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ホーム > 教育本部TOP > SAJデモンストレーター選考会 理論講習 市野聖治委員長
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2003年度SAJデモンストレーター選考会

2002年11月20日(水) 16:00〜
 
スキー技術論

◆人間として豊かな生活をしていくと言うところに目的がある

写真:SAJデモンストレーター選考会 理論講習
市野企画委員長

 スポーツ全体に言える事ですが、スポーツを行うということは、少なくても人間として文化的な生活をしていく、人間として豊かな生活をしていくと言うところに目的があると自覚していただきたいのです。昨年、スキーへの誘いという教程ができましたが、われわれがスキーをしたいと思う気持ちが満たされることによって、その人が豊かな人生をおくることができます。大切なところだと思います。この目的を理解しないと、競技スキーも勝てないし、一般スキーヤも増えないと考えます。

 

 

◆しかし、この目的を達成するためには必ず技術が必要

写真:SAJデモンストレーター選考会 理論講習
<図1>

 しかし、この目的を達成するためには必ず技術が必要です。ただし、技術はあくまでも手段の関係になります。欲求の充足という目的よりも、手段である技術に偏重してきたという反省が我々の中にあります。目的と手段という捕らえ方をはっきりすべきであると思います。欲求の充足を簡単な言葉であらわせれば、楽しいということであります。このレベルになりますと、一人一人全部違うということです。目的が多様化しているのですから、簡単に画一的に物事が進むわけではありません。ですから、全日本スキー連盟としては、中央研修会と地方研修会という考え方を変えました。中央研修会として出すことは、欲求差、個人差を計算したとしても、この部分は必ず同じになるだろう、そういうものについて中央研修会では情報をだしていく、それをどう使って行こうかということは、それぞれの独自性が生かされる形でで考えて行こうということです。


◆クルッケンハウザー、ポピヒラー時代のスキー技術を使って新しい用具スキーをしている

写真:SAJデモンストレーター選考会 理論講習

 この後の話は、技術論だけお話します。誰が滑ろうがこの技術論だけは変わらないと考えています。いま私たちがやっているスキーはクルッケンハウザー教授が考えだされたものといえます。クルッケンンハウザー教授は横滑りと横滑りの連続がターンだと言ったわけです。スキーのトップを基点として外側にスキーをずらして行くターン技法を理論化しました。次の時代は、ポピヒラー教授で、パラレルターン大回りに代表されるスキーのセンターを基点に雪面抵抗によって、ターン外側への横ずれを少なくしたターン技法を理論化しました。ここでスキーの技術論は現在までストップしています。なにが変わったかというと、スキーの板が進歩してきました。今は、ポピヒラー時代のスキー技術を使って、新しい道具を使ってスキーをしているわけです。当然、新しい技術が必要であるし、みんなで創っていかなければならないと思います。それが、商品開発や再開発と言っていることです。なぜオリンピックで勝てないのか、考えてみれば今一番上手いトップスキーヤーを分析して真似ても、その人を追い越せません。トップの先にでるためには、新しい技術を生み出さなければいけないのです。

◆ターンのエネルギーを与えるということを重力で説明している教科書はない

写真:SAJデモンストレーター選考会 理論講習

 そのためには、スキー技術論の中核のところを勉強しなければなりません。そこを理解すれば、とんでもないアイデアが生まれるかもしれません。技術の話は極めてシンプルです。スキーの板の動きは3種類しかありません。他は派生的に理解ができます。スキーの板がターンするには、自然のエネルギーだということです。世界中のスキーのテキストにスキーの技術的特性はなにかというと、「重力による落下運動」と書いてあります。しかし残念ながらスキーの板にターンのエネルギーを与えるということを重力で説明している教科書はありません。乱暴ですが、スキー教程でも直滑降は重力で説明されていますが、ではどうやってスキーをターンさせるのか。スキーの縦軸方向に滑って行くのは確かに重力による落下です。それを人間が力を使ってスキーの板を外側に押しますとターンすると、いままでやってきたのです。クルッケンハウザー教授の用語で言えばひねり押し出しと言ってきました。どういう事かと言うと、自然のエネルギーと人間のエネルギーが対等にスキーのエネルギーに変換されたということなのですが、私はその考え方を取りません。すべて自然のエネルギーでターンを完成させることができます。ただしその条件をコントロールするのが人間の力なのです。この考え方は、全日本でも統一されたものではありません、これから論議を深めて行くことになると思いますが、しかし、この考え方をベースに考えたいと思っています。

