社説:国土強靱化法案 ばらまきの印籠は困る

毎日新聞 2013年10月07日 02時31分

 あたかも水戸黄門の印籠(いんろう)のように、ばらまきにお墨付きを与える根拠としてはならない。

 大規模災害などに備えるための国土強靱(きょうじん)化基本法案の次期国会での動向が注目されている。国土強靱化の名の下に野放図な公共事業に道を開く懸念や、他の政策よりも公共事業が優先される可能性など、法案は多くの問題点を抱えている。

 「国土強靱化」は東日本大震災の教訓を踏まえ、自民党が今後10年間の防災のハード整備に加え、道路網整備などによる「多軸型国土の形成と物流ネットワークの複線化」実現に向け、掲げる理念だ。

 同法案はこうした「国土の全域にわたる強靱な国づくり」を支える仕組みを制度化する。自民党は野党時代にいったん法案を提出したが廃案となり、さきの通常国会で名称に「防災・減災等に資する」と付け加え、内容も改めた新たな法案を公明党と共同提案した。

 旧法案が「ばらまき」批判を浴びたこともあり、今の法案は大規模災害対策に限定的ともとれる構成とし、既にあるインフラ施設の活用を盛り込むなど配慮もみられる。大震災の教訓を踏まえ全国的な防災の再点検は当然だが、なお多くの疑問を指摘せざるを得ない。

 まず「国土強靱化」が何を意味するかが依然としてはっきりしない点だ。法案によると、政府は防災に関する課題を洗い出し、基本計画を策定する。どんな分野が対象かが明確でないと、かなり広範な政策が含まれる可能性がある。

 中央集権的な要素もある。法案では地方自治体も施策を策定、実施する責務を負い、国民もまた国土強靱化に関する施策に「協力するよう努めなければならない」とされている。統制強化につながりはしないか。

 政府の他の計画も国土強靱化に関する部分は「国土強靱化基本計画を基本とする」とされ、国土強靱化が優位に立つ。財政再建、福祉、環境保全よりも公共事業が優先し、幅を利かせる根拠とならないだろうか。

 全国的な防災を実施するにあたって道路整備や堤防、防潮堤などのハードの新設を積極化するか、それとも既存設備の老朽化対策、耐震対策を優先していくかなどの議論は十分に尽くされていない。法案では政府の強靱化推進副本部長に国土交通相らが名を連ねる。「女性、高齢者、子ども、障害者等の視点を重視」とあるが、ソフト面の防災への意欲はあまり感じられない。

 安倍内閣の発足以来、公共事業への積極路線が取られ、消費増税決定に伴う大型景気対策で分捕り合戦の加速が懸念されている。国会で法案の中身を徹底吟味すべきだ。

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