◆理論テーマ(その1) イクザミナー委員会 市野聖治委員長
講演する市野聖治委員長 |
スライド1 |
◆2つのご批判を考えて行きたい
今までの流れで言いますと、昨年教程が新しく変わりました。いろんな形で、流れが変わってきたと思いますが、いろいろとご批判も、ご指導もいただいております。
大きく分けまして、1つは、みんなで考えましょうというというスタイルでやってきましたが、場合によっては情報もたいして与えないで、考えろ考えろというのは、解らないではないかという、ご批判をいただいております。
もう1つは、昨年の教程から流れを変えております。大げさに言えば、いままで滑り手の感覚的な面から迫っていたものから、科学的な匂い、立場で展開していますが、これに関しては、机上の空論ではないか、よくわからないというものです。
この社会が進化して価値観が変わり、道具が進化していることを踏まえて、実りある研修会にしていくためにどうしたらよいのか考えて行きたいと思います。
スライド2 |
スライド3 |
◆仲の良くない2つの問題、壁がある
まず、我々がスポーツを考える時に、あまり仲の良くない2つの問題があります。ひとつは、従来のように、プレーヤーの自分の感覚が大切です。自分の中で感覚を捕らえられないと、運動することは出来ないわけです。
もう一方、感覚とは全く違った形、例えば、物理学的な背景であるとか、科学的な考え方がもう一方にあります。
多少、乱暴な表現で言わせていただければ、今までの教程は感覚的なことで多少大切にして来ました。それが新しい教程で科学的な方に振れた、そして十分な説明をしていないということもあって、スライド2の真ん中にある壁が大きな障害となって、どっちが良い、悪いという話が昨シーズン起こったんだと思います。
◆感覚と科学の壁を融合していこう
今年は、ぜひ、この壁を少しでも行き来していきたいと思います。感覚的と科学的な融合していく様なことを考えていこうと思います。今年は、アテネオリンピックがあり、いままでにない大きな成果が出ました。この成果の原因はいろいろながありますが、日本に初めて、「科学スポーツセンター」が出来、そして、科学的な分析や対応が強化されたということが共通する認識です。しかし、壁は簡単に突き破れません。感覚というのは大切ですが、新しいものに弱いのです。科学は理解してもなかなか感覚と結びつかないし、取り入れることはものすごく勇気が必要です。
今、多くのオリンピック選手たちが、どのようにこの壁を打ち破って行ったかは、ドキュメンタリー番組で沢山取り上げられています。
◆新しい道具に新しい技術で使いこなす
今、道具や技術がものすごく進化しています。例えば、ダーウインなどの進化論も変わってきています。昔は強いものが生き残るを言われていましたが、今は、変化するものが生き残るといわれています。進化の考え方、解釈も変わってきています。
スライド3ですが、進化のところをうまく乗り越えているところは成功しています。例えば、女子ゴルフの宮里藍選手が、デビューして、19歳で賞金ランキング2位です。なぜ、若い選手が出てくるのか、それは、新しい道具を新しい技術で使いこなしているということです。これだけなら、あまりびっくりしません。むしろ、福島晃子選手なのです。彼女は、日本のトッププロですが、アメリカから日本に帰ってきました。どうしてかといいますと、このままでは勝てないので、3年計画で江連(えずれ)さんというたぶん日本で一番科学的なコーチと契約して、改造するのだそうです。
新しい技術が大きな抵抗になるのは、古い技術で上手かった人なのですが、ゴルフの世界では福島さんのような努力が始まっています。そういう分野は伸びていきます。
スライド4 |
スライド5 |
◆ドリル的志向では、我々に未来はない
スライド4は、もうひとつの話ですが、われわれが勉強をしていく時の考え方があります。縦軸の上はどちらかといいますと、研究的にものを考える。(Why to,What to)横軸の左は、すでに知っているということです。(How to) 従来、われわれはどちらかと言うと、この左下のすでに知っている、教え込んでいける、ドリルタイプのところでやってきました。ここは、安定して、技術も変わらない、価値観も変わらないところで、スケールメリットといいますか、数が増えていく時には良いのですが、今の状況では、この方法では、我々にとって未来はありません。極端に言えば、研究的に、今まだわかっていないのだけど、スライドで言えば、革新的探求という方法論を取っていくしかないのです。
大変難しいことですが、とっていかなくてはいけません。探求的な研究的な分野は、わかりやすく言えば、NHKのプロジェクトXみたいな番組のイメージです。
◆自然のエネルギーがスキーを回す
その意味で、一番大きな原則がこのスライド5となります。非常に重要な考えかたです。復習をしておきますが、自然のエネルギーがスキーを回すということです。そんなバカなことがあるのか、机上の空論ではないかといわれているところす。
この自然のエネルギーを使うためには、人間が動かなければいけません。昨年は、この事についてほどんど説明をしておりませんでした。昔、人間のエネルギーを内力、自然のエネルギーを外力といいました。
昔は、内力と外力は2者宅択一関係でしたが、今はそうではなく、外力を使うために内力を使うのです。その意味で、内力が司令塔で、外力がエンジンといえるでしょう。車で言えば、司令塔はドライバーになります。
昨年もお話しましたが、この自然のエネルギーがスキーのエネルギーに行くところで、何を考えるかといいますと、水平面に対する角付を考え、スキーの縦軸と横軸の落下運動、そしてターンの外側に落下する、ターンの内側に落下するという、話をしました。おい、山側(ターンの内側)になんて落下するか?とお叱りを受けました。言葉の使い方が不適切だったかもしれません。
スライド6 |
スライド7 |
◆机上の空論?
