やっぱり、奨学金問題は自己責任ではない:ご意見に反論いたします

2013/10/11


狂った日本の奨学金制度:大学卒業のために「720万円の借金(利子付き)」を背負うのは自己責任?」という記事を書いたところ、たくさんフィードバックをいただきました。反論するかたちになってしまいますが、ぼくの意見を記しておきます。


「バイトで稼げばいい」

まず、件数が多かったのが「バイトで稼げる」という主張。

大学をどのような目的で進学するかに、拠ってくるのでしょうね。

単に「大卒という学歴が欲しい」というだけなら、ド楽勝科目だけを履修し、最小限の努力で単位をゲットし、空いた時間をひたすらバイトにつぎ込む、というアプローチもありだと思います。進学の目的が純粋に学歴の獲得であるのなら、ぼくも「アルバイトで頑張って稼げばいいんじゃない?」とアドバイスします。

が、現実にはそれ以外のケースが大半で、大学に進学する目的というのは、当たり前ですが「勉学のため」です。学部学科、ゼミによっては圧倒的な勉強量を課されることもあるでしょう。そういう場合においては、言うまでもなく「バイトで稼げ」というのは無茶な要求なわけです。

12万円を稼ぐとしたら、時給800円でも月150時間の労働が必要です。年間にして1,800時間。4年間だと7,200時間。この時間を勉学に割くことができれば、難関資格の一つは軽く取れてしまうでしょうね。大学はそもそも勉強するために行く場所ですから、「奨学金を取るくらいならバイトしろ」というのは、基本的に本末転倒な話だと思います。


「社会に出てから大学に通い直せばいい」

これは選択の問題で、確かに「18歳で進学しない人」もいますが、世の中には「18歳で進学したい人」もいるわけです。親兄弟でもあるまいし、「18歳で進学したい人」の意志をぼくらは尊重すべきです。「18歳で進学したい人」が金銭的な事情で進学を諦めざるを得ないような社会、返せるかもわからない高額な借金を背負う社会は、ぼくは嫌ですね。

また、高卒で社会に出ることは、一般的にハイリスク・ローリターンであるのも事実です。ここら辺は統計資料が充実していますが、たとえば生涯賃金で見ても、高卒と大卒では4,000万〜6,000万円の格差があります。金銭的な事情で進学できない人を、ハイリスク・ローリターンな高卒という道に追いやるのは、公正とは言えないでしょう。


「高卒でも生きていける」

これも上と同じで、選択にまつわる問題ですね。「大学行かないで就職する道もないわけじゃない」ことと、AさんなりBさんなりCさんが「大学に行きたい」と願うことは別の話です。

Aさんたちの希望を「お前の家は金がないんだから、大学に行かずに就職すべきだ。現に、ほれ見ろ、オレはなんとかなってるぞ」と掃き捨てるのは、ヒドい話です。こういう人は、まず「自分は社会環境に恵まれた強者である」という自覚を持つべきかと。


「努力して給付奨学金を受ければいい」

生まれ落ちた家庭は選べません。この論理が導きだす「貧困家庭に生まれた人は、他の人よりも一層努力しなければならない」という帰結は、やはり公正ではないかと。貧困状態では学習塾に通うこと、教材を購入することも難しくなりますし、あまりにもハンデが厳しすぎます。


「貧乏人は努力せよ」

こちらも同様で、この論理だと金銭的にハンデがある人は、そうでない人に比べて一層の努力をしないといけないことになりますね。そういうロシアンルーレットめいた社会は、ぼくは嫌です。生まれる家庭は選べませんから。

「適切な努力をする」ということは、それ自体が、ある種の資本であることを忘れてはいけません。人間というものは、色々なものに恵まれていないと努力なんてできませんから。

ついでに、「月額12万は明らかに借り過ぎ」とありますが、彼は地方から出てきて一人暮らしをしているので、むしろ足りないくらいだと漏らしていました。実際、学費と家賃を支払ったら12万円などすぐに消えます。「明らかに借り過ぎ」という意見は明らかに誤りでしょう。


