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視点・論点 「ご存じですか 青空文庫」2013年10月03日 (木)
弁護士 福井健策
皆さん、青空文庫をご存じですか?
青空文庫は、ネット上の誰でも読める電子図書館です。作品は、著作権が切れると、誰でも自由に利用することができるルールです。この点を利用して、主に著作権の切れた過去の小説や評論などを、全国のボランティアが手入力でデジタル化し、ネット上で自由公開しているのが、青空文庫です。
この種のプロジェクトはアメリカのプロジェクト・グーテンベルクなど各国にありますが、青空文庫は日本では先駆けであり代表的な存在です。現在、全国には800名もの登録ボランティアがいて、有名作・埋もれた名作など実に12000点以上の作品がテキスト化され、ネットで公開されています。
少し、実物を見てみましょう。
【青空文庫を見せつつ】青空文庫の本体はネットのサイトで、そこから自由に作品を選んでダウンロードすることができます。この通り作家名や作品名から選ぶことができますが、今日は、宮崎駿監督が映画化して話題となった堀辰雄さんの「風立ちぬ」を選んでみましょう。選ぶと、この通り書誌情報が出て、簡単に閲覧・ダウンロードできます。
更に、スマートフォンやタブレットPCが爆発的に普及すると、青空文庫を読める読書用のアプリも次々現れました。
これは、昨日発表されたばかりのそうした青空文庫ビューワーで、パソコンからでもタブレットからでもアクセスできます。この通り縦書きで表示されます。画像ではなくテキストデータですので、このように拡大・縮小も自由にできます。お年寄りや目の不自由な方のための拡大文字の図書はまだまだ数が限られますが、これならば過去の名作を大きなサイズの文字で読むことができますね。スマートフォンでも同じです。小さなスマホの中に、いわば1万冊の図書が入ります。
更に、テキストデータということは、音声読み上げソフトと組み合わせれば、耳で聞くこともできるということです。目が見えない方でも音声で過去の名作を楽しむことができる青空文庫は、ほかにも点字の底本など、全国の多数の福祉関連団体で活用されています。
更には、DVD化して全国図書館へ寄贈、国内外での学習教材、廉価での出版物やムックでの利用など、実にさまざまな用途に利用されています。昨年は海外系を含めて大規模電子書店のラッシュの年でした。多くの電子書店では、オープン時の5万点前後といった品揃えのうち、およそ1万点は青空文庫を活用した無料の電子書籍でした。その意味で、電子書店ラッシュの陰の立役者とも言えるでしょう。もちろん、青空文庫とそのスタッフ達はこうした利用から1円の対価も得てはいません。
国境の限界を超える電子図書館は、海外の日本人や研究者、日本ファンにとっても福音です。漢字を自由に読めない外国人読者でも、音声読み上げソフトによって膨大な日本の過去の名作に触れることができます。こうしたことから青空文庫の海外での知名度・人気は高く、日本文化の対外発信にも大きな役割を果たしていそうです。
実はこの青空文庫の創設者のひとり、富田倫生さんは去る8月16日に61歳の若さで亡くなりました。
青空文庫の実現と普及に、文字通り身も心も捧げた後半生でした。死去は多くのメディアで報じられ、先月25日には、その追悼イベントが開催されました。私も運営に加わったのですが、事前予約は早々に満員となり、平日昼のネット中継を数万人が視聴する関心の高さに驚きました。イベントには、福祉団体・図書館・IT企業・出版社・創作者団体など、ジャンルを超えた数多くの団体が協賛を寄せました。
この富田さんが、青空文庫と共に死ぬまで関心を寄せ、警鐘を鳴らし続けたのが、著作権の保護期間延長問題です。著作権には期間があり、現在日本では作者の生前全期間プラス死後50年間です。それが過ぎれば、作品は人類の共有財産となり誰でも自由に利用できます。しかし、欧米では映画産業などのロビイングで期間を一律20年伸ばし、死後70年などになりました。アメリカはTPPなどの場で、日本を含む他の国々にも保護期間を延ばすよう求めています。
空を見上げればそこに必ず青空があるように、人類共有の文化は万人に等しく享受されるべきだと考えた富田さんは、この保護期間延長問題に反対の声を挙げ続けました。不必要に著作権が伸び続けては、青空文庫や、その他過去の作品を保存・紹介する多くの文化活動が停滞してしまうことを恐れたからです。
富田さんという、大きな支え手を失った青空文庫。もともと、自分の愛する作品を人々に読んで貰いたいというボランティア達と、スタッフの思いだけで支えられて来たその財政基盤は、とても脆弱です。
しかし、デジタル化の時代を本格的に迎えて、日本を代表するテキストアーカイブの役割は、これから高まる一方でしょう。それはいわば「知のインフラ」として、我々の豊かな文化はもちろん、各種の経済・教育・研究活動にとっても重要な基盤です。
そこで、親しい人々によって、青空文庫の活動を継続的に支援するための「本の未来基金」が創設され、追悼イベントの前後で多くの寄付が寄せられました。
基金の使途として、青空文庫では、「入力・校正・ファイルの点検などの作業や運営を若い世代に引き継いでいくための、マニュアルの整備、支援ツールの開発、ワークショップ開催など」を挙げています。
皆さん、秋の一夜、青空文庫をひもといてみませんか。そこには、過去の作者達の叡智と夢、そして作品を愛するファン達の思いが、詰まっています。