【萬物相】1カ月で色が剥がれた南大門の丹青

【萬物相】1カ月で色が剥がれた南大門の丹青

 全羅北道・茂朱にある赤裳山の安国寺極楽殿。その扁額(へんがく)の上下には「丹青」で鶴が描かれている。丹青とは宮殿・寺院に描かれる青、赤、黄色、白、黒の文様のことだ。幅1メートルほどの斗キョウ(キョウは木へんに共、柱の上部に置かれて軒などの上部構造を支える部材)は丹青が施されていない白木造りだ。昔、極楽殿ができたころ、白い上着を着た老人が住職を訪ねてやって来た。その老人は「100日間で丹青を施すから、四方に布を張ってほしい。中を見てはならない」と言った。だが、住職は99日目に好奇心を抑え切れなくなり、のぞいてしまった。すると、中には老人の姿はなく鶴が筆をくわえて丹青を施していたが、住職に気付いて飛んでいってしまった。だから、最後の日に塗られるはずだった部分が残っているのだという。

 全羅北道・扶安の来蘇寺大雄殿も天井左側に丹青がない部分がある。鳥が描いていたが、修行僧が戸の隙間からのぞいたために、姿を消してしまったそうだ。こうした昔話には「丹青は人の技では到底描き切れないほど美しい」という思いが込められている。韓国の丹青は中国や日本よりも色彩や明暗のコントラストが強くて華やかだ。素材や模様もあや模様・竜・鳳凰(ほうおう)・花・草のつるまで多彩だ。一般家屋にも施された時期があったが、朝鮮王朝時代になると「ぜいたくだ」として禁じられ、宮殿・寺・楼閣・書院などで引き継がれてきた。

 丹青には建物の品格と威厳を高め、美しく装うことよりも重要な目的がある。それは木材の寿命を延ばすことだ。ニベやタラといった魚の浮き袋で「にかわ」を作って塗り、石の粉と貝の粉の絵の具を塗って、木が割れたり腐ったり虫に食われたりするのを防止した。「チョゴリ(韓服の上衣)の袖を半分だけたくし上げ、天井を仰いで静かに筆を動かす僧侶がいる。運筆ざんまい、人の気配にも気付かない様子だ」。韓国を代表する文化人イェ・ヨンヘ氏が「人間文化財」に描写した丹青職人・万奉僧侶の姿だ。

 万奉僧侶は6歳で出家し、2006年に96歳で他界するまで筆を置かなかった。優れた芸術センスで景福宮慶会楼の丹青をはじめ傑作を幾つも残した。崇礼門(南大門)の復元工事で丹青に関する作業を指揮した無形文化財の丹青職人ホン・チャンウォン氏は万奉僧侶の弟子だ。ところが、5月に完成したばかりの崇礼門の垂木で、丹青が剥がれた部分がこのほど20カ所以上発見された。実は完成から3週間で割れ始めていたという。

 ホン・チャンウォン氏は「化学染料ではなく、数十年ぶりに貝の粉や天然の『にかわ』を使ったために発生した」と説明した。色を濃くしようと粉を厚く塗り過ぎて割れたという。きちんとやろうとしてかえって失敗してしまったということだ。化粧っ気のない素顔のように、色があせた丹青も美しい。来蘇寺大雄殿、慶尚北道・栄州の浮石寺無量寿殿、全羅南道・海南の美黄寺大雄殿がそうだ。美術史学者チェ・スンウ氏は色あせた丹青を「恋しさに疲れたように青白い顔」と表現した。丹青は歳月が流れ、雨風にさらされれば色あせていくものだ。だが、いくらそうだとしても、完成から1カ月足らずでひびが入り、色が剥がれる崇礼門の丹青にはあきれてものが言えない。

呉太鎮(オ・テジン)首席論説委員
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