「返せるかどうかをよく考え、予見すべきだ」

こちらも複数いただいた意見です。借金の金額を予見できるのだから、自己責任だと。


他の意見に関しては政治思想の違いに収斂できる部分が大きいですが、この意見については、明らかな誤謬があるように見えます。それは、これらの意見が「借金をするときに、借金を返せる目処が立つことを、学生が完ぺきに予見している(べきだ)」という前提に立っていることです。

無論、それは無茶な要求です。ぼくが取材したTさんが漏らしていた通り、実際は「奨学金を貰って進学したけれど、就職できるかどうかはわからない」わけです。就職できたとしても、そこはブラック企業かもしれません。

最短でも卒業まで4年の時間が掛かるわけですし、奨学金を借りるときに「自分は4年後、100%就職できて、心身を病むことなく働きつづけ、完済することができる」と確信を持てる人なんて、いるわけがありません。そういう人がいたとしたら、それは現実を見ていない傲慢な人です。


また、18歳の学生が借金の重みを完ぺきに理解できる、という前提も疑うべきです。ツイッターではこんな意見もいただきました。

「深く考えずに借りるとは何事か!」と突っ込む人がいそうですね。あなたはさぞかし立派な方なんでしょうけれど、ぼくを含めて、人間(ましてや18歳の子ども)というものは愚かなものです。


「このケースには同情できない」

「事情はわからないけど、このケースについては同情できない」という意見も目立ちました。そう言いたくなる気持ちはわかりますが、個人的にはこれも強烈な違和感があります。

この論理を突き詰めると、世間から同情される人は救われ、同情されにくい人は救われないことになってしまいます。「可哀想な人しか救わない」社会は、未熟だとぼくは思いますね。

ついでに、「一丁前の文句は一丁前の努力をしてから言え!」とありますが、「一丁前の努力」はどのような基準で判断されるのでしょうね。ぼくは彼の話を聞いた当事者ですが、十分「一丁前の努力」をしていると判断しましたよ。

効率性の話から言っても、この種の社会問題については、そんな表面的、属人的な話ではなく、もっと根源的な制度について問い直すべきでしょう。こいつは自己責任だと思う、あいつは自己責任じゃないと思う、オレはあいつに同情する、オレはあいつに同情しない…などという不毛な「犯人探し」をしても仕方がありません。


どう解決する?

解決にあたっては長期的な施策と短期的な施策を、わけて考えるのが良いのでしょう。

長期的には「MOOCのような低コスト・高品質教育を充実させる」「奨学金という名前を辞めて、学生ローンという名称にする」「studygiftのような民間の支え合いを強化する」「奨学金に対するリスク説明を徹底する」「奨学金問題について、大学側のコミットメントを強化する」「給付奨学金を充実させる」などなど。

今まさに困っている人に関しては、短期的には「金利の引き下げ」「延滞金の減免」「障害、病気などに伴う返済免除」といった方策になるのでしょう。ここはどうしても、大なり小なり社会的なコストが掛かる話になってくるでしょう。

要するに、奨学金問題を解決するために税負担が重くなる(または、他の公共サービスの質を落とす)ということです。自己責任だとは思えない以上、ぼくは税金が多少上がっても、救済すべきだと考えます。この社会をつくった、ぼくら大人の責任です。

参考までに、現在滞納されている金額は900億円弱とのこと。09年度の「公財政教育支出」の16.8兆円を母数にすると、0.54%程度になりますね。直感的には少なく思えますが、実際の負担、予算のプライオリティはどう考えられるのでしょう。


色々と面白い取り組みは出てきていて、たとえば「法政大学「古本募金」」なんてものもあります。国による支援・救済を議論することはもちろんですが、OB/OG、地域やコミュニティの力による支援を盛上げていくことは、今すぐできることとしてやるべきだと思われます。


引きつづきご意見募集中です。コメント欄、ツイッターでぜひぜひ。


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