。第3分野において、外国企業は、医療保険市場のおよそ69%、そして傷害保険市場の約19%のシェアを保っている。さらにこの分野では、外国企業が関与する新たな企業提携や最近の企業買収が、日本における外国企業の存在感を大きく拡大している。

 市場が変化し、日本政府がこの分野のさらなる規制改革と自由化を進める中での、この分野における目覚ましい成功にもかかわらず、米国の保険会社にとって多くの優先課題が出てきた。こうした課題には、変額年金などの新商品の導入や、これらの新商品の販売を銀行に拡大する可能性などを含む保険市場のさらなる自由化と拡大が含まれる。米国は日本に対し、規制改革の基本原則の1つとして競争の拡大という目標を設定すること、またパブリック・コメント手続きや政府諮問機関への参加等の手段を通じて、指針や規制の策定や改正に関する情報収集、意見の表明、および日本政府関係者との意見交換を行う意義ある機会を国内外の保険業界に提供することを求める。

 保険合意の下での2国間協議は、最近では2001年7月に東京で開催された。過去の協議と同様、今回も、全米保険監督官協会(NAIC)を代表して、監督官1名が、協議に参加した。この中で、両国は、日本の保険商品認可プロセスや金融庁内における必要な資源・技術の確保に関する課題を含めて、日本の保険分野の行政および規制上の改革について協議した。米国政府は、「生命保険をめぐる総合的な検討に関する中間報告」にパブリック・コメントを求めた金融庁の姿勢を歓迎した。中間報告に関して日本に提出した書面ならびに協議の中で、米国は、この報告書に述べられている多くの結論を支持することを表明した。これらの結論は、金融庁による標準審査期間の短縮、そして一部の保険商品に対する、より負担の少ない即時発効の届出制である「ファイル・アンド・ユーズ」制度の導入が必要であるとしている。最近の日本の中堅保険会社の破綻にかんがみ、日米両国は、生命保険契約者保護機構と損害保険契約者保護機構に関する最近の変革についても協議を行った。これは、日本が、経営破綻した保険会社に資本・経営支援を行うために1998年に設立した、強制的な保険契約者の保護制度である。日本の保険市場における強力で安定した存在感にもかかわらず、米国の保険会社は、将来これらの基金に対し、より多くの出資を求められることに強い懸念を抱いている。米国はまた、2003年、郵政事業庁が郵政公社に移行するという総務省の郵便金融機関の計画に関しても懸念を抱いている。米国は、2001年10月の規制改革要望書の中で、この移行のあり方に関していくつかの提言を行った。この提言には、特殊法人に関する日本政府の計画における透明性の向上、郵便金融機関(簡保ならびに郵貯)の新規のいかなる保険商品の引き受けも、また元金非保証型投資商品の元売りも禁止すること、そして民間部門の金融機関に課している基準を郵便金融機関にも適用すること、が含まれている。この制度に対するいかなる修正も、日本の保険市場における競争に大きな影響を与える可能性があるので、米国政府はまた、民営化の可能性も含めた郵便金融機関の将来に関する決定は、オープンで透明な方法で行われ、実施されることを強く求めた。

 規制改革イニシアティブの下での米国と日本の協議は、今後も継続する。保険合意の下での次回の年次協議は、2002年に開催される予定であり、その席で米国は、広範にわたる課題について十分な議論を行うことを期待している。

専門職業サービス

 外国企業や個人が日本で専門職業のサービス業務を提供しようとしても、複雑で多岐にわたる法律、規制、商慣行などの障壁に阻止される。米国の専門職業サービス供給者の競争力は高く、また彼らのサービスは、米国からの輸出として重要であるだけでなく、米国の他のサービス業者や製品の輸出業者の日本市場へのアクセスを容易にする手段としても重要である。さらに、米国の専門職業サービス供給者は、国際市場での幅広い経験から得た貴重な専門知識を提供し、彼らが業務を行う国の経済革新の刺激になる。このようなサービスの入手を可能にすることは、米国企業が日本に対する投資の意思決定を行う上で重要な要素になる可能性があるため、対日直接投資環境の改善のためにも中心的な意味を持つ。

会計監査業務サービス

 米国の会計監査業務サービス供給者は、日本でさまざまな規制などの市場アクセス障壁に直面し、この重要な市場に貢献する能力を阻害されている。規制対象の会計業務を提供できるのは、日本の法律下で公認会計士の資格を持つ者、あるいは日本の公認会計士5人以上のパートナーにより構成される監査法人に限られている。外国会計士は、公認会計士としての資格を得るために、外国人向けの特別試験に合格しなければならない。この試験が最後に実施されたのは1975年である。公認会計士は日本公認会計士協会の会員になり、会費を支払わなければならない。

