いい笑顔は、相手の心に素直に飛び込むらしい。きのうの本紙1面に載った安倍昭恵さんの笑顔はよかった。あの表情で向き合われたら、韓国の朴槿恵(パククネ)大統領も白い歯で応じざるをえない。「往(い)く言葉が美しければ、来る言葉も美しい」。かの国のことわざをふと思い出した▼一部地域は紙面の都合で載らなかったが、首相夫人と大統領は笑顔で握手を交わした。朴氏も作り笑いには見えない。冷えきり、すさびきった日韓の関係に、かすかな明かりを見た人もいたのではないか▼先月、昭恵さんが日韓交流の行事に参加したとネットに投稿したら、批判が相次いだ。昭恵さんは「色々なご意見がおありだと思いますが、お隣の国ですので、仲良くしていきたい」と書き足した。ファーストレディーとして何ら間違ってはいまい▼歴史や領土でにらみ合う現実は、むろん甘くはない。反日に嫌韓が応酬して「売り言葉に買い言葉」の観をなす。しかし、そうでない人も多い▼ノーベル文学賞候補にあがる韓国の詩人高銀(コウン)氏が、3・11直後に韓国紙に寄せた「日本への礼儀」と題する詩は忘れがたい。一部を抜粋すると、〈あんなにも大事にしていた あなた方の家/みな流れていった……〉▼〈しかしながら 日本は今更(いまさら)にうつくしい/決してこの不幸の極限に沈没せず/犯罪も/買占めも/混乱もなく/相手のことを自分のことと/自分のことを相手のことと思い……〉(青柳優子訳)。海峡を越えて、こうした言葉が往き来しないか。