シリア:化学兵器は廃棄が容易 全量毒ガス前状態で保管
毎日新聞 2013年10月10日 07時15分
【ハーグ斎藤義彦】シリア政府が化学兵器約1000トンの全量を弾薬などに充填(じゅうてん)せず、毒ガスを作る工程の前段階の安定した液体「前駆物質」で保管していることがわかった。化学兵器禁止機関(OPCW、オランダ・ハーグ)の関係者が毎日新聞に明らかにした。前駆物質で保管しているため、処理は比較的容易で、これまで実現困難と見られていた米露合意で決まった来年前半までの全量処理は、順守できる見通しが出てきた。化学兵器の保管の実態が判明するのは初めて。毒ガスは複数の化学物質を混ぜて製造する。毒ガス完成の前段階の前駆物質も化学兵器禁止条約で「兵器」とされている。
OPCW関係者は、各国の情報機関が「サリン、VX、マスタードガス」が存在すると報告していた点について「完成品では存在していない」と否定。「全て前駆物質で保管されている」と述べ、弾薬に充填されている例は「ない」とした。
化学兵器の処理で最も難しいのは、弾薬に毒性の高い化学物質が充填されているケース。密閉した施設で化学物質を抽出し、高温で燃焼させる。空の容器も残留物がある危険があり、破壊には時間がかかる。このため、米露は化学兵器禁止条約で定めた「2012年までの15年間の廃棄」期限が守れず、特別に延長を許されている。
シリアが前駆物質の形で液体保管していることが判明したことで、タンクに保管されている前駆物質を中和する作業が廃棄の中心になる。燃焼施設の建設や移動式施設などは不要で、処理は早まるとみられる。
OPCWは査察で実態を確認した後、来月15日までに処理計画を立てる。
9日、記者会見したOPCWのウズンジュ事務局長は、来年前半までの処理は「厳しいが達成する」と述べた。同事務局長によると、化学兵器の保管庫、生産・加工施設などは約20カ所で、これまで1カ所を査察、9日に2カ所目を査察した。