 日本の公認会計士だけが、監査法人を設立、所有したり、監査法人の役員を務めることができる。監査法人は、外国公認会計士を職員として雇用できるが、外国公認会計士が監査業務を行うことは認められていない。さらに、監査法人が外国公認会計士をパートナーまたはアソシエートとして雇用できるのは、そのパートナーまたはアソシエートが監査業務を提供しない場合に限られる。監査法人が税務に関する業務を提供することは禁じられているが、まったく別個の事務所を持つ限りにおいて、同一人物がその2つの業務を行うことができる。監査法人には法人設立が要求されるが、監査以外の会計業務を提供する事務所はこの限りではない。外国法人の支店や子会社は、規制対象の会計業務を提供することはできない。また、外国法人が、国際的に認知された法人名を使って業務を行うこともできない。その正式な法人名は日本語でなければならず、しかも日本公認会計士協会の承認を受けなければならない。米国は日本に対し、このような制限の撤廃を引き続き求めていく。

法律業務

 1970年代以降、米国の弁護士は日本の法律業務市場へのアクセス拡大と、日本人弁護士との提携関係形成の完全な自由化を求めてきた。しかし、日本弁護士連合会(日弁連)の強硬な反対と消極的な日本の官僚組織により、この目標は大きく阻まれてきた。1987年以降、日本は、外国弁護士が事務所を設置すること、および日本で外国法事務弁護士(外弁)として、原資格国の法律に関連する事項について助言を行うことを許可してきた。ただし、これは、「外国弁護士による法律事務の取り扱いに関する特別措置法」(1986年改正、法律第66号、外国弁護士法)により制限を受けている。

 日本は外国弁護士に関するいくつかの制限を緩めてきたが、日本の国際法律業務分野における最も重要な構造上の欠陥により、日本の弁護士と登録された外弁との間の許可された関係に関して厳重な制限が残されている。2001年10月の規制改革要望書の中で、米国は、日本の弁護士と外国弁護士の提携の自由を禁止するあらゆる規制の撤廃を最優先課題にした。そして、日本と外国の弁護士に、対等の法律専門職として、依頼者のニーズに最もかなった業務サービスの提供を可能にするため提携の形態を自ら決定できるようにすることを、日本政府に求めた。米国はまた、弁護士と外国弁護士にパートナーシップの形成を認める代わりに、日本が1995年に設けた「特定共同事業」制度は、弁護士と外弁間の効果的なチームワークに必要な枠組みを与えておらず、またその後行われたこの制度の調整も、日本における弁護士のニーズを満たしていないことを強調した。

 米国はまた、日本が外国弁護士に対して、日本の弁護士の雇用を認めること、いわゆる「第3国」法(当該外弁の登録国以外の国の法律)に関する助言を日本の弁護士と同等の立場で提供することを認めること、そして専門職法人、有限責任パートナーシップ(LLP)および有限責任法人の設立を認めることを提言した。米国はまた、日本の外国弁護士規制制度の改善を提言した。具体的には、日弁連および地方弁護士会が、外弁に影響を与えるすべての法律と規則を策定し執行する際に、外弁に効果的に参加する機会を与えることを、日本政府が確保することを求めた。

投資障壁

 日本は世界第2位の経済大国にもかかわらず、国内総生産に対する外国からの対内直接投資(FDI)の比率が主要OECD諸国の中で最も低い状況が続いている。2000年時点での対日直接投資の累積総額は国内総生産(GDP)の1.1%にすぎない。これに対し、米国は12.5%、英国は29%となっている。対日直接投資は元の水準が低いとはいえ急速に増加しており、2000年度には対前年度比300%増加した。2000年度に急増した分野は、銀行・保険および電気通信である。しかしながら、2001年度上半期の対日直接投資は急減し、対前年同期比で18.7%減少した。同期における米国からの直接投資は33.1%減少したものの、総額の28.7%を占めている。対照的に、ヨーロッパからの直接投資は急増し、同期の投資総額の58.7%を占めている。

 対日直接投資に関わる直接的な法的制約の大半は撤廃されたが、官僚による差別的な裁量権の行使が一部見られるなど、官僚的な障壁は残る。現在、日本の外国為替法では多くの場合、投資計画について事後届出しか求めていないが、農業、鉱業、林業、漁業などの多くの分野では依然として省庁への事前届出が求められる。しかしながら、対日直接投資が低水準にとどまるのは、行政レベルの障壁よりも排他的な商慣行と高い市場参入コストの影響によるものである。

 既存の日本企業の買収が難しいこと、また仮にそのような企業を買収したとしても他の日本企業と従来通りの取引形態を継続できるかという懸念もあり、日本では合併・買収(M&A)を通じた投資アクセスが他国に比べて難しい。しかしながら、経済再編の圧力とM&Aの急増により、系列関係はある程度弱体化している。米国の投資家は、日本でのM&A活動に対する障壁として、財務の透明性と情報開示が欠けていること、そして経営手法が異なることを挙げている。M&A活動にかかわる経験豊富な弁護士、監査人、会計士などの人材不足も、対日直接投資を阻んでいる。

