第三章 迷宮商売 山海の幸を求めて編
二百十一日目~二百二十日目
“二百十一日目”
昨夜は王都に飛んで帰らず、迷宮都市≪アクリアム≫に一泊した。
ダンジョンを出た時間が思ったより遅かった事と、せっかく来ているのだから、という事で迷宮を内包している迷宮都市だからこそ作れる料理を喰って帰ろう、と思ったからだ。
宿泊した宿の名は≪バンジョーノ≫
高額な宿泊料をとるが、それに見合った設備とサービスを備えた≪アクリアム≫内屈指の高級宿である。
迷宮産の素材を使って作られた寝心地が非常に良い寝具類、酒やジュースなどを入れておける冷蔵庫や煌びやかな細工が施された照明器具といった設備、壁に飾られた湖に佇む美女が描かれた絵画や珍しい花が入れられた花瓶といった装飾品、周囲よりも高層なので見下ろせる≪アクリアム≫の夜景、その他諸々。
高額だが快適に過ごせる為、外からやってきた王侯貴族だけでなく、迷宮の深層を中心に攻略している者達にも人気の名店だ。
そんな≪バンジョーノ≫には専用のレストランもあるし、従業員に言えば豪華な晩飯も部屋まで運んでくれる。
提供する料理の美味さも自慢の一つなので、期待は持てるだろう。
だがせっかくなので≪バンジョーノ≫では食べず、設置された街灯に照らされて夜独特の活気に満ちた道路を進み、≪アクリアム≫随一と名高い高級料理店≪パンナコッテン≫に行ってみた。
≪パンナコッテン≫はダンジョンから採掘できる【七色変化岩】という、時間経過や気温によって七色に変化する大理石の様な石材で作られた五階建ての巨大建造物の中にあり、内装も多数のマジックアイテムを使用しつつ洗練されたデザインで、上品な雰囲気の店だ。
ここに入店するにはそれに相応しい正装の着用が必要らしく、今回は以前お転婆姫が用意してくれたモノを羽織った。
非常に頑丈で手触りが良く、何より高い伸縮性を誇り滅多に破れる事のない“大鬼蚕”から極少量だけだが採取できる【鬼霊糸】を束ねた【鬼霊布】を主な材料とした正装は、非常に着心地が良く、無駄のない装飾しか施されていないので気に入っている。
素材の希少度や特定の職人しか作れない事から価格はかなり高額で、王都にそれなりの家が一軒建てられる程らしい。
無料で貰った時はどうかと思ったが、今後こういう場面でも活用できるので重宝している。
服の話は置いといて、迷宮産高級食材を用い、高名な高レベル【迷宮料理人】リリムラ・エンベルンと、リリムラに率いられた厨房スタッフが調理した肝心の料理の感想を一言で述べると、その全てがただ美味かった、となる。
発達した四歩足で迷宮に挑む者達を次々と轢殺していく“ロードキルキャトル”の鍛え上げられた肉を使用したローストビーフ。
銀のナイフは豆腐を斬る様に抵抗なく肉を斬り分け、口に入れて一齧りすれば薄くても口内に肉汁が溢れ出た。調理に使用された迷宮産の香辛料は、肉の味をより一層引き立てている。
湖で釣れる金殻シーラカスや銀殻ピスラルク、それからアオオヨロイエビなどを使用した、まるで宝石箱のようなブイヤベース。
淦宝玉葱なども使用されているらしく、海鮮風味の濃厚なスープの味をより繊細にしていた。
階層ボス“ウェイルピドロン”のレアドロップである最高級肉を使用したグリルは単純で分かりやすい料理法だが、しかしそれこそがこの肉の旨みをそのまま伝えてくる。
外はカリカリに焼けているが中身は驚くほど柔らかく、舌の上でプチプチと弾ける肉汁と鼻孔を擽る豊潤な肉の香りは最高だ。
美味過ぎて無くなるまで手が止まる事は無かった。
温厚な水牛型モンスター“オオカクスイギュウ”の牛乳から造られたフローズンヨーグルト。
ちょっとした酸味があり、深いコクとほのかな甘さが美味しいそれは、何故か疑似生命体“ゴーレム”の技法が使用されていた。
それは球体が連なった手乗りサイズのヒト型で、ガラス製の皿に乗って運ばれてくると徐に動きだし、簡単なダンスや傘などの飾りを使って様々な芸を客に見せ、そして最後に美味しく食べられる事で楽しませる風変わりな一品だ。
その他にもサクサクとした食感とバターの味が楽しめる出来たてのクロワッサン、カリカリに焼けた生地に濃厚なチーズや新鮮な肉と野菜をトッピングして彩られたピッツァ、年代物の迷宮酒などがテーブルに並んだ。
メニューを見ればどれもこれも美味そうだったので、我慢せず、値段はあまり見ずに注文した結果、六人用のテーブルが運び込まれる料理で埋まった。
今回は追加注文を何度もしたので、テーブル数個分のスペースを必要とするくらいの料理を一人で食べたのだが、それはともかく。
使われた食材は全て一級品、作る料理人は超一流。それらがかみ合った時の料理は一種の芸術ではないだろうか。
鮮やかに飾られた料理は視覚で楽しませると同時に期待を抱かせ、実際に一口食べれば期待以上の美味さで身体を震えさせた。
一度手を付ければ止まる事無く、全て食べきった後にはただ満腹感と満足感だけが残される。
食材の良い部分を最大限にまで引き上げ、組み合わせて最上にまで持っていく匠の技は、正直凄い。
これを作ったリリムラは、お転婆姫や第一王妃といった王侯貴族専属の料理人に匹敵するか、それよりも腕がいいのではないだろうか。
使用される食材が違うし、同じ食材でも距離的に鮮度も違うのだからそれを比べるのはどうかと思うが、しかし間違いなくこの世界で味わった料理の中では最高級のシロモノだという事に変わりはない。
注文した料理を全て食べ終えた後、思わずリリムラを呼んでいた。
実際に会えるかどうか気にしていなかったが、普通ならあり得ない量を注文した事で気になっていたのだろうか。
呼んでから、余り間を置かずにやってきた。
