新教程解説 Part1、2(技術の構成)市野聖治 委員長
市野聖治委員長
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もの凄い変化が起こっている
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常に変化している
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■現在のスポーツ界は、ものすごく大きく変化している
世界陸上で末讀慎吾選手が3位に入りました。従来とはまったく違ったスタート方法を取っています。これは、自分の体重が前に落下していく力を利用したスタート方法です。また、ナンバ走りを利用しています。いままで、まったく考えられないことがチャレンジされて成果を挙げているのです。
中日ドラゴンズの福留選手でが、首位打者を取った時のフォームは、それ以前とはまったくちがいました。そういう意味では、プロ野球の一流選手でも変化があるということです。桑田選手が、まったくあたらしい形で復活したことと似ています。
カレ・パランダー、ワールドカップ後半4連勝した選手の写真をみて驚きました。彼は、内向、内傾、内スキー主導で攻めています。体の使い方についてはっきりはいえませんが、福留、桑田、パランダーと共通したものを感じています。
ある意味で教程を改定した理由にもなりますが、PF・ドラッカーは、今日の社会の変化を断絶的と表現しています。昨日までの発展の仕方と今日からの発展の仕方がまったく変わってしまうことで、すごい変化が起こっているといわれているのです。
■なにが目的か、目的と手段を分けて考える
イソップ物語の兎と亀の話。いままで、力が無くても一生懸命努力したら勝てると教えていると思っていました。ダイエーホークスを再建した高塚さんの話ですが、亀は「目標」を見続けていたから勝ったのであり、兎は「亀」を見続けていたから負けたのだそうです。いかに、目的をしっかり見続けることが大切というわけです。
高塚さんの目標は、年間300万以上の観客を福岡ドームに入れること。王監督の目標は優勝。2人は目的と手段を明確にして、それぞれの任務を遂行したのですが、これが上手くいっていると聞きました。
最近では、雪国の子供たちがスキーをやらない。これでは、スキー人口が増えるわけが無いでしょう。なぜか? 子供たちがスキーをやる目的がはっきりしていないからです。
今、日本は生きていくためにガツガツしなくなっています。そして、自分は何だ、どうしてこれをやるのかと、考えはじめたのです。今は、1人1人がスキーをやる意味を考えている。それは、とても効率が悪い。しかし、それを考えなければいけない。これが、創造的、新しいやり方、新しい価値観などと言われていることなのです。ぜひ理解していただきたい。
この図(スライド3)はきわめて重要だと理解ください。スキーを行う意味づけを理解していないと、なにも生まれません。
■スキーも感動まで考えた商品であるべき (スライド4)
物を作るとき、必要な機能だけではあたりまえです。スオッチも時計の時を刻むという機能を越えて感動まで考えて作っているのです。
スキーで言えば技術は大切ですが、感動まで考えた商品でないと、売れないのです。だから教程にも、製品力を設けてあります。
われわれはどんな初心者でもスキーをやる上では感動させなければいけません。指導者が、根底から変わっていくことが必要で、それができればスキー人口が増えるでしょう。
アメリカの病院のコンセプトは「行って楽しかった」と思える病院だそうです。まして、スキーをやるのに面白くなければ話になりません。そう考えると、階段方式だけではく、梯子段方式があっていいと考えるわけです。
カービングスキーという道具が中心ではなく、道具を使ってどう遊ぶのか、滑るのかが重要。最近の人気スキー場は、中斜面で長いコース。良いスキー場の概念が変わろうとしています。以上を踏まえて技術に入って行きたいと思います。
■重力による落下運度ををはっきり定義づけしたこと
重力の落下がスキーを回すことをはっきり定義づけました。それは、横軸方向の落下と縦軸方向の落下の2つ。大げさに言えば、世界のスキー教程では、縦軸は書いてありますが、横軸は取り扱ってこなかった。横軸は落下ではなく、押すんだという形だったのです。この横軸の落下を考えなければいけない。 (スライド5)の左は、スキーの板は水平な面より谷側に倒す。スキーがターン外側にまわってくる。
それに対して、右の図は回転内側に倒す、山側にスキーが行こうとする力が働く。 この力を落下ということが理解難しい。谷側についても、人間が押すのではなく、自然に落下する力であることを認識しなくてはいけません。(スライド6 映像※)
※この映像の著作権は東海テレビ放送にあります。
「てれび博物館」「市野聖治 カービングターンを科学する」
現在、掲示が可能か確認中です。
山側にスキーを角付け、斜め前に落ちるが雪面でとまってしまいます。 山側に行こうとする力を保ちながらスキーは真っ直ぐ行くことを強いられる、すきあらば山に落ちたいという状況になります。
スキーにはフレックスがあり、除雪抵抗によって、スキーの先端が浮いてきます。そうすると、落ちようという力と浮いた力で回転モーメントがおきる。真っ直ぐ行って、トップが浮き上がって山側に落ちるという動きになり、それが繰りかえす現象になるのです。
こういうことを考えてくると、自然のエネルギー、物が下に落ちるエネルギー、これをコントロールするために体を動かす。人間が司令塔で自然のエネルギーをつかうということです。(スライド7)
こういう動き、考え方は、甲野善紀さんという古武術家が長年研究してきましたことです。桑田選手だとか末讀選手などかヒントを得ているようです。
スキーの場合、斜面で行うわけで、このエネルギーは大きく、これを利用しない手は無いと思います。