 日本市場の基本的な現行制度に必要とされる変更に焦点を当て、日本への外国からの投資(および国内投資)に関する全般的な環境改善に資する政策変更を促すため、投資作業部会が、パートナーシップの下に設立された。より具体的には、米国は日本に対し、直接投資環境の改善に資する重要な3つの措置を考慮するよう求めた。すなわち、日本における資本の生産性を向上させるために、より活発で効率的なM&A市場を構築すること、土地市場の流動性と外国投資家による土地へのアクセスを改善すること、そして日本の労働市場の柔軟性を向上させること、である。

 合併・買収の分野で、米国は以下の提案を行った。(1)新たなリスクベンチャーへ投資する親会社の税引き後コストを引き下げることにより投資を促すため、連結納税制度を認める。(2)日本における広範な株式持ち合いを解消する措置を取る。(3)企業幹部が株主の利益より会社への忠誠を優先させることがM&Aの申し入れを早い段階で拒絶することにつながるため、こうしたことを減らすよう企業統治を改善する。(4)株式交換を認めたり株式上場の要件を緩和するなど、金融市場の規制改革を継続する。(5)他企業とのM&Aに関心を持つ企業を支援するため、財務情報の開示を改善する。(6)会計や法律専門職にかかわる規制をさらに緩和するなど、M&A関連のサービスを入手しやすくする。(7) 企業やその資産の「救済的な」買収あるいは合併を容易にするため、より円滑で柔軟な倒産手続を導入する。

 米国は、土地や不動産取引に関して、土地市場の流動性を改善することに焦点を当て以下の提案を行った。(1)土地に関する税負担について取得税より保有税をより重視するため、土地税の追加的な減免措置を取る。(2) 都心部の土地開発に関する規制を緩和するとともに、農地の転用に対する制限を緩和する。(3) 新規の投資家が取得した不動産を柔軟に利用できるよう、賃貸制度を改正する。(4) 不動産取引に関する情報開示を制度化する。(5) 不動産投資信託(REIT)の導入を図るため、特別目的会社法(SPC)やその他の関連規則を改正する。

 最後に米国は、日本における労働力の流動性向上の必要性を強調し、以下の提言を行った。(1)年金の移動継続性を向上させる有用な方法として、確定拠出型年金制度を導入する、(2)外国投資家が必要とする現地の人材確保支援のため、有料の職業斡旋所に対する規制を撤廃する、(3) 新規の投資家が労働力を確保しコストを削減できるよう、また失業者の再就職を支援できるよう、人材派遣業を自由化する、(4)不必要に企業の経営コストを引き上げ、効率を低下させている過度に厳格な規制を緩和する。

 日本は、外国の投資家に機会を提供することにつながる新たな法律を制定したり、既存の法律を改正した。例えば、産業再生法は、事業再建中の既存企業(国内および合弁を含む)に対し、日本政府が事業再構築計画を認定した段階で、税制や信用上の支援措置を講じる。新しい倒産法(民事再生法)も、強制的に資産を清算するより、スピンオフ(事業の一部を分離・独立させる)などの事業再編を促すことで、投資機会の提供につながる可能性がある。その他の法改正により、優秀な人材確保を目指す外国企業にとって重要な課題である、社員に対するストックオプションが認められた。さらに日本は、企業の合理化努力を支援する事業分割に関する法案を準備した。新しい会計規則では、不良資産・負債が明らかになるため、日本の会計基準は国際標準に近づくことになり、また、企業間の広範な株式持ち合いの減少にもある程度貢献している。さらに、日本は2000年4月に、投資を推進することにつながる、商法の大掛かりな改正に着手することを明らかにした。(詳細については、「構造的規制改革」の商法の項を参照。)米国企業はこうした変化を高く評価する一方、これらの措置の利用を促すよう日本の税制の明確化と改正を引き続き求めている。

 投資作業部会は、2001年に3度会合を開いたほか、日本と米国で開催された投資セミナーに参加した。このような活動を通じて、両国政府は、日本における投資環境を改善する施策を探っている。民間部門はこのプロセスに積極的に参加しており、企業統治や規制の透明性向上、会計基準と情報開示基準の改善、そして不動産の流動性と労働力の移動性の改善を図る方法に関して詳細な提言をしてきた。


反競争的慣行

 反競争的慣行は、日米貿易の各分野にまたがる問題である。反競争的慣行および独占禁止法(独禁法)の執行については、本項に加え、分野別規制改革を含めたその他の項で詳述する。