やってきたリリムラは、一見すると気難しげな中年男性だった。
白髪混じりの茶色い短髪で、薄緑色の三白眼、ほっそりとしていながらそれなりに鍛えられた体躯をしている。
汚れのない純白の調理服には皺が一つも無く、しかし長年愛用している服独特の一体感があった。
普段の癖で観察しつつ、そんなリリムラに料理の素直な感想を言うと、何処となく満足そうに微笑を浮かべ、頭を下げた。
自分の仕事に自信がある仕事人らしい威風堂々さ、と言えばいいのだろうか。
リリムラ本人も出される料理も気に入ったので、今度はカナ美ちゃんやミノ吉くん達と一緒に来ようと思う。
聞いてみると食材持ち込み可、という事なので、今度はその時には新しく狩ったボス級モンスターを持ち込んで調理してもらうとしよう。
今回の手持ちは、取りあえず持ち帰って皆で食べる予定だ。
とまあ、そんな感じで料理を堪能して≪バンジョーノ≫に戻り、快適な睡眠を堪能し、今日は昨夜の内に頼んでおいた朝食を部屋で味わった。
≪パンナコッテン≫で食べた後では微妙に物足りなかったが、≪バンジョーノ≫の料理も美味かったので不満はない。
お土産はダンジョンで沢山集めたので別に買う必要は無く、今回の用事は全て済んだのでチェックアウトした後はさっさと帰路につく。
それにしても、ダンジョンに挑戦していた間も分体で会話していたとはいえ、十数日にも及ぶ単独行動は初めての事だ。
数日単鬼で行動した時でも色々とあったので、今回も何かありそうだと少し不安を抱きつつ、飛行速度が上昇しているので快適な空の旅はすぐに終わり、何事も無く無事王都に到着した。
王都では露店で買い食いなど寄り道をせずに真っすぐ屋敷まで戻り。
そして、カナ美ちゃんの熱烈な抱擁が俺を出迎えた。
胴体に回された腕が僅かに、しかし確実に食い込み、ギシギシと骨が軋む様だ。
俺でなかったら内臓が全て口から飛び出していたか、あるいは上下に分断されていたのではないだろうか、と思う程の熱烈さである。
【吸血貴族・亜種】の膂力、半端ない。
だが、そんな熱烈な抱擁でさえ殆ど問題は無いのだから、素の肉体の耐久力はレベルによる不思議パワーでかなり強化されているのを実感できた。
現在の俺は【神代ダンジョン】に挑戦しただけあって、レベルも大幅に上がっている。
悪辣な難易度を誇る【神代ダンジョン】で出現するダンジョンモンスターは雑魚でもかなり経験値的に美味しいし、階層ボス達から得られる経験値は元々の経験値に色々と加算されているのか膨大だ。
次の【存在進化】まで、あと一、二回も【亜神級】の【神代ダンジョン】に潜れば至るのではないだろうか。
【神級】ならもっと早まる可能性は高い。
しかし、【存在進化】か。
現状、【使徒鬼・絶滅種】でも満足してはいるが、しかし今後を考えると、色々と思い悩む。
とりあえず巨大で強靭な体躯に高い知性と膨大な魔力を備えた【知恵ある蛇/竜・龍】とは戦う予定である。
翼亜竜の一種であるジャダルワイバーンでさえあれ程の美味さであり、得られる素材は鎧型マジックアイテムに加工された状態でも上質だったのだ。
喰う事に努力するのは当然だろう。
そしてこれまで通り【勇者】や【英雄】といった存在は狙っていくし、もしかしたら【魔王】や【魔帝】、【獣王】や【霊皇】といった、【英勇詩篇】とは違う【詩篇】を有する可能性が高い存在とも戦う可能性はある。
そこそこ【勇者】や【英雄】達と戦ってきた経験もあるし、手加減した状態でも亜龍“シャークヘッド・ボルトワイアーム”は狩れたのでどうにかなるとは思うが、しかし戦った事が無いので何とも言えない。
これからは使徒鬼のままだと、状況を打開する力が足りない可能性も出てくる。
“フォモール”達が暮らしている≪クラスター山脈≫で出会ったディアホワイトといった類の存在と敵対した場合を考えれば、出来る限りの強化はしておいた方がいいのだろう。
しかし【存在進化】するとアビリティがこれまで以上に得られ難くなる。
現状でも十分あるのでそこまで拘らなくてもいいかもしれないが、しかしアビリティ数が多ければ応用の幅も広がるので、うーむ、悩む所だ。
まあ、その時になれば、その時の俺が考えるだろう。
ここでこれ以上深く考えるのを止めた。
“二百十二日目”
昨日からカナ美ちゃんが、トイレなどは除いて離れない。
俺の首に手を回し、背中から抱きついた状態だ。今の体格的に大人と子供、という訳ではないので、パッと見では何とも言い難い状態である。
まあ、そんな状態でも満足そうに笑っている姿を見ると何も言えなくなるので、このままでも良いか、と思っている俺がいる。
別に疲れる事でもないし、抱きつかれる事自体は嫌いではない、という訳だ。
カナ美ちゃんの姿を見て、両腕にオーロとアルジェントがくっ付いてきた時には、流石にどうかと思ったが。
これも一種のスキンシップなのだと諦めた。
父親というのも、色々と大変だ。普通よりかなり手間は無いので、愚痴を言う資格もないかもしれないが。
そんな事はさて置き、今日は集めた宝箱の開封作業である。
昨日でもよかったのだが、昨日は昨日で店舗の改造はどのくらい進んでいるのか、ガキ大将達の訓練はどこまで進んだのか、赤髪ショートや少年騎士達の成長はどうなったか、といった雑務が多かったし、店舗に並べるアイテムの価格設定もあったので、今日に伸ばした次第である。
ちなみに昨日の作業で一番面倒だったのは、価格設定だ。
今回【神代ダンジョン】から得たアイテムは、【神代ダンジョン】から獲得したモノであるが故に全て【神迷遺産】の一種であり、つまり同じアイテムでも効果が他より優れている優良品だ。
回復薬一つをとってみても、同じ分量同じ大きさ同じ外見だが効果は数割から数倍の差がある。
