福島第一原発では、浸透流解析の結果、ダルシー流速という理論値で8.8 cm/dayという極めて早い流速が算出されている。これは、あくまでも理論値で、実際の流れは、地中の岩と岩との間などで、流速が十数倍にもなる可能性がある。このように、地下水の流速は極めて大きな問題にもかかわらず凍土方式を採用するにあたり、建屋周辺の地下水の実流速は測定されていない。
つまり、凍土方式が、実際の現場で本当に期待通りの遮水能力を発揮できるかは不確かなのだ。
また、土が凍り、期待通りの遮水能力を持つ壁が地中でできているかをどのようにモニタリングするかということも極めて重要だ。モニタリングは凍土の壁の近くに細い穴を掘り、そこに温度計を入れて地中の温度を測定する。温度が十分に低い値であれば、凍結していると判断する。
場合により地面を掘削して壁の状態を確認することもあると政府は答弁しているが、これでは不十分と言えよう。
そもそも、凍土方式では、縦に一定の間隔で穴を掘り、そこに凍結管を入れ、周りの土を凍らせる。同様にモニタリングについても、凍土壁周辺に穴を掘り、土の温度を測定するというもので、「点」による測定だ。
しかも温度により理論上遮水されていると判断するというものだ。「面」で判断する訳ではないため、本当に壁ができているのか、どこかで水が漏れていないのかをチェックすることは難しい。地面を掘削して壁の状態を確認したとしても部分的な確認に過ぎない。これは凍土方式の技術的な課題なのである。
このように、汚染水対策委員会の報告書は、確かな根拠やデータに基づいて、凍土方式を採用した訳ではなく、その可能性に期待したに過ぎない。
その点については、報告書が「凍土による遮水壁を、大規模にかつ長期間にわたって運用した前例はなく、今後の検討次第では設置が困難となる場合もあり得る」(35頁)、「世界に前例のないチャレンジングな取組であり、多くの技術的課題もある」(43頁)と述べていることから明らかだ。その意味で、凍土方式がこのままうまく行くという保証はどこにもない。
たとえ、FSの結果凍土方式が可能とされても、そのモニタリングの方法に限界がある以上、多重防御の観点から水が漏れる事態を想定しなければならないのである。
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