排他的商慣行

 日本市場に参入しようとする米国企業は、市場アクセスを阻害する数多くの排他的商慣行に直面する。それには以下のものが含まれる。

l 独禁法に違反しているが処罰されない民間の反競争的慣行。
l 企業提携や排他的な売り手・買い手の関係。これは、同一企業グループ(系列)に属する企業に多い。
l 外国からの直接投資や外国企業による日本企業の買収を妨げる企業慣行(例えば、会計・財務内容の開示が不十分なこと、系列企業間で株式持ち合いが多いこと、実際に市場で取引される普通株式の対総資本比率が多くの企業で低いこと、社外取締役の登用が一般に少ないことなど)。
l 事業者組合などの業界団体が策定・執行する業界独自の規則。加盟企業間の「秩序ある競争」を維持するため、料金、手数料、リベート、広告、表示等を制限あるいは規制するもので、非加盟企業に適用されることも多い。

 排他的商慣行は、日本経済にとって大きな障害となっている。排他的商慣行は、市場メカニズムを制限することによって、企業や消費者の選択肢を減らし、モノやサービスの価格を押し上げる。加えて、これらの慣行は、革新的な製品やサービスで日本市場に参入しようとする競合事業者の意欲を削ぎ、新規の国内産業や技術の発展を阻害する。また、日本市場に投資しようとする外国投資家の意欲を失わせる。外国投資家の市場進出と技術的革新は、経済を刺激し、外国企業の輸出や販売に重要な経路を供給する。

不当景品類及び不当表示防止法

 公正取引委員会は、景品などの販売促進手段の利用を過剰に制限しており、そのため、販売促進用の合法的な懸賞や賞品も制約している。社名や製品を売りこむため、革新的なマーケティング手法に依存する新規参入の外国企業にとって、公取委の景品に対する規制は大きな制約となっている。また公取委は、本来は民間の事業者団体である「公正取引協議会」が、独自の「公正競争規約」を策定することにより業界の販売促進基準を設定することを認めている。事業者団体は、同規約の名の下に景品表示法に基づいた公取委の規制よりも厳しい基準を採用することが可能であり、また実際にそうする場合も多く、活発な競争を妨げる要因となっている。米国は、公正取引協議会を独禁法の適用から除外する景品表示法第10条第5項を、廃止も視野に入れて見直すよう、日本に対し引き続き求める。2001年末現在、公取委が認定する民間の景品・表示規約が48件ある。さらに、不動産、家電製品、新聞、雑誌、病院経営の5業種には、他の業種よりも厳格な規則が適用されたままである。1990年代後半に、景品規則の自由化を図るいくつかの措置が講じられたが、これらの措置は、米国が求める大胆で競争促進型の自由化措置には遠く及ばないものである。

電子商取引

 最近のIT関連産業やインターネット関連企業の低迷にもかかわらず、電子商取引は、すでに日米両国経済において確立された重要な構成要素となっている。世界第2位の経済大国として、日本は電子商取引の重要な市場であり、またグローバルな電子商取引とインターネットの規制枠組みに関する国際協議の場でも主要な役割を演じている。日本は、政策声明や規制措置を通じて、オープンで民間主導の、かつ規制が最小限のインターネットと電子商取引の環境を支持してきた。

 それにもかかわらず、日本ではインターネットと電子商取引の発展が、他の先進国に比べて遅れており、それはインターネットへのダイアルアップ接続料金が依然として高額なためである。IT戦略会議(2000年7月、当時の森首相により設立され、経済界の指導者が主要メンバーである)は、日本のIT発展を遅らせている大きな要因の1つが高い電気通信料金にあると結論づけている。OECDが2001年に行った試算によると、日本におけるインターネットへの接続料金(オフピーク時利用で、30時間分の料金)は、米国、ニュージーランド、カナダの2倍、また韓国の4倍であると推定している。こうした高い接続料金は、日本の電気通信分野の市場アクセス障壁によるものであり(本章の「分野別規制改革」の項を参照)、これについては現在、日米両国が問題として取り上げている。電子商取引促進のためにまず必要なのは、企業がオンラインビジネスを進めるための手頃な接続費用を提供することである。例えば、最近のデジタル加入者回線(DSL)サービス料金の低下により、電子商取引は費用面からすればいっそう実用的なものになるはずである。しかしながら、消費者と企業の大半は、インターネットへ接続する際に、依然としてダイアルアップ回線を利用している。米国は日本と協力して、日本の高いインターネット接続料金に焦点を当てることで、この重要な分野の強力な成長の確保に努めている。

 米国は日本に対して、電子商取引の成長を推進するに当たって、1998年5月のバーミンガム・サミットにおける「電子商取引に関する日米共同声明」にうたわれ、また2000年7月の「グローバルな情報社会に関する沖縄憲章」で再確認された原則を尊重することを引き続き求める。そうした原則の中でも特に重要なのは、(1)民間部門が電子商取引の発展に主導的役割を果たすこと、(2)政府が業界による自主規制を促すこと、そして(3)政府による規制は必要最小限で、透明かつ予測可能なものであること、などである。