なので回復薬を必要とする冒険者や兵士といった消費者達の中で、欲しがる者は多い。
だが【神迷遺産】となるとその効果の高さから攻略の為に獲得者が使う場合が殆どで、売りに出される量はかなり少ない。
それに売り出されても【神代ダンジョン】での需要が大きいので、同業者が買い漁る場合が殆どだ。
などといった理由で輸出される量が非常に少ない上、関税や運搬などで色々と経費がかさみ、ただでさえ高額な【神迷遺産】は産出される【神代ダンジョン】から離れれば離れる程増額するので、迷宮都市外の者達が得ようと思うと直接乗り込むかあるいは手下を送り込んで集めて来させるかなどしない限り、相応の権力や財力を持たないと難しい。
これまでは欲しくても早々手に入らない品、だったのだ。
だが今回は通路や回廊では見敵必滅で進んでいたし、無数の宝箱を開けて中身を全て持ち帰った。
【幸運】や【黄金律】などが働いた様で、ドロップ率は高いし宝箱に入っているアイテム数は多かったので、浅い階層の回復薬など別に売ってもいいアイテムがかなりの量になっている。
今回の原価は自力で獲得してきたのでほぼ無料であり、迷水茄子といった食材アイテムでも一個で銀貨数枚相当の価値はある高額食材で、武具型マジックアイテムだと金板に達するモノなどザラにある。
つまり売ればぼろ儲けだ。値切られて売ったとしてもかなりの利益となる。
だが、それ故に価格設定が難しい。
今回と同量を今後も定期的に集めるのはやはり難しく、調子に乗ってあまり荒稼ぎし過ぎると既存の商人達から必要以上の恨みを抱かれるので面倒だ。
恨みを積み重ねて物理で来てくれたら物理で返すんだが、裏で結託してコソコソされると分体などで看破できても少々鬱陶しい。
無駄な仕事とかしたくないので、できるだけ余計な手間は無い方が良い。
それで今回の件は鍛冶師さん達だけの意見では不安だったので、経験豊富な副店長に連絡をとった。
副店長とは大森林を出たばかりの頃に出会ったファルメール商会・防衛都市≪トリエント≫支部の副店長であり、ギャンブル大好きで俺から有り金だけでなく大切な商品まで巻き上げられた、優秀だけどギャンブラーなのが困りモノの小太り禿頭の中年男性だ。
そんな副店長の協力もあって思ったよりかは時間短縮ができたので、その謝礼で今度何か商談を持っていく事になった。
やはり持つべきは有能な友人で、豊富な人脈だろう。あるいは金の繋がりか。
ともかく、個人的には副店長、今後の為にスカウトでもするか、いやでもギャンブル癖あるし、と密かに思案中だったりする。
気を取り直して、宝箱の開封作業である。
今回各ボス戦で獲得した宝箱は、十箱。一覧は以下の通り。
階層ボス“ウェイルピドロン”からは宝箱【大鯨の角嵐】
階層ボス“リザードスカル・ウォースラーマード”からは宝箱【水粘の蜥蜴骸】
階層ボス“クリスオラ・キングクラブ”からは宝箱【水晶蟹の泡歌】
階層ボス“ヴォーテックス・シェルタートル”からは宝箱【渦隠亀の甲羅】
階層ボス“ドミナリア・ザ・ギルマンロード・ライダー”からは宝箱【古英の青銀魚】
階層ボス“グリーフ・カリュブディス”からは宝箱【嘆きの乙女】
階層ボス“アクリアム・ゴーレムボール”からは宝箱【逃走球の追跡者】
階層ボス“リザルデッド・ブラッドイーター・ポチ”からは宝箱【寄屍操の巨獣】
階層ボス“レッドアーム・ジェミニュヴィア”からは宝箱【赤腕の貴婦人】
迷宮の主“シャークヘッド・ボルトワイアーム”からは宝箱【鮫亜龍の雷楯鱗】
それぞれに該当するボスの特徴的な装飾が施された宝箱は、単品でも美術品としてかなりの額になるだろうシロモノであり、収納系の能力を秘めたマジックアイテムの一種だ。
以前手に入れた宝箱からは大量の貨幣や薬品などを得られたので、今回もそんな感じなのだろうか。
ふと、一度に開けてその財宝の上に寝そべる、とかしても面白いかもしれない、という考えが過った。
実際にやる事はないが、何となくそう思った。
開け始めて、ふと一気に開けるのは勿体ない様な気がしたので、今日は【大鯨の角嵐】から【古英の青銀魚】までの五箱だけ開けてみる事にした。
残りは明日に残しておいた方が、何が出るか楽しめそうだ。
[アポ朗は“[武器・杖]角剣金錫・雷鯨”を手に入れた!!]
[アポ朗は“[武器・剣]水骸鱗剣・水鱗”を手に入れた!!]
[アポ朗は“[武器・槌]震破砕槌・蟹鋏”を手に入れた!!]
[アポ朗は“[武器・槍]呪四水矛・魚鰭”を手に入れた!!]
[アポ朗は“[防具・盾]雷角鯨の肉盾”を手に入れた!!]
[アポ朗は“[防具・盾]水棘の隔壁甲羅”を手に入れた!!]
[アポ朗は“[防具・鎧]不動激水・渦亀”を手に入れた!!]
[アポ朗は“[防具・背面]多骨腕の青マント”を手に入れた!!]
[アポ朗は“[防具・脛当て]晶撃のクリスタルグリーブ”を手に入れた!!]
[アポ朗は“[防具・靴]晶突のクリスタルサバトン”を手に入れた!!]
[アポ朗は“[防具・頭部]晶角のクリスタルヘルム”を手に入れた!!]
[アポ朗は“[防具・手甲]水刃鰭の蒼手甲”を手に入れた!!]
[アポ朗は“[薬品]幼き武装水粘液の核粘入り小瓶×4”を手に入れた!!]
[アポ朗は“[薬品]隔壁防御の力水×5”を手に入れた!!]
[アポ朗は“[素材]高級鯨油入り巨大瓶×3”を手に入れた!!]
[アポ朗は“[素材]万病癒しの渦隠亀ゼリー×10”を手に入れた!!]
[アポ朗は“[素材]魔導装甲中型船舶製造キット×5”を手に入れた!!]
[アポ朗は“[素材]ブループラネットメタルのインゴット×10”を手に入れた!!]
[アポ朗は“[書籍]水の理を説き記す魔術書”を手に入れた!!]
