Business特集
オープンデータで変わるビジネス〜日本の現状は〜
10月10日 11時00分
ことし6月、イギリスで開かれたG8サミット=主要国首脳会議で合意された「オープンデータ憲章」。原則として、政府が保有するすべてのデータをオープンデータの形で公開することで、政府の透明性向上や新たなビジネスの活用につなげるのがねらいです。来年のサミットで各国の進捗状況を評価することを盛り込むなど、オープンデータはもはや国際公約となっています。欧米を中心に進むオープンデータ、日本でもビジネスでの活用が徐々に進み始めています。(ネット報道部・山本 智)
3年後にほかの先進国並に
日本でもオープンデータは積極的に進められています。ことし6月、政府が決定した「世界最先端IT国家創造宣言」では、公開できない理由が明確なものを除いて、保有するデータはすべて公開するという理念の下に、防災や地理、人の移動に関する情報など5つの分野に重点を置いて、オープンデータ化していくとしています。そのうえで、アメリカの「Data.Gov」のようなサイトを開設するなどして、3年後の平成27年度末までに、ほかの先進国と同じ水準のオープンデータの公開と利用を実現するとしています。
オープンデータで地域経済活性化
福井県鯖江市は、2年前、全国に先駆けてオープンデータに取り組みました。これまで災害時の避難所やコミュニティーバスのリアルタイムの位置情報など28種類のデータを公開、地元のIT企業などがデータを利用して市民生活に役立つアプリを開発しています。
オープンデータのねらいは地域経済の活性化です。地場産業のメガネの生産が落ち込むなか、オープンデータを進めることでIT企業を呼び込み、新しい産業基盤に育てたいと考えているのです。牧野百男市長は「オープンデータを活用したアプリの中で、一つでもグローバルスタンダードに育つようなものが出てくれば、計算できないくらいの大きな経済効果が出てくるはずだ」と話しています。
オープンデータで新ビジネス
日本でもオープンデータで新しいビジネスが生まれています。岐阜県中津川市にある社員6人のベンチャー企業「カーリル」。ほとんどの公共図書館が公開している蔵書の検索データを利用して、全国約6400の図書館の貸出状況を調べることができるサイトを始めました。このサイトを使えば、例えば自宅と勤務先の図書館に読みたい本があるのかどうか、貸し出し中かどうか、図書館ごとにいちいち調べる必要がなくなります。
また、ネット通販大手「アマゾン」の情報を組み合わせて本の内容や表紙の画像を表示するなど使い勝手を高めたことで、開始からわずか3年で月に40万人が利用する人気サイトになりました。
社長の吉本龍司さんは「図書館が今まで無償で提供していたデータをより使いやすくすることで、新たなビジネスの可能性が生まれています」と話しています。
データに新たな付加価値をつける
吉本さんが注目しているのは図書館の貸出データです。新刊本の場合、書店の売れ行きランキングなどで販売データを知ることができますが、いったん、流通してしまうとデータを得ることはなかなかできません。カーリルを使って全国の図書館の貸出データを蓄積すれば、出版から時期がたっても、どの本がどれだけ読まれているのか詳しく知ることができます。
吉本さんは今、学術書専門の出版社にアプローチしています。学術書は出版部数が少ない場合が多いため、図書館の貸出データを分析することで在庫が切れた本の増刷や復刊の判断ができるのではないかと考えているのです。吉本さんは「オープンデータを加工してビジネスにつなげるケースはまだ少ないのが現状ですが、自分たちで積み重ねながら実現させていきたい」と話しています。
企業の間でもオープンデータの動き
企業の間でもオープンデータへ取り組みが始まっています。私鉄やJR東日本など13の交通事業者が参加してことし8月設立された「公共交通オープンデータ研究会」は、電車が今どこを走っているのかを示す運行データの公開に向けて検討を進めています。
こうしたデータによって、例えば、電車が今、走っている位置をリアルタイムにスマートフォンで表示できるようになるため、ダイヤが乱れたときの乗り換えの判断材料にしたり、今の乗り換えサービスがより使いやすくなったりすることが期待されています。また、目の不自由な人向けに実際の運行情報を音声に変換したり、大地震の際のいわゆる“帰宅難民”への支援に活用したりすることも可能になります。
研究会では、今後、公開方法などについて具体的な調整を進め、試験的なデータの提供に取り組みたいとしています。
研究会の会長で東京大学の坂村健教授は、オープンデータの可能性について次のように話しています。
「経済活動は人が移動することで活性化します。オープンデータにすることで、より多くの人がデータの活用方法を考えることができるようになります。7年後には東京でオリンピックが開催されることも決まりました。海外から訪れる人に対して、よりよい“おもてなし”をするためにも、オープンデータを利用してより多くのサービスを開発する必要があります。公共交通情報のオープンデータ化は今後加速していくだろうと思います」。
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