 さらに、米国は、2001年10月の規制改革要望書の中で、消費者の信頼感を向上させ、民間部門での電子商取引を促進するためのいくつかの提言と提案を行った。具体的な課題として、オンライン上のプライバシー確保、消費者保護、オンライン取引と電子政府の促進などが含まれる。米国は、規制改革イニシアティブにおけるIT作業部会を通じて日本と協力して、こうした電子商取引に関する課題に取り組んでいる。詳細は、本章の「分野別規制改革」の情報技術の項で述べられている。

 米国は、日本政府が資金助成する電子商取引の試験プロジェクトが米国企業の参加に対し完全に開放され、また、電子商取引とインターネット関連の規格や技術が引き続き開放され国際的に互換性を持つことを確保するために、今後も日本の電子商取引とインターネットの発展をモニターする。米国はまた、総務省などの規制当局の行動(例えば、新しい規格や技術に関するライセンスの要件や制限)を監視し、そうした行為が日本の電子商取引の成長・発展のための自由な環境の整備に役立つことを確保する。

その他の障壁


航空宇宙

 日本は、米国の航空機と航空宇宙関連製品にとっての最大の海外市場である。日本が2001年に輸入した航空宇宙関連製品の約83%が米国製である。多くの日本企業が、米国の航空宇宙関連企業と長期的な関係を維持している。

 日本の商業航空宇宙関連市場は、概して外国企業に対し開放されているが、米国は、新規プロジェクトや新技術の事業化・実用化検討のための予算措置や、大手の航空宇宙関連企業間の事業配分に関して日本政府が果たす重要な役割を監視している。経済産業省が最近提案した、YSXプロジェクトに代わる座席数100席規模の商業用航空機の開発も注視する必要がある。米国企業は、日本の防衛装備契約を多く受注しているが、防衛庁は、通常、国内産業支援のため、外国技術の国内ライセンス生産を優先させている。

 米国は、実績ある米国の技術と製品の調達を制限しかねない日本の国産宇宙システム開発の動向を監視している。さらに米国は、日本が国産の宇宙技術開発に力を入れていることが最も顕著な分野へのアクセスの拡大を引き続き求める。

自動車・自動車部品

 日本の自動車・自動車部品市場の一層の開放は、引き続き米国の重要目標である。各種の過剰に制約的な規制、規則決定に当たっての透明性の欠如、さらには独禁法の不十分な執行のため、日本の自動車市場へのアクセスは引き続き阻害されている。外国の自動車・自動車部品メーカーは、近年の長引く日本経済の低迷や市場アクセスの制限、そして競争力を欠いた経済環境のため、不当な被害を受けている。さらに、世界の自動車産業は、過去数年間、再編統合や重要な技術革新に向け動いているが、こうした変化が同分野の市場アクセスと競争に及ぼす影響は依然として不明瞭である。

 米国政府は、北米産自動車と自動車部品の、日本国内および米国にある日本の自動車工場への販売が減少していることに失望している。米国産自動車の日本での販売は、1995年から2000年にかけて74%減少し、2001年には対前年比20%減少した。現在、米国の自動車メーカーの日本での販売は、2000年に失効した日米自動車合意が締結された1995年当時のわずか4分の1にとどまる。自動車産業の構造変化により、米国企業は日本における流通・販売戦略を変更した。しかしながら、日本の自動車流通網に対する外国のアクセスは、引き続き米国の自動車メーカーにとっての懸念となっている。2001年の米国産自動車部品の対日輸出は、12億ドル減少した。これは前年同期比10%の減少である。同年の米国自動車関連の対日貿易赤字は420億ドルで、これは米国の対日貿易赤字総額の60%を上回るもので、米国の貿易赤字全体の10%に相当する。

 日本の国内自動車市場と米国内の日本の自動車工場における障壁に取り組み、米国企業のアクセスを改善するため、米国と日本は、2001年10月24日、新たに日米自動車協議グループ(ACG)を設立した。ACGは、日米両国にとって重要な同分野での未解決の課題や新たな課題に取り組むため、中心的役割を担う。このグループの具体的な役割は、日米両国が提供する自動車・自動車部品に関する貿易および経済データに基づき、この産業の動向を判断し、米国の懸念に対処するために日本が具体的な措置を取り得る分野を明確にすることである。これには、さらなる規制緩和・撤廃(特に、自動車部品のアフターマーケットに関して)を進めるほか、同分野に関わる規則・規制(自動車部品アフターマーケットに関して提案されている新リコール制度を含む)の透明性を向上し、日本の競争法の適用をより厳格にすることが含まれる。ACGの会合は少なくとも年1回開かれるが、共同議長は、米国側を代表して商務省と通商代表部、日本側は経済産業省と国土交通省が務める。最初の会合は、2002年前半に開かれる。

