アングル:日銀総裁発言が波紋、時間軸強化の思惑浮上
期待インフレ率が高まっても、需給ギャップゼロの「普通の景気」で2%を達成した例は、過去にほとんどないからだ。景気拡大で需給が引き締まり、08年1─3月期の需給ギャップはプラス1.7%となったが、その前後で最も高かったコアCPIは08年度の1.2%上昇と、2%には届いていない。
しかも「今回の物価上昇の多くの部分は、資源価格上昇や円安によっている。食料品やエネルギー価格の上昇は家計にとってデフレ要因になる」(井上氏)という側面がある。
3%の消費増税が決まり、その分の期待インフレ率の上昇はあっても、一時的だ。それをカバーする賃金上昇が、果たしてどの程度実施され、目立った効果が出て来るのか──。明快にシナリオを提示できるエコノミストは見当たらない。
<国債大量購入の長期化、長期金利上昇の誘因との指摘も>
総裁発言の真意について、SMBC日興證券・シニアマーケットエコノミストの岩下真理氏は「足元の経済・物価見通しが想定通りで、前向きな循環メカニズムがしっかり働いてきているとの認識のもとで、予想物価上昇率を上昇させる強い取り組み姿勢を示している」として、「黒田緩和」のタガを緩めていないことを示していると解釈している。
実際、日銀は公式的には「2年で2%の物価目標の達成」という旗を降ろすというメッセージを一切出していない。
他方、菅野氏は一連の総裁発言について「時間軸政策の強化、つまり緩和政策の長期化を示唆することによる長期金利の低め誘導を企図している」と読み込んでいる。
また、来春の消費増税の落ち込みを緩和させる目的で、追加緩和に動くなら上場投資信託(ETF)購入が中心になると見ている。 続く...