「水俣条約」制定の経緯と課題10月10日 19時8分
水俣病の原因になった水銀の輸出入などを国際的に規制する「水俣条約」が、熊本県で開かれている国連の会議で採択されました。
なぜ、国際的に水銀の輸出入などを規制する条約が必要になったのか。
その背景には、世界各地で広がる水銀による健康被害や環境汚染があります。
カナダ中部のオンタリオ州では、1970年前後から、工場の排水に含まれた水銀に汚染された魚を食べた先住民の間で、手足がしびれたり視野が狭くなったりするなどの被害が相次ぎました。
カナダ政府は公式に認めていませんが、調査に当たった日本の医師は、これらの症状は水俣病に特有の症状だと診断しています。
さらに、水銀汚染は世界各地に広がり続けています。
UNEP=国連環境計画によりますと、2010年の水銀の大気中への排出量は推計で1960トンに上り、排出源は、小規模な金の採掘現場が37%と最も多く、次いで、発電などで使う石炭の燃焼で25%などとなっています。
途上国の小規模な金の採掘現場では、細かく砕いた金鉱石に水銀を加えて火であぶり水銀を蒸発させて金を取り出す作業が行われていて、作業員が水銀を含んだ蒸気を吸い込んだり水銀が周辺に排出されたりしていて、健康被害や環境汚染が懸念されています。
こうしたなか、UNEPが2002年にまとめた報告書で、水銀がさまざまな形態で環境に排出され分解されずに世界を循環していることや、人への毒性が強く特に胎児や新生児への影響が大きいことなどを公表したことを受けて、水銀の国際的な規制に向けた議論が始まり、2009年には新たな条約を作ることが決まりました。
その翌年から協議が始まり、ことし1月にスイスで開かれた5回目の国連の会議で各国が条文の案に合意していました。
条約の名称を巡る経緯
新たな条約を「水俣条約」という名称にすることは、日本政府が各国に提案していました。
しかし、この名称を巡っては、水俣病の患者や被害者の間で意見が分かれ、水銀の恐ろしさを世界に発信でき、水俣病の風化を防ぐことができると、賛成の声が上がった一方で、被害者の救済が終わっていないのに条約名にするのはおかしいなどとして、反対の声も上がりました。
結局、ことし1月にスイスのジュネーブで開かれた国際会議で、「水俣条約」という名称は参加したおよそ140の国と地域が全会一致で了承し、正式に決まりました。
また、条約の前文には、「水俣病を教訓にして水銀を適正に管理し、将来にわたって同じような公害を引き起こさない」という文言が盛り込まれました。
水銀輸出国・日本の課題
水俣病を経験した日本は、国内での水銀の使用を大幅に減らしていますが、その反面、アジアやヨーロッパなどに年間100トン前後、水銀を輸出しています。
しかし、こうした輸出向けの水銀は、水俣条約の発効後、取り引きが大幅に減ることが予想されるため、国内で最終処分したり、長期的に保管したりすることが必要になります。
その際、将来にわたって環境に影響を及ぼさないよう安全に管理していけるかが大きな課題になりますが、国内では水銀の処分や保管のためのルールや基準がまだ整備されていません。
環境省はルール作りを急ぐことにしていて、処分の方法として、揮発しやすい液体状の水銀を固体の硫化水銀に変え、樹脂などで固めて安定化させたうえで、処分場で埋め立てることを検討しています。
しかし、リサイクル業者によりますと、安定化させた硫化水銀を処分場に埋め立てた後、長期間にわたって溶け出さないかどうかは、まだ十分に確認できていないとしていて、埋め立てる場合に周辺の住民の理解を得られるかどうかも課題だと指摘しています。
また、安定化させる処理には、さらに大きなコストがかかる見込みで、今後、誰がその費用を負担するのかについても議論が必要になってきます。
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