◆模型のスキーでも条件を与えてあげれば人間は関係なく、カービングターンをする

写真:SAJデモンストレーター選考会 理論講習
カービングを科学する模型


 3年前の「東海テレビ・てれび博物館」という番組で「カービングターンを科学する」というので、視覚的にカービングターンを見せたいとディレクターの要求で苦労して作ったモデルです。模型のスキーでも条件を与えてあげれば人間は関係なく、カービングターンをします。内側の板のトップが雪面抵抗を受けて浮かび上がり内側へ落ちます。物理的な力でただスキーは縦軸方向に落下するんだということだけではなく、スキーの横軸方向にも落下するんだということを、きちんと認識すれば、自然のエネルギーが基本的にスキーを回し、そのスキーを回す条件を人間がコントロールする立場に立つわけです。クルケンハウザー教授は踵の押し出しだと言ったのですが、そうではないと思います。

◆スキー板の落下運動の種類を理解する

写真:SAJデモンストレーター選考会 理論講習
<図3−2 A>

 図3−2Aですが、(c)は縦軸方向にスキーは滑って行きますが、エッジを谷側に倒してやることで、谷側に対する横軸方向の力が働きます。(a)は山側の水平面に対して角を傾けます。当然、山側へ落ちようとします、山側への横軸方向への落下です。しかし、山側には落ちることができません、斜面に支えてしまいますので真すぐに進むわけですが、スキーのたわみが効いて、先端が浮き上がり、先端から内側に落ちて行きます。ですからカービングターンはズレないスキーではありません。(c)はテールがターン外側に出て行く、(a)はトップがターン内側に入って行くということになります。(b)はエッジを山側にも谷側にも立てない水平面にフラットにすると山側にも谷側にも落ちないので真っ直ぐに行きます。通称で言うと、(c)は横滑り、(b)は斜滑降、そして(a)はまだ固まっていませんが、トップコントロールということになると思います。水平な面に対してどう角付けするかで決まるわけで、極めてシンプルす。これは角付けの定義が変わるということです。

◆スキー板の落下運動

写真:SAJデモンストレーター選考会 理論講習
<図3−1>

 図3−1真ん中の図は水平面に平行ですから、横軸方向に力が働きません。下側の図は、ターン外側谷側に落下します。上の図は、水平な面より山側に角付けしており、山側に落下しますが、落ちたくても落ちれずにトップが浮いて山に落ちることになります。スキッディングターンはこの下の図の条件を、カービングターンは上の図の条件を作り出せばよいということです。このことは、角付けの定義が変わるということです。いまスキー教程では斜面に対して角を立てると書いてあります。抵抗を生むということでは意味がありますが、横軸方向のコントロールは、水平面に対して角付けを行っているかということです。

われわれがずっと慣れ親しんだ外向傾姿勢

写真:SAJデモンストレーター選考会 理論講習
<図5−3>
  図5−3 水平な面に対してエッジを谷側に落として行いきます。ウエイトは谷側のスキーの上にくるのは自然です。われわれがずっと慣れ親しんだ外向傾姿勢です。古典的ではありますが、スキーにとって当然ですが大切な形です。

 

 

 

◆カービングターンとは、内向、内傾、内スキー始動ということ

写真:SAJデモンストレーター選考会 理論講習
<図4−3>

 図4−3 水平な面に対して、エッジを山側に倒します。加重のコントロールと角付けを一体化させなければいけません。昔は、荷重、角付、回旋と言いましたが、乱暴ですが荷重と角付けだけだということです。驚くことは、カービングターンの時に、すべり手の感覚としてひねりが必要だという人がいます。カービングターンをしたとしますと、それは物理的なエネルギーで回っているのですが、スキーが物理エネルギーで運ばれるとき、維持しようとして、人間は残像、前のフォームと次のフォームの関係の中から、あたかも自分がひねったような感じになるわけです。結果として起こることを原因として考えたらとんでもないことになります。すべり手の感覚として滑り続けたら、自分がひねったような感覚だったというのは正しい感覚です。しかし、ひねったからカービングしたというのはとんでもないことです。もうひとつ起こってくるのは、どうも内側の脚に対する依存度が極めて重要になっています。私は、カービングターンとは、内向、内傾、内スキー始動ということを言っています。ただ、これほど単純な問題でもなく、まだまだこれから考えられなければいけない問題がたくさんあります。内向の必要性については、電車のレールは、カーブのところは当然ですが、外側の方が長いわけです。外側のが長いのに外向していたら、どこかに置いてきぼりになってしまいます。当然外側のスキーが早く行かなければ行けないのです。車も一緒です。ハンドルを右に切ると、外側である左になるの外輪は早く回るようになっているわけです。だから回れるわけです。スキーヤーで言えば、内向していくことがターンがスムーズになるわけです。