中学校理科の1年の教科書です。ご批判にダイレクトに答えれれるかと思います。
スライド7は、机の上にある物体があります。同一線上の反対方向 に糸を引っ張り、同じ重さの錘をつるします。さて、手を離してたら物体はどうなりますか? これは、動きません。どういうことかといえば、同じ力で引っ張っているからです。(机は水平であるという前提です)スキーで言えば、平地の上に立てば、スキーが動かないということと全く同じです。
スライド8は、問題のスライドです。同じように物体の両方向に同じ重さの錘をつるしてあります。さて、手を離したらどうなると思いますか? 手を離しますと、同一線上にないので、自然の力で自転を起こすということなのです。これを理解していただきたいのですが、これが自然のエネルギーでスキーを回すということなのです。もう一度繰り返しますが、同一線上にない力が反対方向に働けば、回転モーメントが起こり、人間の力でない、自然の力で自転するということなのです。この力の使い方で、テールコントロール、トップ&テールコントロール、トップコントロールの3つの、原因を教程で考えたのです。
スライド9は、同じ同一線上に相反する力を加えましたが、片方は重さを倍としました。手を離すとどうなるのか、当然のことながら重いほうに移動していきます。これは、重いほうが落下運動、軽いほうが抵抗のようなものと考えれば、この物体の重心が移動するということです。
◆自然の力で自転運動がおきる
つまり、スライド8とスライド9を組み合わせれば、重心の移動が起こって、そして自転運動が起こるのです。教程に書いてあります、公転と自転が同時に起こればターンをしていくという結果となります。
スライド8から、人間が力を加えなくても物体は自転運動をするという事実を知っていただきたいのです。そして、スキーはこの錘が思いのです、急斜面にいけばいくほどとてつもなく重いのです。
スライド8 |
スライド9 |
◆トップコントロールとテールコントロールの原理の確認
このことをスキーで表したのが、スライド9です。スライドの右の絵は、縦軸方向に落下するエネルギーと横軸方向に落下するエネルギーがあり、ベクトルの合成方向に力が働きます。回転のモーメントが起きて、トップが内側に行きます。この単純な原理を応用したのがトップコントロールです。
左の絵は、スキーが斜めになっていますが、谷側に水平面に対して落下していくエネルギーが生まれるためです。これも同じように考えますと、横滑りのエネルギーとなります。荷重がかかり、スキーがたわんで、ずれていきますと、抵抗が働き、後ろ側に抵抗が逃げて、モーメントが働いてテールが後ろにずれていく運動が起こってきます。これがテールコントロールです。これについては、昨年は山回りだけについてお話しましたが、今年は谷回りにも触れたいと思います。
スライド10 |
スライド11 |
◆自然の力でスキーが曲がる
説明がくどくなるかもしれません。スライド10ですが、黒い部分スキーの接雪面です。直滑降を考えてください。走りだしますと接雪面が後ろに移動します。どういう事かと言いますと、除雪抵抗を受けて、トップが浮いてくるということを表しています。
スライド11は、角付している接雪面です。水平面に対して角付していますから、角付下方向に落下するエネルギーがあります。しかし、その方向には落下しません。なぜなら、中心に抗力が働いてスキーを押し戻すからです。まっすぐ滑り出します。抵抗の中心が後ろにずれますが、スキーの中心は変わりませんから、落ちようとする力に対する抵抗は接雪面の中心に働きますから、このスキーのトップを図の方向に移動させようとする力が働きます。この辺は、さきほどの理科の1年生の教科書から発展的に考えていけば、自然の力でスキーが曲がるんだということをご理解いただきたいのです。
(つづく)
◆中央研修会が開催される
◆スキー技術論「スキーの壁」 その1 科学と感覚、机上の空論 市野聖治委員長
◆スキー技術論「スキーの壁」 その2 原因と結果、2軸理論 市野聖治委員長
◆チルドレン・ジュニアーの指導について 競技本部 片桐幹夫氏
◆スキー、スノーボード実技研修、テレマーク体験
[11月23日付 教育広報委員会 上田英之]
|