 ACGの会合に加え、米国は、「成長のための日米経済パートナーシップ」の下、自動車分野に影響を与える分野横断的課題に引き続き取り組んでいる。これらの課題には、対日外国投資の機会の拡大、政府の規則決定における透明性の向上、企業のリストラの促進が含まれる。

民間航空

 米国の航空会社の日本市場へのアクセスは、1998年の日米合意により著しく改善された。しかしながら、日本の極めて高額な空港使用料や、運航権、運航の柔軟性、料金設定に関する制限により、航空会社は依然として制約を受けている。

 米国と日本は、1998年1月、新たな合意覚書に調印した。この覚書により、米国の「先発」航空会社(ユナイテッド航空、ノースウェスト航空、フェデラル・エクスプレス)は、米国のゲートウェー地点から日本の各地へ、また日本以遠の第3国に便数の制限なく運航できることになった。覚書はまた、「後発」貨客航空会社(旅客と貨物の両方を扱う航空会社)2社の日本市場への参入を認め、この2社に対し往復便を週当り合計90便増やすことを許可した。後発の貨物専用航空会社は、日本以遠の目的地に貨物を輸送する新たな機会を得た。2002年には、米国の貨物専用航空会社がさらに1社(極めて制約の多い形ながらも)、日米市場に参入するであろう。さらに、各国に、年間800便のチャーター便が認められる(2001年には600便)。

 新東京国際空港公団は2000年10月、国際線の着陸料(すでに世界の主要空港の2倍から5倍に当たる)を値上げする意向を明らかにした。一方、日本の航空会社だけが運航を認められている国内線の料金は値下げしている。経営に苦しむ大阪の関西国際空港を成田空港の使用料で実質的に救済し、成田空港への新規の鉄道網の整備に必要とされる多額な費用の一部を着陸料で賄おうとする国土交通省の計画は、運航コストをさらに引き上げる。

 成田空港における発着枠の不足(発着回数の人為的制限も理由の1つである)もまた、米国の航空会社が現行の合意の下での権利を行使することを妨げている。1998年以降、米国の後発貨客航空会社は、1998年の覚書で認められたいくつかの路線での運航ができないでいる。2002年4月に完成を予定している第2滑走路の完成で、発着枠が追加されるが、その長さは2500メートルに満たないため、大半の長距離路線には利用できない。

 1998年の覚書で日米両国は、2001年までに、「日米間の民間航空関係の完全自由化を目的として」さらなる交渉を行うことに合意した。米国と日本は、2000年11月以降、航空交渉の会合を3度開催した。米国は、民間航空の競争と市場アクセスを世界規模で促進するという政策に沿って、さらなる自由化を引き続き目指す。

電力会社

 日本の電力料金は、先進国の中で最も高い。米国は、燃料以外の調達(年間約110億ドル)に本格的な競争を導入することにより、日本は電力分野のコストを効果的に削減できると考える。

 多くの電力会社が、輸入を拡大しコストを削減した。中には、潜在的な供給業者として登録されている企業の数を増やしたり、インターネット上で日英2カ国語の調達関連情報を提供している企業もある。国際調達の手続きを著しく改善した企業がある一方で、いまだ改善が遅れている企業もある。日本の電力会社は、ニューオーリンズ協会(NOA)に積極的に参加しているが、これは、日本の電力会社と米国の燃料以外の資材・機器の供給業者との交流を促進する米国大使館後援の団体である。米国は日本の電力会社に対し、概して安価な外国製品の調達をさらに拡大するよう引き続き求める。

 日本の電力会社が適用する基準や仕様は、多くの場合、外国の供給業者に対し差別的あるいは不当に大きな負担を強いており、外国企業は依然こうした障壁に直面している。問題なのは、それらの基準が性能に基づくものでなく、狭義の仕様に基づいており、供給業者に対し外注の予備部品についても詳細な情報を提供するよう義務付けている点である。各電力会社が独自の仕様を採用しているため、供給業者は、日本の電力会社10社に販売するためには、10の生産ラインを準備しなければならない。幾つかの電力会社は、仕様の統一と国際基準の順守への取り組みを開始しているが、これは依然として長期的な計画である。

 米国は、調達プロセスにおける透明性と公平性の拡大を引き続き求める。特定の電力会社の指定供給業者になるためには、通常、コストと時間のかかる手続きが必要とされ、例えば、自社固有の製造過程に関する詳細な情報の提出を求められる。調達情報へのアクセスも問題である。外国企業は往々にして、落札が決定するまで調達について知らされない場合が多い。コスト削減に向けて国際調達を拡大するために、電力会社は、仕様を英語で用意し、英語の見積書、図面、説明書類、契約書を受理することが重要である。

 米国の輸出は、現在、日本の電力会社の調達の約4%を占めている。これは、年間約4億4000万ドルの輸出にあたる。障壁が撤廃されれば、米国のシェアは6%あるいは年間約6億6000万ドルに上昇することもあり得る。

