バルサルタン:滋賀医大もデータ不正…学内調査指摘へ
毎日新聞 2013年10月13日 07時02分(最終更新 10月13日 09時50分)
降圧剤バルサルタン(商品名ディオバン)の臨床試験疑惑で、滋賀医大の学内調査委員会が、データ操作された可能性を指摘する報告書を月内に公表する方向で最終調整していることが、複数の大学関係者への取材で分かった。論文に使われた血圧などの患者データの15%程度がカルテに記載されていた元の数値と一致していないという。この問題では東京慈恵会医大、京都府立医大でデータ操作が分かっており、不正は3大学に拡大する見通しとなった。【千葉紀和】
滋賀医大の研究責任者は、同大病院長で副学長の柏木厚典(あつのり)氏。関係者によると、柏木氏は調査委に対し、データの不一致は10%以下だとしたうえで「原因は入力ミスなどのヒューマンエラー。論文の結論に間違いはない」などと操作を否定しているという。
試験には、製薬会社ノバルティスファーマの社員2人(共に既に退職)が関わっていた。柏木氏は社員と知っていたが、論文に明示しなかった。2人は上司と部下で、上司だった元社員の論文上の所属は、慈恵医大などと同様に「大阪市立大」となっていた。元部下は、滋賀医大の研究員としてデータ管理や統計解析などに深く関わっていた。2007年にノ社を退職して同大の大学院生となり、現在も客員助教を務めている。
滋賀医大の臨床試験は03〜06年に実施された。糖尿病を伴う高血圧患者150人について、バルサルタンの腎臓を保護する効果を他の薬と比較し、バルサルタンの効果が高いと結論づけた。論文は07年に米国の糖尿病専門誌に掲載された。ノ社から研究室に02〜08年、総額6550万円の奨学寄付金が支払われていたことも分かっている。
滋賀医大は一連の疑惑を受け、今年5月に研究行動規範委員会(学内教員4人、学外有識者1人)を設置。10回の会合を開き、データの照合や元社員2人からの聞き取りを終えた。
バルサルタンに脳卒中予防など血圧を下げる以外の効果もあるかを確かめた臨床試験は、計5大学で実施され、ノ社は論文を宣伝に利用してきた。しかしデータ解析などを社員が担い、ノ社から大学側に寄付金が出ていたことが発覚。慈恵医大と府立医大の調査でデータ操作されていたことが判明した。滋賀医大の他、千葉大、名古屋大でも調査している。厚生労働省の有識者による検討委員会は9月、徹底調査を国に求めた。