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原発を追い出した町レポート~原発の最大の害は健康被害より国民同士のいがみあい

「わしはね、もともと原発推進だったんですよ」と語ったのは、元和歌山県日高町長の志賀政憲さん。志賀さんは町役場の職員だったが、1990年に原発反対を訴え、立候補して当選した人物だ。

原発計画が持ち上がったが、地元住民の反対により、原発を追い出した和歌山県日高町。執拗かつ狡猾な電力会社の計画ゴリ押しを一蹴できたのは、原発反対派の町長が誕生したのが大きい。いくら住民が反対しても、電力会社はあの手この手を使って、原発計画を既成事実化しようとするが、自治体の長がノーとなれば、そう簡単にはいかなくなる。原発を町から追い出すには自治体の長が反対かどうかが大きなポイントとなる。

それにしても福島原発事故が起きる20年以上も前に、原発反対を訴えるのは容易なことではない。1986年にチェルノブイリで原発事故が起きたが、日本人の多くはこう思ったはずだ。「ソ連だから事故が起きたに過ぎない。技術力のある日本でずさんな原発事故など起きない」と。

しかし実際には現状のずさん管理を見ても明らかなように、日本の技術はクズだった。いや原発そのものの技術は素晴らしいのかもしれないが、運用・管理がひどいからこそ事故が起きるし、今日も福島原発で配管を外すミスにより、汚染水が建物内に漏れ、作業員6人が汚染水を浴び、被曝したという。

そもそも独占体制で不当に高い電気料金を押しつけ、安全対策より原発立地自治体のバラマキに終始し、事故が起きても不祥事があっても倒産しない、甘やかされた電力会社に危機感はまるでない。その驕りこそが、安全軽視、事故隠蔽、情報改竄など、様々な犯罪行為を行い、国民を騙してきた結果が、福島原発事故なんだと思う。

元日高町長の志賀さんに話を聞いたのは、映画「シロウオ~原発を止めた町」に出演してもらうため。2013年8月末にインタビューしたのだが、まさかもともと推進派だとは思いもしなかった。

「わしはもともとの役場の人間だからね、そりゃゴリゴリの推進派ですよ。福島原発にも視察に行きましたよ。立派な道路、施設がいっぱいあって、電源交付金でいくらでも金がもらえる。使い切れないぐらいの金がもらえる。こんなありがたいことはない」

またこんな話もしていた。「福島で話を聞いたら『原発に反対する住民など出て行けばいい』という。まるで原発に推進してなければ町の人でないみたいな雰囲気だった」

しかしまさかその数十年後に、原発事故により死の町と化し、原発推進派の人間も町から強制退去させられるとは思いもしなかっただろう。

そんな志賀さんが原発推進から反対に転じ、役場の職員という地位を投げ打ってまで、町長選に立候補したのはなぜなのか?

「私は公民館で働いていた時もあった。当時は公民館で結婚するのが流行っていた。ところが公民館で結婚式やっても、人が集まらない。『あいつは原発推進派だから式にはでない』とか、『あいつは原発反対派だから式にはでない』とか。こりゃ、まずいなと思いました」

これまでみんな仲良く平穏だった町が、電力会社から原発計画という「爆弾」を落とされた途端、推進派、反対派に分かれて互いをいがみ合うようになった。結婚式など家族や親戚が集まる行事や、町民で協力して運営する祭りなど、原発によって住民が分断されることにより、立ち行かなくなってしまったのだ。

「地元の住民がいがみあってまで原発を誘致する必要があるのか?それは本末転倒な話ではないか」

今まで原発がなくてやってこれたのだから、無理に原発を誘致する必要はない。原発話はなかったことにすれば、今までのように、住民同士が仲良く暮らせる方がはるかにいい。原発のせいで祭りができないとか、結婚式が成り立たないなんて、どう考えてもおかしい。それで志賀さんは原発反対を掲げて町長選に立候補した。

映画撮影のため、原発計画を追い出した和歌山県日高町と、徳島県阿南市の人にいろいろインタビューをした。反対する人の多くは、温排水の危険、放射能の危険、万が一事故が起きたら住めなくなる危険など、危険だから反対している人が多かった。

