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任天堂・山内溥氏が守った「ゲームの品格」
(テクノロジー編集部BLOG)

2013/10/9 7:00
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 任天堂の中興の祖で、3代目社長を務めた山内溥氏が先月、亡くなりました。京都のカルタ屋を世界企業に成長させた、ビデオゲーム産業の礎を築いた、引退と後継者選びを見事に成功させた……。経営者としての山内氏の偉業をあげれば枚挙にいとまがありません。あまり語られませんが、「ゲームの品格」を押し上げ、守り続けたことも、忘れてはならない山内氏の功績です。

 ビデオゲームというのはその黎明(れいめい)期、社会の害悪と見なされていました。そのイメージをオセロの駒がいっぺんにひっくり返ったように変え、社会に根付かせたのが任天堂でした。

 1978年に業務用ゲーム機「スペースインベーダー」が発売されると、瞬く間に日本を侵略。ゲームセンターが津々浦々に勃興し、青少年の「非行の温床」と化していると社会問題になりました。射幸心を煽り、社会に悪影響を与えるという理由で、1985年施行の風営法の規制対象に。未成年の出入りや営業時間が厳しく規制され、全国のゲームセンターは激減していきました。

 これに代わり、家庭をゲームセンター化していったのが任天堂の「ファミコン」でした。いつしかビデオゲームは、子ども同士のコミュニケーションや笑顔を増やす道具として社会に根付き、今に至ります。

   ◇         ◇   

 山内時代の任天堂の歴史とは、ビデオゲームが社会と折り合う歴史と言い換えることもできます。売り切りのパッケージ商品を普及させることで、ゲームやりたさに犯罪に手を染めてしまうほど際限なく100円玉をつぎ込んでしまう課金型の悪習を食い止めました。

 もっとも家庭用ゲーム機の普及は、やり過ぎで勉強時間が減る、目が悪くなる、外で遊ばなくなる、といった批判の対象にもなりました。それでも、親の監視の目が届く家庭用ゲーム機のやり過ぎは、ゲームセンターのそれとは比較になりません。

 携帯型ゲーム機「ゲームボーイ」が普及するようになり監視の目は届きにくくなりましたが、それでも社会に受け入れられたのは、任天堂の「子どもを守る」姿勢がぶれなかったからでしょう。やり過ぎの注意喚起をゲーム画面に表示するのはもちろんのこと、山内氏は暴力的な表現が強いゲームソフトを許しませんでした。

 壊れにくい安全なゲーム機を作ることにもこだわりました。修理依頼があると、ユーザーが貼ったシールをそっとはがし、修理後の同じ箇所に貼り直して返送するといった心遣いで、お客の心をつかみました。

 こうしてゲームの品格を築いた「任天堂の品格」は、岩田聡社長ら現経営陣にも引き継がれ、老若男女に受け入れられる新たな黄金時代を迎えます。頭がよくなる「脳トレ」や、体を鍛えられる「Wii Fit」といった新ジャンルのソフトとともに、「ニンテンドーDS」や「Wii」は文字通り爆発的なヒットを見せました。

   ◇         ◇   

 その後、DSやWiiのブームも過ぎ去り、任天堂の業績は下降。携帯電話向けの「ソーシャルゲーム」が一世を風靡し、メディアは「主役交代」と騒ぎ立てました。

 何が起きたか。ゲームは課金型となり、射幸心をあおる仕組みが普及。見ず知らずの他人を倒し、上位にのし上がるために際限なくお金をつぎ込むユーザーが続出しました。親の監視の目が届かない携帯電話で遊ぶ青少年にとっては、援助交際の出会いのきっかけとなったり、月に何万円も課金してしまったりと、不健全な場にもなりました。まるで、かつてのゲームセンター時代に戻ったよう。ゲームの品格は落ちました。

 ただ、そんな時代は長くは続きません。昨年後半以降、ソーシャルゲームブームは下火に。代わりに、「パズドラ」や「LINEゲーム」などスマートフォン(スマホ)向けの新たなカジュアルゲームが主役に躍り出ました。

 かつてのソーシャルゲームとは違い、内容はよりビデオゲームらしい動きのあるものとなり、追加課金型ですが、各社、課金のしすぎを抑制するよう、留意するようにもなりました。ゲームでつながる他人は、敵ではなく仲間という位置づけとなりました。

 パズドラを当てたガンホー・オンライン・エンターテイメントの森下一喜社長は任天堂のファンで任天堂を尊敬しているといいます。「(追加課金しなくても)子どもが安心して遊べるように」と、12月には「ニンテンドー3DS」向けの「パズドラZ」を発売予定。ゲームの品格が戻りつつある気がします。

 山内氏が社長を務めた52年間で何を築き、何を守り、何をのこしたのか。改めて学ぶべきことはとてつもなく大きいと感じています。

(理)

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山内溥、ゲームボーイ、ファミコン、ゲーム、任天堂、ガンホー・オンライン・エンターテイメント

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