入っていたアイテムの数は十九種類、一箱に入っていたのは三種類から五種類と差があった。
予想ではもっと多いと思っていたのだが、三段階評価で一番下な【亜神級】の【神代ダンジョン】だから、階層ボスとダンジョンボスを初回で討伐すると得られる類でもこんなモノ、なのだろうか。
他には潜っていないので比較できないが、もう少し多くてもいいんじゃないの? と思わなくもない。
が、それでも条件クリアが難しいだけあって、手に入れたアイテムは全て有用だった。
【角剣金錫・雷鯨】は錫杖頭部の輪形にある六つの遊環が、波打つ金角に置き換わったような形状をしている。振れば音が鳴り、それに伴い雷と嵐を呼び起こす。
【水骸鱗剣・水鱗】は、どうやらリザードスカル・ウォースラーマードの生体剣に酷似したマジックアイテムのようだ。鱗のような材質で作られ、岩さえ自重で切り裂ける程の切れ味を誇る。
【震破砕槌・蟹鋏】は虹色の水晶で構成された高速振動する巨大な蟹の鋏型ハンマーであり、岩に触れさせてみるとただそれだけで砕く事が出来た。鋏型なので、手元にトリガーを引くとジャキンと動くギミックもついている。
【呪四水矛・魚鰭】はドミナリア・ザ・ギルマンロード・ライダーが持っていた矛と似たシロモノらしく、四つの能力を宿している。それに切れ味鋭く手頃な長さで、手によく馴染む。
その他には分厚い肉の塊を盾状に固めた様な生温かい【雷角鯨の肉盾】、内面から無数の骨腕を発生させられる【多骨腕の青マント】、タワーシールドの様な大型甲羅に無数の高圧水を噴出させる棘が生えた【水棘の隔壁甲羅】、滑らかな球形を多用したデザインで全身を覆う外骨格の様な全身鎧【不動激水・渦亀】など、【遺物】級のマジックアイテムが殆どだ。
【高級鯨油入り巨大瓶】や【ブループラネットメタルのインゴット】などは色々と使い道もあるが、他では滅多に買えない類のアイテムなので、後で何組かに分けて取りに行かせる予定である。
とりあえず【呪四水矛・魚鰭】はハルバードが直るまでの代用品として使う事にして、他は団員の中で優秀な奴等に回せるモノは回す事になった。
これで戦力の充実はより進む事になるだろう。
一通りの検証を終え、スペ星さんが欲しがりそうな【水の理を説き記す魔術書】や鍛冶師さん達に預ける【ブループラネットメタルのインゴット】、【魔導装甲中型船舶製造キット】などは一先ずアイテムボックスの中に入れた後、【幼き武装水粘液の核粘入り小瓶】を使うとどうなるか試してみた。
実験体となったのは、“鬼熊”のクマ次郎と“オルトロス”のクロ三郎。
使い捨てのブラックアンデッド・ナイトを使っても良かったのだが、小瓶の数は限られているので急造のブラックアンデッド・ナイトで消費するのは勿体ないし、情報を読み取った限り実験体の害になる事は無いと判断したので、せっかくだから、という事でペット二匹を選んだ次第である。
小瓶の使用方法は簡単で、中身であるドロリとした核粘をそれぞれの胸部に垂らし、そこに予め大瓶に組み上げていた清水を注いでいくだけだ。
するとあら不思議、大量の清水を吸った核粘はそれをすぐさま粘液に変換し、二匹はリザードスカル・ウォースラーマードの様に青色のスライム装甲を纏ったのである。
そしてスライムの核粘はどうやら体内に浸透し、そこで肥大化・結晶化したらしく、二匹の胸部中央に半分埋没する形で外に出てきた。
全身を包む粘液は普段は胸の銀核を守る様に覆い、戦闘時は全体を覆うようだ。
触手などによる攻撃力上昇などだけでなく、スライム装甲は単純な防御能力にも優れているので、これでただでさえ強かった二匹はより戦闘能力を向上させた事になる。
何ができて何ができないのか、一通りの実験に突き合ってもらった二匹にはウェイルピドロンの足を一本報酬とした。
ガツガツと美味そうに食べている。
頭を撫でてやるとこれまでと違ってシットリとした感触もあり、毛並みの艶もいいように感じられる。こんな所にまで効果が及んでいるのだろうか。
手っ取り早く強さを手に入れられるこれも、残りは後二瓶だけ。
新しく手に入るのはもう少し先になるだろうが、さて、誰に使おうか。
少々悩むが、一瓶の使い道は既に決まっている。
“二百十三日目”
今日は残りの宝箱を開けてみた。
説明が面倒なので今回は省くとするが、宝箱【嘆きの乙女】から宝箱【鮫亜龍の雷楯鱗】までの残り五箱から入手できたアイテムの数は三十一種類。
入っているアイテムの分類は様々だが、一箱に付き必ず一種類、【角剣金錫・雷鯨】や【水骸鱗剣・水鱗】といったそれぞれの階層ボスを連想させる象徴的なマジックアイテムがあった。
どれも先の五種類より強力で、エゲツナイ能力を秘めた逸品ぞろいだ。
個人的には【鮫亜龍の雷楯鱗】から得られた【伝説】級マジックアイテム【召雷支龍・鮫縄】が気に入っている。
黒青黄の三色で三つ編みされた【召雷支龍・鮫縄】は伸縮自在なので普段はベルトとしても使えるし、緊急時には雷鞭としても活用できる優れモノ。
しかしこれの真価は、膨大な体内魔力を代償にする事でシャークヘッド・ボルトワイアーム――迷宮仕様ではないが、使用者の特性を一部受け継ぐので強化できるかは力量次第――を召喚できる事だろう。
シャークヘッド・ボルトワイアームは残念ながら陸上だと本領を発揮できないが、海上戦などでは大活躍してくれるので、使う機会があれば存分に暴れてもらいたいと思っている。
前日に魔導装甲中型船舶製造キットを得ているので、使用するのにさほど時間は必要ないかもしれないが。
それで今回の攻略で分かった事だが、宝箱に入っている品は深い階層の方がより上質で、入っている種類数も徐々に増えていくようだ。
質の向上は、ある意味当然だろう。
潜る階層が深ければ深い程全体的な難易度は上昇するのだから、その差はあってしかるべきだ。
そしてそれは種類数の増加も当て嵌まる。
今回の場合だと、五階と十階の宝箱には三種類、十五階と二十階には四種類、二十五階と三十階には五種類、三十五階と四十階には六種類、四十五階と五十階には七種類と増え、宝箱十箱から得られたのは合計で五十種類となった。
