旧日本軍の慰安婦問題に関し、オランダ人女性の強制連行が裏付けられる資料の存在が明らかになった。
軍の関与と強制性を認め、謝罪した1993年の「河野談話」の基になったものとされる。
安倍晋三政権は現在、河野談話を踏襲しているとの立場を取ってはいるものの、第1次内閣では「強制連行を直接示す記述は見当たらなかった」とする答弁書を決定した経緯がある。首相は昨年の自民党総裁選のときには談話の見直しにも言及した。
首相のこうした過去の歴史に対する認識や姿勢は中国や韓国ばかりでなく、欧米からも厳しく見られている。外交上のわだかまりをなくすためにも、政府には従軍慰安婦関係の資料収集や調査をし直してもらいたい。
明らかになった資料は、旧日本軍がインドネシアの捕虜収容所から30人以上のオランダ人女性を強制連行し、慰安婦にしたことを示すものだ。神戸市の市民団体が資料を保管する国立公文書館に請求し、開示された。
オランダによる戦犯法廷で、複数の日本軍将校や民間人を強姦(ごうかん)罪などで有罪とした法廷の記録や、裁判後の関係者への聞き取り調査の結果が含まれている。
報じられた内容によると、「(日本人将校が)遊女屋の指揮、設立、施設、管理等を担当していた」「連行後、各人から承諾書を取る際も若干の人々には多少の強制があった」など、強制性を示す事例が幾つも出てくる。
河野談話が出されてから今年で20年。この間、研究者や市民団体によって談話を裏付け、補強する作業が続いている。一方、政府は談話を継承していると言うだけだ。新たに出てきた資料に基づいて慰安婦問題を再検討することもせず、歴史のとげを抜く作業に本腰を入れる気配はない。
談話の見直し論者として知られた安倍首相が発言を控えたり、今年5月に菅義偉官房長官が見直しを否定したりしたのも、外交で最重視する米国などから批判の声が上がったことが大きい。
6年前の退陣前後には、欧米の議会が相次いで日本に謝罪を求める決議をする事態になった。国際社会は人権上の問題として、今も日本の対応に神経をとがらせている。甘く考えていると、再びこのような事態を招きかねない。日本の評価を下げるだけでなく、外交にも支障を来す恐れがある。
安倍政権は、慰安婦問題への向き合い方を見直してほしい。