WEB特集
大地震でも“見えない”活断層
10月7日 20時10分
都市の真下で起きると甚大な被害を及ぼす活断層の地震。
原子力発電所を巡る議論でも活断層の存在に注目が集まっています。
その議論に一石を投じる分析結果がまとまりました。
国内の活断層で起きた大地震の80%余りが地表では長大な段差などの大きな変化を伴わずに発生していたというのです。
社会部災害担当の島川英介記者が解説します。
「結果」から「原因」を探る活断層の研究
「活断層」と聞くと、平成7年の阪神・淡路大震災(兵庫県南部地震M7.3)の際、地表に現れた大きな段差を思い浮かべる方もいるかも知れません。
実は、この段差が地震を引き起こすわけではありません。
活断層がずれ動くのは5キロから20キロ程度の地下深くです。
大地震の場合、地下深くの断層が大きくずれ動くため、地表にも段差や崖などが現れることがあります。
長年、活断層の専門家は、航空写真の判読や掘削調査などを行って地震の「結果」として生じる段差や崖などの痕跡を調べ、「原因」となった活断層の存在を探ってきました。
活断層8割余り“現れず”
日本の国土や周辺海域には分かっているだけで2000を超える活断層があります。
活断層は地震のたびに繰り返しずれ動く断層で、あらかじめ活断層の存在を把握しておくことは防災対策を進めるうえで重要です。
しかし、近年、大きな被害が出た地震は、活断層の存在が分かっていなかった地域で起きています。
▽平成16年の新潟県中越地震は活断層が確認されていない地域で発生し、▽平成20年の岩手・宮城内陸地震などは、地震が起きてから活断層の存在が明らかになりました。
活断層や地震のメカニズムに詳しい東北大学の遠田晋次教授は、観測記録がある過去90年間に国内の陸地の活断層で起きたマグニチュード6.5以上の合わせて33回の地震で、断層の動きによる段差などの変化が地表にどの程度現れていたか分析しました。
その結果です。
黄色の印で示した兵庫県南部地震など6つの地震では、地震の規模や活断層に相当する長さの段差などが地表で確認されました。
一方、オレンジ色で示した全体の80%余りの地震では、地震のあと、段差などの変化が一部にとどまったか、全く確認されませんでした。
仮に、地震が起きたあと地表だけを調べたとすると、僅か18%しか、活断層や地震の規模を正しく評価できないという結果になります。
難しい活断層の調査
活断層で起きる地震で地表に現れる変化は非常に複雑で、大きな変化が現れないことが多いのです。
岩手・宮城内陸地震では、震源地周辺のところどころで数十センチ程度の小さな段差が見つかりましたが、いずれも連続していませんでした。
ところが、小さな段差の下を掘削して調査したところ、地下では地層が上下に2メートルほど食い違っていました。
過去の地震でも繰り返しずれ動いていた活断層が見つかったのです。
では、「小さな段差はそれぞれ活断層と見なすべき」なのかというと、そう簡単ではありません。
東北沖の巨大地震の1か月後、おととし4月に福島県で起きたマグニチュード7.0の地震では、小規模な2本の活断層に沿って地面が上下に最大2メートルもずれ動く、大きな変化が現れました。
その周囲には数センチ程度の段差が10本程度現れましたが、こうした小さな変化は地震の揺れや地盤の動きによっても生じることがあるのです。
研究や評価の見直し
政府の地震調査委員会は、阪神・淡路大震災をきっかけに、防災対策を促すため、主な110の活断層を対象に調査や分析を進め、地震が起きる確率や規模などの評価結果を公表してきました。
しかし、近年の地震から、個別の活断層に注目するだけでは不十分であることが分かってきました。
地震調査委員会は評価方法を見直し、比較的短い活断層も対象に加えていくとともに、地震の発生確率などは複数の活断層を含む地域ごとに算出するようになりました。
ことし2月には九州の活断層で地震が起きる確率を公表し、今後は関東など、全国各地域の新たな評価を公表していく予定です。
調査技術の向上も
専門家の間では、活断層を探し出すための調査の手法も見直されつつあります。
最近注目されているのが航空機とレーザーを使った精密な測量技術です。
写真は岩手・宮城内陸地震の震源地周辺です。
左のように、樹木に覆われた地域でも、レーザーを使うと右の○で囲ったところに断層の線が浮かび上がっています。
活断層を知る手がかりが得られやすくなり、現地調査などと組み合わせることで一定の成果が期待できます。
潜む活断層を念頭に備えを
ただ、さまざまな技術を駆使しても、すべての活断層を見つけるのは依然として困難です。
また、活断層の地震は発生間隔が長いため、活断層の位置や確率の数字などを示されても危険性を正しく受け止めるのは難しいと感じます。
かつて岩手・宮城内陸地震の被災地を取材したとき、地元の方が「岩手県の大地震は沿岸で起きると思っていた。まさか内陸で起きるとは思ってもみなかった」と話していましたが、私自身も同じ思いでした。
遠田教授は、「活断層が確認されていない、地図に活断層の線が引かれていない地域でも、安心はできない。活断層は至る所に潜んでいる可能性があり、大地震はどこでも起きるという意識で耐震補強などの対策を進めてほしい」と話しています。
今回の分析結果は、活断層研究の難しさと同時に、地震への備えの大切さを改めて示していると言えます。