最初は少ないか、とも思ってはいたが、最後まで初回で討伐し終えると、良質なマジックアイテムがこれ程の数手に入れられる、となれば決して少ない訳ではないのだと意識を改めた。
むしろ、攻略できるだけの力さえあれば、なんて都合が良いのか、という考えさえ浮かぶ。
他の【神代ダンジョン】では別の仕組みになっている可能性もあるので断言はできないが、概ねそんな感じになっている可能性は高い。
利益の為に、そして確認する為にもこれは更なる攻略を進めるべきか、という事で次回の迷宮攻略を計画しつつ。
普段通りの朝の訓練を終えた後、俺はカナ美ちゃんを伴って大森林の拠点に帰還した。
今回は破損したハルバードの修復と、迷宮産の魔法金属や植物などを居残り組に渡すのが主な目的だ。
そろそろ合金の成果も出てきたようなので、鍛冶師さん達にはそれ等を使ったハルバードの更なる強化を期待しているし、きっと期待以上に応えてくれる、と俺は確信を持っている。
というのも、鍛冶師さんは種族的に生来鍛冶に秀でたドワーフの鍛冶長によって鍛えられ、同僚のドワーフや錬金術師さん達と共に技術を培い、半鍛冶鬼となった団員を教える事でより鍛冶の知識を深めているのだが、最近レベルと技能の上がり具合が普通ではない。
精霊石など高レベル素材を日々扱っている事も要因の一つだろうが、【鬼■の権妻】などによる強力な補正が後押ししているのだろう。
そんな鍛冶師さんが色々と面白い特性を持つモノが多い魔法金属を使い、ハルバードをどうするのか、とても気になる。
流石に【遺物】級までは及ばないだろうが、【固有】級のハルバードまで強化される可能性は十分にあるだろう。
そして今回手に入れた矛――【呪四水矛・魚鰭】と同時に扱えば、これまでとはまた違った戦闘も展開できる。
これからは多対一で戦う場合ももっと多くなりそうなので、二槍流はいいかもしれないな。
ちなみに、同じ様に【鬼■の権妻】を持っている赤髪ショートなどは勿論、錬金術師さんや姉妹さん達も似たようなモノで、各種能力・技能が向上している。
錬金術師さんが作る薬品は現在、以前とは比べ物にならない程高品質なモノになっている。
大森林から採れる素材を使っている事もあるのだろうが、回復薬は市販されているモノの平均値よりも高い治癒力があるし、各種毒薬は専用の解毒薬を使用しないと治り難かったり、以前よりも悪化するなど強烈で特異なのが多い。
王都の店でも売っているのだが、かなり好評で、固定客まで獲得していたりする。
ちなみに最近研究に没頭し過ぎて時折ある種の狂気を宿している事もあるが、そんな所も可愛らしいのは何故だろうか。
姉妹さん達の方は作る料理の質が向上しているし、何より部下の扱いが上手くなった。
というか、指揮している場合と指揮していない場合では、味がかなり変わる様だ。俺の様に部下が作る料理に補正でも発生させているのだろうか。
このままその能力を伸ばせしてもらえれば、いつかリリムラにまで届くかもしれない。
流石にそれは願望だが、期待は僅かだけする事にした。
ドリアーヌさんの方も担当している≪農地≫では農作物が瑞々しく成長していたり、マッサージ技能の向上が目覚ましい。
王都の店で売っている野菜類はドリアーヌさん達の力によって好評で、≪パラベラ温泉郷≫でのマッサージでは中毒になってしまった客もチラホラと。
一定間隔でマッサージを受けないと、手足の震え、軽度の幻視、気力の衰退など、危ない薬をやっているのではないか、と思ってしまう様な禁断症状が確認されている。
友人の父親エルフもその一人というのは、そっと見て見ぬふりをする事にした。
何事も、やり過ぎるのはよくないという事だろうな。
“二百十四日目”
鍛冶師さんにハルバードの修理を依頼し、王都に持っていく商品の用意を進め、≪パラベラ温泉郷≫の様子見などを終えて一泊して、今日の俺達は王都ではなく迷宮都市≪パーガトリ≫に赴いた。
王都の近くにある迷宮都市≪パーガトリ≫には既に団員を派遣し、三階建の空き家を買い取り、色々と手を加えて総合商会≪戦に備えよ≫二号店として運営している。
やっている仕事内容は武具や薬品を取り扱うなど王都の店舗と変わらない事もあるが、迷宮都市ならではの事業も色々と取り込んでみた。
【迷宮運送業】も、その一つだ。
この事業の内容は極めてシンプルで、とても便利な収納系マジックアイテムを購入できない攻略者達を対象とした荷物の運搬作業を行う、という事だ。
というのも、需要があって高額な収納系マジックアイテムが無いと、迷宮に挑む者達の主な収入源であるドロップアイテムはどうしても持ち帰れる量が少なくなる。
大きさも重量もそれぞれ異なるし、欲張って背嚢などに出来るだけ詰め込んで持ち帰ろうとしても、それで動きが阻害されてしまうと死ぬ確率がグッと高くなる。
なので仲間内で分配したとしても、泣く泣く獲得したドロップアイテムを捨てていく場合はそれなりに多い。
しかし捨てたドロップアイテムも全体的な量にすれば膨大であり、ドロップアイテムを加工したり売買したりする事で日々の糧を得ている者達からすれば、捨てられるドロップアイテムは実に勿体なかった。
供給される量が一定以上あれば価格の高騰や商品の枯渇を防げる、という事もあるだろう。
そんな様々な思惑によって、迷宮での無駄を解消する為に生まれた事業――それが攻略者達の代わりにドロップアイテムなどを運ぶ【迷宮運送業】。
対象となる客も迷宮都市であるが故に多く、比較的手を出し易く失敗しても大した損害にならないので都合が良かった。
ただしこの事業、多少の問題もある。
攻略者、商人、迷宮運送業者の中で、一番立場が弱いのは迷宮運送業者達だ、という事だ。
攻略者と商人は対等である事もあるが、そもそも迷宮運送業者は攻略者に雇われる存在である。
攻略者達は出来るだけ自分達の装備類に金を使いたいので、迷宮という危険地帯で命を賭け、重い荷物を運んで走り回る必要がある迷宮運送業者達の賃金は平均してかなり低い。
