■アルコール
しょうゆの防腐剤として部分的に使用される「アルコール」について説明する前に、「しょうゆ」に付いて簡単におさらいしてみましょう。
醤油は発酵食品であり、塩辛み・うま味・酸味・甘みが混然いったいとなり、バランスのとれた複雑な味をかもし出しています。塩による塩辛み、うま味の主成分はアミノ酸で、グルタミン酸、アスパラギン酸などで、酸みの主成分は乳酸でうま味を引き立てる働きをします。甘みは、糖類、グリセリン、一部のアミノ酸によるものです。他に芳香成分もあり、アルコール類、エステル類、フェノール類など300種以上の成分に及ぶといわれています。
日本のしょうゆの特徴は何と言っても醸造しょうゆ固有の「香り」にあります。しょうゆの香りは長い醸造期間によって原料である大豆と小麦から生まれます。小麦の主成分はでんぷん。このでんぷんが諸味(もろみ)の中でブドウ糖に変化するとき、しょうゆに甘味を加えるとともに、発酵過程を経てアルコールとなります。大豆はタンパク質が分解されてアミノ酸に変わり、さらに酵母によって各種アルコールに変化していきます。また同時に、エステルや揮発性フェノール類などの香気成分を生成し、しょうゆ特有の香りをもたらします。
しかし、本来、しょうゆは添加物を加える必要の少ないものですが、酵母の一種である白カビの発生を防ぐ目的で、アルコールや保存料を加えることがあります。
食品の加工や調理に使われる「アルコール」には、大きく3つの用途があります。
- その1つは、雑菌の増殖を抑えて、食品の保存性を高めるために添加する場合。
- 2つめは、香りや味を改善するために添加する場合。もっともこのときは、アルコールそのものより、酒として、ワインやブランデイー、清酒、あるいは、みりんなどが使われます。
- 3つめがアルコールそのものを原料に食品を作る場合です。
しょうゆにアルコールを使うのは、主に第1の理由によります。品質的にバランスのとれた醤油は、かびにくいと古くから言われていました。これは、しょうゆの醸造過程で、自然にアルコールができることによります。
搾りたての生醤油というのは、そのままでは、一週間くらいでカビが生えてしまいます。カビが生えると香りが悪くなり品質も落ちます。このため、醤油は『火入れ』(加熱殺菌)をして、旨みや香り、艶(つや)を最大限まで引き出すとともに保存性をよくします。
アルコールはもともと醤油に含まれている成分ですが、火入れ殺菌の時の高温で多くが揮発してしまいます。またアルコールの量は香味にも影響しますから、常に一定に保つことも必要です。こうしたことから、しょうゆではそのままですとカビがはえやすくなりますので、カビの発生を抑える目的で、不足するアルコールを最低限の量だけ添加します。
参考文献
- 独立行政法人 農林水産消費技術センター(農林水産消費技術センター広報誌)1994年 5月 第15号
- しょうゆ情報センター:しょうゆマメ知識
- 東京農業大学 2002.09 スーパースター微生物がつくる食の”うまみ”