しかし志賀さんのように、事故が起きるとか起きないとかの問題ではなく、放射能がどれだけ人体に影響があるとかないとかの問題ではなく、原発のせいで住民が二分し、いがみあうことが原発の害だと考えて反対した人もいる。

福島原発事故が起きる前までは、原発のせいで住民が分断され、住民同士がいがみあうのは、原発計画がある町や原発立地自治体に限られていた。ただ福島で原発事故が起きた結果、日本中が原発推進と原発反対に分かれて、国民同士でいがみあうようになってしまった。

例えば震災直後、主人と大喧嘩したママさんから記事にコメントがあった。旦那さんは福島産の桃が売れないから社内で特価で買ってきて食べろという。しかし奥さんの方は授乳している4カ月の赤ちゃんがいるので、福島産の桃は食べないと断った。それに対して旦那さんは、「一個二個食べたくらいで被曝するのか。農家の人に申し訳ないと思わないのか」と怒ったという。

ここで問題なのは福島産の桃が本当に安全か危険かの話ではない。原発のせいで考え方が二分し、どういう影響があるかもよくわからず、まるっきり違う考えが夫婦の間に発生してしまい、それこそ離婚とかにも発展しかねない重大なあつれきを生んでしまうということだ。

別にここの夫婦に限った話ではない。福島原発事故が起きてから、原発に対する目に見えない不安から、国民同士が無為な言い争いをしなければならないことを強いられている。

原発がなければこんなことは起こらない。火力発電所ではこんないがみあいは起こらない。原発の最大の害は実害があるかどうか以前の問題として、国民同士が不毛な争いをせざるを得ない状況に追い込まれることだ。

だから元日高町長の志賀さんは原発反対に転じた。それによって多少の経済的なデメリットは生じるかもしれない。でも今まで原発なしでやってきたわけだし、ましてや原発がなければ、みんな仲良くできる。それが真の活性化ではないのかと。

昨日もツイッターで東電をめぐる発言について、ちょっとした言い争いがあった。でもこれも原発があるせいだ。もはや福島原発も柏崎刈羽原発なしでも東京の猛暑の夏でも、電力不足にならないとわかってしまった今、ろくに管理すらできない原発を再稼働させる必要があるのだろうか?再稼働させるさせないで、また推進派と反対派でいざこざが続き、原発を動かすことによって、実害があるかどうかとか、また事故があるかどうかではなく、不安を抱く人がいっぱい出てきてしまう。国民の不安にさせ、ケンカさせ、それで国や経済が活性化するのだろうか?

原発のせいで国民がいがみあうなんてこんなバカらしい話はない。数字では測れないが、いがみあいによる「損失」は測りしれない。

原発がないと夏にクーラーがつけられず、熱中症で死人が出ましたというなら、いくら危険な原発でも動かさざるを得ないが、原発を動かさなくてもそんなことにはならなかった。

これ以上、国民を二分して国民同士の仲を険悪にするような原発を、無理に再稼働させる必要はまったくないと思う。

ちなみに、こうした原発のせいで住民が分断される様子を、実にリアリティを持って描いた素晴らしい小説が、東野圭吾著の「天空の蜂」。しかもこの本は福島原発事故以前に書かれている。ぜひ読んでみてほしい。
・「天空の蜂
またかつて原発計画を追い出した町の住民にインタビューした映画「シロウオ」は、8月末に撮影がすべて終了し、今、編集作業に入っているところです。大まかな構成はほぼできあがっており、11月末完成に向けて、今、作業を進めているところです。小出先生も原発予定地だった海で泳いでいる海パン姿で登場します(笑)。まじめなインタビューももちろん撮影していますが。
・映画『シロウオ』 ~原発立地を断念させた町(仮) 製作発表資料
http://www.kasako.com/kasakoeiga10827.pdf

・かつての原発予定地そばの海で小出裕章先生が泳いでる!
http://kasakoblog.exblog.jp/20992725/

・自立できない人間や町が原発に賛成する~小出裕章氏インタビュー
http://kasakoblog.exblog.jp/19993956/

・動画:戦争と原発~お上の言うこと信じたらあかん~95歳のおばあちゃんインタビュー
http://www.youtube.com/watch?v=PEA83PueKDI

かさこ
政治・金融・社会問題などさまざまな話題を提供。

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