秘密保護法案 取り繕いでは済まされぬ
何とか体裁を取り繕おうとしているだけではないのか-。国の機密を漏らした公務員らへの罰則を強化する「特定秘密保護法案」づくりを急ぐ安倍晋三政権の姿からは、そんな疑念を拭えない。
秋の臨時国会への提出を目指すが、国民には「知る権利」や「報道の自由」を侵害しないかとの懸念が根強くある。
与党の公明党が国民の権利を侵害しないことを条文で明確化するよう求めており、政府はこうした権利や自由を尊重する規定を明記する方針だという。
しかし、条文の書きようによっては、知る権利などの担保が危うくなる可能性は否定できない。規定追加などで済ませるのではなく、法案提出そのものを再考すべきである。
法案を担当する森雅子少子化担当相は「国民の知る権利や報道の自由をしっかり保護しながら、国民の理解をいただいて成立させたい」と、早期成立を目指す考えを示している。
とはいえ、国民的な議論をするための政府の取り組みは不十分ではないか。
法案の概要を示して国民の意見を募るパブリックコメントを政府は今月3日から17日まで15日間実施した。一般の意見公募は1カ月程度行うことが多い。重大な懸念がある法案にもかかわらず、短期間しか実施しなかったことに、識者から「明らかに恣意(しい)的だ」との批判が出たことは当然だろう。
短期間にもかかわらず、1万件を超える意見が寄せられたという。国民が法案の行方を注視していることの表れだ。
政府が法案に新たな規定を設けるとすれば、期間の長い意見公募をあらためて実施すべきだ。その結果をしっかり分析して、法案などに反映させることが政府の仕事ではないか。
もともと問題が多い法案である。
特定秘密の対象は「防衛」「外交」「安全脅威活動の防止」「テロ活動防止」の4分野だが、その範囲が曖昧であるうえ、政府にとって都合の悪いことを伏せる情報隠しにつながる懸念もある。
報道機関の正当な取材が法案の罰則対象となる「欺き」「脅迫」「教唆」などと強引に解釈され、取材活動が制限されないとも限らない。厳罰化によって特定秘密を扱う公務員が取材に萎縮し、情報を出さなくなる恐れもある。
安倍政権は、情報管理を厳格にすることで、米国などの情報機関とのやりとりをスムーズにしたいとしている。
確かに国家間の情報の中には機密性の高いものもある。ただ、新法で規制を強めるのではなく、可能な限り公開できるものは公開し、機密情報の管理を徹底する方が現実的ではないか。それならば、国家公務員法や自衛隊法など現行法令でも対応できるはずだ。
国民にとって必要な情報を得ることができてこそ、主権者の国民は政府の方針や決定の是非を判断できる。その手段や方法をむやみに制約してはならない。
=2013/09/23付 西日本新聞朝刊=