「まさにそれが向こうの狙いなんですね。しかも、その頃の韓国はまだ軍事政権でした。おまけに韓国では79年に大統領が側近に暗殺され、80年には民主化を求める学生デモを軍が鎮圧する光州事件も起きた。すごいドラマがふたつ続いた後にできた、とにかく必死でやっている政権だったわけです。人間、死に物狂いでやっているときに、あんたらちょっとおかしいよ、なんて言われても聞き入れません。一回収めて、徐々に肩をもみほぐしていくしかない」
―その肩をもみほぐす交渉の過程が本書の醍醐味ですね。評論家が外交交渉について、「外交官同士の信頼関係が大事」とか、「水面下での交渉をきちんとやるべき」なんてことを言いますが、その内実が正直言ってよくわからないんですよ。それが、この本では事細かく書かれている。交渉者の心理状態も描写されて、おまけに小説のような形式もあって読みやすいです。