板ガラス

 1995年に結ばれた4年期限の日米板ガラス合意により、日本のガラス流通業者の供給源の多様化と資本提携による差別の撤廃が図られたにもかかわらず、日本の国内メーカー3社(旭硝子、日本板硝子、セントラル硝子)は、非公式の調整と流通経路の強力な支配を通じ、常時高い市場占有率を維持するとともに米国メーカーの市場アクセスを制限してきた。

 1995年の合意は、日本が、住宅や商業用建築物に省エネ基準を採用し、知名度の高い公共事業プロジェクトで米国製ガラスを使用するよう促すなど、一定の成果を収めてきた。しかしながら、米国などの外国ガラスメーカーは、日本の板ガラス市場において、いまだ人為的ともいえるわずかなシェアしか獲得していない(約7%:輸入データは日本メーカーの外国子会社からの輸入によりゆがめられている)。米国やEUなど他の主要工業国では、外資系企業の市場占有率(輸入および国内生産)は日本の水準の5倍以上になっている。

 公取委の1999年5月の板ガラス市場調査では、独禁法に違反する慣行は見られなかった。しかしながら同調査は、国内3社の支配的地位や深刻な懸念になり得る分野を指摘し、この業界の監視を今後も継続する意向を表明した。1999年12月に公取委は、日本の自動車ガラス協会と日本最大の板ガラスメーカーの子会社が自動車用ガラスの輸入を妨げたことを認め、また、その他3つの業界団体に警告を発した。

 1999年12月に日米板ガラス合意が失効した後、米国は、規制緩和および競争政策に関する強化されたイニシアティブの下で日本と協議を行い、その結果は2001年の第4回共同現状報告に盛り込まれている。この報告の中で、日本政府は、流通分野における競争の経済効果を認めている。また、同報告は、流通業者が輸入製品あるいは競合事業者の製品を日本市場から締め出す目的で協定を結ぶことは、競争を阻害し、日本の独占禁止法に違反する行為であると認めた。さらに日本政府は、企業や外国政府に対し、板ガラスなどの高度に寡占的な市場における反競争的慣行を公取委に届け出ることを提案した。第4回共同現状報告の中で、経済産業省もまた、流通分野での競争を確保するため経済改革を継続して遂行していくことに合意した。

 米国は引き続き、日本の板ガラス産業の改善を注意深く監視し、「成長のための日米経済パートナーシップ」の下、日本に対する懸念を適宜表明していく。米国は日本に対し、この分野における競争を促進し、不健全で寡占的な行為を排除していくよう求める。

自動二輪車

 自動車専用道路での自動二輪車の2人乗り走行(乗客を乗せた走行)の禁止が、唯一、米国が日本の自動二輪車に関して撤廃を求める規制である。この禁止措置は、日本での大型自動二輪車市場を人為的に制限するもので、米国製品の輸出を阻害している。さらに重要なのは、この禁止措置のため、日本では自動二輪車は安全性の低い一般道での走行を強いられ、その安全性が著しく損なわれている点である。1994年3月、米国は初めてこの負担の重い規制の撤廃を日本に求め、1999年6月には、市場開放問題苦情処理推進本部(OTO)に対しこの禁止措置の撤廃を正式に要請した。

 OTOおよび日本政府は、現在、米国の請願を引き続き検討中である。日本自動車工業会(JAMA)は、高速道路における自動二輪車の2人乗り走行禁止措置の撤廃を提言しており、2001年2月にはヨーロッパ(具体的には、ドイツとイタリア)における高速道路の自動二輪車の2人乗り走行に関して行った調査報告を発表した。この調査によると、高速道路での自動二輪車の2人乗り走行による事故は極めてまれであり、自動二輪車の高速道路走行は、一般道走行に比べはるかに安全であることが分かった。報告書はまた、自動二輪車の2人乗り走行による事故率は単独走行による事故率を下回っており、高速道路での自動二輪車の2人乗りが原因で発生した事故はまったく発見できなかったと述べている。この調査結果は、米国が1999年に日本政府に提出した自動二輪車の2人乗り走行の安全に関する研究調査と類似している。

紙・紙製品

 米国と日本は1992年4月、「日本における外国紙製品に対する市場アクセスを増大させる措置」に調印した。 これは、日本の紙製品市場へのアクセスを大幅に拡大することを目標とする5カ年合意であった。この合意の下で、日本政府は、企業が競争力のある外国製紙製品の輸入を増やすよう奨励し、透明性のある企業調達ガイドラインを導入し、日本市場の主要エンドユーザーに外国製の紙の使用を奨励し、さらに独占禁止法順守制度を導入することを約束した。日本はまた、市場に関する情報や低金利融資という形で、外国の紙メーカーを支援することに合意した。この合意は、1997年4月に失効した。