そして雇い主の意向次第では、些細なミスをする毎に給金を減らされてしまう事もある。
抗議しようにも迷宮運送業者となるのは両親が攻略者だったが死んで天涯孤独になってしまった子供や、怪我が原因で現役を引退する事を余儀なくされた、などの事情を持つ者達が多く、攻略者達に力で敵う筈も無い。
迷宮運送業者達で団結しようにも色々と問題があって成功せず、そうして迷宮運送業者達は、攻略者と同様に命を賭けているが攻略者達よりも下で、過酷な仕事なのだとされている。
無論、その事業に手を出した俺がそんな奴隷紛いの扱いや料金未払いなど、そんなふざけた事を許すはずもなく。
店舗で書類による契約を交わし、もしその時の約束事を破れば裏で色々とさせてもらっている。
最初の方は踏み倒そうとした馬鹿が多かったので報復の拳が振り回されたが、現在は落ち着いているのでそれは置いといて。
迷宮都市≪パーガトリ≫支部で働いているのは一定以上の訓練を終えた中鬼から半鬼人達が多く、職員全員が≪パーガトリ≫の派生迷宮程度なら単体でもそれなりに深い階層まで潜り、無事生還できる程度の実力者ばかりだ。
装備も充実しているので、収納系マジックアイテムを持てないレベルの攻略者達よりも正直強い。
仮に迷宮内でマジックアイテムを強奪しようなどと考える輩がいても、イヤーカフスの分体によっていち早く察知して返り討ちにできるし、最低でも逃走する事は可能だ。
ちなみに運搬による基本料金は一枚一万程度の価値がある銀貨が十枚。
それにトラップやダンジョンモンスターの接近を知らせるなどのサポート込みなら、攻略帰還時にドロップアイテムを換金して得た総額から一割貰う事にしている。
それに加えて戦闘にも参加するなら、倒したダンジョンモンスターのドロップアイテムを貰う事に加え、総額から得る金額が二割に上昇。
更に迷宮内で戦闘レクチャーを施すなどの場合は、総額から三割となり。
命の危機から救出した場合は総額から四割、と料金はどんどん上がっていく。
ハッキリ言って、これまでの迷宮運送業者を雇う値段とは比べものにならないくらいに高い。
運搬一回で銀貨十枚など、十数回から数十回は雇う様なモノだ。
一応全プランを使っても総額から四割貰うまでに留めているが、収納系マジックアイテムを買えない様な攻略者にはおいそれと手が出せない、と思うだろう。
だが迷宮運送業の主な客層からすれば、その程度で自分達以上の実力者を雇う事も可能だという事で、むしろ安過ぎるくらいだ、と案外好評だ。
口コミで評判は広がり、固定客が何人か既に居る。
これで今後有名になるかもしれない者達と密接な関係を結ぶ事もあるだろうし、既に店舗で商品を買ってくれる客の増加という効果を発揮していた。
店舗ではドロップアイテムも買い取ったりしているので、外に輸出する手段を確立できた今、色々な部分も楽になってきている。
将来的には迷宮都市≪パーガトリ≫全ての迷宮運送業者達を配下に治める予定なので、今から色々と暗躍していたりするが、その結果は今後に期待だ。
“二百十五日目”
百五十日前後くらいに、戦争が起こった、と言った事を覚えているだろうか。
王国とも帝国とも違う国で、王国からやや離れている国々で起こった戦争だ。
最近はコッチが忙しかったので放置していたのだが、その戦争の戦勝国である≪ルーメン聖王国≫――以後、聖王国とする――が最近、ちょっと鬱陶しいくらい表でも裏でも活動している。
人間至上主義を掲げている聖王国は、敗戦国≪エリンベ鉄森国≫を吸収した事で国力を上げた。
ただでさえ広大だった国土は更に広がり、王国よりも強大な帝国すら凌駕している。
それだけでなく、今回の戦争によって≪エリンベ鉄森国≫の【英勇】――【勇者】と【英雄】だが、今回は纏めて表記する――達を全員取り込んだ事により、現在の聖王国に所属している【英勇】達の数は驚くべき事に二十四名にも及ぶ。
王国だと四人、帝国でさえ十二人だと言う事を考えれば、その戦力の異様さが際立つだろうか。
この事も有り、聖王国は国の性質からして昔から仲が非常に悪い【獣王】ライオネルが統治する獣人の国≪エストグラン獣王国≫――以後、獣王国とする――や、【魔帝】ヒュルトンが君臨する魔帝国の二国同盟軍を相手にしても、恐らくは互角以上に渡り合えるまでになっている。
まあ詳細は省くとして、要するに聖王国は調子に乗っている訳だ。
裏ではこれまで以上に他国に間者や暗殺者を放っているし、チラホラとそれが原因ではないだろうかと思われる事件もある。
ハッキリとはしないが、以前ミノ吉くん達を襲ったのもそれの一部だった可能性が高い。
地位の低い獣人などを暗殺者に仕立て上げ、危険度の高い任務で使い潰すのは聖王国の常套手段だ。
今回はそんな感じで任務中にミノ吉くん達をたまたま発見し、王国での活躍から危険視し、数が少なかったのでヤルなら今だとばかりに強襲した、のではないだろうか。
その結果敢え無く全滅した訳だが、それが真実かどうかは分からない。流石にそこまでの情報収集は俺でも無理だった。
生き残りが一人でも居れば一瞬で分かったのだが、全滅させてしまったのだから仕方ない。
しかし本当にこの考えが真実だとすれば、売られた喧嘩は買うべきか。
そして二十四名も居れば、十二人くらい居なくなってもいいよね? と思った。
帝国の【八英傑騎甲団】だって【英勇】を四名も取り込んでるんだし、元々聖王国の【英勇】じゃないのなら、居ないのが普通な訳で。
うん、聖王国とは敵対する可能性が極大だ。
と、これまでに無い大戦の予兆を感じながら、しかし更に奥深くに潜んでいる“何か”を【直感】で感じ、詳細な情報収集をすべく分体達を聖王国に向かわせた。
あの国には何か、それこそ俺の【詩篇】に関係する何かしらがあるのかもしれないな。
“二百十六日目”
今日の夕方までは特に何事も無い、穏やかな日だった。
午前の訓練を終え、店舗や書類整理などをこなし、美味い夕飯を食べる。
最近は色々とあったので、こんなゆったりとした一日も悪くは無い。