わたしがスキーを回していると考えてはいけません。もちろん、初心者はそんなことを認識しなくても出来る指導の仕方は考える必要はありますが、こう動いたら、こう回ったという指導の仕方があると思います。
■原因と結果で3態に整理した (スライド8)
原因と結果に整理をしました。人間のエネルギー、心理的なエネルギーから身体エネルギーに変えていき、身体運動が司令塔になって、自然のエネルギーをコントロールして、スキーのターンになるので、からだを動かすことを原因と考え、今回は、テールコントロール、トップ&テールコントロール、トップコントロールの3態としました。
また、水平面については、はじめて教程で使うことにしました。(スライド9) 斜面の上に水を入れた筒を置いたときの、水の面が水平面です。
■遠心力と内傾の話 (スライド10)
傾けることがターンの直接的な原因ではないと教程に位置づけました。ただ、ターン内側に角付けしていくときに、内側の脚を短くしていくと、スムーズな角付けができる。しかし、これ以上傾けたら倒れてしまいます。
傾けがターンの原因ではなくて、角付けがあくまで水平面に対して内側に傾き、重さが乗ることで、合理的な方法として、意図的に傾ける動作が、
トップコントロールでは意味を持つといえます。
よって、スタンスが広いほうがダイナミックに使えますので、トップコントロールは習熟過程ではスタンスが広がってきます。パランダーの写真みればわかります。(スライド2)
もうひとつ、ターンが起こりますと遠心力が起こります。遠心力を受けると大きな力を受けます。
回転の後半に押すと思っていたことは、実は遠心力を受けてみかけの体重が増えたということになります。重力と遠心力の合力がスタンスのなかにあれば、耐えられる。遠心力に適応するために傾くわけです。
■遠心力によって作られる水平面
遠心力を受けると、静止した面とは変わってきます。バケツに水を入れて振り回すのと同じです。水平面には2つあります。
教程ではこの言葉は使っていませんが、絶対水平面と、相対水平面と考えています。
テールコントロール、トップ&テールコントロールは基本的には、外側への落下エネルギーを使います。(スライド11)
この意味では、この2つは近く、外側のスキーにウエイトが乗り落下することになります。絶対水平面には角付けが立っていますが、しかし相対的水平面では角付けが谷側に傾いているので、外側に落下することになります。
トップコントロールは絶対水平面はもとより、相対水平面に対しても角付けを立てることにより、内側(山側)への落下エネルギーとなります。(スライド12)
■スキー縦軸に沿う力
外側に落下する力が同じだと仮定して、縦軸の力の大小で考えてみると、これは斜面の差、スピードの差になりますが、この力に対して胴体をどう保つか、縦軸の方に大きな力を受けるときは外向傾姿勢は小さくなる、正対してきます。(スライド13)
トップコントロール、誤解が多いイので注意してください。ターン内側が同じで。スピード条件を変えますと、当然のことながら、胴体の内向きは少なくなるということになります。これも正対してきます。(スライド14)
誤解は、スピードがあるほうが内側と思われがちですが、逆となります。これは教程に載せていませんが、ご理解ください。
■ターン運動の原因と結果のまとめ (スライド15)
物理的には自転と公転でターン運動が起こるということですが、自転と好転の関係は、自転運動が最初で公転運動を引き出していくことになります。その意味で、ターン運動の原因の3態は、自転運動の起こし方の違いです。
荷重角付けのはなしをしてきましたが、これは一体でないと有効ではありません。かつては、荷重、角付け、回旋と3つに分けて考えてきましたが、荷重と角付けが極めて重なり合います。
抜重回旋はテールコントロールの切り替えでは明確に出てきます。具体的にはシュテムやジャンプ。テールコントロールは、バツジュウ回旋により切り替えて、荷重角付けでターン外側にずだしながらターンを行います。
トップ&テールコントロールは、切り替えも荷重・角付けで行います。その意味では、切り替え期はトップコントロールに近い形になります。舵取り期は、荷重角付けでわずかにすれ幅を制限した形で現れます。
トップコントロールは、荷重角付けがすべてです。2番目までの局面構造とは違う運動。乱暴に言えば、従来のような切り替え期の始動期は存在しないと考えています。
舵取りの前期で、後半はむしろニュートラルポジションに戻していくことで、ニュートラルゾーンという現象が現れてきます。
トップコントロールでは、舵取りの前半、絶対的な水平面と斜面とは同じで、内腰をたたみこんでいきます。股関節を外旋させていくという運動がおこる。外旋させて自分のウエイトを乗せていくと言う運動です。(スライド16)
後半になりますと、斜面はまわりこんでいきますと、外足が低くなります。これが大変。電車や自動車でも外側が低いなんて走れない。スキーは外側が低くなります。
外側のスキーが低くなっているのに、内側へ落ちるちからを作り出さないといけない。外側の股関節の働きが重要。
問題は外側であり、2つのレール同じ角度なら、内側より外側のほうが長い距離になる。とうぜん、外側のほうを早く回していかなければいけません。車も同じです。外側が置いてきぼりになる。そんな現象もでています。
■変化していくのだから変わっていかざるを得ない
陸上の末讀選手、また、世界中から注目されているスケートの清水選手など、日本の中に素晴らしい素材がたくさんいます。いま世界のトップをまねしてもトップには立てません。誰もやっていないことをチャレンジすることが大切です。もちろん危険が伴い、効率も悪いでしょうが。
最後に、教程の8ページを見てください。右側の上から3行目、いつまでも改定されないで長く使えることは、望ましいことではないと思います。完全なものではない、すぐ変わっていかざるを得ないということを、あえて書かせていただきました。
[10月12日付 教育広報委員会 上田英之]
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