 2001年まで、日本の紙・板紙製品の輸入には、意味のある増加は見られず、日本の紙・板紙市場における輸入品の市場占有率は、依然として主要工業国の中で最も低い水準にある。米国の生産者によれば、排他的な商慣行が依然として主要な問題である。米国の業界代表によると、日本の紙市場における制度的な障壁が廃止されれば、米国企業の市場占有率は少なくとも10%になると推定される。これは、現在6億5000万ドルの販売額が、約50億ドルに上昇することを意味する。

海運・港湾

 日本に寄港する米国の海運会社は、長年にわたって、制約が多く、非効率で差別的な港湾運送サービス制度に直面してきた。米国連邦海事委員会が1997年、日本船舶の米国への航海に対し毎回10万ドルの入港料を課したことを受け、日本は、1997年9月、港湾分野の大幅な規制改革を行うことに合意した。この覚書にはまた、この分野での日本港運協会(日港協)による競争抑制力を削減することを目的とした追加合意も含まれる。日本が港湾運送事業法の改正を行ったことで(2000年11月施行)、新規事業者に対する余剰需要の証明要件が廃止され、また、国土交通省による運賃・料金の認可制度も廃止された。

 米国は1999年以降、こうした改革によっても港湾分野での日港協による新規参入や再編に対する抑制力が弱まっていないことに懸念を表明してきた。米国はまた、改正後の港湾運送事業法でも、手続上の煩雑な要件が存在し、国土交通省にはターミナル・オペレーターの料金設定に介入する広範囲な権限が残されており、また労働者最低保有基準を1.5倍に引き上げていることに留意した。国土交通省は、事前協議制度や違法ストライキ行使の可能性に関する懸念に対処していない。

 米国のこうした懸念を受けて、米国連邦海事委員会は2001年8月、日米間の海運サービスに従事する主要な日本の船会社と外国海運会社に対し、日本による近年の港湾法や省令の改正がもたらす影響に関し詳細な情報を提供するよう命じた。米国は、これらの改正が港湾事業に及ぼす影響について今後も緊密に監視し、港湾分野における迅速な規制改革を求める。


半導体

 米国と日本による貿易問題への取り組みで進展があった分野の1つが、半導体である。両国の政府・半導体業界による長年の努力の結果、業界レベルの協力と市場アクセスの両面で大きな進展があった。日本による外国製半導体の購入は、ここ数年、市場全体の約30%を維持している。1996年の半導体に関する2国間合意(日米両国政府間の半導体貿易に関する取り決め)が1999年7月に失効し、それに代わるものとして、米国、日本、韓国、および欧州委員会(EC)が、多国間の半導体共同声明(台湾が後に参加)を発表した。この声明は、半導体の国際貿易に当たり、公正性と開放性を確保することを意図したもので、政府間および政府・産業間の会合を定期化するなど、1996年の合意の主要素を取り入れている。しかしながら、米国は、今後も4半期ごとに日本市場における外国製半導体の市場占有率を監視し、年に1度、商務省の「米国の産業・貿易展望」(U.S. Industry and Trade Outlook)で、外国製半導体の平均市場占有率を報告する。関係国の政府と業界は、共同声明に基づく進ちょく状況を点検する会合を毎年開催し、日本が次回会合を2002年中頃に主催する。

鉄鋼

 1998年の米国鉄鋼業界は、大変な苦境に陥った。 これは、日本をはじめとするアジアの鉄鋼需要が突然、大幅に減少したため巨大な過剰供給状態が生まれ、日本企業がその多くを米国市場に振り向けたためである。1998年の米国市場の輸入は主として日本からの製品であった。米国の日本からの鉄鋼輸入は1998年の危機的水準に比べ大幅に減少したが、今後も同様の事態が繰り返されないよう、そうした輸入急増の根本的な原因に対処する必要がある。

 米国の鉄鋼会社は、日本の鉄鋼会社が反競争的慣行に関与しているのではないかとの懸念を、しばしば表明してきた。日本の国内市場に関して、日本の総合鉄鋼会社5社が、生産量や価格設定、市場割当目標を調整しており、また経済産業省もこうしたすべてを把握している、と言われてきた。さらに、日本の鉄鋼会社は外国の鉄鋼会社と取り決めを結び、当該国との2国間鉄鋼貿易を規制してきたとされる。

 米国政府は2001年6月、「大統領の鉄鋼に関する多国間イニシアティブ」を立ち上げた。このイニシアティブは現在、複数の側面で進行している。日本は、2国間協議および世界の非効率で過剰な製鉄能力の削減を目的とするOECDの鉄鋼に関する高官レベル会合に建設的に参加している。しかしながら、日本の非効率な過剰生産能力のさらなる大規模な削減や廃止が必要であると考えられる。米国は、鉄鋼産業における反競争的活動、市場アクセス障壁、そして市場を歪曲する貿易慣行に今後も積極的に対処する。