ホッと息抜きするには丁度良く、溜まっていたストレスもふっと抜けた様な気がした。
そして夜、脳内で鳴り響くアナウンス。
[世界詩篇[黒蝕鬼物語]【副要人物】であるドド芽が存在進化しました]
[条件“1”【存在進化】クリアに伴い、称号【視鬼后官】が贈られます]
[世界詩篇[黒蝕鬼物語]【八陣ノ鬼将】が全て揃いました、それに伴い【八陣ノ鬼将】の全能力が解放されます]
[【八陣ノ鬼将】全員での共闘時、合体攻撃【滅撃・八鬼殲陣】の使用ができるようになりました]
[【八陣ノ鬼将】全員での共闘時、陣形効果【無貌・八鬼戦陣】の使用ができるようになりました]
どうやら最後の一人は、五鬼戦隊ではなくドド芽ちゃんで正解だったようだ。
五鬼戦隊だったら一体どうなっていたのか気になる所だが、それは一先ず置いといて。
イヤーカフス経由でドド芽ちゃんに聞いてみた所、新しく成った種族は“九祇眼鬼・亜種”だそうだ。
九祇眼鬼はその名の通り九の眼を持つ女鬼の一種で、全身に眼があった以前の“百々目鬼”と比べればその数は少ないが、情報収集を目の数で補っていた百々目鬼と違い、一つ一つの質を向上させているのでこの数で十分らしい。
眼の位置はヒトと同じ場所に一対、眉の部分に一対、額の中心に他よりも大きい眼が縦に一つ、掌に一対、手の甲に一対、となっている。
他はどうか知らないが、九祇眼鬼となったドド芽ちゃんは黒い艶やかな長髪を簪の様なモノで纏め、薄く化粧した和風美女といった外見だ。
黒地に咲き乱れる桜の様な幻想花の刺繍が施された生体防具の和服を着崩し、白く滑らかな両肩が剥き出しにしたその姿は独特の色気が漂う。
生体武器の一種である赤い和傘をクルクルと回し、カラコロと鈴の音を出す赤い下駄を履いている。
満月の夜を出歩けば、さぞかし絵になるに違いない。
戦闘能力はこれまでと同じく大したことは無いが、眼から強力な怪光線を放つ事が出来るようになった事で最低限の自衛は出来る。
後方から部隊を指揮するのに重要な情報を俺よりも早く、正確に、広範囲で収集できるので今後の活躍に期待だ。
一通り聞いた後は、さっさと寝る事にした。
明日も早くから仕事である。
“二百十七日目”
起きてみると、隣で寝ていた赤髪ショートの腹部が、大きくなっていた。
これは姉妹さんや鍛冶師さん、錬金術師さん達の時と同じ現象だ。
つまり、妊娠し、子供が生まれようとしている。
これまでなら焦ったかもしれないが、だが五回目ともなれば流石に慣れる。慌てず、しかし迅速に用意を進めた。
幸い王都の屋敷の中なので、何があっても必要なモノはすぐに揃えられるので安心感がある。
今回は男の子か、それとも女の子か。名前はどうしようかと今から思い悩んだ。
結局生まれたのは今日の夕方頃。
山脈の彼方に沈む夕日に照らされて、第五子は無事に誕生した。
[条件未達成だった世界詩篇[黒蝕鬼物語]【■■■■】の条件が解放されました]
[【■■■■】は【鬼乱十八戦将】となり、夜天童子の配下の中から【鬼乱十八戦将】は選抜されました]
[【鬼乱十八戦将】に選出された個体は、時と条件が満ち、自覚する事で恩恵が与えられます]
と同時に脳内で鳴り響く、二日連続のアナウンス。
【世界詩篇[黒蝕鬼物語]】によって【八陣ノ鬼将】と【鬼■の正妻】を得た時、条件をクリアできなかったので解放されなかった【■■■■】が【鬼乱十八戦将】なのだと分かり、謎が一つ解けたが、それはさて置き。
赤髪ショートとの子供は、オーロやアルジェントの様に【混沌種】ではないし、鬼若の様に【上位大鬼】でも、ニコラの様に人間でもない。
種族は【使徒鬼・亜種】で、亜種なので生まれた時から【加護持ち】だ。加護神は【宝石の神】と【冥獣の亜神】の二柱。
俺が絶滅種だった事から、この子も絶滅種にでもなるかと思ったが、俺がいる時点で絶滅種ではなくなったから、亜種になったのだろうか。
それで肝心の五子だが、性別は女だった。
燃え尽きた後に残る灰の様な色の髪と、美しい紅玉の様な瞳を持ち、褐色の肌には俺の刺青と似た紋様が金剛石の様な物質によって全身に描かれている。これはどうやら皮膚の一部が変化しているようで、【宝石の神】によるモノだろう。
そして【冥獣の亜神】の影響からか、前腕部と下肢は赤黒い毛で覆われていた。
手足の毛は非常に手触りが良いのだが、一種の防具として働くらしく、鋼鉄のナイフ程度では斬る事すらままならない。
それに鬼人らしく額に生える一角は、まるで黒曜石の様な輝きを秘めている。
生まれた時は柔らかかったが、数十分も経過すると鋼鉄のナイフすら自重で切り裂ける程鋭い角だ。
幸いまだ一角は短いので切られても大した事は無いが、危ないので一応ジャダルワイバーンの皮で角鞘を作って被せて事故の予防をしておく。
ちなみに鬼人特有の鬼珠の数は二つ。前腕部の剛毛に隠れるように存在する、赤と青が混ざり合う宝石の様に美しい鬼珠だ。
人間だったニコラを除いた三子と同じく、その成長は早く、今は普通の人間の赤ん坊と変わらない大きさだが、数週間もすればオーロとアルジェント達の様に動きまわれるだろう。
今回生まれた五子にして三女の名は、オプシーとした。
潜在的な才能では、恐らく五子の中で最も秀でているだろう、とても可愛い子である。
“二百十八日目”
今日の昼前、遂に屋敷の一階の改装が完了した。
外は白雪が強風に吹かれて非常に寒そうだが、一階内部には高額なマジックアイテムによる冷暖房が完備されているので、寒いと思う事は無い。
最も手を加えた大部屋にはマッサージベッドが幾つも並べられ、衝立などによって区切られる事で解放感がありながらも周囲とは隔たれた空間を演出している。
内装は落ち着けるように派手過ぎないデザインで統一しているが、主な狙いが貴族令嬢なので質はかなりいい装飾品を使用した。
一応絶対に個室が良い、という客の為に小さな個室を用意しているが、基本この大部屋でやる予定である。
そして大部屋の他にも、岩板浴や甘味を楽しめたりする部屋を用意している。