◆今までの斜滑降がスキッディングターンのための斜滑降だった

写真:SAJデモンストレーター選考会 理論講習
<図6>

 図6 スキーが水平面に対して、横付けがフラット、通称斜滑降でした。残念ながら写真がありません。いろいろと写真を探しましたがありませんでした。それは、今までの斜滑降がスキッディングターンのための斜滑降だったのです。斜滑降はカービングターンのためにも行われますので、これがナチュラルポジションです。左右の脚の長さの違う直滑降と言っても良いでしょう。たぶん、次の教程の改定では、この写真をお見せできると思います

 

 

◆ミスカービングというのは、完全に技術理論がついて行っていない証拠

写真:SAJデモンストレーター選考会 理論講習
<図3−2 B>

 つまり、図3−2B(c)では立軸方向と横軸方向の合力が谷側になりますので、体の向きは、当然外向傾になります。(a)は合力の方向が山側になりますので、当然、内向になります。当たり前の話です。レースなどで外向してカービングをしたらとんでもないことになります。内側に行きたい、遠心力で振られ、ましてや高いスピードのなかで外向したら、ひざに大きな負担がかかるのは当たり前の話です。ミスカービングというのは、完全に技術理論がついて行っていない証拠です。我々は恥ずかしいことですが、道具が開発されましたが、まだわかっていないのです。それを創り出していけばという気がしています。話は非常に単純化して話しておりますが、詰めていくと難しい問題がいっぱい詰まっています。

 

◆水平な面に対しての角付けでは、感覚的にはたぶん受け入れられない

写真:SAJデモンストレーター選考会 理論講習
<図23>

 図23、水平な面に対してターン内側に角付けしたらカービングする、外側に角付けしたら外側にずれるといいましたが、皆さん方がスキッディングターンをしているところを思い出してください。感覚的にはたぶん受け入れられないと思います。どういうことかというと、そのときのスキーの角付けはターン内側に倒れているのです。いままでの説明だとカービングターンをしなければいけないわけですが、スキッディングターンです。どういうことかといいますと、バケツに入っている水は水平ですが、バケツを持って振り回してみてください。バケツの水はこぼれません。このことは、水平面が変化したということです。なぜ動いたかといいますと、遠心力で動くのです。

 

◆絶対水平面に対して、遠心力が働いたときは相対水水平面

写真:SAJデモンストレーター選考会 理論講習
<図23>

 図22、車のタンクだと考えてください。左は真っ直ぐ走っています。右は左にハンドルを切ったときです。遠心力で水平面が動きます。床の水平面を絶対水平面、これに対して遠心力が働いたときを相対水平面と呼んでいます。
図23の相対的水平面に対して、内か外かということになります。多くの場合、我々がカービングをしている時、相対的水平面に対して、この角度が甘いと思います。だけれども、カービングスキーは外側にズレにくいので、スキーの力でなんとか滑っているのだと思います。

 

◆極めてシンプルな形で話をさせていただきました

写真:SAJデモンストレーター選考会 理論講習

 最後に、お話したかったことは、目的としてのスキーの面白さに対して、手段的にかかわるスキーの技術とか指導だとかについて、我々はクリエイティブに考えて行かなくてはいけません。今あるものが良くはない、だから勝てない。もっと良い商品を開発しなければいけません。もっと面白いものを考え出して行かなければいけない、そのアイデアを考えるときに、本質がわからなくてはできないので、極めてシンプルな形で話をさせていただきました。

 

 

結論は胴体だと思っています

写真:SAJデモンストレーター選考会 理論講習

 このことを具現化していくために、いままで足首だとかひざだとか言って来ましたが、私の結論は胴体だと思っています。重力をコントロールする基本は胴体だと思います。ヒントを言いますと、ターンの後半、内足と外側の脚の長さが大きく違ってきます。尚且つ、外側のスキーは内側より前に行かないといけない。内側の股関節がどれだけたためるのか、内側の股関節がどこまでコントロールできるのか、こういう問題になってきます。

 

◆どうしたら楽しいスキーができるのかを考えて行かなければいけない

写真:SAJデモンストレーター選考会 理論講習

 巨人軍の桑田選手再生の原動力となった古武道の先生に会うチャンスがありました。人間のエネルギー、自然のエネルギー、スキーのエネルギーとまったく同じ発想をしていました。重力を使うのだと。トップコントロールは内向内傾ですから、胴体をひねるとすごく弱くなるので、胴体をひねりたくない。その先生も同じことを言っていました。ねじらない、溜めないと。そう考えて行くと、我々の知らないことばっかりです。そういう中でどうしたら早く滑れるのか、どうしたら楽しいスキーができるのかを考えて行かなければいけないと思います。

 


                         [01/09 教育広報委員会]

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