政府・東電は、稼働時期が未定の地下水バイパスを、建屋に地下水を「近づけない」ための唯一の「緊急対策」としているが、「稼働時期が未定」では本来早急に講じるべき緊急対策の意味をなさない。設備設置から半年が経った今、このままではあっという間に緊急対策を講じるべき「1年以内」が経過してしまいかねないのである。
緊急対策の代替措置提案である「鋼矢板の敷設」
緊急対策の地下水バイパスの稼働が現時点で見通せない以上、「予防的かつ重層的に」対策を講じるという観点から、代替的ないしは追加的措置を検討する必要がある。9月27日に開催された汚染水対策委員会(第7回)でも、地下水バイパス等が稼動できない場合の「更なる地下水流入抑制策」については、今後検討することとされている。
私からの提案は、本格的な遮水壁ができるまでの緊急的措置として、通常の河川工事等で用いられる鋼矢板を建屋山側ないしは建屋四方に多重に打ち込み、地下水の流入量を減らす、あるいは抑制する方策だ。四方を囲むことができればベストだが、建屋の山側だけであっても、一定の効果は期待できる。
2011年5月に米国NRC(原子力規制委員会)は、私が指揮を執っていた遮へいプロジェクトに対し「山側の壁はアンブレラ(傘)効果を生じ、(地下水が)プラントの周りに迂回する流れを作り出し、海洋に向かう流速を低減しうる」との提言を示してくれた。
鋼矢板は通常の河川工事で、止水・土止め目的で使用されており、設置費用・工期の点から見ても、緊急対策として迅速に措置できる。例えば、国交省の直轄事業で使われた例を見ると、2010年に荒川の工事では、深さ21.5m、長さ224.5mの規模で施工され、直接工事費は8,420万円だった。
今回、凍土遮水壁構築に予備費で約136億円が措置されることと比較すると遥かに少額だ。地下水は、地下約10mから20mのところを流れており、この程度でも一定の流入抑制効果は期待できる。
なお、工期についても、この荒川工事の事例では、3ヵ月程度で施工している。
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