この世界特有の鉱石の中に、個人的にやりたかった岩板浴に適したモノがあったのは幸いだった。お転婆姫による伝手で、格安で揃えられたのも運がいい。
熊蜂を使った養蜂で定期的に良質な蜂蜜を使えるので、提供する甘味は安価で出せる事も良い宣伝材料になるだろう。
とまあ、これで施設の準備はある程度整ったので、後は宣伝としてお転婆姫や第一王妃などを正体する必要がある。
やるべき事はまだまだ多い。
が、今日は完成した後、残りは休みにした。
一晩でムクムクと大きくなったオプシーと、オプシーの世話をするオーロとアルジェント達と共に過ごしたかったからだ。
俺は良い子供を持ったもんだと思いつつ、子供達を可愛がりながら過ごした。
“二百十九日目”
今日も朝から雪が降っていたが、そんな中を突き進み、ミノ吉くん達が王都にやって来た。
馬車に偽装された骸骨百足に高々と団旗を掲げさせ、王都の門にお転婆姫を肩車した状態で待っていた事でそこまで騒ぎにはならなかったが、しかし家屋の如き巨躯を誇る“鋼鎧大熊”に跨って先頭を進むミノ吉くんの姿は、まさに獄卒の化身だった。
遠目でなくとも見た事も無いミノタウロス種が配下を率いて王都に迫る様に見えるので、事前に手配していなかったら【勇者】達が直接出向く程の一大事となっていたに違いない。
まあ、済んだ事なので流すとして。
一旦は別々のルートで大森林に帰還した筈のミノ吉くん――アス江ちゃんや鬼若、スペ星さんやブラ里さんなど――達一行を王都に呼び寄せたのは、俺が集めてきた階層ボス及びダンジョンボスを皆で食べる為に他ならない。
王都なので呼んだ数は幹部やそれに準ずる地位の者達だけなのでさほど多くは無いが、残りは大森林に色々と置いてきた食材を食べる手はずになっている。
さて、今回皆で喰うメイン食材は五種類。
食べつくしてしまった“リザードスカル・ウォースラーマード”に、ゴーレムなので俺以外だと食べる事の出来ない“アクリアム・ゴーレムボール”と、他に使う“・シャークヘッド・ボルトワイアーム”を除いた、“ウェイルピドロン”から“リザルデッド・ブラッドイーター・ポチ”までの階層ボスだ。
流石にヒト型の“グリーフ・カリュブディス”と“レッドアーム・ジェミニュヴィア”を出すのはどうかと思ったので、自重した。
団員の中には人間も居るので、流石に抵抗があるだろう。
この二体は後で個人的に食べる予定なので、存在自体秘密にしておこう。
階層ボスは大型が多く量があり、集めに集めた迷宮食材と合わせて作った料理は豪華にして膨大だ。
しかし大食漢のミノ吉くんやアス江ちゃん達が居たのでそれでも足りなかったが、皆満足そうに笑い、屋敷は一日中賑やかだった。
偶には馬鹿騒ぎするのも悪くない。
そして今回の宴の主役は、やはりというか当然というか、生まれたばかりのオプシーだった。
【能力名【寄生獣注入】のラーニング完了】
【能力名【屍獣操術】のラーニング完了】
【能力名【血喰いの獣】のラーニング完了】
“二百二十日目”
昨夜の宴の後は、泥酔者達の屍、という形で残っている。
屍といっても死んだ訳ではないが、二日酔いによる気持ち悪さで大半のモノがダウンした状態だ。
かなりアルコール度数の高い迷宮酒を何十樽も消費したのだから仕方ないのだろうが、俺には関係ないので今日一日を休日と定めた後、朝から“シャークヘッド・ボルトワイアーム”の腹を掻っ捌いて内臓を取り出すだけの簡単な解体作業に取り掛かる。
別に慣れているので解体自体は難しい事ではないのだが、大きさが大きさだけにやや手間取りつつ、昼前には何とか完了した。
残ったのは内臓を抜かれた身であり、プリプリとした肉が切れ目から見える。見ただけで脂が乗っていると分かる様なレベルで、食べれば極上の味である、と容易に想像できた。
だが今回の解体は食べる為だけではない。
勿論抜いた内臓は美味しく頂くが、この身は全て【外骨格着装】の為の材料だ。
レッドベアーから得た外骨格【赤熊獣王の威光】は陸上戦に秀で、ジャッドエーグルから得た外骨格【翡翠鷲王の飛翼】は空中戦に特化している。
陸空とくれば次は残る海に優れた外骨格が欲しい訳で。
シャークヘッド・ボルトワイアームの素材は、まさに打ってつけだった。
さっそく重たく巨大な頭部を持ち、羽織る感じで切れ目から身体を中に入れ【外骨格着装】を発動。
すると問題なく、これまで通り、三つ目の外骨格が精製・登録された。
脳内で情報を投影してみると、
【アビリティ【外骨格着装】
登録“1”[赤熊獣王の威光]
登録“2”[翡翠鷲王の飛翼]
登録“3”[雷鮫龍侯の楯鱗]の登録完了
登録“4”[ ]空き
登録“5”[ ]空き
残り“4”までフォームの登録が可能です。
何番を装着しますか?】
とあるので、今回の外骨格の名は【雷鮫龍侯の楯鱗】となるらしい。
全体的に青色を基調とした独特の光沢を持つ外骨格で、凹凸の少ない滑らかな形状をしている。
背面には雷鳴宝石製の鰭が無数に並び、前腕部には鋭利な刃鰭がある。指の間には水掻きがあり、臀部辺りから伸びる長い尻尾の先端には大きな鰭が存在した。水掻きや背面の鰭はあくまで補助で、尻尾が主な推進力となるのだろう。
全体的に引き締まったヒト型シャークヘッド・ボルトワイアーム、とでもいうべきデザインで、個人的に気に入っている。
どれどれと色々な動きをしながら感触を確かめていると、今回の外骨格には変形機構が組み込まれていると判明した。
変形といっても尻尾が肥大化し、下半身が蛇の様な形状になる、という事だ。
半人半蛇であるラミア、などを思い浮かべれば良いだろうか。
この形状だと陸上でも面白い動きが出来たので、水陸両用なようだ。
良い外骨格を得て、大変満足いく一日だった。
そして明日からは、せっかく集まったんだからという事で、まだ行った事の無い【神代ダンジョン】に挑戦する予定だったりする。
いやぁ、楽しみだなぁー。
今度は、山の幸が得られる場所を選ぶ予定である。
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